【本編完結】【R18】新米冒険者くんの溺愛〜高嶺の花である私が夜は年下男子にひんひん泣かされているだなんて、絶対誰にも知られたくない!〜

鈴木 桜

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第5章 若い子に嫉妬してるだなんて、絶対誰にも知られたくない!

第17話 やってきた嵐


 ようやくサイラスくんと再会できると、ウキウキしながら仕事に励んでいたその日。
 嵐はやってきた。


「達成申請、お願いします」

 午後の人もまばらな時間だった。一人の可愛らしい女の子が、私の窓口で書類を差し出す。

「はい。お疲れさまでした」

 いつも通りニコリと笑って、書類を受け取る。【アンデット討伐及びアンデット発生スポットの浄化】という、かなり難易度の高いクエスト。

(あれ、これって)

 一つずつ項目を確認しながら滑らせていた指が、ある一点で止まる。
 【受注パーティー:銀の翼】と記載されている。確かに、サイラスくんが所属するパーティー【銀の翼】に発注したクエストだ。

(このクエストのせいで2週間も離れ離れに……。ダメダメ、仕事に私情を持ち込まない!)

 改めて頭を仕事モードに切り替えてから、もう一度カウンターの向こうで手続きを待っている少女を見た。

「あの……」
「はい?」

 可愛らしく小首を傾げる少女。初めて見る人物だ。

「失礼ですが、【銀の翼】の方ですか?」
「そうですよぉ」
「身分証明の提示をお願いします」
「なんでですかぁ?」
「各種申請手続きは、パーティーに登録されている方からのみ受け付けています。【銀の翼】に登録されていますか?」
「えー! そんな堅いこと言わないでよ! そんなの言われたの、ここが初めてよぉ!」

 そんなバカな。どこの公営ギルドだって、メンバー以外からの申請手続きを受けたりはしないはずだ。不正の横行を許すことになりかねない。

「規則ですので」
「でもぉ」
「なにか問題がございましたか?」
「私、まだ登録してないです」

 どうやら、【銀の翼】の新メンバーらしい。女性のメンバーは初めてのはずだ。

「では、パーティーのリーダーと同伴で、まずはメンバー登録をお願いします」
「えー! そんなの面倒じゃん!」
「規則ですので」
「……ふーん」

 ふと、少女の表情が変わった。

「聞いてた通り、お堅い人なんですね」
「え?」
「そんなんで、サイラスを満足させられるんですか?」

 少女がニヤリと笑った。同時に、

 ──バンッ!

 と、荒々しく扉が開いて、数人の冒険者が入ってきた。

「リカ!」

 その内の一人である、サイラスくんが少女の腕を引く。

(あ)

 一瞬目が合ったがすぐに逸らされて、彼は困ったような表情を浮かべてもう一度少女の名を呼んだ。

「リカ、先に行くなよ」

(呼び捨て、だ)

 一瞬にして、冷たいものが私の喉を通り過ぎていった。

「ねえ、サイラス」

 少女も彼の名を呼んで、その腕にしなだれかかる。彼も、それを拒否しなかった。

「このが、受付できないって言うのぉ!」

 ピシッと音を立てて、ギルド内の温度が下がった。

「オバサン……? 今、オバサンって言った……?」

 隣で仕事をしていたクレアちゃんが立ち上がった。拳を握り、関節をポキポキと鳴らし始める。

「クレアちゃん……?」
「エミリーさん、奥へ」
「え?」

 クレアちゃんに返事をする前に、背後から腕を引かれた。そのまま、あれよあれよと言う間に窓口の奥へ押しやられる。いつの間に来たのか、私の前にはギルド職員たちの壁が出来上がっていた。

「あの……」
「エミリーちゃんは、ちょっと黙っとこな?」

 振り返ったランドル課長がニコリと笑った。だが。

(目が、笑ってない……!)

「これは、本当に、申し訳ない」

 絶対零度の空気の中、最初に口を開いたのは【銀の翼】のリーダーであるマクレガーさんだった。冷や汗を流しながら頭を下げている。

「ええよ、ええよ。マクレガーさんが謝ることちゃうわぁ」

 ランドル課長の言葉に、マクレガーさんの肩がビクリと跳ねた。

「で? 誰なん、この娘さんは」
「は、はい。今回のクエストにご協力いただいた方で。うちの新メンバーということでスカウトを……」
「ほほう。ほんなら、これからも第9公営ギルドうちから仕事を受けるっちゅうことやな?」
「そのとおりで……」
「ふーん。で、うちの職員をオバサン呼ばわりか?」

 マクレガーさんの肩が、どんどん縮こまっていく。気の毒なほどだ。

「あの、私は別に!」

 人の壁の後ろから一生懸命に声を張り上げるが、黙殺された。なんでだ。

「なんで怒ってるんですか?」

 少女が言った。本当に、なぜ怒られているのか理解していないらしい。

「だってぇ、あの人もう20代後半でしょ? 私、16歳ですよ! オバサンって呼んで何が悪いんですか?」
「リカちゃん……」
「だって、変なのぉ。こんなことで目くじら立てちゃって! ね、サイラス?」

 問われたサイラスくんは、困った顔で肩を竦めただけだった。その様子を見た職員たちが、また一段と冷気を放つ。

「あ、そう。ほんなら、ええわ」

 ランドル課長があっさりと言うと、周囲の職員がいきり立つが、これも黙殺された。

「クレアちゃん、ちょちょっと登録したって」
「……わかりました」
「達成申請は、コールズ課長頼めるか?」
「そうだな。私が処理しよう」
「マクレガーさんは……」

 ランドル課長が窓口を出て、疲れ果てた表情のマクレガーさんの肩にポンと手を置いた。

「ツラかしてもらうで?」

 ギリギリと、聞いたことのない不気味な音がした。

「エミリーちゃんは、今日は奥で会計の仕事手伝ってや」
「え」
「ええよなあ、コールズ課長」
「月末で会計課は大忙しだからな。仕方がない」
「それから、ここでする話でもないけどなあ」

 ランドル課長が、サイラスくんの方をチラリと見た。

「エミリーちゃん」
「はい?」

 今度は私の方を振り返ったランドル課長が、やっぱり笑っていない目で笑っている。

「あの話、考えてくれた?」
「あの話?」

 まったく身に覚えがない。

「まったまたぁ! うちのバカ息子が首都から帰ってきてるから、いっぺん会うたってって頼んだやん!」
「あ、それですか」

 飲みの席で頼まれた記憶はある。ランドル課長の息子さんは28歳、首都の大学院で魔法の研究をしている立派な人だが、未婚らしい。そこで私を紹介したいのだと、そんな冗談を言っていた。

(でも、その話を今⁉)

 目を白黒させる私に、ランドル課長が畳み掛ける。

「今日やな」
「今日ですか⁉」
「せや、善は急げや! 夕飯をうちで食べて、そのまま泊まったらええ!」
「ええ……」

 そんなこんなで、サイラスくんとまともに会話ができないまま、私はオフィスの奥へ押しやられた。さらに、帰りはランドル課長に誘拐されるように家まで連れて行かれた。

『ハナシ シタイ』
『レンラク クタ゛サイ』
『オネカ゛イ』

 彼からはひっきりなしにメッセージが届いた。ところが運悪く、3つ目のメッセージを受信したところで小型魔導通信機ポケベルの魔石が魔力切れを起こした。

(ちょうど、よかったかも)

 彼の気持ちを疑っているわけではないが、完全に信じられるわけでもない。少しばかり、時間を置いた方がいいのかもしれない。
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