21 / 44
21 女の武器
しおりを挟む
それからまもなくして、わたしは、ひたすら日々はたきをかけ続け、エアリアさんが吹っ飛ばし、お城の瘴気はほぼ消えた。
城に、人間界とつながる結界があるので、魔王城が一番瘴気にやられたらしいけど、一件落着。
城下町以降、他の町に影響は出てないので、職員さんたちをお城に呼び戻せるようになったらしい。
魔王さま、トミーさん、わたしの生活も終わってしまった。
ウンディーネさんやエアリアさんも声をかけないと会えない
「いろんな従業員さんが戻ってきたら、わたしの仕事あるんでしょうか?」
お昼の噴水のそばで、わたしはぼそりとつぶやいた。
ウンディーネは水面にぷかぷか浮かびながら、リンの顔をのぞき込む。
「瘴気はどう?」
「もう、城の中はみんなでハタキ終わりました」
埃と違って瘴気はそこまで急激にはたまらない。
魔王城の瘴気は長く溜まってしまっていたのだろうか?
城の空気はすっかり変わった。
ネズミイさんは仲間とにぎやかに再会。
台所は、厨房長は鬼のオーガなので、人間の私が行ったら踏み潰されそうだ。
トミーさんは人員配置で大忙しだから声がかけられない。
「リンさんに適職がある」って嬉しそうだったんだけどなあ。
なんか忙しそうで、ここ数日放置状態だ。
魔王さまは執務室にこもってる。
それこそ忙しそうで、コーヒーすら飲めそうにない。
まあ、私が入れなくても色んな人が身の回りのことしてくれるみたいだから...
リンは、仕事も無くなり、ぽつんと噴水の縁に腰を下ろし、足をぶらぶらさせる。
「……やっぱり、わたしって、いらないのかも」
廊下を通るメイドたちの視線が、ちらちらリンに向けられている。
「……嫁候補の噂、広まってるみたい」
「人間だって!」
「魔王さま、本気なのかなあ」
「可愛いけど……ちょっとちっちゃいわね」
……うん、全部わたしに向けられた声。
どうやら、魔族の中で人間というのは特殊に見られる存在らしい。
「ウンディーネさん、人間ってあまり好かれてないんですね」
ここに、あまり発言や視線に好意的な人たちはいない。
毒舌ネズミイさんは、好意的ではなかったのだろうが、掃除という共通目標を持った同士として認めてくれたという感じらしい。
でも、鬼のオーガの厨房長や胴体が蛇のメイド長スネクさんのほうがよっぽど珍しいと思うんだけどなあ。
そんなスネクさんに昨日言われたことが、まだ胸に刺さってる。
「あなたは魔王さまの奥方さまになるかもしれない方なんでふってね?
もっとご飯をしっかり食べて、太陽を浴びて、素敵なレディにならなきゃ。あなたの仕事は食べては眠ることではなくて?」
つまり……もっと女らしくなれってことよね?
「人間はよく思われてないのは事実よ。ただ、それは、スネクならではの優しさねえ……」
ウンディーネは噴水の上でくるりと回りながら、ちょっと苦笑い。
「リンちゃん、痩せすぎなの。もう少しふっくらしたら、もっと魅力的になるってことよ」
「やっぱり、ボインが正義なんですよね」
リンはため息をつく。
教会と変わらない。
みんなのように、女性を武器にできなければ生きてはいけないのだ。
「またそれ言うの!リンちゃん、いつもそればっか」
ウンディーネは、ふんと笑う。
わたしは膝を抱えてぽつぽつ話し出す。
「教会にいたころ、先輩の神官さんやカレンは、下町によくしてくれる人がたくさんいたみたいで。豪華なご飯もプレゼントも届いてたけど、わたしにはなかった。“ぺたんこには施しがない”って言われて……ここでも一緒なんですよね」
――その言葉を呟いた瞬間
水の精ウンディーネの笑顔がぱたりと止まった。
水面がざわつき、彼女の顔がほんの少し怖く見えた。
「リンちゃん、ぺたんこで良かったと思いなさい」
低く、静かな声。
「本当に、あの教会は腐り切ってるわ」
腰に手を当て、ウンディーネの熱弁が始まる。
「大事なのはね、胸でもなければ、尻でもないの!大体わたしから言えば、胸ぐらいで威張るなといいたいわ。
胸がデカくても腹もデカかったら、寸胴じゃないの!お尻が大きくても、胸が小さかったらおかしいしね!要は健康的にバランスがとれているかどうかよ。
胸だってね!形っていうのも重要なわけ!でかくて垂れるなら自慢にもならないわ!」
なんだかよくわからないけど、ウンディーネが言うと説得力がある。
なんかゆらゆらしてるけど締まるところがきちんと締まって、出るところでてるダイナマイトボディ!
