冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

文字の大きさ
121 / 299

過去編・獣の魔物

しおりを挟む
カイウスはこの森を誰よりも知っているが、突然現れた崖の下までは分からない。
精霊の気配を頼りに進んでいて、また目の前の茂みが揺れた。
俺達は足を止めて、目の前の茂みにいる者を警戒した。

でも、なかなか正体を出そうとしない…相手も俺達を警戒しているようだ。

カイトだけが何も分からず、前に出ようとしてカイウスが腕を掴んで引っ張った。

すると、ギリギリの距離でカイトの前をなにが横切った。

短い悲鳴を上げたカイトは、地面に尻餅をついた。

目の前に現れたのは、全身真っ黒な毛並みの虎だった。
でも、俺には虎の周りに黒いオーラのようなものが見える。
俺が見えるならカイウスにも見えるだろう…でも、きっとカイトは見えない。

この虎はゲームでも出てきた、精霊が闇に堕ちた時に変形する魔物というやつだ。

普通の人には普通の動物や別の生き物に見えているだろう。
禍々しい魔物に見えるのは、精霊が見える者のみだ。

この魔物は神とは全く関係なく、ずっと精霊の森に住み着いている。
人にも危害を加えているからカイウスは精霊の森まで足を運んで退治しているとゲームで説明されていた。

カイウスは炎を手に纏わせて、魔物に向かった。

カイウスの腕を振り上げて、炎が魔物に向かって襲った。
魔物はまだ子供だったのか、襲ってくるわけでもなく慌てて逃げていった。

退治をしに来たわけではないから、これ以上追いかける事はしなかった。

カイウスがカイトに腕を伸ばすと、またボーッとしていたカイトが我に返りカイウスの腕を振り払って自分で立ち上がった。

「………」

「行けますか?」

「……あぁ」

カイトがフラフラとした足取りで前を歩いていく。
カイウスをライバル視しているから、カイウスの手は借りたくないのだろう。

いつもはお喋りなカイトだが、とても大人しかった。

なにか考え事をしているようで邪魔をしないように俺達も黙って歩き出した。

しばらくしたら、森を抜けて街までやって来た。
空はだんだん明るくなり、店の準備をする人がいた。

俺はいないから、カイウスとカイトだけが歩いているように見えるだろう。

カイウスとカイトに挨拶をする人を見て、カイトの顔がみるみる変わるのが分かった。
騎士と王族なら、当然王族の方に敬意を払うだろう。

でも、国民達が敬意を払っているのはカイウスの方だ。
カイトには、ただ普通に挨拶しているだけでカイウスにはいろいろと話していた。

カイトは俺達を置いて、一人で城に向かって歩いていった。

カイトがカイウスを嫌いな理由…カイウスが神の子だから、自分がカイウスより下に見えるんだと思っているんだろう。
カイウスは神の子以外にも、人望がある…力もある…カイウスは肩書きだけで尊敬されているわけではない。

今のカイトがそう言ったわけではないが、あの表情からすると…心配だ。

カイウスはこの時代のカイウスではないから、戸惑っていた。
今のカイウスとばったり会うかもしれないから、カイウスの腕を引っ張った。

カイウスはそれに気付いて、話を切り上げた。

カイウスと一緒にカイトを追いかけていき、カイトがそこにいた。

「………」

「カイト様、一人では危ないですよ」

「平気だ、俺を誘拐しても誰も気にしないからな」

ちょっと拗ねている感じだな、カイトは不満そうだった。
カイトが城の中に入っていくのを送り届けて、俺達は歩き出した。

そういえば、カイウスは未来の人なのに皆カイウスの事見えてるのはなんでだろう。

カイくんの時も、街を歩いていたら子供達に可愛がられていた。

カイウスをジッと見つめていて、目が合って微笑まれた。
顔が熱くなり、フードを深く被って下を向く。

恥ずかしい、カイウスの微笑みは見慣れているが何度見ても美しい。

「どうかしたのか?ライム」

「あっ、そうだった…なんで皆カイウスが見えるの?」

「俺に力があるから、周りも影響しているんだろう」

「そうなんだ」

そしてカイウスと一緒に湖に戻ってきて、一緒に座った。

そよ風が髪を揺らして、湖が少し波打った。

朝早い時間は湖には誰もいなくて、静寂した世界が見える。
カイウスが「ライム」と声を出したから、カイウスの方に目線を向けた。

俺の姿を見て、頬に触れ…安心したような顔をしていた。

恋人が居なくなった世界…それはとても辛く寂しいものなのだろう。
俺もカイウスが眠りについた時、怖かった。
もう覚めないんじゃないかって…自分の無力さが嫌だった。
だから俺はカイウスを助けるためにここにいる。
しおりを挟む
感想 174

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...