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第6章 お仕置きで気持ち良くなっちゃう変態だなんて、絶対誰にも知られたくない!
第21話 寝言は寝て言え
「な、俺の奥さん?」
ニヤリと笑った男が、私の手に触れようと手を伸ばした。とっさのことで全く動けなかった私は、一瞬遅れて手を引いたが間に合わなかった。
──ビリビリッ!
「きゃあ! なに!?」
男の指先が触れた途端、電流が走った。熱と痛みに、ガタンと音を立てて椅子から転がり落ちる。
「エミリーさん!」
クレアちゃんが駆け寄ってきて、私の肩を抱いてくれた。同時に、
「『氷弾』」
彼女の指先から氷の弾丸が放たれた。
「魔法!?」
驚く私を横目に、クレアちゃんは攻撃の手を緩めない。
だが、彼女の魔法は全て防がれたようで、男の方はひょうひょうと肩を竦めた。その様子を見てクレアちゃんが舌打ちする。
「クレアちゃん?」
「エミリーさん、怪我はないですか?」
「うん。痛かったけど」
男に触られた指先を見てみるが、怪我はしていない。少しばかり痺れが残っているだけだ。
「他の不調は?」
「たぶん、大丈夫」
「よかった。……後は私が殺りますから、エミリーさんは下がってください」
「や、殺る??」
驚いた私の腕を別の職員が引く。
「エミリーさん、こっちへ!」
さらにオフィスの奥へ押しやられると、他の職員が通信機を使って警備隊を呼ぶ声が聞こえてきた。
「聞いてないぞ。せっかく【巌のランドル】が不在のときに来たってのに」
クレアちゃんの攻撃を避けながら男がぼやいた。聞き慣れない言葉に私が首を傾げると、
「ランドル課長の現役時代の二つ名です。あの人、S級冒険者だったんですよ」
と、会計課の職員が教えてくれた。
「課長たちが不在のときを狙って来るとは……。クレアさんがいてくれてよかったです」
「クレアちゃん、何者なの?」
「知らないんですか? 魔法学院を主席で卒業した才女です」
「し、知らなかった……。そんな人が、なんでギルド職員なんかしてるの?」
「そりゃあ、エミリーさんを追っかけてきたからですよ」
「え?」
──ドォン!
「きゃあ!」
轟音と共に建物の壁に大穴が空いた。同時に男が外へ放り出される。
「いってぇ」
「まだ立つの?」
「そりゃまあ、用事が終わってないし」
「何が狙い?」
「何って、自分の嫁さんを迎えに来ただけだって」
「は?」
「エミリー・ガネルは、俺の嫁だ」
「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ。あんたみたいな三下がエミリーさんの夫? 寝言は寝て言え」
クレアちゃんの言葉に、男が苦笑いを浮かべる。
「結婚した直後に行方不明になってたんだよ。いくら探しても見つからないから、きっと記憶喪失にでもなってたんだと……」
「は?」
男のセリフを、クレアちゃんの地を這うような低い声が遮った。
「エミリーさんに結婚歴は、ない」
「なんで断言できるんだよ。俺たちが結婚したのは彼女が17歳のとき、この町に来る前のことだ」
「あんたこそ適当言うんじゃないわよ。17歳のエミリーさんは、高等学校のヴィンセント先輩に片思いしてたの。先輩の卒業式に告白しようとしたけど、同級生に先を越されて悔し涙を流したのよ、最高に可愛かったんだから!」
(なんで、そんなこと知ってるのよ!?)
思わず心の中で絶叫した。
「私はエミリーさんが15歳の頃から追っかけしてるの! 適当なこと言わないで!」
(追っかけって何!?)
「まじかよ」
男も引いている。それはそうだろう。芸能人でもなんでもない一般家庭に生まれ育った女の追っかけとは。
「公営ギルドの採用試験に合格して、やっとの思いでエミリーさんと同じ職場に潜り込めたのに!」
(潜り込んだ!?)
「迷惑千万! さっさと消えろ!」
「やれやれ。【東の魔女】の手が回ってるのか? いや、そんなはずは……」
「ぐちぐちうるさい! 死ね!」
──ドォォォォン!!!
