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第6章 お仕置きで気持ち良くなっちゃう変態だなんて、絶対誰にも知られたくない!
第22話 同郷のよしみ
「クレアちゃん!」
思わず男に掴みかかろうとした私を遮ったのはクレアちゃんの足だった。優しく蹴られて、男との距離が離れる。
「んんんっ!」
『逃げろ』と言っているのだ。
(そんなこと、できない!)
「クレアちゃんをはなして」
「はなしたら噛みつかれるからな。そいつは困る」
「……何が目的なの」
「さっきから言ってるだろ。俺はあんたと話がしたい」
「私には、その必要がないんだけど」
「あるさ」
男がニヤリと笑う。
「同郷のよしみだ。俺の話、聞いといたほうがいいぜ」
背筋をザワリとした気配が這い上がってきた。
「同郷……?」
「そう。俺は東京の世田谷だ。あんたは?」
『東京の世田谷』、そこが彼の故郷だという。つまり。
(この男も、転生者⁉)
「な?」
どうするべきなのか。話をすべきかもしれない。けれど、この男を信用することはできないのだ。
「じゃあ、こうしよう。このお嬢ちゃんを置いて、俺たち二人は転送魔法で移動する。そしたら、この子はあんたを探し回るだろ? この子に見つかるまで。それまで、話をしよう」
クレアちゃんが一際大きくもがいた。この交渉に乗るべきではないと言っているのだ。それは分かる。
(分かってるけど……)
「まだ不安か? 何もしないよ。約束する」
「んん、んんんっ!」
「……わかった」
「ん⁉」
クレアちゃんが目を剥いて、激しく身を捩った。男の方はびくともしない。
「ごめんね、クレアちゃん。私、この人の話を聞かなきゃいけないの」
「そういうわけだ。じゃあ、頑張って探してくれよ」
男がクレアちゃんの拘束を解いたのが合図だった。次の瞬間には、私と男は西区のレストラン『エレル』の前にいた。繁華街なので、まだ大勢の人が道を行き交っている。
「ここなら、変な心配することもないだろ」
敢えて人目につく場所を選んだらしい。
(意外に、紳士なのかもしれない)
「ま、ちょうどいい距離だろ。15分くらいは話せるな」
言いながら男が入店すると、店内はそれなりに混んでいた。端の方に案内される間、人々の視線が突き刺さる。
「エミリーさんが」
「男を連れてるぞ……!」
「誰だ?」
「知らない顔だ」
などなど。ヒソヒソ声が聞こえてきて、男の方が苦笑いを浮かべた。
「俺、無事に帰れるかな」
「知らないわよ」
「はは。ま、時間もないし本題に入ろう」
適当に注文したビールを飲みながら、男が切り出した。
「俺の名前はイアン・セヴァリーだ。で、俺はあんたと同じ転生者」
「……どうして、それを知ってるの?」
これまでの人生で、自分が異世界からの転生者であることを口にしたことなど、一度もない。
「『運命の書』だよ」
男が懐から一冊の本を取りだした。表紙には流麗な文字で『運命の聖女』とタイトルが記されている。
「これは、【西の賢者】が記した『運命の書』だ。これによれば、異世界から召喚した聖女が勇者と共に魔王を討ち滅ぼす。その後、聖女と勇者は結ばれる。まあ、よくある異世界ファンタジー小説だな」
差し出された本を素直に受け取った。パラパラとめくってみると、そこには見慣れた名前のキャラクターが登場していた。
「なに、これ……⁉」
『サイラス・エイマーズ』、そして『リカ』の名が並んでいるのだ。
「そう。聖女は『リカ』、勇者は『サイラス・エイマーズ』だ」
「でも、こんなの、物語でしょう? これがなんだっていうのよ」
「言ったろ? これは『運命の書』だ。本来であれば、ここに書いてある通りに世界は進むはずだった」
イアンがグイッとビールを呷った。
「異世界転生があるんだ。運命を操る、神のような存在がいたっておかしくないだろう?」
「それが【西の賢者】?」
「そう。【西の賢者】は『ヒトは定められた運命に従い生きることこそが真の幸せである』と考えている。だから、こうして『運命の書』を綴って、その通りに人の運命を操る」