いや、ただの水のゆらめきか??
「だからスネクが“ご飯をしっかり食べなさい”って言ったのは間違ってないのよ」
ウンディーネは優しく微笑んだ
エアリアさんが慰めてくれるように、姿は見えないけど優しい風が吹く。
噴水の水面に映る自分の顔をじっと見つめてわたしも、ふと思う。
「確かに、話してたらなんかどっちでもいいかも。元々ボインになりたかったのは、貧しくてご飯も少なくて、カレンたちが羨ましかっただけでした」
わたしは立ち上がる。
「ここに来てからは、私の欲しかった世界が広がってる。
ご飯を食べなさいって言ってくれる人がいるんだもの。もう女の武器は考えなくていいんですよね。前と一緒なんていったら、バチがあたっちゃいます」
へへっとリンは笑った。
ウンディーネが驚いて見つめる。
「え?急にどうしたのリンちゃん?
ずっと“ボインが世界を救う”とか言ってたじゃない?」
「でも、たぶん今、ちょっと救われてるんです。
ボインじゃなくても」
ウンディーネはしばらく黙ってから、にっこり微笑んだ。
「それなら、いいのよ」
エアリアの優しい風に吹く。
どうやらエアリアさんもわたしを励ましてくれているようだ。
わたしは笑顔で言った。
「職場に戻ります!」
城に、人間界とつながる結界があるので、魔王城が一番瘴気にやられたらしいけど、一件落着。
城下町以降、他の町に影響は出てないので、職員さんたちをお城に呼び戻せるようになったらしい。
魔王さま、トミーさん、わたしの生活も終わってしまった。
ウンディーネさんやエアリアさんも声をかけないと会えない
「いろんな従業員さんが戻ってきたら、わたしの仕事あるんでしょうか?」
お昼の噴水のそばで、わたしはぼそりとつぶやいた。
ウンディーネは水面にぷかぷか浮かびながら、リンの顔をのぞき込む。
「瘴気はどう?」
「もう、城の中はみんなでハタキ終わりました」
埃と違って瘴気はそこまで急激にはたまらない。
魔王城の瘴気は長く溜まってしまっていたのだろうか?
城の空気はすっかり変わった。
ネズミイさんは仲間とにぎやかに再会。
台所は、厨房長は鬼のオーガなので、人間の私が行ったら踏み潰されそうだ。
トミーさんは人員配置で大忙しだから声がかけられない。
「リンさんに適職がある」って嬉しそうだったんだけどなあ。
なんか忙しそうで、ここ数日放置状態だ。
魔王さまは執務室にこもってる。
それこそ忙しそうで、コーヒーすら飲めそうにない。
まあ、私が入れなくても色んな人が身の回りのことしてくれるみたいだから...