激しい爆音とともに、私のところにも熱風が届いた。ところが。
「いってぇなぁ。とりあえず、落ち着いて話そうぜ?」
「必要ない。死ね」
「こわっ」
男は平気な顔で笑っている。あちらも相当な手練のようだ。
「まあ、ここは一旦引くか。どうやら、『シナリオ』が狂ってるらしいな」
「は?」
「じゃあな」
男が手を振ると同時に周囲に竜巻が起こった。身を裂くような暴風が収まる頃には、男の姿は消えていた。
その後は、まあ大変だった。
警備隊に事情を説明しつつ、建物の修理を急ぐ。駆け付けた冒険者たちに手伝ってもらい魔法を駆使してすぐに直ったが、建物修理もギルドからのクエストとして発注処理をしなければならない。もちろん、通常業務もある。壁が壊れて風通しの良くなったオフィスで、私たちは黙々と仕事をこなしたのだった。
果てしないと思われた業務だったが、なんとか夜9時を回るまでには終えることができた。帰り支度をしていると、クレアちゃんに声をかけられた。彼女も疲れが顔に出ている。
「エミリーさん、お迎えは?」
「え?」
「サイラスくん、迎えに来ないんですか?」
「来ないよ。今日は遅くなるって言ってたわ」
クレアちゃんに問われて、首を傾げる。
「……エミリーさん、まさかとは思いますけど」
「何?」
「昼間の件、サイラスくんに連絡してないんですか?」
「してないけど」
何かまずかっただろうかと、思わず腰が引けた。クレアちゃんが深い溜め息を吐く。
「あの男、まだ捕まってないんですよ」
「そうらしいね」
「『自分はエミリーさんの夫だ』とかいう妄言を吐きながら襲ってきた男ですよ!」
「う、うん」
「また襲われるかもしれないって、思わないんですか⁉」
「あ、そうか」
言われてみれば、彼女の言うとおりだ。また襲われる可能性はおおいにある。あまりの忙しさに、すっかり思考が止まっていたようだ。昼の件では、私自身になにも被害がなかったせいもある。
「送ります」
「クレアちゃんが?」
「はい。そのへんの男より強いんで」
「そうだね。じゃあ、お願いしようかな」
私が言うと、クレアちゃんがぎゅっと顔を顰めた。
「どうしたの?」
「今の、もう一回……」
「今の?」
「はい」
妙なお願いだが、彼女は命の恩人。お安いご用だ。
「じゃあ、お願いしようかな……?」
「ありがとうございます」
クレアちゃんが私に向かって合掌する。その光景にも、そろそろ慣れてきたところだ。
* * *
薄暗い路地を二人で連れ立って歩いていると、暗闇から溶け出すようにその男は現れた。
「よ」
何食わぬ顔で声をかけられて、隣を歩いていたクレアちゃんが猫のように全身の毛を逆立てる。
「あんた……!」
「おっと、落ち着いて。俺は話をするために来たんだ」
咄嗟にかまえたクレアちゃんよりも男の方が早かった。素早くクレアちゃんの後ろに回り込み、羽交い締めにしながら口を塞ぐ。
「んんっ!」
「用事があるのは、こっちの美人さんなの。お嬢ちゃんは、ちょっと黙っててな」
ニヤリと笑った男が、私の手に触れようと手を伸ばした。とっさのことで全く動けなかった私は、一瞬遅れて手を引いたが間に合わなかった。
──ビリビリッ!
「きゃあ! なに!?」
男の指先が触れた途端、電流が走った。熱と痛みに、ガタンと音を立てて椅子から転がり落ちる。
「エミリーさん!」
クレアちゃんが駆け寄ってきて、私の肩を抱いてくれた。同時に、
「『氷弾』」
彼女の指先から氷の弾丸が放たれた。
「魔法!?」
驚く私を横目に、クレアちゃんは攻撃の手を緩めない。
だが、彼女の魔法は全て防がれたようで、男の方はひょうひょうと肩を竦めた。その様子を見てクレアちゃんが舌打ちする。
「クレアちゃん?」
「エミリーさん、怪我はないですか?」
「うん。痛かったけど」
男に触られた指先を見てみるが、怪我はしていない。少しばかり痺れが残っているだけだ。
「他の不調は?」
「たぶん、大丈夫」
「よかった。……後は私が殺りますから、エミリーさんは下がってください」
「や、殺る??」
驚いた私の腕を別の職員が引く。
「エミリーさん、こっちへ!」
さらにオフィスの奥へ押しやられると、他の職員が通信機を使って警備隊を呼ぶ声が聞こえてきた。
「聞いてないぞ。せっかく【巌のランドル】が不在のときに来たってのに」
クレアちゃんの攻撃を避けながら男がぼやいた。聞き慣れない言葉に私が首を傾げると、
「ランドル課長の現役時代の二つ名です。あの人、S級冒険者だったんですよ」
と、会計課の職員が教えてくれた。
「課長たちが不在のときを狙って来るとは……。クレアさんがいてくれてよかったです」
「クレアちゃん、何者なの?」
「知らないんですか? 魔法学院を主席で卒業した才女です」
「し、知らなかった……。そんな人が、なんでギルド職員なんかしてるの?」
「そりゃあ、エミリーさんを追っかけてきたからですよ」
「え?」
──ドォン!
