【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶

文字の大きさ
8 / 59

8 【サイド】ソラリクス

しおりを挟む
彼女がいなくなって500年が経った。
この世界でそれほど長く生きられるのは、私のような神かエルフか...

だがその顔立ちまで忘れずに覚えているものはどれほどいるだろうか。

私は気だるく無気力になる日々を送っていた。

彼女がもうここに戻ってこないなら、私も地に還りたい。
彼女だけではない。
笑い合って過ごした人々が歳を重ね、衰え、みんな私にお礼を言いながらこの世界から去っていく。

転生した子孫たちもいる。
それに気づくのは神の私だけだ。
今まで転生したものは、自分が転生したことに気づくことはなくその生涯を終えていく。
かつては、その片鱗でも思い出すことはないかと期待したが、誰も思い出すこともなく再びその生涯を終えていくのだ。

虚しい。せっかく再び出会えたのに、かつての思い出を語ることも、知ることがなかった空白の時の出来事を話すこともできない。

ここ100年くらいはだんだん表舞台に出ていくこと、新たなものたちと関わることも嫌になって来た。確実に私よりも先に来る別れが寂しくなるのだ。
しかも、私が出ていかないことで、勝手に私を神格化し、厳かで、間違いを犯さず、私のいうことは全て正しいと誰もが私を信じていく。

私がいてもいなくても、いや、むしろいないぐらいがみんなにとって理想の神を演出できていいのかもしれない


そんな中で先ほどから何やらざわざわうるさい
「エーテリオン、なにがあった?」
「先ほど絵画の間になにやら不審者による侵入があったようです。今、フェニックスとガルーダが対応しているようですので続報があるでしょう」
「絵画の間は普段から無料で一般公開もしているだろうに。もっともあの絵に何かの価値があるとは思えないが」
私は溜め息をつく。
シームルグが大聖女と私に危害を加えた瞬間を描いたと言われるあの絵画のシームルグは、本来の彼女の姿とは似ても似つかない。

月光神シームルグは、世界の運命に逆らい人を害するという罪で、この世界から抹消された。
月光神にそこまでの決断をさせてしまったこの世界のペナルティは、その日からこの世界に訪れることがなくなってしまった夜だ。

夜が必要な種族は、外に出てこられなくなる。
植物は成長をする時間がなくなる。
活動するものたちは、ゆっくり休めなくなる。

月光神の喪失は、やがてなぜかシームルグが民のために日々活動していたことの感謝ではなく、シームルグの行為が引き起こしたことによる恨み、憎しみへと変換されていく。

「ソラリクス様、大変です。先ほど絵画の間に現れたものですが、あのシームルグにそっくりだというのです。一応危害を加える可能性は低いということで、城の牢であらゆる力は封じておりますが、本人は時渡りだと訴えております」
「時渡り?」
俺は久しぶりに聞いた単語を聞き返す。
そもそも大聖女カラドリウスが、500年前にこの世界に来たのも時渡りだったな。
「シームルグにそっくりの...時渡り?」
「ただ、相当汚れて臭いも発していたようで、牢で清めてから明日判断を下してくださればいいということです」
エーテリオンはうやうやしく頭を下げた。
「といっても、エーテリオンにも言ったと思うがあの絵のシームルグはシームルグじゃないんだよ。だから絵とそっくりでも、私が会ったら、おや、また平凡な顔の子がいたものだ、で終わるよ。時渡りなんだから、きちんと保護して扱ってやればいい」
俺は面倒くさくなってくる。
シームルグが復活したなら、それは大騒ぎではあるが、あの絵のシームルグは、似ても似つかないという話を500年訴え続けても誰も聞かないのだからこんなところで自分を頼らないで欲しいものだ。
「そうはいきません。かなり城内の混乱は激しいですし、これで城下にでも下りれば無事には済まないでしょう」
エーテリオンの神経質そうな顔立ちはキリッとした真面目な表情になり、今にも刑罰を与えてくれと言わんばかりだ。
そのそっくりさんも可哀想に。
平凡な顔立ちに生まれただけでも気の毒なのに、汚れて、臭くて、周囲からシームルグの絵に似ているだけで刑罰を求められるなんて、前世どんな業を積んだんだか?

「じゃあ、明日その子に会うよ」
俺はため息をついて空を眺めた。
ん??

何やら空が赤くないか?

「おい、エーテリオン。私の目がおかしいのだろうか?空が赤く見えるのだが…」
「はい??えっ!!赤い!空が燃えてます!!」
「いや、燃えているわけではない。これは…」

そっと自分の館である神殿の御簾から出て、よりしっかりこの目で空を見つめようと見直す。
そして、体が震えるような歓喜と興奮が自分を包み込む。

「エーテリオン、城に行くぞ。その者と会ってみよう。これは夕暮れだ。500年ぶりに夜が来るぞ」

わたしは興奮が抑えられない。
エーテリオンはまだ知らない夜に恐怖を持っているようだ。
いや、おそらく全てのものがそうだろう。
それならば、動いたほうが良いだろう。


───

わたしの目の前にいたのは、連絡の通りシームルグとは似ても似つかない、絵画のシームルグのそっくりさんだった。

だが、相当苦労した人生を送ってきたようだ。

「元の世界では、父の肩代わりをしてしまった借金取りからどんな目に遭わされるかわかりません。それに比べれば、期待さえしないでもらえたらダメ元でやりますし、分からない仕事でも覚えろと言われれば覚えます」

その声に、ふとかつてのシームルグの声の記憶が再生される。

あれは、無鉄砲な女で慎重に物事を進めるわたしとは対極的だった。

「とりあえずダメ元でやってみたらいいのよ!知らなければ、やりながら覚えたらいいわ」

そう言っては、物騒なものを作って周囲を困らせていた。
たしか、その物騒なものたちは、全て今も彼女の館に残っていたのではなかったか?

シームルグのそっくりさん...ね。
似ても似つかないが面白い。
この娘に、シームルグの館を片付けさせてみるか?
彼女のかつて作った面白い歴史を掘り起こしてくれるかもしれない。

シームルグのゴミ屋敷の片付けを提案するとエーテリオンは慌てているが、俺は久しぶりに心に風が吹いたのを感じていた。
500年ぶりの夜ーー呪いが解けたのか、はたまた新しい出来事の始まりかは分からないが楽しくなりそうだ。

俺はニヤリと口角が上がるのを抑えられなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜

月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。 ※この作品は、カクヨムでも掲載しています。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。 下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。 キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。 家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。 隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。 一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。 ハッピーエンドです。 最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...