198 / 419
第7話
しおりを挟む
※※※ ※※※
数十分前から鳴り響きだした警報音は、戦車内部にも聞こえていた。死者の呻きさえも、その音の波に呑み込まれていく。
操縦菅の前で、頭を両腕で抱えていた大地と、戦車の中央で、茫然と立ち尽くしていた新崎は、揃って何事かと顔をあげる。
恐怖で竦み上がっている大地は動けそうにないと判断した新崎は、自らハッチを開き、目だけを覗かせて現状の確認にはいり、目を丸くした。あれだけ戦車に群がっていた死者が、大音量で響き渡る報知器へと突進にも似た速度で激突したり、歯をたてるなどの奇行を行っていたのだ。奇妙な光景以外に、言葉にしようがない。
しかし、新崎にとっては、チャンスだった。脱出不可能とすら思えた戦車内部の暗がりを切り裂くように、ハッチから光が注がれていく。すぐさま、車内へ飛び降り、悲嘆にくれる大地の肩を叩いた。
「おい、しっかりしろ坂下!ここを出るぞ!」
新崎の信じがたい提案に、大地は歯を剥いた。
「ここを出る......?ふざけんな!外がどうなってるか、アンタが知らない訳ないがない!降りた瞬間に、囲まれて喰われて、それでお仕舞いだ!自殺と変わらない!」
「分かっていないのはお前だ!良いか、奴等は、この音に気を散らしてバラバラになっている!脱出するなら今しかない!」
新崎は、大地の胸ぐらを掴み、顔を引き寄せて一気に言った。
「信じられないのなら、引き摺ってでも叩き落としてやる!分かったら、さっさとお前の足元にある鞄を渡せ!」
新崎の指示した鞄は、かなりの大きさがあり、見合うだけの重量もあった。とても持って走れる重さではない。
しかし、新崎は鬼気迫る顔つきで大地に迫った。逃げ出そうという時に、不審な言動だったが、大地の性格からか、勢いに負け、素直に鞄を渡す。
顔に多量の皺を刻みつつ、鞄を肩から袈裟に下げた新崎は、89式小銃一挺とマガジンを二つ大地に持たせ、自身も同じく装備した。
「良いか?まずは、お前が戦車から降りろ。もしものときは、俺が援護する」
こくり、と頷いた大地の前髪は、汗で額に引っ付いている。相当な緊張が目に見えて分かった新崎は、大地の肩に手を置く。
「安心しろ、岩神がいない今、俺にはお前だけが頼りだ。絶対に死なせたりはしない」
「......分かったよ」
二人だけと強調され、大地は渋々、承諾するしかなかった。一人になるのは、耐えられない。
ここまで、新崎にとって順調に事が運んでいた。ただ、一つの誤算は、ハッチから出た途端に、頭上から聞こえた自身の名を叫ぶ声だった。
知っている声だ。それも、同じ自衛官でもある男の声音だ。
新崎は、反射的に顔をあげ、声の持ち主を視認して、目を剥くと同時に呟いた。
「古賀......達也......か?」
数十分前から鳴り響きだした警報音は、戦車内部にも聞こえていた。死者の呻きさえも、その音の波に呑み込まれていく。
操縦菅の前で、頭を両腕で抱えていた大地と、戦車の中央で、茫然と立ち尽くしていた新崎は、揃って何事かと顔をあげる。
恐怖で竦み上がっている大地は動けそうにないと判断した新崎は、自らハッチを開き、目だけを覗かせて現状の確認にはいり、目を丸くした。あれだけ戦車に群がっていた死者が、大音量で響き渡る報知器へと突進にも似た速度で激突したり、歯をたてるなどの奇行を行っていたのだ。奇妙な光景以外に、言葉にしようがない。
しかし、新崎にとっては、チャンスだった。脱出不可能とすら思えた戦車内部の暗がりを切り裂くように、ハッチから光が注がれていく。すぐさま、車内へ飛び降り、悲嘆にくれる大地の肩を叩いた。
「おい、しっかりしろ坂下!ここを出るぞ!」
新崎の信じがたい提案に、大地は歯を剥いた。
「ここを出る......?ふざけんな!外がどうなってるか、アンタが知らない訳ないがない!降りた瞬間に、囲まれて喰われて、それでお仕舞いだ!自殺と変わらない!」
「分かっていないのはお前だ!良いか、奴等は、この音に気を散らしてバラバラになっている!脱出するなら今しかない!」
新崎は、大地の胸ぐらを掴み、顔を引き寄せて一気に言った。
「信じられないのなら、引き摺ってでも叩き落としてやる!分かったら、さっさとお前の足元にある鞄を渡せ!」
新崎の指示した鞄は、かなりの大きさがあり、見合うだけの重量もあった。とても持って走れる重さではない。
しかし、新崎は鬼気迫る顔つきで大地に迫った。逃げ出そうという時に、不審な言動だったが、大地の性格からか、勢いに負け、素直に鞄を渡す。
顔に多量の皺を刻みつつ、鞄を肩から袈裟に下げた新崎は、89式小銃一挺とマガジンを二つ大地に持たせ、自身も同じく装備した。
「良いか?まずは、お前が戦車から降りろ。もしものときは、俺が援護する」
こくり、と頷いた大地の前髪は、汗で額に引っ付いている。相当な緊張が目に見えて分かった新崎は、大地の肩に手を置く。
「安心しろ、岩神がいない今、俺にはお前だけが頼りだ。絶対に死なせたりはしない」
「......分かったよ」
二人だけと強調され、大地は渋々、承諾するしかなかった。一人になるのは、耐えられない。
ここまで、新崎にとって順調に事が運んでいた。ただ、一つの誤算は、ハッチから出た途端に、頭上から聞こえた自身の名を叫ぶ声だった。
知っている声だ。それも、同じ自衛官でもある男の声音だ。
新崎は、反射的に顔をあげ、声の持ち主を視認して、目を剥くと同時に呟いた。
「古賀......達也......か?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語
kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。
率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。
一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。
己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。
が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。
志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。
遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。
その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。
しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる