冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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過去編・カイトという男

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湖に行くと、カップルや家族連れが多かった。
この中で湖に飛び込む勇気はない、人が居なくなってからまた行こう。

俺がずっと湖をウロウロしても、姿が見えないから不審人物として通報される事はない。

そして、だんだん日が落ちていき…人も居なくなってきた。

人は居なくなったが、魚も見えなくなってしまった。
このまま入っても、捕まえられるのか?
魚なんて捕まえた事はないけど、やらないとリーズナと仲良くなれない。

この世界が恋愛ゲームの世界だからって、まさか俺が好感度上げる事になるなんて思わなかった……リーズナは攻略キャラクターではないけど…

姿は見えないとはいえ、服は濡れるだろうなと思いローブを脱いだ。
まさか、こんな外で全裸になるなんて思わなかったな。

下着も全て脱いで、軽くストレッチをしていた。
準備運動しないと、足をつって溺れても誰も助けてはくれない。

足を伸ばして、手を回して勢いよく湖に飛び込んだ。
目が開けられず、腕をばたつかせて魚を掴もうと思ったが空回りだ。

見ないと分からないんだろうけど、ゴーグルとか持ってなくて…準備もろくにしていない。

息が苦しくなってきた、一度上に上がってから改めて魚を探そう。
そう思っていたら、少し大きな波が身体を揺らした。

そして、突然俺の身体が引っ張られて水面から顔を出した。

「っ…はぁっ、な…なに?」

「馬鹿野郎!!死ぬなんてやめろ!?」

いきなりの事に頭が付いていかず、目を丸くして目の前の人物に怒られた。
誰だ?なんで俺は怒られているんだろう。

肩を痛いくらいに掴まれて、腕を引かれて地面に足が付いた。

俺、自殺しようとしてるように見えたのか?
死ぬ気なんてなくて、ただ魚を……

そこで俺は血の気が引き、慌てて脱ぎ捨てた服を手探りで探した。

全裸なのもヤバいが、一番ヤバいのは俺の正体が見えている事だ。

暗がりでよく顔は分からない、もしかしてカイウスか?
だとしたら今顔が見えている状態でカイウスに接触するわけにはいかない。
慌ててその場を離れようと、走り出そうとしたら腕を掴まれた。

「そんな格好で出歩くつもりなのか!?」

「俺は精霊だから?大丈夫!誰にも見られないから!カイウス!!」

「…………は?カイウス?」

その場から離れたくて、自分でも何を言ってるのか分からないがとにかく叫んだ。

すると、間が抜けたような声が聞こえた。

そういえばカイウスの声じゃない、慌てていたからよく聞いていなかった。
カイウスじゃないとしたら、彼はいったい誰なんだ?

俺とカイウス以外に精霊が見える人……それっていったい…

俺はずっと裸だと、風邪を引いてしまうから服を着ながら震える声で聞いてみた。

「……だ、誰?」

「誰って、俺の事知らないのに話してたのか?」

随分自信のある声だな、有名人なのか?

でもこの帝国でカイウス以外の有名人といえばローベルト卿と、後は王族…

そこで、もしかしたら…と思い付いた。

背格好はカイウスと似ているこの人の名前は…

シャツのボタンを閉じて、ローブを着れば元の格好に戻る。
ローブを着る前に、ギュッと握りしめて…目の前の人を見つめた。

「カイト……様?」

なんでここに帝国の第三王子がいるんだ?この湖は街外れなのに…

いや、そんな事より俺の姿が見える事が可笑しいんだ。
俺は姿を見ただけで、カイトとは知り合いでも何でもない。

だから俺がライムだと知られる事はないから、身バレはしない。

だからこのまま適当な理由で立ち去ってしまえば、元の時間に戻った時すっかり忘れているだろう。

カイトは正義感があるキャラではないし、たまたま自殺しようとしてる奴を見かけただけだ。
内心では面倒な奴を見てしまった程度だろう。

「ちょっと水遊びを……失礼しました!!」

そそくさと立ち去ろうと思ったが、足が前に進まなかった。
ずっと腕を掴まれているからだという事は分かっている。
何故引き止めるのかは、全く分からない…俺には寄り道をしている時間がないんだ!

カイトは女好きで男嫌いなキャラの筈なのに、男と手を繋いでていいのかよ!?……手じゃなくて腕だけど…

カイトが小さな声で「…お前今、カイウスって言わなかったか?」と言っていた。

そうだ、男嫌いになった原因を作ったのは他でもないカイウスだったんだ!

「俺は王子だからたとえ男だろうと自殺しようとしている奴を止めなくてはいけない、ポイントになるからな……ポイントになる、筈だったのに」

ブツブツとなんか怖い感じに呟いていて、俺の顔が引き攣る。
カイトにとって「カイウス」は禁止ワードだったようだ。

王子はポイント、ポイント…と言っていた…ポイントって何だったっけ。
ゲームの内容を思い出そうと口を閉ざしていたら、肩を掴まれた。

ビックリして、カイトを見ると俺を助けてくれた筈なのに俺を睨みつけていた。
そして、さっきはビクともしなかったのに呆気なく解放された。

「カイウス・エーデルハイドの信者にポイントなんて貰いたくもねぇ!自殺の邪魔して悪かったな!じゃあな!」

「…あ、はい」

爽やかに見捨てられた、まぁ…いいんだけどね。

よほどカイウスが嫌いなんだろうな、俺の事カイウスの信者だと思っているらしい。
俺に背を向けて、歩き出したカイトとは反対方向を歩こうと思っていた。

しかし、足が前に行く事はなく…またなにかに邪魔されていた。
カイトは去った筈だ、じゃあ今度はいったい誰だ?

後ろを振り返っても、そこには誰もいなくて…下の方から荒い息遣いが聞こえる。

視線を下に向けると、そこにいたのは俺の手に持っているローブを咥えている犬だった。
試しにローブを引いても、全然離そうとしない。

「ベンちゃん!!急に走らないの!」

犬の飼い主だろう女性が現れて、ベンちゃんと呼ばれた犬の首輪を引っ張っていた。
女性には俺が見えていないから「なんで来ないのよ!」と不思議そうにしていた。

俺もローブを引っ張ると、やっとベンちゃんはローブを離してくれて尻餅をついた。
そのままベンちゃんに上にのしかかられて、顔をベロベロと舐めていた。

女性からしたらベンちゃんは地面を舐めているように見えるだろう。
必死に止めようとしていて、やっと満足したのか止めてくれた。

俺の顔はベンちゃんの唾液まみれになってしまった。
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