冷淡騎士に溺愛されてる悪役令嬢の兄の話

雪平@冷淡騎士2nd連載中

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逃げ場のない地獄

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心臓が止まりそうなほど驚いて、息をするのも忘れた。
ドアの前にはジークが立っていて、俺を見下ろしていた。
逃げようと後ろに下がるが、動きが遅いからジークに襟を掴まれた。

「は、離せ!嫌だ!」

「治癒能力があっても自分には効かないんだな」

「は、なせっ!!」

「食事を持って来たんだ、食え」

ジークの腕を掴んで逃れようとしたら、軽く突き飛ばされた。
それだけでも全身に痛みが走り、うずくまる。

嫌な汗が流れる、早く逃げないと…ここから…

痛みに耐えながらジークから離れようとするが、ジークは俺の体を踏んで押さえつけた。

あまりの激痛に大きな声を出して悲鳴を上げた。
また意識が失いそうになる、ここでまた意識を失うわけにはいかない。
早く逃げないと、ジークに何されるか分からない。

次は、薬入りの食事を無理矢理食べさせられるかもしれない。
感覚がない手から指輪を取って、使える手に嵌めた。

ジークの足を思いっきり殴りつけると、片足が俺から離れた。

その隙に、痛みを我慢して起き上がった。
ジークはもう一度踏みつけようとするか、体を思いっきりぶつけた。

普段なら俺の体重なんてジークにとっては軽いものだろう。
でも今の俺には指輪がある、突進した勢いで指輪でジークの腹を殴った。
流石に吹き飛ばす事は出来なかったけど、よろけさせる事は出来た。

ジークにまた捕まる前に急いで部屋から出た。
俺の部屋に逃げ込む事は考えたが、正直あの部屋は鍵が付いていない。
ジークの部屋も鍵なしだったから、兵士の部屋は皆そうなんだろう。

廊下に出て、すれ違う人は傷だらけの俺を不審そうに見るが、誰一人助ける事はしなかった。
ローベルト家の人達に優しさを求めているわけじゃないから不思議じゃない。
これだって喧嘩に思ってるんだろうし、日常の一部でしかないんだろう。

足も負傷していて、あまり長時間走るのは厳しい。

後ろを振り返るとジークが歩いているのが見える。
動きが鈍い俺を捕まえるために、無駄な体力は必要ないと言いたげに、ゆっくりと距離を詰めている。

手すりを掴んで、体を支えながら進んでいたら一部の手すりがぐらついていた。
それに気付いて手すりから手を離そうとする前に手すりが折れた。
周りに何も掴むものがなくて、そのまま二階から一階に転落した。

痛みに顔を歪めて耐えるが、ジークに捕まるよりはマシだ。
早くジークから離れないと、息を乱しながら進む。

いつの間にか、またあの地下への扉の前に来ていた。

無意識にまたカイウスを求めて来てしまった。
扉の前に座り込んでジッと見つめると、薄くキラキラと光っている壁が見える。
これがカイウスの結界だ。

これ以上は結界に拒絶されてしまうから近付けない。
涙腺が崩壊したかのように涙が溢れて止まらなくなる。

それでも、俺はカイウスを助けるための勇気をもらっている。
不思議だな、結界に拒絶されているのにカイウスの力だって思うと元気もくれる。

今なら誰もいないから、リーズナと連絡が取れるだろう。

誰かに見られるわけにはいかなくて、今まで部屋以外で連絡を取らなかった。
特に指輪の力を知っているジークに知られたら、スパイで潜入捜査をしていると思われる。
そうなったら、さらにカイウスから遠ざかってしまい……最悪死んでしまう。

俺はどうなっても、生きていればカイウスに会える…そう信じて俺はジークの暴力に耐えてきたんだ。
この痛みを無駄になんかしたくない…絶対に…

「カイウス、俺…頑張るから、絶対に死なない!」

立ち上がろうとしたら、ズキッと全身に痛みが走った。
それでもずっとここにいたら、すぐにジークに捕まってしまう。

深呼吸して立ち上がろうとして、体が傾いた。

足ももう限界だったのか、まだ走らないと…ジークが知らないところに隠れないと…

俺の体は倒れる事なく、誰かに支えられた。
ジークがこんな事をするわけがない、あり得ないと思っていても期待してしまう。

「カイ……」

「大丈夫か?ライム」

「…ハイドレイ、うん…大丈夫、ありがとう」

やっぱり、そんなわけないよな…カイウスは近くにいても、俺の記憶があるかどうか分からない状態なんだ。
ハイドレイに助けてもらったのに、こんな気持ちはダメだよな。

ハイドレイは俺が傷だらけだから大丈夫だと思っていないのか、医務室に連れて行こうとしてくれた。
今回限りと言っていたから、医者が見てくれるか分からない。
それよりも、ジークから逃げる事を考えないと…
負傷した体では、ろくな抵抗も出来ない。

「誰にやられたんだ?まさか、この扉に近付いたのか?」

「…うん、触れる事すら出来なかったけど…」

ほとんどはジークだが、そもそも俺がジークに抵抗出来ないくらいの怪我を負ったから好き勝手殴られたんだ。
俺が無茶をして結界に触れていなければ…

とりあえず医務室に連れて行こうと、俺を支えてハイドレイは行こうとしていた。
大丈夫だって言っても、見た目が大丈夫じゃないって言ってるからな。

医務室で傷薬だけ貰ってこようかな、それくらいなら医者の負担にはならない筈だろう。

そう思っていたら、目の前に見慣れた男が立っていた。
見るだけで拒絶反応を起こしてしまい、血の気が引いて体が震える。

「お前は、確か…」

「ソイツに用がある、渡せ」

「何言ってんだよ、こんなに怯えてるのに渡せるわけが…」

ハイドレイはジークを見て、眉を寄せていた。
カイウスと戦っているところを見ていたから悪い奴だというのは分かってるんだろう。

俺を庇ってくれているが、庇ったりなんてしたらハイドレイだって何をされるか分からない。
俺は大丈夫だってハイドレイに言ったが、その前にハイドレイは俺から離れた。

ハイドレイの意思ではなく、ジークに首を掴まれて絞められていた。
ジークの腕を殴ったり、足をバタつかせて抵抗していた。
このままだとハイドレイが死んでしまう。

俺はジークの腕を掴んで、ハイドレイから離すように殴りつけようとした。
その前にハイドレイから手を離して、ハイドレイは床に座り込んだ。
咳き込んでいて、ハイドレイに近付こうとしたがジークの腕が首に回された。

苦しくて、呻き声しか出なくてそのまま連れ戻された。

ジークの部屋に戻ってきて、床に転がされる。

「安心しろ、手足が使い物にならなくなっても殺さない」

何処に安心出来る要素があるのか聞きたい。
俺が自ら死にたくなるようにしているだけだろ。

ジークは俺の脇を蹴って、仰向けにさせた。
上から見下ろされて、俺はジークを睨む事しか出来なかった。

逃げ出すのはジークが眠った後にしかない。
それまで耐えなければ、死ぬ事はないというジークの言葉を信用するしかない。

肩を蹴られて、感覚がない方の肩だったが嫌な音がした。
まさか、今ので骨が折れたんじゃ……ジークの容赦ない攻撃なら骨を折るくらいなんて事はないだろう。

「…っ」

「俺は自分の与えた傷しか認めない、他の奴に付けられた傷は俺が上書きする…触られても同じだ、さっきの奴に肩を触られていたな……お前は俺の愛だけ欲しいんだろ」

「いらない、そんなの愛じゃ…」

顔を殴られて、言葉を発する度に俺の体に傷が刻まれていく。

ジークが怒っていたのは、自分以外の傷を付けていたからか。
そんなの知らない、ジークの傷より…俺はカイウスの結界に触れた傷の方が大切だ。
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