聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

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4 勇者なんかじゃない

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「待って!待ってってば!」

私は、黒い鳥を追って、転げるように走る。
でもすぐに息が切れる。

孤児院の子どもたちと追いかけっこくらいはしたけど、長距離なんてムリ!!

しかも道がわからない!
遠くの空を鳥は飛ぶ。だけど私は道を走らないといけない。

花やクッキーを売りに行ったことはあっても、街の外に出るのは初めてだった。

更に黒い鳥は、暗闇に紛れて見えづらい。
これを見失ったら……わたし、帰れない気がする。

石畳の坂を転がり、農園を抜け、舗装のない道をひたすら突っ走る。

何度も転んで膝をすりむいた。けど、止まれない。
本能が「鳥を見失ったら死ぬ」って、叫んでる。

気づけば、見知らぬ山道。
街の灯りはもう、見えない。

――迷った。完全に。

細い獣道、風で揺れる木々、光のない暗闇。
足が、すくむ。

その間に、黒い鳥は完全に見えなくなった。

「うそ……」

ひんやり風が抜ける。

迷子。夜の山道。知らない場所。丸腰。ひとり。

最悪すぎる!!
これ以上ない最悪ワードが並んでる!!

帰れない。働けない。お金もない。

うわぁ!まだまだ最悪ワードが作れちゃう。
しかも....

「お腹すいた……」

教会の食事は清貧が美徳。
パン一個とミルクだけ。
カレンは要領よい。
あのボディーで余り物とかしっかり貰ってたけど……わたしは真面目一辺倒で、いつもギリギリだった。

「おなかはすくの。でも、触られてもどこも減らない!」
カレンは割り切ってたな。
私はため息をつく。

ギルドの人も……あの鳥に任せるとか、追いかけろとか。
もしかして、厄介払いだったんじゃ……

「……馬鹿だな、わたし」

腰を下ろして、今日を思い返す。

――もう、なにもかもがめちゃくちゃ。

その時だった。

ふと、遠くに光が見えた。
ふわふわと宙を浮いて、こっちに近づいてくる。

「な、なに……!? 絶対あやしいってば!!」

慌てて後ずさる。
だけど、背中に――

「いたぞ、こっちだ!」

ドン。

何かにぶつかって、振り向いた瞬間――

真っ黒な影が、リンを飲み込もうとしていた!!

「ぎゃあああああああああああ!!」

逃げなきゃ、逃げなきゃ、でも無理!前も後ろもふさがってる!

こうなったらもう――飛び降りるしかない!!!

わたしは山道の斜面から、

飛んだ!!

飛んだよ!!

足はパタパタしてるけど!!!



「落ち着いてくれ。君が勇者じゃないってことは、もうよーくわかってるし、連絡ももらっているから」

え?

ふと見ると、首根っこを掴まれて、足がぶらーん。

うっ!?
く、首が、首がぁ!
これ、首吊り!? ぐるしい!! 死ぬぅぅ!!

「ああ、これはいけないな」

黒い男がさらっと言って、ゆっくり地面に降ろされる。

(助けて……おねがい……)

「ふうむ、いや、助けたんだよ? そこ、普通に崖だから。落ちてたらたぶん死んでたよ?」

――えっ。助けたの? わたし飛んだのに。

下は暗闇でよくわからない。
その隣から、もう一人の声が聞こえた。

「マクライアさんからの伝令で来たんですけど……あれ?めっちゃ傷だらけじゃないっすか」

振り向けば、しゃべるキツネ――いや、二足歩行の狐?耳?え、狐人間??

「女子供に容赦ないな、あのギルド長は」
「まあ、確かに勇者じゃないってことだけは分かりました」

涙目で地面に座り込むわたしを、黒影の男とキツネは、ふたりで見下ろして、無言でうなずいた。

いやいやいや、なに納得してんの!!?

「初めまして、なんちゃって勇者殿。僕は魔王です」
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