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序章 出会うは約束の人
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「ここに入ってろ」
そう砦から自分をつれてきた赤い人に言われて入れられたところは前と代わり映えしないところだった。
地下牢なのだろうか、目隠しをされていてわからなかったが、多分階段を降っているので、地下牢なのだろうか、窓はない。
すえた匂いに湿っぽい空気、薄暗い牢屋の中で頼りなく揺れ動く蝋燭の灯がなんともたよりない。
虫がいないだけマシかもしれないが、外の光が見えないのは辛いな。とコウは思った。
それにしても、綺麗だった。
コウは数時間前の出来事を思い出していた。
優美な甲冑を身に纏った月を思わせる少女。星を散りばめたように輝く銀色の髪、特に印象的だったのは目だ。アーモンド型の綺麗な形の目には、夜明け前の空のような色をした瞳。
そっと差し伸べられた陶磁のようになめらかな白い指先が頬に触れた時なんて、まるで落雷が落ち多様な衝撃があった。
永遠にも感じられた恐ろしく美しい少女の名は、
「ぃ゛じーでぃあ゛ざま」
喉が締め付けられるように痛くてうまく発声できなかった。だが、そうだィリーリア様と呼ばれていた。
名前をつぶやくだけで胸の真ん中が熱くなるような気がした。ドクンドクンと心臓が生を主張しているのがわかる。
どんな子なんだろう。
歳は自分より下にみえたが、自分をみるからかうような表情は年上のようにも思えた。薄い桃色の唇の両端がゆっくり上がった時は本当に綺麗で、思わず息を吸うのも忘れて見入ってしまった。
手枷がなければきっと手を伸ばして頬に触れていた。
そういえば、とコウは思い出す。
後から来た緑の妙な色気が漂う美女も、青の戦乙女のような凛とした美女も、老齢な深みある黒の老人や、端正な顔立ちなのにがっしりと頼りがいがありそうな赤の騎士風の人たちもあの少女の命令に従っていた。
今にして思えば、あの場にいた兵士たちはあの5人を恐れていたように思える。壇上にいた身なりのいい男も腰を抜かしていたっけか。
怖い人たちなのかな。
自分を掴んだ緑と青の女性は自分を重さなど感じないかのようにひょいっともちあげてたっけ。
けれど少なくとも自分を助けるためにきたわけではないだろうとコウは諦めた。あの綺麗な子にしたって自分に背をむけて連れていけと命令していたんだ。
ここが本当の終わりか。
繰り返し刷り込まれてきた終わり。然るべき時、然るべき場所で、然るべき相手が罰することになっているといわれてきた。それがココなんだろう。
自分が咎人だからだろうか。この刻印が刻まれたその瞬間から罪が生まれたといわれた。
緑の美女もコウの右腕に刻まれたこの呪いの刻印を見て自分がそうだと言った。
ここが帝国のために命を捧げる場所なんだろう。
そうすれば自分以外のみんなが救われる。
終わりか。
部屋の隅で自分を抱え込むように座る。
じゃらりと繋がれた鎖の擦れる音がした。
みんなが救われる。そう思うことこそがコウにとってのただ一つの救いだ。
意識が薄らぼんやりと拡散していく
どれくらいそうしていただろうか。
誰かが歩いてくる音がする。
石畳を金属がコツコツとぶつかる音で、コウの意識が少し覚醒した。
音の大きさや、足音の間隔からすると女性だろうか。
足音は部屋の前まで来ると止まった。
少し間が空いてガチャリと鍵を回す音とともにぎぃぃと錆びついた音をたてて扉が開くのがわかった。
「入ったばかりで悪いけど、出てきてもらえるかしら?」
ランタンを片手に緑の美女がにこりとコウに妖艶な笑みを向けていた。
じゃらじゃらと鎖の音を立てながらコウはゆっくりと立ち上がる。
緑の美女に向けてあるき出して―
「あぁ、出る前にこれをつけてもらうわね」
差し出された彼女の手に革紐でできた何かがあった。
「封じのチョーカーよ」
不思議そうに革紐をみていたコウに緑の美女はいった。
「あなたの首と腕についているものと効果は一緒よ。もっとも私がつくったもののほうが効き目は上だけど」
自慢気に言うがコウはなんのことかはわからなかった。
自分には何の力もないのに。ただ罪人であれと言われただけなのに。
「あ、ごめんなさいね。手枷がついてちゃ、つけられないわね。特別につけてあげるからいらっしゃい」
無言で見ていた理由を勘違いされたが、たしかに自分ではつけられないので、緑の女性に近寄って首を差し出した。
「じゃ、つけるわね」
ふわっと花の香りがコウの鼻をついた。すぐに香りは遠ざかり消えていったが、優しい香りだなとコウは思った。
「はい。それじゃ、ついてきて。これからあなたを尋問するわ」
コウを真正面から見据えてそういった女性の目が鋭く光ったのをコウは見逃さなかった。
そう砦から自分をつれてきた赤い人に言われて入れられたところは前と代わり映えしないところだった。
地下牢なのだろうか、目隠しをされていてわからなかったが、多分階段を降っているので、地下牢なのだろうか、窓はない。
すえた匂いに湿っぽい空気、薄暗い牢屋の中で頼りなく揺れ動く蝋燭の灯がなんともたよりない。
虫がいないだけマシかもしれないが、外の光が見えないのは辛いな。とコウは思った。
それにしても、綺麗だった。
コウは数時間前の出来事を思い出していた。
優美な甲冑を身に纏った月を思わせる少女。星を散りばめたように輝く銀色の髪、特に印象的だったのは目だ。アーモンド型の綺麗な形の目には、夜明け前の空のような色をした瞳。
そっと差し伸べられた陶磁のようになめらかな白い指先が頬に触れた時なんて、まるで落雷が落ち多様な衝撃があった。
永遠にも感じられた恐ろしく美しい少女の名は、
「ぃ゛じーでぃあ゛ざま」
喉が締め付けられるように痛くてうまく発声できなかった。だが、そうだィリーリア様と呼ばれていた。
名前をつぶやくだけで胸の真ん中が熱くなるような気がした。ドクンドクンと心臓が生を主張しているのがわかる。
どんな子なんだろう。
歳は自分より下にみえたが、自分をみるからかうような表情は年上のようにも思えた。薄い桃色の唇の両端がゆっくり上がった時は本当に綺麗で、思わず息を吸うのも忘れて見入ってしまった。
手枷がなければきっと手を伸ばして頬に触れていた。
そういえば、とコウは思い出す。
後から来た緑の妙な色気が漂う美女も、青の戦乙女のような凛とした美女も、老齢な深みある黒の老人や、端正な顔立ちなのにがっしりと頼りがいがありそうな赤の騎士風の人たちもあの少女の命令に従っていた。
今にして思えば、あの場にいた兵士たちはあの5人を恐れていたように思える。壇上にいた身なりのいい男も腰を抜かしていたっけか。
怖い人たちなのかな。
自分を掴んだ緑と青の女性は自分を重さなど感じないかのようにひょいっともちあげてたっけ。
けれど少なくとも自分を助けるためにきたわけではないだろうとコウは諦めた。あの綺麗な子にしたって自分に背をむけて連れていけと命令していたんだ。
ここが本当の終わりか。
繰り返し刷り込まれてきた終わり。然るべき時、然るべき場所で、然るべき相手が罰することになっているといわれてきた。それがココなんだろう。
自分が咎人だからだろうか。この刻印が刻まれたその瞬間から罪が生まれたといわれた。
緑の美女もコウの右腕に刻まれたこの呪いの刻印を見て自分がそうだと言った。
ここが帝国のために命を捧げる場所なんだろう。
そうすれば自分以外のみんなが救われる。
終わりか。
部屋の隅で自分を抱え込むように座る。
じゃらりと繋がれた鎖の擦れる音がした。
みんなが救われる。そう思うことこそがコウにとってのただ一つの救いだ。
意識が薄らぼんやりと拡散していく
どれくらいそうしていただろうか。
誰かが歩いてくる音がする。
石畳を金属がコツコツとぶつかる音で、コウの意識が少し覚醒した。
音の大きさや、足音の間隔からすると女性だろうか。
足音は部屋の前まで来ると止まった。
少し間が空いてガチャリと鍵を回す音とともにぎぃぃと錆びついた音をたてて扉が開くのがわかった。
「入ったばかりで悪いけど、出てきてもらえるかしら?」
ランタンを片手に緑の美女がにこりとコウに妖艶な笑みを向けていた。
じゃらじゃらと鎖の音を立てながらコウはゆっくりと立ち上がる。
緑の美女に向けてあるき出して―
「あぁ、出る前にこれをつけてもらうわね」
差し出された彼女の手に革紐でできた何かがあった。
「封じのチョーカーよ」
不思議そうに革紐をみていたコウに緑の美女はいった。
「あなたの首と腕についているものと効果は一緒よ。もっとも私がつくったもののほうが効き目は上だけど」
自慢気に言うがコウはなんのことかはわからなかった。
自分には何の力もないのに。ただ罪人であれと言われただけなのに。
「あ、ごめんなさいね。手枷がついてちゃ、つけられないわね。特別につけてあげるからいらっしゃい」
無言で見ていた理由を勘違いされたが、たしかに自分ではつけられないので、緑の女性に近寄って首を差し出した。
「じゃ、つけるわね」
ふわっと花の香りがコウの鼻をついた。すぐに香りは遠ざかり消えていったが、優しい香りだなとコウは思った。
「はい。それじゃ、ついてきて。これからあなたを尋問するわ」
コウを真正面から見据えてそういった女性の目が鋭く光ったのをコウは見逃さなかった。
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