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信じる愛の重さと一途さ
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『大丈夫じゃないのはお前の方みたいだな』
「そ、んな…事、ないよ?」
『下手くそか』
「俺が悪いから、そのせいでカイウスを怒らせただけだから」
『お前にとって、その程度って言える事なのか?』
リーズナに言われて、顔から手を離した。
違う、俺にとってその程度じゃない。
カイウスは俺の生きる全てなんだ。
カイウスが俺の前からいなくなったら、どうすればいいか自分でも分からなくなる。
リーズナに向かって首を横に振った。
リーズナは聞いてくれるみたいで、話した。
俺がカイウスを怒らせてしまった事、俺が考えていた事を全て話した。
『…なるほどな、それで今日は早かったのか』
「今、俺とカイウスを繋げるのは歌だけなのに、大切な時間をダメにしちゃった」
『さすがに俺がカイの一部でも、今のカイが何を考えているかとかは分からねぇ、でもカイはいくら記憶が消えても何をしてもカイである事には変わりない』
「分かってるよ、でも…」
『何にも分かってねぇから言ってんだ!』
リーズナが突然飛び掛かってきたからびっくりして、地面に倒れた。
頭を打って、痛みに眉を寄せる。
リーズナは俺の腹の上に座って見下ろしていた。
カイウスだけじゃなく、リーズナも怒っているみたいだ。
カイウスの事を分かっているって思っていたけど、分かった気だったのかな。
カイウスはカイウスだと思っていても、見た目で別人みたいだって心の何処かであったのかもしれない。
『カイの事を教えてやるよ、お前が思っているよりカイは人間に興味なんかねぇよ……記憶がなくなる前もな』
「…どういう事?」
『カイが騎士団長になったのも、自ら望んでなったものじゃない、アイツの家がそうだったからだ…騎士団長も何となくだ』
「でも、今は違う筈だよ」
『カイはただ中途半端が嫌いなだけだ、騎士団長になったからには途中で投げ出さない、でも人間が好きだからとか人間のためとか一度も考えた事はない』
「……そんな事」
そんな事ないと言いたいのに、リーズナがここで嘘を付く意味も分からなかった。
カイウスは今まで人のために頑張ってきた、なんでリーズナが否定するんだ。
一番カイウスを理解しているのはリーズナの筈なのに…
リーズナは『お前と出会う前はただ騎士団に入っていたからやっていただけだ、今はお前のためでもある』と言っていた。
今まで、カイウスになんで騎士団に入ったのか聞いた事がなかった。
俺のために騎士団長を続けているって言うのか?
カイウスは精霊と人が住む世界を守っていると思っていた。
『カイはお前が住みやすい世界を目指しているんだ、人が住みやすい世界はお前が住みやすい世界だろ』
「…でも、カイウスは皆に慕われていて…それはカイウスの人への優しさから来るものだと思うよ」
『騎士団長が嫌われてたらまともに仕事なんて出来ねぇだろ』
リーズナは騎士団長であるカイウスを見るなと言っていた。
優しさに満ちたその姿は、偽りの仮面なんだと…
リーズナの体が光に包まれて、その姿を変える。
リーズナの姿を見て、驚いて固まる。
なんで、今…そんな姿になるんだ?
俺のよく知るカイウスの姿になっていた。
「リーズナが体の中に入っている時、共有されるんだ…感情が」
「……カイウス」
「ライムの幸せを願っている、ライムが悲しむ世界なんていらない」
リーズナだって、分かっている筈なのに姿も声もカイウスそのもののようで感情が爆発してしまいそうだ。
暴走したカイウスが本当のカイウス、そう思うと確かに暴走したカイウスは人に優しくしたり助けたりはしていなかった。
前に元の姿のカイウスに言われた事を思い出した。
『俺はライムが思ってるほど優しくない』
同じセリフを今のリーズナもそう呟いて、本物のカイウスと重なって見えた。
カイウスは俺に優しいところばかり見せてくれた。
だから、それがカイウスなんだと思い込んでいた。
カイウスの姿は消えて、再び猫の姿に戻った。
『カイはお前に全てを見てほしいので、汚く情けないところは絶対に見せようとしない』
「……」
『だからお前と別れた方が傷付く事はないのに、お前を失う臆病さで言い出す事が出来なかった』
「俺だって怖いよ、カイウスがいなくなるのは……今でも、もう会えないんじゃないかって…怖い」
『俺が言いたいのは、カイの愛は記憶や人格が変わったくらいで失うものじゃない、お前のために世界を救ったり壊したりする事だって迷わない男だぞ…お前がカイの愛を信じてやれないなら、さっさとカイを諦めろ、俺が一人で助ける』
リーズナは軽やかに俺の上から降りた。
俺はずっとカイウスと結んでくれたのは歌だと思っていた。
歌がなかったら、今の俺達に何もないと思っていた。
でもリーズナは俺に興味があるのは俺が珍しかっただけではないと言った。
心の何処かで、魂が惹かれ合っていた…記憶を失ってもカイウスはカイウス。
今は記憶がなくて、なんで俺に興味があるのか分かっていないみたいだったけど…
俺はカイウスを再び好きにさせると思っていたのに、自信がなかったんだ。
あんな美しい人がまた俺を好きになってくれるだろうかと不安だった。
自分に自信がないのに、カイウスが好きになってくれるわけがない。
カイウスに嫌われたって、俺はカイウスを好きで居続けるんだ…カイウスが許してくれるまで、俺はカイウスに尽くす事にした。
リーズナにお礼を言うと、リーズナは『もう悩むなよ』と一言だけ言って行った。
