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サトウキョウをさがせ
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私は、異界の門担当事務官。
この道ほんの800年、あ?お局?いえいえ、まだひよっこ...なはず。
今日も無心です。
この仕事、心のざわめきは不要ですからね。
目の前で行きたくないと嘆く方、あちらの世界に行ってから泣いてほしいわ。
「頼む!金ならたくさんあるんだ!ほら!ほら!」
こらこら、カウンターにしがみつきません。
指紋を拭き取るのがたいへんじゃないですか?
へえ、渋澤栄一さんですか?ついこの間見送ったばかり。
福沢諭吉さんとはこの間、閻魔行きの書類を手渡したばかり。
聖徳太子さんは、うちの課長が...ああこういうのをお局っていうのです。2000年ここで働いてるんでね。
若い頃、聖徳太子さんに閻魔様にお渡しする書類をお渡ししたそうですよ。
「頼む!まだわしの家の壺の中には、たんまり金は隠してある。取りに行かせてくれ!アレを見つけられたら身の破滅だ。お前に取り分わけてやるから!」
いりませんよ。
そんな方のプリントした金はどうでもいいのです。
なんなら、あちらの門の先にはご本人たちがいるんですから。
「頼む!」
だ、か、ら!!机揺らさないで!
ほら死神さんに渡すリストをプリント中なのに、揺れるから、インクが飛んだじゃないですか!
そうじゃなくても今日の締め切りに間に合わせるために、夜な夜な頑張って「サトウ」さんと「スズキ」さんを打ちまくった努力の結晶。
「サトウ アイ」
「サトウ イツキ」
「サトウ ウメ」
「サトウ エノン」
「サトウ キララ...きらら?」
ああ手を止めてはいけません。
最近はキラキラネームも多いですからね。
間違えないように一句一句
大切なのはこの仕事私情は交えない。
「サトウ...カイ」
「サトウ キョウ」
「サトウ クルミ」
「サトウ...」
こうして朝日を浴びるまで閻魔帳に記載し続けましたもの。
このプリントが終わって死神さんに渡したら、今日の任務は終了です。
「ハジメマシてぇー、今日からニホン担当の死神です」
「あら?珍しい。今回の死神は海外の方?」
「本国担当の死神が余ってマス」
あら、余るほど悪いことをしたのね。
しっかり徳を...おっとこんな私情は挟まない。
これがリストです。
「わかりました。これが無事終わればワタシ転生します」
「あらそうですか。それはお疲れ様」
そして、私も今日はお疲れ様。
「ふんふん、サトウさんおおいね?」
「この国はサトウさんが多いのです」」
「オッケー!サトウ エノン、サトウ キララ?お星様みたいだね!サト...ウキョウ、サトウ...」
「日本語大丈夫ですか?」
「はい、セイゼン日本に...」
カタコトですけど、まあいいでしょう。
必要なのは口ではなく鎌!
サクッと行っていただきます。
私は課長にこれを渡して今日は終わりですとも。
死神は、出て行ったし。
先ほどの客は強制執行。
さあ、課長!私の昨夜の努力を受け取るがいいわ!
「あんた!!何やってんの!文字飛びしてるじゃないの!」
はい?
私は持っているメガネを掛け直す。
ちょっと老眼、かなり乱視。
だめだわ。私の目はごまかせない。
「インクがズレてる!」
サトウ キョウが、サト ウキョウに!
生年月日も1969年が1996年になって...いますよ。
間違いなく。私の目でも明確に...
違う男をリスト上げしてしまった。
先ほどの男のせいです。
いえ、ここは素直に認めましょう。
最終確認を怠った私のミス!!
ああ、手の震えが止まりません。
「これは.....サト ウキョウを間違えて殺してしまうわ。すぐ収束を」
死神を追いましょう!
かつて韋駄天といわれた私の足を見るが良くてよ。
異界の門、特製エアエンマのスニーカーを履いた私の足の速さを舐めるんじゃなくてよ
◇◇
「サト ウキョウ?このアパートですが留守。死神もいない」
時間は昼、お仕事でしょうか?
職場で、ぽっくり...歩いてぽっくり...出会ってざっくり
どのパターンでも可能ですね。ふむ。
サト ウキョウさんの職場は...
リスト
職業 ヤクザ
特技 恐喝
死亡日 1月30日(予定)
「これは、職場もザックリ、もしくはズドン」
急がなければなりません。
勝手に死亡日(予定)なんてふざけた記載が加わりました。
ヤクザが怖い?
いえ、私の仕事を邪魔するものは、みんなまとめて昇天です。
だって、私は職務に忠実、私情を交えて可哀想など同情は許されない。
あの黒ずくめの門ですね。
カメラ?ああ私は映りません。
特製エアエンマで塀をひとっ飛び。
ドアの鍵?ああ不要です。
電子鍵ですからね、勝手に回ってほら開いた。
あっ!いるじゃないですか!
サト ウキョウ。
私が守らなくても、周りがたくさん守っているようですね。
死神はいませんね?
どうしましょう?
リストから外す前に本人に辿り着いてしまいました。
「お前、何者だ!」
「捕まえろ!」
厄介なことになりました。
姿をオフモードにしておりませんでした。
「テメェ!どこの組の者だ!」
カチャッ
何やら金属の筒を持ち出しておられます。
私が生きていた頃の切腹は、長くても短くても刀でしたけど、これでどうやって切るのでしょう?
「サト ウキョウ」で合ってますね?
目の前の男も、金属の筒を持ち出しましてよ?
仕方ありません。
これが何なのかまず調べてみましょうか?
私は、普段持ち歩くエンマ辞典をポケットから取り出そうとしましたが.....
「動くな!!」
パァン
パァン
あらまあ、前の「サト ウキョウ」さんと後ろの名前も知らない方が、お互い金属の筒を引っ張った結果...
私の中を通り抜けてーーー
死にましたわ...
となってはいけないので、とりあえずこの金属の弾を引き取りましょう。
にぎっ!
「お、お前何者だ!」
みんなが一斉に金属の筒を持ってパンパンするので困ります。
なるほど、これが皆さん異界の門で「ズドン」されたという「ズドン」の元凶なのですね。
さて、どうやって、サト ウキョウを助けましょうね?
「あなた?この後はどうするつもりで?」
死神が来るまでここで、待とうかしら?
あら?なんか音が近づいてきます。
ウーーー!
あら、塀の外から赤色灯、
はっ!みんなが最後に見た景色によく出るやつ!
赤いランプが最後の記憶ーー
あれが救急車というやつですね。
「おい!ズラかれっ!」
しまった。サト ウキョウを外に出したら、あの救急車と鉢合わせてしまう!
アレに乗ると最後の景色になってしまいます。
チョン、足を出してみましたわ。
ズデン
「いてぇ!足が!足が動かねえ!!
おい!俺も連れてってくれ!おい!」
あら、変にこけてしまいました。
「走り出そうとするから、派手にこけるのです」
「ちきしよう!お前なんだよ!おやっさんの最後の顔を見にきただけなのに!」
サト ウキョウ!
あなたの命を助けるためには仕方がないことなのです。
知らなくてもいい。
いつかその日が来たら、あなたは私に感謝するでしょう。
あら?家の中を黒ずくめの方達がたくさん入ってきた。
あまり見られてはなりません。これは、極秘ミッション!
姿をオフモードにしておきましょう。
「サト ウキョウ!銃刀法違反で現行犯逮捕だ」
あらあらあら!しまった。
皆さんが「サト ウキョウ」と一緒に、白と黒の救急車に乗せられてしまいました!!
ああ、失敗!
姿をオフモードにするのではなかった。
追いかけましょうか?
リストはなんと?
氏名 サト ウキョウ
職業 無職
その他 銃刀法違反 恐喝 逮捕歴
あら?死亡が消えました。
これは...回避?
しかも職業はヤクザから足を洗ったようで。
では、一件落着といきたいのですが...
奥でなにやらこちらの世界に来られる方の儀式をされているようです。
そういえば、おやっさんの最後と言ってましたね。
おやっさんは、まだいるのかしら?
あら?
あの菊に囲まれている写真は、あのプリンターをゆり動かしてリストのプリントを歪ませた張本人!
「佐藤 強 葬儀」
あら?「サトウ キョウ」じゃないですの?
なんだ、リストより先にさっさと来ていましたのね。
お利口さんですこと。
そういえば、壺の金が心残りといってましたわね。
先ほど赤色灯を回した白と黒の救急車から降りてきた男たちもたくさんここで事情を聞いてますわ。
ギャラリーは多いほうが、サトウキョウさんも喜ぶことでしょう。
あの壺に、渋澤栄一さんが。
そんなプリント、さっさと撒き散らしてこの世の未練とオサラバです。
いつもは私情を交えませんが、今日は出血大サービスです。
そら!パリン!!
さあ、渋澤栄一さんをお部屋中に巻き上げましたわ。
「なんだ!!この金は?」
大騒ぎですこと。何の金かまでは知ったこったじゃありませんわ。
さあ、これでリストを...
氏名 サトウ キョウ
職業 組長
特技 詐欺
その他 特殊詐欺で書類送検
死亡日 1月29日
あら?死亡日は昨日...
おかしいですわね?リストは本日分なんですけど?
私は何か思い違いをしているのかも。
死神がいないのです。
もう一度、リストをちゃんと見直してみましょう
ああ、なんか大騒ぎですね。
「俺の金だ!」
「まて、手をつけるな!お札の番号を照合しろ」
「一切、触るなよ」
うるさすぎて心を無に出来ません。
外に出ましょう
外は、白と黒の救急車が大量ですね。
道路もすごい人、どっちの世界も野次馬はいます。
あらあら、なにやら大騒ぎ、まあ私には関係のないことです。
あら?
アレは死神??
道路を挟んで向こうに死神を見つけました。
急いで追いかけましょう。
ああ、見失いそう。
「ちょ、ちょっと!!」
大声を上げたら気付きました。でもキョロキョロしてますね。
でも、ああ!私は今姿をオフモードにしています。
すぐ姿を現しますわ!
道路を渡りたいのですが、まあ、いいでしょう。
どうせ当たることはありません。
当たることはないのですが.....
うわぁー
キュー、ガガッ、ギギッ!
ドガァーン
なにやら、私が横切ると、車がどんどん叫び声を上げながら衝突していきますよ。ちゃんと前を見て運転していただきたい。
ああ、見失いました。
「おい、そこの女!止まれ」
面倒です。再びオフモードにしましょう。
「消えた!消えたぞ!!」
「おい!救急車だ!」
おや?怪我をしましたか?
それは、申し訳なかった。でも、それもまた運命のはず。
もう一度見直してみましょう。
「サトウ キョウ 」
あら?今日死ぬ人にこの名前はいない...
「サト ウキョウ 」 も違いますね。
誰が死ぬ予定なのでしょう?
あっ!死神です。
車を覗き込んでいる。
先ほど車がぶつかって事故にあったものですね。
おや?あの世行きでしたか?
私をみてびっくりしたのでしょう。
ですが、それも含めて運命。
「死神さん、お仕事中申し訳ありません。こちらのリストに誤りがあり、訂正に参りましたの」
「そうでしたか。これからこの子供を送る予定です」
大人二人と子供一人、血を流しているのが親でしょうか?
子供が......ほぼ虫の音です。
最近見た中でも、かなりの痩せ型、いえそんなレベルではない。身体中に傷があります。
これは...この事故によるものではない?
わたしは胸からエンマフォンを取り出します。
写真を撮り、検索をかければ名前は出てきます。
氏名 サトウキ ヨウ
年齢 5歳
その他 両親の虐待による死亡
死亡日 1月30日(予定)
特記事項 異界の門 事務員が養母(予定)
やはり、事故死ではありませんでしたね。
私情は交えなくても、わたしが原因でなくてよかった。
って...ん?
異界の門の事務員が養母??
はて?誰のこと?
いえ、その前に死亡日が確定していません。
「死神さん、これは私がリストミスをしたことによる予定外の出来事かもしれません」
死亡日に予定はないのだ。
先ほどのサト ウキョウのように、変えることが出来る。
「今なら助かります。緊急魂接着剤を流し込みましょう」
わたしは胸ポケットから、魂接着剤を取り出した。
800年の中で懲戒処分並のミスです。
「待って」
死神が手を止める。
「この子供は、ここにいることを望んでいません」
「何を言っているの?虐待についてどう判断するかは、異界ではなく現世の仕事です。私情を交えてはなりません」
私はその手を戻し、死神を睨みつける。
「いえ、この子は異界の門で幸せになります」
「事務員が養母とか?」
誰か事務員の子孫なのかしら?
いえ、私情を交えません。
子供だから助けるわけではないのです。
この子はまた死亡リストに完全に入っていない。
「私の名前はサトウキ ヨウ。私は、この子は私の過去のサトウキ ヨウ。これは転生のための最終研修です。過去の自分を無事に送り、わたしは生まれ変わります」
「ふむ、そうですかと言ってあげたいのですが、あなたが仮にここで死ななかったとしても、親は罰される可能性が高く、あなたには新たな幸せな道もあるのでは?」
親は死んでいませんが、三人揃って病院に行けば、問題になるのは時間の問題。
わたしはこのサトウキ ヨウの最後の壁なのでしょう。
死神になる過程をそもそも通らず、彼は他の者のように天寿を全うして、あの世に渡る。
それが本来ある道なのだと。
「いえ、私は異界の門で養母に育てられ、私がこの世で経験したかったこと、欲しかった愛情、全てを受けて幸せな時を送りました。
この後私は、生まれ変わって養母と本当の親子になる予定なのです」
異界の門で、養母になる運命のものがいる。
その者は、いずれ転生して、この死神と本当の親子に...
「後悔がないと?」
「はい、母が私を待っています」
そうですか...
少しだけ私情を交えましょう。
かつて800年前は武士の時代。理不尽から、わたしはお腹に子供を宿したまま切られたんでした。
せっかく幸せになる予定の親子は離してはなりませんね。
このミスによるペナルティはわたしが受ければよいことですし。
わたしはリストを確認した。
氏名 サトウキ ヨウ
死亡日 1月30日
決定ですね。
ふう、ため息です。
800年ミスなく来ましたのに。
まあいいですわ。
死神は静かに魂を切り離した。
「こちらに完了の印を」
死神から出されたリストは、全員終了。
わたしは完了確認済みサインをいれた。
「では」
「ええ、お幸せに」
死神は静かに消えた。
さて、課長に怒鳴られましょうね
サトウキ ヨウくんのことも心配ですし...
事務所に戻ると「サトウキ ヨウ」が不安そうな顔でポツンと立っていた。
あのまま、痩せて、体に傷を負っている。
この世にきても、傷が消えてないということは心の傷ですか...
たしかに死神と同じような外国人風の顔立ち。
ハーフかもしれませんね
「不安になることはありません。あなたはこれから、ここにいるものが大切に育てて幸せな人生が待っています。安心するがいいでしょう」
「おなかすいた」
「そうですね。すぐに食べましょう。あなたは痩せすぎています。」
机に何かあったかしら?
あら?事務所には課長以外誰もいませんね。
「課長、私のリスト上げのミスにより...」
「閻魔様と把握しております。サトウキ ヨウ はこちらの事務所預かりとして、無事成人、転生するまでは責任を持って育てることになりました」
わたしは頷いた。
サトウキ ヨウのリストを見る。
思わず目を見開く。
養母に私の名前が載っている。
「これは?」
「リストの通り育てるように。無事育てた暁には、あなたはこの子の母として転生が待っています。」
えっ!
あの死神が...私の...息子?
異界の門の事務課長がサトウキヨウに声をかけた。
「ここでこの人と幸せにおなりなさい。」
サトウキヨウは、私の顔をじっと見て頷いた。
《完》
この道ほんの800年、あ?お局?いえいえ、まだひよっこ...なはず。
今日も無心です。
この仕事、心のざわめきは不要ですからね。
目の前で行きたくないと嘆く方、あちらの世界に行ってから泣いてほしいわ。
「頼む!金ならたくさんあるんだ!ほら!ほら!」
こらこら、カウンターにしがみつきません。
指紋を拭き取るのがたいへんじゃないですか?
へえ、渋澤栄一さんですか?ついこの間見送ったばかり。
福沢諭吉さんとはこの間、閻魔行きの書類を手渡したばかり。
聖徳太子さんは、うちの課長が...ああこういうのをお局っていうのです。2000年ここで働いてるんでね。
若い頃、聖徳太子さんに閻魔様にお渡しする書類をお渡ししたそうですよ。
「頼む!まだわしの家の壺の中には、たんまり金は隠してある。取りに行かせてくれ!アレを見つけられたら身の破滅だ。お前に取り分わけてやるから!」
いりませんよ。
そんな方のプリントした金はどうでもいいのです。
なんなら、あちらの門の先にはご本人たちがいるんですから。
「頼む!」
だ、か、ら!!机揺らさないで!
ほら死神さんに渡すリストをプリント中なのに、揺れるから、インクが飛んだじゃないですか!
そうじゃなくても今日の締め切りに間に合わせるために、夜な夜な頑張って「サトウ」さんと「スズキ」さんを打ちまくった努力の結晶。
「サトウ アイ」
「サトウ イツキ」
「サトウ ウメ」
「サトウ エノン」
「サトウ キララ...きらら?」
ああ手を止めてはいけません。
最近はキラキラネームも多いですからね。
間違えないように一句一句
大切なのはこの仕事私情は交えない。
「サトウ...カイ」
「サトウ キョウ」
「サトウ クルミ」
「サトウ...」
こうして朝日を浴びるまで閻魔帳に記載し続けましたもの。
このプリントが終わって死神さんに渡したら、今日の任務は終了です。
「ハジメマシてぇー、今日からニホン担当の死神です」
「あら?珍しい。今回の死神は海外の方?」
「本国担当の死神が余ってマス」
あら、余るほど悪いことをしたのね。
しっかり徳を...おっとこんな私情は挟まない。
これがリストです。
「わかりました。これが無事終わればワタシ転生します」
「あらそうですか。それはお疲れ様」
そして、私も今日はお疲れ様。
「ふんふん、サトウさんおおいね?」
「この国はサトウさんが多いのです」」
「オッケー!サトウ エノン、サトウ キララ?お星様みたいだね!サト...ウキョウ、サトウ...」
「日本語大丈夫ですか?」
「はい、セイゼン日本に...」
カタコトですけど、まあいいでしょう。
必要なのは口ではなく鎌!
サクッと行っていただきます。
私は課長にこれを渡して今日は終わりですとも。
死神は、出て行ったし。
先ほどの客は強制執行。
さあ、課長!私の昨夜の努力を受け取るがいいわ!
「あんた!!何やってんの!文字飛びしてるじゃないの!」
はい?
私は持っているメガネを掛け直す。
ちょっと老眼、かなり乱視。
だめだわ。私の目はごまかせない。
「インクがズレてる!」
サトウ キョウが、サト ウキョウに!
生年月日も1969年が1996年になって...いますよ。
間違いなく。私の目でも明確に...
違う男をリスト上げしてしまった。
先ほどの男のせいです。
いえ、ここは素直に認めましょう。
最終確認を怠った私のミス!!
ああ、手の震えが止まりません。
「これは.....サト ウキョウを間違えて殺してしまうわ。すぐ収束を」
死神を追いましょう!
かつて韋駄天といわれた私の足を見るが良くてよ。
異界の門、特製エアエンマのスニーカーを履いた私の足の速さを舐めるんじゃなくてよ
◇◇
「サト ウキョウ?このアパートですが留守。死神もいない」
時間は昼、お仕事でしょうか?
職場で、ぽっくり...歩いてぽっくり...出会ってざっくり
どのパターンでも可能ですね。ふむ。
サト ウキョウさんの職場は...
リスト
職業 ヤクザ
特技 恐喝
死亡日 1月30日(予定)
「これは、職場もザックリ、もしくはズドン」
急がなければなりません。
勝手に死亡日(予定)なんてふざけた記載が加わりました。
ヤクザが怖い?
いえ、私の仕事を邪魔するものは、みんなまとめて昇天です。
だって、私は職務に忠実、私情を交えて可哀想など同情は許されない。
あの黒ずくめの門ですね。
カメラ?ああ私は映りません。
特製エアエンマで塀をひとっ飛び。
ドアの鍵?ああ不要です。
電子鍵ですからね、勝手に回ってほら開いた。
あっ!いるじゃないですか!
サト ウキョウ。
私が守らなくても、周りがたくさん守っているようですね。
死神はいませんね?
どうしましょう?
リストから外す前に本人に辿り着いてしまいました。
「お前、何者だ!」
「捕まえろ!」
厄介なことになりました。
姿をオフモードにしておりませんでした。
「テメェ!どこの組の者だ!」
カチャッ
何やら金属の筒を持ち出しておられます。
私が生きていた頃の切腹は、長くても短くても刀でしたけど、これでどうやって切るのでしょう?
「サト ウキョウ」で合ってますね?
目の前の男も、金属の筒を持ち出しましてよ?
仕方ありません。
これが何なのかまず調べてみましょうか?
私は、普段持ち歩くエンマ辞典をポケットから取り出そうとしましたが.....
「動くな!!」
パァン
パァン
あらまあ、前の「サト ウキョウ」さんと後ろの名前も知らない方が、お互い金属の筒を引っ張った結果...
私の中を通り抜けてーーー
死にましたわ...
となってはいけないので、とりあえずこの金属の弾を引き取りましょう。
にぎっ!
「お、お前何者だ!」
みんなが一斉に金属の筒を持ってパンパンするので困ります。
なるほど、これが皆さん異界の門で「ズドン」されたという「ズドン」の元凶なのですね。
さて、どうやって、サト ウキョウを助けましょうね?
「あなた?この後はどうするつもりで?」
死神が来るまでここで、待とうかしら?
あら?なんか音が近づいてきます。
ウーーー!
あら、塀の外から赤色灯、
はっ!みんなが最後に見た景色によく出るやつ!
赤いランプが最後の記憶ーー
あれが救急車というやつですね。
「おい!ズラかれっ!」
しまった。サト ウキョウを外に出したら、あの救急車と鉢合わせてしまう!
アレに乗ると最後の景色になってしまいます。
チョン、足を出してみましたわ。
ズデン
「いてぇ!足が!足が動かねえ!!
おい!俺も連れてってくれ!おい!」
あら、変にこけてしまいました。
「走り出そうとするから、派手にこけるのです」
「ちきしよう!お前なんだよ!おやっさんの最後の顔を見にきただけなのに!」
サト ウキョウ!
あなたの命を助けるためには仕方がないことなのです。
知らなくてもいい。
いつかその日が来たら、あなたは私に感謝するでしょう。
あら?家の中を黒ずくめの方達がたくさん入ってきた。
あまり見られてはなりません。これは、極秘ミッション!
姿をオフモードにしておきましょう。
「サト ウキョウ!銃刀法違反で現行犯逮捕だ」
あらあらあら!しまった。
皆さんが「サト ウキョウ」と一緒に、白と黒の救急車に乗せられてしまいました!!
ああ、失敗!
姿をオフモードにするのではなかった。
追いかけましょうか?
リストはなんと?
氏名 サト ウキョウ
職業 無職
その他 銃刀法違反 恐喝 逮捕歴
あら?死亡が消えました。
これは...回避?
しかも職業はヤクザから足を洗ったようで。
では、一件落着といきたいのですが...
奥でなにやらこちらの世界に来られる方の儀式をされているようです。
そういえば、おやっさんの最後と言ってましたね。
おやっさんは、まだいるのかしら?
あら?
あの菊に囲まれている写真は、あのプリンターをゆり動かしてリストのプリントを歪ませた張本人!
「佐藤 強 葬儀」
あら?「サトウ キョウ」じゃないですの?
なんだ、リストより先にさっさと来ていましたのね。
お利口さんですこと。
そういえば、壺の金が心残りといってましたわね。
先ほど赤色灯を回した白と黒の救急車から降りてきた男たちもたくさんここで事情を聞いてますわ。
ギャラリーは多いほうが、サトウキョウさんも喜ぶことでしょう。
あの壺に、渋澤栄一さんが。
そんなプリント、さっさと撒き散らしてこの世の未練とオサラバです。
いつもは私情を交えませんが、今日は出血大サービスです。
そら!パリン!!
さあ、渋澤栄一さんをお部屋中に巻き上げましたわ。
「なんだ!!この金は?」
大騒ぎですこと。何の金かまでは知ったこったじゃありませんわ。
さあ、これでリストを...
氏名 サトウ キョウ
職業 組長
特技 詐欺
その他 特殊詐欺で書類送検
死亡日 1月29日
あら?死亡日は昨日...
おかしいですわね?リストは本日分なんですけど?
私は何か思い違いをしているのかも。
死神がいないのです。
もう一度、リストをちゃんと見直してみましょう
ああ、なんか大騒ぎですね。
「俺の金だ!」
「まて、手をつけるな!お札の番号を照合しろ」
「一切、触るなよ」
うるさすぎて心を無に出来ません。
外に出ましょう
外は、白と黒の救急車が大量ですね。
道路もすごい人、どっちの世界も野次馬はいます。
あらあら、なにやら大騒ぎ、まあ私には関係のないことです。
あら?
アレは死神??
道路を挟んで向こうに死神を見つけました。
急いで追いかけましょう。
ああ、見失いそう。
「ちょ、ちょっと!!」
大声を上げたら気付きました。でもキョロキョロしてますね。
でも、ああ!私は今姿をオフモードにしています。
すぐ姿を現しますわ!
道路を渡りたいのですが、まあ、いいでしょう。
どうせ当たることはありません。
当たることはないのですが.....
うわぁー
キュー、ガガッ、ギギッ!
ドガァーン
なにやら、私が横切ると、車がどんどん叫び声を上げながら衝突していきますよ。ちゃんと前を見て運転していただきたい。
ああ、見失いました。
「おい、そこの女!止まれ」
面倒です。再びオフモードにしましょう。
「消えた!消えたぞ!!」
「おい!救急車だ!」
おや?怪我をしましたか?
それは、申し訳なかった。でも、それもまた運命のはず。
もう一度見直してみましょう。
「サトウ キョウ 」
あら?今日死ぬ人にこの名前はいない...
「サト ウキョウ 」 も違いますね。
誰が死ぬ予定なのでしょう?
あっ!死神です。
車を覗き込んでいる。
先ほど車がぶつかって事故にあったものですね。
おや?あの世行きでしたか?
私をみてびっくりしたのでしょう。
ですが、それも含めて運命。
「死神さん、お仕事中申し訳ありません。こちらのリストに誤りがあり、訂正に参りましたの」
「そうでしたか。これからこの子供を送る予定です」
大人二人と子供一人、血を流しているのが親でしょうか?
子供が......ほぼ虫の音です。
最近見た中でも、かなりの痩せ型、いえそんなレベルではない。身体中に傷があります。
これは...この事故によるものではない?
わたしは胸からエンマフォンを取り出します。
写真を撮り、検索をかければ名前は出てきます。
氏名 サトウキ ヨウ
年齢 5歳
その他 両親の虐待による死亡
死亡日 1月30日(予定)
特記事項 異界の門 事務員が養母(予定)
やはり、事故死ではありませんでしたね。
私情は交えなくても、わたしが原因でなくてよかった。
って...ん?
異界の門の事務員が養母??
はて?誰のこと?
