聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

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21 女の武器

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それからまもなくして、わたしは、ひたすら日々はたきをかけ続け、エアリアさんが吹っ飛ばし、お城の瘴気はほぼ消えた。
城に、人間界とつながる結界があるので、魔王城が一番瘴気にやられたらしいけど、一件落着。

城下町以降、他の町に影響は出てないので、職員さんたちをお城に呼び戻せるようになったらしい。
魔王さま、トミーさん、わたしの生活も終わってしまった。
ウンディーネさんやエアリアさんも声をかけないと会えない

「いろんな従業員さんが戻ってきたら、わたしの仕事あるんでしょうか?」

お昼の噴水のそばで、わたしはぼそりとつぶやいた。
ウンディーネは水面にぷかぷか浮かびながら、リンの顔をのぞき込む。

「瘴気はどう?」
「もう、城の中はみんなでハタキ終わりました」

埃と違って瘴気はそこまで急激にはたまらない。
魔王城の瘴気は長く溜まってしまっていたのだろうか?

城の空気はすっかり変わった。

ネズミイさんは仲間とにぎやかに再会。
台所は、厨房長は鬼のオーガなので、人間の私が行ったら踏み潰されそうだ。

トミーさんは人員配置で大忙しだから声がかけられない。
「リンさんに適職がある」って嬉しそうだったんだけどなあ。
なんか忙しそうで、ここ数日放置状態だ。

魔王さまは執務室にこもってる。
それこそ忙しそうで、コーヒーすら飲めそうにない。
まあ、私が入れなくても色んな人が身の回りのことしてくれるみたいだから...

リンは、仕事も無くなり、ぽつんと噴水の縁に腰を下ろし、足をぶらぶらさせる。

「……やっぱり、わたしって、いらないのかも」

廊下を通るメイドたちの視線が、ちらちらリンに向けられている。

「……嫁候補の噂、広まってるみたい」
「人間だって!」
「魔王さま、本気なのかなあ」
「可愛いけど……ちょっとちっちゃいわね」

……うん、全部わたしに向けられた声。
どうやら、魔族の中で人間というのは特殊に見られる存在らしい。

「ウンディーネさん、人間ってあまり好かれてないんですね」

ここに、あまり発言や視線に好意的な人たちはいない。
毒舌ネズミイさんは、好意的ではなかったのだろうが、掃除という共通目標を持った同士として認めてくれたという感じらしい。

でも、鬼のオーガの厨房長や胴体が蛇のメイド長スネクさんのほうがよっぽど珍しいと思うんだけどなあ。
 
そんなスネクさんに昨日言われたことが、まだ胸に刺さってる。 

「あなたは魔王さまの奥方さまになるかもしれない方なんでふってね?
 もっとご飯をしっかり食べて、太陽を浴びて、素敵なレディにならなきゃ。あなたの仕事は食べては眠ることではなくて?」

つまり……もっと女らしくなれってことよね?

「人間はよく思われてないのは事実よ。ただ、それは、スネクならではの優しさねえ……」

ウンディーネは噴水の上でくるりと回りながら、ちょっと苦笑い。

「リンちゃん、痩せすぎなの。もう少しふっくらしたら、もっと魅力的になるってことよ」
「やっぱり、ボインが正義なんですよね」

リンはため息をつく。
教会と変わらない。
みんなのように、女性を武器にできなければ生きてはいけないのだ。

「またそれ言うの!リンちゃん、いつもそればっか」

ウンディーネは、ふんと笑う。
わたしは膝を抱えてぽつぽつ話し出す。

「教会にいたころ、先輩の神官さんやカレンは、下町によくしてくれる人がたくさんいたみたいで。豪華なご飯もプレゼントも届いてたけど、わたしにはなかった。“ぺたんこには施しがない”って言われて……ここでも一緒なんですよね」



――その言葉を呟いた瞬間

水の精ウンディーネの笑顔がぱたりと止まった。
水面がざわつき、彼女の顔がほんの少し怖く見えた。

「リンちゃん、ぺたんこで良かったと思いなさい」
低く、静かな声。
「本当に、あの教会は腐り切ってるわ」
腰に手を当て、ウンディーネの熱弁が始まる。

「大事なのはね、胸でもなければ、尻でもないの!大体わたしから言えば、胸ぐらいで威張るなといいたいわ。
胸がデカくても腹もデカかったら、寸胴じゃないの!お尻が大きくても、胸が小さかったらおかしいしね!要は健康的にバランスがとれているかどうかよ。
胸だってね!形っていうのも重要なわけ!でかくて垂れるなら自慢にもならないわ!」
 
なんだかよくわからないけど、ウンディーネが言うと説得力がある。
なんかゆらゆらしてるけど締まるところがきちんと締まって、出るところでてるダイナマイトボディ!

いや、ただの水のゆらめきか??

「だからスネクが“ご飯をしっかり食べなさい”って言ったのは間違ってないのよ」

ウンディーネは優しく微笑んだ
エアリアさんが慰めてくれるように、姿は見えないけど優しい風が吹く。

噴水の水面に映る自分の顔をじっと見つめてわたしも、ふと思う。

「確かに、話してたらなんかどっちでもいいかも。元々ボインになりたかったのは、貧しくてご飯も少なくて、カレンたちが羨ましかっただけでした」
わたしは立ち上がる。

「ここに来てからは、私の欲しかった世界が広がってる。
ご飯を食べなさいって言ってくれる人がいるんだもの。もう女の武器は考えなくていいんですよね。前と一緒なんていったら、バチがあたっちゃいます」

へへっとリンは笑った。
ウンディーネが驚いて見つめる。

「え?急にどうしたのリンちゃん?
ずっと“ボインが世界を救う”とか言ってたじゃない?」

「でも、たぶん今、ちょっと救われてるんです。
ボインじゃなくても」

ウンディーネはしばらく黙ってから、にっこり微笑んだ。

「それなら、いいのよ」

エアリアの優しい風に吹く。
どうやらエアリアさんもわたしを励ましてくれているようだ。
わたしは笑顔で言った。

「職場に戻ります!」
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