冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

文字の大きさ
89 / 299

神様

しおりを挟む
なんだかからかっているようにも見えて素直に信じられなかった。

それを察したのか、神様と名乗る人は「まぁ君にどう思われてもいいけどね」と言っていた。

神様がなんで地下にいるのか分からないが、それよりも聞きたい事があった。
籠の中にいる傷だらけの精霊達だ、街で起こった事と無関係だとはどうしても思えなかった。

籠に触れようとしたら、バチッと強めの静電気が指先に流れた。
まだ少し指が痺れていて、もう一度手を伸ばす勇気はなかった。

「なんで精霊達が閉じ込められてるんですか?」

「……君はローベルト一族の悪魔の子だろ?何故何も知らされていないんだい?」

「そんな事、言われても…ぇ?」

この人は俺が悪魔の子だと言われているのを知っているのか?紋様の手は見せていないと思うけど…
神様だから分かるって事なのだろうか…それにローベルト一族なら知っている話なのか?

だとしたら、あの事件は……でもそれにしても可笑しい事がある。

俺以外の人が精霊が見える話を聞いた事がない。
それに神様も誰でも見えるものなのだろうか。
話せば話すほど、疑問が溢れてとまらなくなる。

「俺とカイウス以外にも見える人がいるの?」

「…なに?自分が特別だと思ってるのかい?」

「そんなわけじゃ……」

「アイツらにそんな力があるわけないだろ?私が見せてやってるんだ」

「貴方の事は見えるんですか?」

「見えるんじゃなくて、見せているんだ…協力してやってるんだよ」

まるで自分は正しい事をしていると言わんばかりに誇らしげにそう言っていた。

話をまとめると、神様は自分の姿を両親に見せて精霊が見えるようにしたらしい。
そして精霊が起こした事件はきっとローベルト一族がなにかしたのだろう。

なんでそんな事しているんだ、神様なのにローベルト一族の味方をするなんて…
でも、仲間じゃないみたいだし…俺には理解出来ないなにかがあった。

俺はローベルト一族に協力するのをやめてほしいと神様に言った。

「もう、こんな事やめてください…カイウスの知り合いならなんでカイウスに敵対するんですか!?」

「……敵対?変な事を言うなぁ」

急に声が低くなり、怒っているのだとすぐに分かった。

チャリチャリと金属を鳴らして、鉄格子に真っ白な指が絡みつく。

この場所の空気が一気に冷たく感じで、無意識に後ずさる。

俺、変な事を言っただろうか……精霊にこんな事をしてカイウスが喜ぶと思っているのか?
目は見えないが、まるで睨まれているようだった。
まるでそれは、カイウスの事を大事にしているようにも思えた。

「これは全てカイウスのためなんだよ」

「……こんな事、カイウスが喜ぶ筈が…」

「カイウスは英雄になるんだ、喜ばないわけがないだろ?」

「………えい、ゆう?」

「そう、ローベルト一族を動かした悪魔の子を殺したこの世界の英雄だ」

俺がなにか言う前に、神様は指をくいっと曲げると俺の身体は勝手に動いて神様の前にきた。
腕を伸ばされて、顎を掴まれて顔を引き寄せられた。

額をくっつけるほどの近い距離で、小さく呟いた。

「カイウスのために、死んでくれ……カイウスを愛してるなら出来るだろ」と、ぞくりとする声で俺に囁いた。

そうか、俺に言いたかったのはこれだったのか。

俺を悪者にしてカイウスに殺させて英雄にさせる。
……それの何処がカイウスのためなのか、カイウスのためと言ってカイウスの事を何も理解していない。

そう言うとまた不機嫌になるだろう、顎を掴んでいた手が首に触れた……まるで簡単に折る事が出来ると言われているようだ。

そんな時、急に後ろから強い力で引かれて俺は神様から離れた。
神様は鉄格子から離れて、座って口元が笑っていた。

話に夢中になっていて忘れていた、そうだ…俺…内緒でここにいるんだった。

また罰を与えられる、まだまだ聞きたい事があったのに…

後ろを振り返ると、見た事がある顔がそこにあった。

「………」

「…えっと」

見た事があると言っても一度だけだ、この家に帰ってきた時にいた黒子だった気がする。
黒子は何人もいるけど、一度印象的だったから覚えていた。

俺を見ている筈なのに、何も瞳に映していないような生気のない表情を見せる。

俺の襟を掴んでいるから首が苦しくて、離してほしくて両腕をばたつかせる。
すると、呆気なく解放されて息を吸って落ち着く。

黒子は俺をもう見る事はなく、神様の前に立った。

俺を探しに来たわけじゃなくて、神様に用だったのか。
何の用かと気になって、立ち去る事なく見ていた。
すると神様は俺の方を見ると、クスクスと笑っていた。

「子供にはまだ早い話だよ、さっさとおかえり」

そう言って、神様は手を振るとまるで強い突風が吹いて地下から追い出された。

気が付いたら扉の前にいて、もう下に行く気にはならずにミロに見つかる前に部屋に戻ろうと思った。
どうせあの黒子が言いつけるんだろうけど、とりあえず俺は何もしていない風を装った。

