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最初の頃声を出してしまったけど、あれはカイウス…じゃないよな…ゲームの幼少期ではマリーと出会ったあの一度きりしか森に行っていない。
何度も来る意味が分からないし…きっと今日が初めて森に来たのだと思っておこう。

落ちた俺を助けてくれたのはカイウスの魔法、なのかな……じゃあ俺が助けておあいこだな。

カイウスの真っ白で高そうな服は土まみれになっていた。
軽く叩いて土を払っていたが、カイウスの手のひらに血が滲んでいた。
きっと受け身をとろうとして、怪我をしたのだろう。

でも救急セットは持ってきていないから手当てが出来なかった。
持っているのは、俺の手の甲の紋様を隠す布だけだ。

止血ぐらいにはなるかと、布をほどいてカイウスの手のひらに結んだ。
ただの応急措置だから早く家に帰って、ちゃんとした手当てしてもらえと心の中で思った。

もう用事も終わったし、さっさとこの場から離れたくてカイウスに背を向けた。
しかし、一歩踏み出そうとしたが足が動かなかった。

不思議に思い、足元を見るが特に何も変な事はなかった。
足ではないならいったい何処だ?と体を見渡すと服がピンッと伸びていた。

なにかに引っ掛かったのか、伸びた服を引っ張るが全然びくともしなかった。
それはその筈だ、引っ掛かったのではなく服を掴まれているから伸びていた…カイウスに…

「ねぇ!名前、俺の名前はカイウス!君は?」

「……っ」

名前、名前なんて言ったら関わってしまう……カイウスはなんでそんな事を知りたいんだ?
助けてもらったからお礼とかしてくれるのだろうか、カイウスには悪いが…お礼というならもう関わってほしくない。

俺はどうすればいいのか、どうしたら正解なのか頭を抱えた。
振り払って逃げればそれで解決だ、でも俺には出来なかった。

カイウスは俺に嫌な感情は抱いていない、このゲームの世界で転生してから疎まれて暮らしていた俺にとって、精霊以外でこうして接してもらうのは初めてだった。
それにゲームのライム死亡エンドだって、カイウスが悪いわけじゃない…ライムがカイウスを怒らせたのが悪いんだ。
カイウスに罪はない、だからカイウスを無視して逃げる事が出来たのにカイウスが転んでほっとけなかった。

でも俺はカイウスに名前は名乗れない、カイウスが俺の服を握る手を掴む。
カイウスの手の力が少し抜けると、その瞬間に離れた。

何もなくなったカイウスの手は探すように伸びていた。

悪いなカイウス、友達にはなれないんだ…俺とお前は関わってはいけないんだ。
カイウスに背を向けて、歩き出した。

もうカイウスが来る事はないだろうし、俺ももうそろそろ城下町に向かって荷台の中に忍び込む準備をしないといけない。

ずっとこの森には居られない、早く大帝国から離れて田舎村に行ってひっそりと暮らしたい。
あれからかなりの日数が経ってるからもう屋敷の人達は俺を探していないだろう。

悪魔の子で恥さらしで、のたれ死んでも気にするような人達ではない。
それに今の俺はローベルト家の息子だと証明するものは何も持っていない。
俺をずっと監禁していたから、屋敷の人間以外誰も俺の事を知らない。
だから今の俺がいなくても必死になって探すほどではないだろう。

そう思って、荷物を置いていた場所に戻り抱えて運んだ。
今までお世話になった精霊達にお礼を言って、精霊達に導かれるまま森の外に出た。

来た道に戻り、屋敷がすぐそこにあったから警戒しながら城下町に向かった。

今の時間帯は人の通りが多くて、人混みに紛れ込む事が出来た。

悪魔の紋様の手の甲はむき出し状態だから、片手だけズボンのポケットに手を突っ込んでいる。

荷台はどっかの旅人や商人が利用している事が多い。
なら宿屋の近くに停めている可能性があると、まずは宿屋を探した。

後ろで誰かが見ている事も知らずに……
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