「きゃあ!」
轟音と共に建物の壁に大穴が空いた。同時に男が外へ放り出される。
「いってぇ」
「まだ立つの?」
「そりゃまあ、用事が終わってないし」
「何が狙い?」
「何って、自分の嫁さんを迎えに来ただけだって」
「は?」
「エミリー・ガネルは、俺の嫁だ」
「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ。あんたみたいな三下がエミリーさんの夫? 寝言は寝て言え」
クレアちゃんの言葉に、男が苦笑いを浮かべる。
「結婚した直後に行方不明になってたんだよ。いくら探しても見つからないから、きっと記憶喪失にでもなってたんだと……」
「は?」
男のセリフを、クレアちゃんの地を這うような低い声が遮った。
「エミリーさんに結婚歴は、ない」
「なんで断言できるんだよ。俺たちが結婚したのは彼女が17歳のとき、この町に来る前のことだ」
「あんたこそ適当言うんじゃないわよ。17歳のエミリーさんは、高等学校のヴィンセント先輩に片思いしてたの。先輩の卒業式に告白しようとしたけど、同級生に先を越されて悔し涙を流したのよ、最高に可愛かったんだから!」
(なんで、そんなこと知ってるのよ!?)
思わず心の中で絶叫した。
「私はエミリーさんが15歳の頃から追っかけしてるの! 適当なこと言わないで!」
(追っかけって何!?)
「まじかよ」
男も引いている。それはそうだろう。芸能人でもなんでもない一般家庭に生まれ育った女の追っかけとは。
「公営ギルドの採用試験に合格して、やっとの思いでエミリーさんと同じ職場に潜り込めたのに!」
(潜り込んだ!?)
「迷惑千万! さっさと消えろ!」
「やれやれ。【東の魔女】の手が回ってるのか? いや、そんなはずは……」
「ぐちぐちうるさい! 死ね!」
──ドォォォォン!!!
激しい爆音とともに、私のところにも熱風が届いた。ところが。
「いってぇなぁ。とりあえず、落ち着いて話そうぜ?」
「必要ない。死ね」
「こわっ」
男は平気な顔で笑っている。あちらも相当な手練のようだ。
「まあ、ここは一旦引くか。どうやら、『シナリオ』が狂ってるらしいな」
「は?」
「じゃあな」
男が手を振ると同時に周囲に竜巻が起こった。身を裂くような暴風が収まる頃には、男の姿は消えていた。
その後は、まあ大変だった。
警備隊に事情を説明しつつ、建物の修理を急ぐ。駆け付けた冒険者たちに手伝ってもらい魔法を駆使してすぐに直ったが、建物修理もギルドからのクエストとして発注処理をしなければならない。もちろん、通常業務もある。壁が壊れて風通しの良くなったオフィスで、私たちは黙々と仕事をこなしたのだった。
果てしないと思われた業務だったが、なんとか夜9時を回るまでには終えることができた。帰り支度をしていると、クレアちゃんに声をかけられた。彼女も疲れが顔に出ている。
「エミリーさん、お迎えは?」
「え?」
「サイラスくん、迎えに来ないんですか?」
「来ないよ。今日は遅くなるって言ってたわ」
クレアちゃんに問われて、首を傾げる。
「……エミリーさん、まさかとは思いますけど」
「何?」
「昼間の件、サイラスくんに連絡してないんですか?」
「してないけど」
何かまずかっただろうかと、思わず腰が引けた。クレアちゃんが深い溜め息を吐く。
「あの男、まだ捕まってないんですよ」
「そうらしいね」
「『自分はエミリーさんの夫だ』とかいう妄言を吐きながら襲ってきた男ですよ!」
「う、うん」
「また襲われるかもしれないって、思わないんですか⁉」
「あ、そうか」
言われてみれば、彼女の言うとおりだ。また襲われる可能性はおおいにある。あまりの忙しさに、すっかり思考が止まっていたようだ。昼の件では、私自身になにも被害がなかったせいもある。
「送ります」
「クレアちゃんが?」
「はい。そのへんの男より強いんで」
「そうだね。じゃあ、お願いしようかな」
私が言うと、クレアちゃんがぎゅっと顔を顰めた。
「どうしたの?」
「今の、もう一回……」
「今の?」
「はい」
妙なお願いだが、彼女は命の恩人。お安いご用だ。
「じゃあ、お願いしようかな……?」
「ありがとうございます」
クレアちゃんが私に向かって合掌する。その光景にも、そろそろ慣れてきたところだ。
* * *
薄暗い路地を二人で連れ立って歩いていると、暗闇から溶け出すようにその男は現れた。
「よ」
何食わぬ顔で声をかけられて、隣を歩いていたクレアちゃんが猫のように全身の毛を逆立てる。
「あんた……!」
「おっと、落ち着いて。俺は話をするために来たんだ」
咄嗟にかまえたクレアちゃんよりも男の方が早かった。素早くクレアちゃんの後ろに回り込み、羽交い締めにしながら口を塞ぐ。
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