いえ、その前に死亡日が確定していません。
「死神さん、これは私がリストミスをしたことによる予定外の出来事かもしれません」
死亡日に予定はないのだ。
先ほどのサト ウキョウのように、変えることが出来る。
「今なら助かります。緊急魂接着剤を流し込みましょう」
わたしは胸ポケットから、魂接着剤を取り出した。
800年の中で懲戒処分並のミスです。
「待って」
死神が手を止める。
「この子供は、ここにいることを望んでいません」
「何を言っているの?虐待についてどう判断するかは、異界ではなく現世の仕事です。私情を交えてはなりません」
私はその手を戻し、死神を睨みつける。
「いえ、この子は異界の門で幸せになります」
「事務員が養母とか?」
誰か事務員の子孫なのかしら?
いえ、私情を交えません。
子供だから助けるわけではないのです。
この子はまた死亡リストに完全に入っていない。
「私の名前はサトウキ ヨウ。私は、この子は私の過去のサトウキ ヨウ。これは転生のための最終研修です。過去の自分を無事に送り、わたしは生まれ変わります」
「ふむ、そうですかと言ってあげたいのですが、あなたが仮にここで死ななかったとしても、親は罰される可能性が高く、あなたには新たな幸せな道もあるのでは?」
親は死んでいませんが、三人揃って病院に行けば、問題になるのは時間の問題。
わたしはこのサトウキ ヨウの最後の壁なのでしょう。
死神になる過程をそもそも通らず、彼は他の者のように天寿を全うして、あの世に渡る。
それが本来ある道なのだと。
「いえ、私は異界の門で養母に育てられ、私がこの世で経験したかったこと、欲しかった愛情、全てを受けて幸せな時を送りました。
この後私は、生まれ変わって養母と本当の親子になる予定なのです」
異界の門で、養母になる運命のものがいる。
その者は、いずれ転生して、この死神と本当の親子に...
「後悔がないと?」
「はい、母が私を待っています」
そうですか...
少しだけ私情を交えましょう。
かつて800年前は武士の時代。理不尽から、わたしはお腹に子供を宿したまま切られたんでした。
せっかく幸せになる予定の親子は離してはなりませんね。
このミスによるペナルティはわたしが受ければよいことですし。
わたしはリストを確認した。
氏名 サトウキ ヨウ
死亡日 1月30日
決定ですね。
ふう、ため息です。
800年ミスなく来ましたのに。
まあいいですわ。
死神は静かに魂を切り離した。
「こちらに完了の印を」
死神から出されたリストは、全員終了。
わたしは完了確認済みサインをいれた。
「では」
「ええ、お幸せに」
死神は静かに消えた。
さて、課長に怒鳴られましょうね
サトウキ ヨウくんのことも心配ですし...
事務所に戻ると「サトウキ ヨウ」が不安そうな顔でポツンと立っていた。
あのまま、痩せて、体に傷を負っている。
この世にきても、傷が消えてないということは心の傷ですか...
たしかに死神と同じような外国人風の顔立ち。
ハーフかもしれませんね
「不安になることはありません。あなたはこれから、ここにいるものが大切に育てて幸せな人生が待っています。安心するがいいでしょう」
「おなかすいた」
「そうですね。すぐに食べましょう。あなたは痩せすぎています。」
机に何かあったかしら?
あら?事務所には課長以外誰もいませんね。
「課長、私のリスト上げのミスにより...」
「閻魔様と把握しております。サトウキ ヨウ はこちらの事務所預かりとして、無事成人、転生するまでは責任を持って育てることになりました」
わたしは頷いた。
サトウキ ヨウのリストを見る。
思わず目を見開く。
養母に私の名前が載っている。
「これは?」
「リストの通り育てるように。無事育てた暁には、あなたはこの子の母として転生が待っています。」
えっ!
あの死神が...私の...息子?
異界の門の事務課長がサトウキヨウに声をかけた。
「ここでこの人と幸せにおなりなさい。」
サトウキヨウは、私の顔をじっと見て頷いた。
《完》
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