イアンは今度は串焼きを頬張った。彼がもぐもぐと口を動かしている間に、『運命の書』に目を通してみる。『リカ』と『サイラス』が結婚式を挙げているシーンで、物語は締めくくられていた。
「それが気に食わないのが【東の魔女】だ。彼女は『ヒトはあるがままに生きることこそが真の幸せである』と考えている」
【西の賢者】と【東の魔女】は、真逆の思想を持っているということだ。
「【西の賢者】と【東の魔女】は、それぞれ神から与えられた領域にのみ干渉できる。その中で人の営みを助けるのが役割らしい」
「西と東……」
「この国は西の領域に含まれる」
「それじゃあ、【東の魔女】はこの国のことには干渉できないのね」
「できない。ただ一つの方法を除いて」
イアンが人差し指を立てて、ニヤリと笑った。
「異世界転生だ。【東の魔女】は【西の賢者】のやりように異を唱えて、西の領域に転生者を送り込んだ。『運命の書』に干渉されない存在だ」
「それが、私?」
「ご明答」
そして私は、【東の魔女】の思惑通り『運命の書』をかき乱した。本来聖女と恋に落ちるはずの勇者は私に恋をしたのだ。
「それに対抗するために、【西の賢者】は『運命の書』に新たな存在を書き加えた」
言いながら、イアンが私の手元の本のページをめくった。そこには『イアン・セヴァリー』の文字。
「それが俺だ。【西の賢者】の『運命の書』を補助する役割として異世界から召喚された」
だから『運命の書』を持っているし、様々な魔法を使うことができる。【西の賢者】が、そういう力を与えたのだという。
「『運命の書』によれば、『イアン』は『リカ』の恋敵である『エミリー・ガネル』に恋をしてしまう。愛しい女を手に入れるため、魔法で彼女の記憶を操作して連れ去ってしまうんだ」
「そうやって、自分の『運命の書』の邪魔者である私を排除しようとしたのね」
「そう。……今日の再会の場面で」
彼が指差した箇所には『触れた指先から愛しさが溢れてきて、エミリーはホッと熱い息を吐いた。この人が自分の夫だと、彼女はそう理解したのだ』とある。
「私はあなたに記憶を改変されるはずだった」
「そう。それが、できなかった」
【西の賢者】が用意した『運命の書』が、破綻してしまったのだ。
「どうしてあなたの魔法が私には効かなかったの?」
「記憶の改変は簡単な魔法じゃない。いろいろと条件があるんだ」
「条件?」
「本当の意味で自分自身を愛している人間の記憶だけは、変えることができない」
「自分自身を?」
私はそんなに自分を愛しているだろうかと首を傾げた私に、イアンは肩を竦めた。
「そういうのは、本人には自覚がないもんだ」
イアンは皿に残っていた付け合せの野菜を平らげ、ビールで流し込む。短時間の内に、頼んだ料理を全て食べてしまった。気持ちの良い食べっぷりだ。
「そういうわけで、今回の喧嘩はこれで終いだ」
「喧嘩?」
「【西の賢者】と【東の魔女】は、こういう喧嘩を、ずーっと繰り返してるんだよ。そうやって、自分の主張が正しいと相手に認めさせようとしている。今回は、【東の魔女】の勝ちだ」
「どうして?」
「あんたが証明しちまったからさ。『ヒトはあるがままに生きることこそが真の幸せである』ってことを。……あんた、今幸せだろ?」
問われて、ポッと頬が熱くなった。うんと頷くと、イアンが笑った。
「とはいえ、俺達はお役御免だ」
「え?」
「この世界の揉め事に巻き込まれただけだからな。じきに帰ることになる」
「帰る?」
今度は背筋に冷たい汗が伝った。
「そ。俺たちは異物だからな。元の世界に帰らなきゃならない」
イアンが肩を竦めた。そして、私の背後に目をやる。
「別れが辛いなら、俺に言いな。連れ去ってやるから」
「え?」
私が声を上げたのと、大きな手が私の肩に触れたのはほぼ同時だった。
「エミリーさん」
呼ばれて振り返ると、サイラスくんが私の肩に手を置いてニコリと笑っていた。
(目が、笑ってない……!)
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