冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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神の思惑

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「面倒だけど、メシアの邪魔をされるのはもっと面倒になるから死んでくれる?」

槍を振り回して、イヤーカフの糸を取り出す暇を与えてくれない。
殺し合いを心から楽しんでいる、そんな雰囲気も感じる。

隙を与えず、無駄のない動きでだんだんと追い詰めていく。

そして、槍に気を取られていて反対方向を見ていなかった。
微かな衝撃を感じて横を見ると、手のひらサイズの大きな鎖が俺の体を擦っていた。

正確には俺の体というより、俺の体の周りに出現した青い魔法陣がだけど…

男は面倒そうに頭を掻いていた。

「あ?何これ、お前人間じゃないの?早く終わると思ってたのに…」

「カイウスの…力?」

腰を見ると、俺の腰にはカイウスが結んでくれた命綱がある。
それは解ける事なく、奥の闇に続いている。
姿は見えないが、カイウスが傍にいる…だからカイウスの力が有効なんだ。

イヤーカフに触れて、糸を出すと電力が流れた。

相手は槍だけじゃなく、鎖も握っていた。

相手がどんな力を持っているか分からない。
だとしたら、カイウスの力があるからと言って真正面から突っ込むのは危険だ。

槍を奪おうと糸を伸ばしたが、簡単に弾かれてしまった。

戦闘力は相手の方が強いのは分かっている。
だからといって、俺だって一歩も引くつもりはない!

一歩踏み出して糸を上に伸ばした。

自分のところに来ると思っていて、男は構えていたが首を傾げていた。
同じ事をしていても、塞がれるのは同じだろう。

暗闇で見えないだけなら、きっとなにかに引っかかる。
ここがローベルト卿の部屋であるなら…

糸はなにかに引っかかり、体を揺らして振り子のようにして男に向かって蹴りを入れた。
俺の蹴りは腕にあっさりと塞がれてしまった。

それでも男の攻撃は俺には小さな衝撃にしかならない。
槍の攻撃を魔法陣が守ってくれて、男と距離を取る。

「話が違うだろ、メシア…」

「そのメシアって…もしかして神の事なのか?」

「だったら何だよ、メシアが今までお前を生かしていたから殺されないとか思ってるんならおめでたい思考だな」

神が俺を生かしていたのはカイウスに俺を殺させるためだった。
でも、カイウスは絶対そんな事はしないし…俺とカイウスの想いを知っている筈だ。
それでも神は諦めなかった。
俺を生かすのはそういう理由だった筈だ。

でも、男は可笑しいのか笑っている。
人を小馬鹿にするような嫌な笑いだ。

「メシアはもうお前を生かす意味がないって考えなんだよ」

「俺が不要になったのか?だったらなんで俺の前に現れるような事をしたんだ?」

「お前がメシアの近くをウロウロしてただけのくせに」

「ここは一応俺の家だから、俺がいるのは不自然じゃない筈だ」

「メシアにとってこの地もまた力を高まらせるにはいいんだよ」

神がこの場所を選んだ理由、考えもしなかった。
ただ、ローベルト家が悪の一族で神にとって扱いやすい。
それに、俺をどうにかするために選んだと思っていた。

男は槍を動かして、俺はイヤーカフを握りしめた。
もっと糸を伸ばせないか、最大限まで…長く…鋭く…

俺に向かって、槍を向けていて…黒いもやが槍全体を覆っていた。

「そしてメシアは後継者を神に目覚めさせる」

「……」

「今まではお前の力が必要だったんだ、バラバラになった力をお前を殺す事によって完全にするために」

「カイウスの気持ちを無視するな!カイウスはそんな事望んでない!」

「どう思ってるか関係ない、生まれてからメシアなのは決まってる事だろ」

カイウスの気持ちを無視してそんな勝手な事…俺が絶対にさせない。

男とメシアがどんな関係か知らないが、絶対に止めないといけない。
俺がカイウスを守る!

糸が勝手に動いて、俺の指に絡みついてくる。
グッと握りしめて、男を睨みつける。
それを冷めた瞳で見つめていて、俺達の間に冷たい風が通った。

「安心しろ、お前が不要になったわけではなく…別の利用価値が出てきただけだ」

「…俺なんて神の役に立たないだろ…何をする気なんだ?」

「お前が死ぬ事だよ!」

槍を振り下ろして、俺を守る魔法陣を斬りつけた。
微かな衝撃だけだが、男は何を考えているのか笑みを浮かべていた。

何度も何度も槍で俺を貫こうとしている。
この状態で何も手が出せなくて、見ている事しか出来ない。

カイウスでなくて、俺を殺す相手は誰でも良くなったって…そういう事なのか?
俺が邪魔になっただけなら利用価値なんて言わない。

俺が死ぬ事によって、なにかが変わる。

そこで思いついて、男の方を見た。

「まさか、カイウスを暴走させる事が目的?」

「……メシアの後継者の理性はお前で保たれている、だからこそお前が死ねば理性が破壊され…奥に秘めた力を解放する」

カイウスは俺が傷付くと力の制御が出来なくなる。
神の言う通りにカイウスが暴走してしまうかもしれない。
それに、もしそれがあの時一度だけ見た怖いカイウスだったとしたら…

男が槍を振り、俺を守っていた魔法陣を切り付けた。
ガラスが割れるような音と共に、魔法陣が破壊された。

「…っ!?」

「思ったより力を込めるのに時間が掛かっちゃったな、死にゆくお前には無関係な話に付き合ってくれてありがとう」

もう一度槍を振り上げようとした男の槍の刃を掴んだ。
盾がなくなって、怯えると思ったのか予想外の反応で驚いていた。

刃は俺の柔らかい皮膚に傷を付ける事すら出来ていなかった。

俺だって、ただ呆然と見ていたわけではない。
糸は俺の手や手首に隙間なく巻き付いていた。
それはどんな刃でも貫く事が出来ない、鋼の防御。

カイウスの魔法陣が破壊されたのは俺も驚いたが、攻撃しなければ生きて帰れない事くらい分かっている。

「俺も戦うよ、カイウス…神の思い通りになんてさせない」


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