やっぱりリーズナは俺の師匠だな、といつの間にか涙もおさまっていた。
「そ、んな…事、ないよ?」
『下手くそか』
「俺が悪いから、そのせいでカイウスを怒らせただけだから」
『お前にとって、その程度って言える事なのか?』
リーズナに言われて、顔から手を離した。
違う、俺にとってその程度じゃない。
カイウスは俺の生きる全てなんだ。
カイウスが俺の前からいなくなったら、どうすればいいか自分でも分からなくなる。
リーズナに向かって首を横に振った。
リーズナは聞いてくれるみたいで、話した。
俺がカイウスを怒らせてしまった事、俺が考えていた事を全て話した。
『…なるほどな、それで今日は早かったのか』
「今、俺とカイウスを繋げるのは歌だけなのに、大切な時間をダメにしちゃった」
『さすがに俺がカイの一部でも、今のカイが何を考えているかとかは分からねぇ、でもカイはいくら記憶が消えても何をしてもカイである事には変わりない』
「分かってるよ、でも…」
『何にも分かってねぇから言ってんだ!』
リーズナが突然飛び掛かってきたからびっくりして、地面に倒れた。
頭を打って、痛みに眉を寄せる。
リーズナは俺の腹の上に座って見下ろしていた。
カイウスだけじゃなく、リーズナも怒っているみたいだ。
カイウスの事を分かっているって思っていたけど、分かった気だったのかな。
カイウスはカイウスだと思っていても、見た目で別人みたいだって心の何処かであったのかもしれない。
『カイの事を教えてやるよ、お前が思っているよりカイは人間に興味なんかねぇよ……記憶がなくなる前もな』
「…どういう事?」
『カイが騎士団長になったのも、自ら望んでなったものじゃない、アイツの家がそうだったからだ…騎士団長も何となくだ』
「でも、今は違う筈だよ」
『カイはただ中途半端が嫌いなだけだ、騎士団長になったからには途中で投げ出さない、でも人間が好きだからとか人間のためとか一度も考えた事はない』
「……そんな事」
そんな事ないと言いたいのに、リーズナがここで嘘を付く意味も分からなかった。
カイウスは今まで人のために頑張ってきた、なんでリーズナが否定するんだ。
一番カイウスを理解しているのはリーズナの筈なのに…
リーズナは『お前と出会う前はただ騎士団に入っていたからやっていただけだ、今はお前のためでもある』と言っていた。
今まで、カイウスになんで騎士団に入ったのか聞いた事がなかった。
俺のために騎士団長を続けているって言うのか?
カイウスは精霊と人が住む世界を守っていると思っていた。
『カイはお前が住みやすい世界を目指しているんだ、人が住みやすい世界はお前が住みやすい世界だろ』
「…でも、カイウスは皆に慕われていて…それはカイウスの人への優しさから来るものだと思うよ」
『騎士団長が嫌われてたらまともに仕事なんて出来ねぇだろ』
リーズナは騎士団長であるカイウスを見るなと言っていた。
優しさに満ちたその姿は、偽りの仮面なんだと…
リーズナの体が光に包まれて、その姿を変える。
リーズナの姿を見て、驚いて固まる。
なんで、今…そんな姿になるんだ?
俺のよく知るカイウスの姿になっていた。
「リーズナが体の中に入っている時、共有されるんだ…感情が」
「……カイウス」
「ライムの幸せを願っている、ライムが悲しむ世界なんていらない」
リーズナだって、分かっている筈なのに姿も声もカイウスそのもののようで感情が爆発してしまいそうだ。
暴走したカイウスが本当のカイウス、そう思うと確かに暴走したカイウスは人に優しくしたり助けたりはしていなかった。
前に元の姿のカイウスに言われた事を思い出した。
『俺はライムが思ってるほど優しくない』
同じセリフを今のリーズナもそう呟いて、本物のカイウスと重なって見えた。
カイウスは俺に優しいところばかり見せてくれた。
だから、それがカイウスなんだと思い込んでいた。
カイウスの姿は消えて、再び猫の姿に戻った。
『カイはお前に全てを見てほしいので、汚く情けないところは絶対に見せようとしない』
「……」
『だからお前と別れた方が傷付く事はないのに、お前を失う臆病さで言い出す事が出来なかった』
「俺だって怖いよ、カイウスがいなくなるのは……今でも、もう会えないんじゃないかって…怖い」
『俺が言いたいのは、カイの愛は記憶や人格が変わったくらいで失うものじゃない、お前のために世界を救ったり壊したりする事だって迷わない男だぞ…お前がカイの愛を信じてやれないなら、さっさとカイを諦めろ、俺が一人で助ける』
リーズナは軽やかに俺の上から降りた。
俺はずっとカイウスと結んでくれたのは歌だと思っていた。
歌がなかったら、今の俺達に何もないと思っていた。
でもリーズナは俺に興味があるのは俺が珍しかっただけではないと言った。
心の何処かで、魂が惹かれ合っていた…記憶を失ってもカイウスはカイウス。
今は記憶がなくて、なんで俺に興味があるのか分かっていないみたいだったけど…
俺はカイウスを再び好きにさせると思っていたのに、自信がなかったんだ。
あんな美しい人がまた俺を好きになってくれるだろうかと不安だった。
自分に自信がないのに、カイウスが好きになってくれるわけがない。
カイウスに嫌われたって、俺はカイウスを好きで居続けるんだ…カイウスが許してくれるまで、俺はカイウスに尽くす事にした。
リーズナにお礼を言うと、リーズナは『もう悩むなよ』と一言だけ言って行った。
やっぱりリーズナは俺の師匠だな、といつの間にか涙もおさまっていた。
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