存在しないことにされていた管理ギフトの少女、王宮で真の家族に出会う 〜冷遇された日々は、王宮での溺愛で上書きします〜

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恋愛編

20 初めての外の世界

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「ゲオルク、あなた、デートの天才だわ!」

私は思わず手を叩く。

あのお茶会から数日後、悩んでも考えても第五王妃が倒れた理由なんて何もわからない。
とりあえず私は頑張ったからご褒美!とゲオルクに詰め寄り、メガネに帽子を被り、髪をおさげにして町娘ファッションのお忍びデートを決行した。

私は、今、ゲオルクおすすめの美味しいケーキを頬張っている。

「デートの天才と褒められたのは初めてだよ。喜んでいいのかな?」

とろけるような嘘くさい笑顔で私を見るゲオルクも、そう褒められたことはないらしく、さすがに目を丸くした。

「喜んでいいのよ。ゲオルクは物語の王子様みたいね」
「ふふ、リアは面白いね。本当に王子なんだよ」

ゲオルクのデートは、私が貴族であろうと町娘であろうと徹底してジェントルマン演技を忘れない。

そして、私から恋愛小説の話を散々部屋で聞かされているからか、忠実に物語のような体験をさせてくれていた。

「最高のご褒美だわ。街のいろんなお店も回れたし、美味しいケーキも食べられたし、美しい景色も見たわ。
今まであなたとデートをした方は、これを当たり前と思っているのかしら?絶対あなたはデートの天才よ。このデートの素晴らしさに気づけない人は、人生の楽しみが半減ね」

ふふっと笑って再びケーキに着手する。
これは、ただのケーキではなく、クリームと酸味のあるベリーがのっている。
どうやら、今話題のお店らしく、並ばないと食べられない。


今日はご褒美だもの。
並ぶ時間も楽しかった。
待つ間に胸がドキドキしたわ。

ああっ!このいちごジュースも美味しい。

そんな私の様子を、くすくす笑いながらゲオルクは見ている。

「や、やっぱりおかしいかしら?」

悪目立ちしないようにしているけど、見るもの全てに興奮するのは仕方ないと思うの。

「いや、リアが喜んでくれてよかったよ......」

ゲオルクはそう言いながら少し周囲を気にしている。
時々眉を顰める。

こくこくといちごジュースを飲むことに夢中になっていると、確かにあちこちから視線を感じるわね。

普通の一般人に紛れているのに、ゲオルクの顔立ちは目立つんだわ。今更だけど、黒髪のエキゾチックな雰囲気はお母様似なんでしょうね。

「あなた、周りからの視線をすごく浴びるのね。モテるのは悪いことではないわ。でも、尾行や、張り込みは向きそうにないわね。」

私はふふっと笑うと、何を言っているんだというふうにゲオルクから肩をすくめられる。

「そう思っているのは君だけだよ。僕の耳によると、君が可愛いという声しか入って来ないんだから」

そういえば、音声傍受のギフトだったわね───

可愛いと言われていると囁かれると悪い気はしない。
でも、残念ながら私はもうそこまで夢見がちな女の子ではない。

「ありがとう。可愛いって言ってもらえている妄想でデートが終わっても楽しめそう。楽しい時間はあっという間に過ぎちゃうのね。またお仕事したらご褒美くれる?」

私がそう聞くと、ゲオルクは頷きながら、そっと私の手に手を重ねた。
あれ?
ケーキ食べるところでも、手を繋いだほうがいいのかしら。
私も、思わずガシッとゲオルクの手の上に、手を乗せる。
ゲオルクは、呆然としている。

「あら?握るのが正解?じゃなかったの?でもこれだと、何も食べられないわ」

私の左手上には、ゲオルクの手が。
ゲオルクの左手の上には、わたしの手が。

思わず二人で顔を見合わせ、お互い机のケーキを見つめ、ふふっと笑って再び食べ始めるのだった。



「そこまで喜んでもらえるなら、度々外に出ようか?僕も連れて行く甲斐があるよ」
「本当!でも、ゲオルクの行きたいところも寄ってくれたらいいのよ。だって、私はどこに行くのも初めてになるんだから」

そう言いながら、私はゲオルクと手を繋いで歩く。
じんわりとお互いの体温を感じ、手の柔らかさや肌のなめらかさを感じ少し照れる。
でも、周りのカップルを見るとそんな感じよね。
恥ずかしがることじゃないんだわ。

むしろ手を離して離れて歩いているカップルは......まあ、次がないのかな?という感じだ。
時折り優しく視線を送るゲオルクを見ながら、
デートって素敵だわ!
と心が暖かくなるのだった。

「すべてが初めてなら、今度のデートは郊外で、人が少ないところも行こう。ただ、何も考えず、自然に身を任せるのも悪くないよ」
「自然の中のデートって物語によく出てくるわね。湖でボートを漕いだりするのよね。そして、意地悪な女にヒロインは必ず沈められて、溺れて、ヒーローが助けに来てくれるのよね」

たしか読んだ恋愛小説にそんな設定が多かったわ。
それを聞いて、ゲオルクは吹き出すように笑う。

「うーん、今までそのパターンのデートに当たったことは一度もないなあ。でも、似たようなことはあったよ」
「本当!」
「うん、海で追い詰められて落とされた女の子を助けたら、目の前の船が爆破される話なんだけどね」

少しいたずらっぽく笑うゲオルクに、なによそれ?とじと目で対応する。

「それ、あなたと私の出会いじゃないの」
「似てるだろ?湖か海かの違いだよ。そして、二人は出会い、恋に落ち、結ばれる」
「たしかにね。海に落ちて、その乗っていた船は爆破、二人は出会い、こんな偽装カップルになった。とても似ている...」

私が不満気にそういうと、ブッと笑い飛ばされてしまった。

「この後はカリーナ姉さんからの連絡で、リアにも練り香水を作ったから店に来てくれってさ。」

そう言われ、あんなに行きたかったお店に行くのが恥ずかしくなる。

「カリーナ姉さんは、全く悪気がないんだよ。俺が特定の女性に、自分のアメニティを使わせたのは初めてだったから《ちゃんと逃げ道は塞いでおいたわ》っていわれてさ。」

「ああ、確かにそうなれば一般的には責任を取るか別れるかになるわよね」 

ただ、それは本当のカップルなら成立する。

「そう、ここまでお膳立てしてやったんだから、ぐずぐずしないで早くプロポーズしろって言われてしまったよ」

私の体から、ゲオルクにしか渡していないアメニティの香りがしたら、カリーナ様がきちんと責任を取りなさいとやきもきするのもわかる。
恋のキューピッドになったつもりだったんだろうな。

私はがっくり肩を落とす。
すいません。
その恋の矢は、私の淑女としての心臓に刺さってしまったんです。

「まあ、どうせ戸籍がなくて結婚は諦めてたし、結婚しても私の両親みたいな仮面夫婦ならしない方がいいし。
でも、ゲオルクが良かったら、こうやって時々疑似恋愛を体験させてもらえますか?」
「あ...ああ。もちろん。俺も演技じゃなく楽しいよ。たくさん、一緒に遊ぼう」

力なく笑う私を見て、ゲオルクは、眉を下げて困ったようにそう答えるのだった。




カリーナの店は、貴族対応の品と一般向けの品があり、それぞれ入り口が異なる。

「お忍びの格好で、カリーナ様に会うわけにはいかないわ。一般向けの商品をみたら帰らせていただくわ」

うん、それがいい。
なんか顔を合わせづらいし。
私は心の中でそう頷く。

「大丈夫、ここの店に来る時はいつも俺も一般に紛れている」

だが、ゲオルクは私の心なんて知らずに、迷わず一般のお店に入っていく。
従業員用のルートがあるらしい。

お店の中はシャンプーやリンス、ヘアオイルだけじゃなく、マニキュアや化粧品、キャンドルやルームフレグランス。
それが香りが混ざらないように、それぞれ密閉された小瓶に入れられている。

一般向けの容器はゲオルクが持っているものとは異なり、装飾を減らし、量をほんとうに少量、数回分にして売っていた。

それでも高貴な気分を味わえる上にそれぞれの商品にカリーナ様のおまじないギフトが発動されているらしく、新製品が出る日は朝から長蛇の列になるぐらい大人気らしい。

そのお店の中でひときわ人気のコーナーがあるようだ。
すごい人だかりで前が見えない。
でも、みんな香りがついたスティックを持って帰っている。
どうやら、日替わりで、カリーナ様のおまじないギフトの香りを含んだスティックを一本持ち帰れるらしい。

「へえ、無料なんだ。」

近寄ってみると、私とゲオルクはその商品に目が釘付けになり、唖然とし、仲良くつないでいた手をパッと離す。

そこには───

「本日の香り~恋が成就する香り~」
ゲオルク王子、リリアーナ公爵令嬢ご推薦!!


その香りは、間違いなく普段嗅ぎ慣れたゲオルクと私が風呂で使っているアメニティの香りだった。



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