冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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第一障害物突破

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カイウスを見送り、俺とリーズナは訓練所に向かった。

人の姿になったリーズナは少し先まで行ってしまった。
リーズナの頭の上にはまだ小鳥が乗っていて、リーズナ自身もう諦めている様子だった。

俺はこの山を抜けないと先には進めない。
横を通ればスルー出来るが、それじゃあ修行の意味はない。

しゃがんで地面を見つめているとリーズナから声が聞こえた。

「何やってんだお前」

「足跡ないかなぁって…」

「何年も使ってないんだから残っているわけないだろ」

「そうだけど、なにかあるかと…」

地面と山を見ていたら、山の隙間に少し盛り上がった土が見えた。
俺が昨日までやっていたやり方だと、ここに土が入らない筈だ。
走ってきた時に、土も一緒に蹴って入ったのかな。

そっか、走ればいいんだ…そうすればリーズナの突風も避けられる!

そう思うとやる気が出てきて、スタート地点まで下がる。

リーズナは何をしているのか、ただ見つめていた。

一気に駆け出して、走る速度を落とさずに山に足を乗せた。
そのまま走るように山を駆け上がり、リーズナは呆然としていたが慌てて突風を俺に向かって放った。

横に走りリーズナの攻撃を避けながら一気に登った。

ずっと上に向かって走っていたからか、平行になって転けてしまった。
でも登りきったのは紛れもない事実だ。

向こう側にいるリーズナは突風を俺に向けるのを止めなかった。
避けるのを忘れて、足が後ろに引っ張られる。
せっかく登ったのにまた落ちるわけにはいかない。
登るのも結構体力がいるんだから!

「まだ終わってねぇぞ!まだ序盤で満足してんじゃねぇ!」

「はいっ…し、しょー…」

山の天辺で突風に耐えていて、一瞬止んだ隙に山を滑り降りた。
次の場所に向かうと、俺の前に大きな扉があった。

横にスライドするタイプの扉らしく、引いてみてもびくともしない。
鍵が掛かってるのかな、でも鍵穴は何処にもない。

扉の先の少し行った場所にリーズナは立っている。
つまり、扉の先は外…扉だけがある。
無意味な扉に鍵を掛ける必要はないか。

扉を思いっきり引いてみると、少し隙間が出来た。
これは無理矢理こじ開けるしかないって事か。

かなりの力と体力がいる重い扉のようだ。

しかも当時はそんなに力がいらなかったのかもしれない。
でも今は扉そのものが錆びていて、なかなか開きそうもない。
ガタガタと音を立てるだけで、指が入るくらいの隙間しかない。

「これなら俺の妨害がなくてもいいな」

「うっ、ぐぐぐ…」

「基礎中の基礎だろ、体力は」

リーズナはそう言って高みの見物をしている。
これに関しては妨害してくれてもいいけど、リーズナは分かっているのだろう。
もし、魔力を使ってその反動で扉が開いてしまったらいけないと…

これも修行だ、ズルは出来ない。
足を踏ん張ってギシギシ音を立てるだけの扉をこじ開けようとする。
糸を使う前は拳が武器だったのに、糸に頼りっぱなしで鈍ってしまったみたいだ。

手を離して地面に座り込むと大きな音を立てて扉が閉まった。
手のひらを見ると、錆で汚れていた。

「今日はここまでか?」

「扉攻略のためにもっと体力を付けたい」

「どうするつもりなんだ?」

「リーズナ、一時休戦しよう」

俺の言葉にリーズナが驚いているのが見える。
俺の作戦だと思っているのか、警戒している。

一時休戦って言って騙して捕まえるなんて事はしないよ。

俺は何もしない事をアピールするために両手を後ろにやった。
まだ警戒しながらも俺のところに近付いてくる。

ずっと壁をこじ開け続けていても、体力がつくのに時間が掛かる。
だったら、体力を付ける事をまず集中的にやる。
そうすればきっと、他の障害物も乗り越えられる筈だ。

「一時休戦って何考えてるんだ?」

「俺と一対一で戦ってほしい、捕まえるとかはなしで」

「それがこの扉と関係あるのか?」

「あるよ、体力を付けるためだから」

「ふーん、でも勝負なら手加減しねぇから」

俺が頷くと、リーズナの代わりに頭の上の小鳥が可愛く鳴いた。

汚れた手を洗ってから、リーズナと広いところで向かい合った。

リーズナは一対一だからと魔力は使わないと言ってくれた。
サンドバッグみたいなものを作って打つより、やっぱり生身相手のほうがいい。

グッと拳を握りしめて、リーズナに向かって一歩踏み出した。
それが合図になり、拳と拳をぶつけ合った。

リーズナと一対一で戦った事がなくて、最初は動きが読めなかった。
一発頬に食らって、ジンジンと痛みが走る。
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