「ライム様っ!何処に行っていたんですか!?」

「ご、ごめん…」

バタバタと大きな足音を立ててミロが部屋のドアを開けた。

俺の事を心配していたのか、怒ったような泣きそうな声で俺を抱きしめてきた。
どうしたらいいのか分からず、とりあえず謝る事しか出来なかった。

本当の事を言うと、あの宮殿の話をしないといけない。
俺の大切な居場所を取られるのが怖くて、ずっと屋敷の中にいたと嘘をついた。

ミロはすぐには信じずにずっと屋敷を探していたがいなかったと言っていた。
俺は倉庫の物陰で寝ていたと言うと、倉庫の中までは見ていなかったのか…やっとミロは落ち着いた。

「……もう、勝手な事しないで下さいね」

「う、うん…」

「でも、僕の前から消えたアレはなんだったんですか?」

「き…消えれるわけないじゃん!寝ぼけてたんだよ!」

「………」

ミロは首を傾げていたが、それもそうかと納得してくれた。

ホッとしたのもつかの間、ミロは父にも俺がいなくなったと報告していたらしく父に報告すると部屋を出ていってしまった。
そんなに大騒ぎする事じゃないのに、俺がいたって何も出来ないんだから…

この悪魔の紋様だって、ただの模様だし…カイウス以外には使えない。

でも、あの神様は俺を悪魔の子としてなにかさせようとしている。

皆、俺に何を期待してるんだよ……俺は俺でしかないのに…

ミロが昼飯を持って部屋にやってきた、父と話したのだろうが俺が地下に行った事は一言も話していなかった。
もしかして、あの黒子…俺が地下に行った事を誰にも話していないのか?

俺を庇ったとは考えられない、きっと黒子も地下に行った事を知られたくないのかもしれない。

罰を与えられないなら、それでいいに決まっている。

カイウスのところに戻りたい、また行けるかな。

でも今まで自分の意思で戻っていたのに、なんで宮殿から追い出されたんだろう。

あの時、夢の中に神様が現れた…もしかしたら神様が…

「……食べないんですか?」

「た、食べるよ」

ミロが眉を寄せて不機嫌そうにしているから、スプーンを持ってスープを眺める。
濁っているような見た目のスープ、本当に食べられるものが入ってるのだろうか。

今日、ミロは一緒に食べないようで俺をジッと見つめていた。

食べなかったらまた罰を与えられるから、震える手でスプーンを握りしめ…スープを掬う。

カリカリとなにかを引っ掻く音が聞こえてミロが立ち上がった。

俺も音の正体を探るために、周りをキョロキョロと見渡した。
すると、窓になにか黒い影が見えてミロもそちらに向かっていた。

窓を軽く叩いて追い払おうとしていたが、まだカリカリと音が聞こえる。

ミロは舌打ちして、直接追い出す気なのか窓を開けた。

すると、ミロは小さな悲鳴を上げて黒い影が部屋の中に入っていった。

大きな音を立ててスープをひっくり返していて、そのままベッドの下に隠れてしまった。

「こんの!!」

「掃除しないと…掃除道具持ってきて!」

「は、はい!」

ミロに掃除道具を頼むと、部屋を出ていった。
それを見届けると、ベッドの下を覗き込んだ。

二つの瞳が光って、ジッと俺を見つめていた。

手を伸ばすと、ゆっくりと俺の方に近付いてきた。

リーズナは、俺の指先を小さな舌でぺろぺろと舐めていた。

リーズナを抱き寄せると「カイウスは元気?」と聞いた。

『元気だったら俺にお前の様子を見てこいなんて言わねぇよ』

「そうだね、俺は…大丈夫だよ」

カイウスは仕事で疲れてるだろうし、余計な心配掛けたくない。
リーズナは自分がひっくり返した皿を見つめていた。

『これ、食べ物なのか?』と俺を見て聞いてきた。

一応…食べ物、らしいけど…味はほとんどなくて栄養がなさそうだと前に食べた時思った。

リーズナはため息を吐いて、俺の腕の中から抜け出した。
すると、ミロが掃除道具を抱えて部屋にやってきた。
しおりを挟む
感想 174

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...