リンは、仕事も無くなり、ぽつんと噴水の縁に腰を下ろし、足をぶらぶらさせる。
「……やっぱり、わたしって、いらないのかも」
廊下を通るメイドたちの視線が、ちらちらリンに向けられている。
「……嫁候補の噂、広まってるみたい」
「人間だって!」
「魔王さま、本気なのかなあ」
「可愛いけど……ちょっとちっちゃいわね」
……うん、全部わたしに向けられた声。
どうやら、魔族の中で人間というのは特殊に見られる存在らしい。
「ウンディーネさん、人間ってあまり好かれてないんですね」
ここに、あまり発言や視線に好意的な人たちはいない。
毒舌ネズミイさんは、好意的ではなかったのだろうが、掃除という共通目標を持った同士として認めてくれたという感じらしい。
でも、鬼のオーガの厨房長や胴体が蛇のメイド長スネクさんのほうがよっぽど珍しいと思うんだけどなあ。
そんなスネクさんに昨日言われたことが、まだ胸に刺さってる。
「あなたは魔王さまの奥方さまになるかもしれない方なんでふってね?
もっとご飯をしっかり食べて、太陽を浴びて、素敵なレディにならなきゃ。あなたの仕事は食べては眠ることではなくて?」
つまり……もっと女らしくなれってことよね?
「人間はよく思われてないのは事実よ。ただ、それは、スネクならではの優しさねえ……」
ウンディーネは噴水の上でくるりと回りながら、ちょっと苦笑い。
「リンちゃん、痩せすぎなの。もう少しふっくらしたら、もっと魅力的になるってことよ」
「やっぱり、ボインが正義なんですよね」
リンはため息をつく。
教会と変わらない。
みんなのように、女性を武器にできなければ生きてはいけないのだ。
「またそれ言うの!リンちゃん、いつもそればっか」
ウンディーネは、ふんと笑う。
わたしは膝を抱えてぽつぽつ話し出す。
「教会にいたころ、先輩の神官さんやカレンは、下町によくしてくれる人がたくさんいたみたいで。豪華なご飯もプレゼントも届いてたけど、わたしにはなかった。“ぺたんこには施しがない”って言われて……ここでも一緒なんですよね」
――その言葉を呟いた瞬間
水の精ウンディーネの笑顔がぱたりと止まった。
水面がざわつき、彼女の顔がほんの少し怖く見えた。
「リンちゃん、ぺたんこで良かったと思いなさい」
低く、静かな声。
「本当に、あの教会は腐り切ってるわ」
腰に手を当て、ウンディーネの熱弁が始まる。
「大事なのはね、胸でもなければ、尻でもないの!大体わたしから言えば、胸ぐらいで威張るなといいたいわ。
胸がデカくても腹もデカかったら、寸胴じゃないの!お尻が大きくても、胸が小さかったらおかしいしね!要は健康的にバランスがとれているかどうかよ。
胸だってね!形っていうのも重要なわけ!でかくて垂れるなら自慢にもならないわ!」
なんだかよくわからないけど、ウンディーネが言うと説得力がある。
なんかゆらゆらしてるけど締まるところがきちんと締まって、出るところでてるダイナマイトボディ!
いや、ただの水のゆらめきか??
「だからスネクが“ご飯をしっかり食べなさい”って言ったのは間違ってないのよ」
ウンディーネは優しく微笑んだ
エアリアさんが慰めてくれるように、姿は見えないけど優しい風が吹く。
噴水の水面に映る自分の顔をじっと見つめてわたしも、ふと思う。
「確かに、話してたらなんかどっちでもいいかも。元々ボインになりたかったのは、貧しくてご飯も少なくて、カレンたちが羨ましかっただけでした」
わたしは立ち上がる。
「ここに来てからは、私の欲しかった世界が広がってる。
ご飯を食べなさいって言ってくれる人がいるんだもの。もう女の武器は考えなくていいんですよね。前と一緒なんていったら、バチがあたっちゃいます」
へへっとリンは笑った。
ウンディーネが驚いて見つめる。
「え?急にどうしたのリンちゃん?
ずっと“ボインが世界を救う”とか言ってたじゃない?」
「でも、たぶん今、ちょっと救われてるんです。
ボインじゃなくても」
ウンディーネはしばらく黙ってから、にっこり微笑んだ。
「それなら、いいのよ」
エアリアの優しい風に吹く。
どうやらエアリアさんもわたしを励ましてくれているようだ。
わたしは笑顔で言った。
「職場に戻ります!」
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!?
元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる