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『恋を知った秘密の中庭』
一式紫という青年は、ひたすら真っすぐな人だった。
性根に問題はなく、むしろ好ましい。
人好きされる一番の理由はおそらく、誰の興味も惹く外見をしていることである。だが彼の傍に人が多いのは、そのさっぱりとした付き合いやすい性格があるだろう。
教授のミスを指摘しても、ひけらかすような嫌味はない。臆することなく堂々とした姿勢は、だから教授にも重宝され、教師陣からの評価も厚く、じつは優等生であることが知れている。
それだけでなく組を作れない者がいれば気安く声をかける。押し付けがましい感じはなく、「ん? 必要なら俺と組んでみる?」と気さくなまでの笑顔で誘ってくれるのだ。
目立つ風貌は一見遊び人に思える。容姿に恵まれており、過去の遊び相手には苦労していないのだろうな、と想像が容易につく彼。ある程度はそういう遊びも嗜むのだろう。だが、修羅場や愁嘆場といったものに煩わされている現場は見たことも聞いたこともない。その手のお付き合いも誠実なのだろうとうかがえる。
一部だけ紫のメッシュで彩られた、派手な金髪。色付きのコンタクトをつけた魅力的な赤い瞳。その目にみつめられ、はたして落ちずにいられるだろうか、という美しい目だ。控えめにいっても、顔良し、性格良しな人気者。
そんな彼に、俺は叶わない恋をしている。
あの日からずっとだ。心を蝕む恋の病。心臓はいつだって限界で、彼が欲しいとひたすら泣き叫んでいるのだ。苦しくてどうにかなってしまいそう。それは出逢った時から。
花王大学に入学し、まだキャンパス内の構造を理解しきれなかった頃。特段仲のいい友人がいるわけでもないうえに、方向音痴が災いし……率直に言って、俺は迷子になっていた。
次の授業は必修科目であるため、迷子なんてことで単位を落とすわけにはいかず、焦っていた。時間的には余裕があるものの、このまま迷っていたら間に合うか分からない。
そんな時、たどり着いたのが静かな中庭だった。大学内でも、古い建物の多い、人気のないエリア。かつて建てられた時計塔が見える中庭には、ベンチが一脚と申し訳程度に花壇がある。日当たりは良好とはいえない場所だった。
「あ~~、みつかっちゃったかぁ」
(ん?)
「あれ? 君、俺を追いかけて来たセンパ……い、なわけないか。てっきりサークルの勧誘かと思ったんだ」
長い脚を優雅に組んで、男はそう言った。鞄の中には教科書の他にも、びっしりとサークル活動のチラシが詰め込まれている。
ああそっか。なるほど。すでに高校で名が知れている人や体格などに恵まれた素質のありそうな人には声がかかっている。彼もその手の人だろうと踏んだ。
「んー、でも見つかったことにかわりはないか。せっかく憩いの場だったんだけどなあ」
「え? ああ。べつに言いふらしたりしませんよ。そもそもどちら様か存じ上げませんし……」
「え!? 君、俺のこと分かんない?」
「芸能人なんですか?」
「いや、本物のタレントではない、ね」
ふーん、知らないのか。と彼はつぶやくと、何故こんな辺鄙な場所に俺がいるのか尋ねた。恥ずかしいが、猫の手も借りたいところだったので、正直に明かした。
「実は迷ってて……」
「ああ。うちの大学広いもんね。どこ行きたいの?」
「この科目受けるので、3号館に」
「あ! 次の授業同じじゃん。なら一緒に行こっか」
「いいんですか!」
「だって同じだし。その反応ウケる」
「あ……」
照れた俺を、微笑ましい顔で見つめられる。流れるような黒髪に映える派手なメッシュ。彼の前髪が風になびく。それをよける指でさえ格好いい。
見に覚えのない感情を抱きそうになり、ドキっとした。
座っているだけで様になる男。その一挙手一投足が目に留まる。
「ははっ、君、いいね」
ベンチから立ち上がると、彼は俺の前に手を出す。
「ね、もっと仲良くしようよ。名前、教えて」
その笑顔を見て、胸がキュンと高鳴った気がした。いつか読まされた少女漫画みたいな。
――もっと近づきたい。
誰かに対してそう思ったのは、その時が初めてだった。
だからその時にはもう、誤って恋に落ちていたのだと、俺は思う。
こんな気持ちを教えた彼が恨めしいと、今では思うが。
性根に問題はなく、むしろ好ましい。
人好きされる一番の理由はおそらく、誰の興味も惹く外見をしていることである。だが彼の傍に人が多いのは、そのさっぱりとした付き合いやすい性格があるだろう。
教授のミスを指摘しても、ひけらかすような嫌味はない。臆することなく堂々とした姿勢は、だから教授にも重宝され、教師陣からの評価も厚く、じつは優等生であることが知れている。
それだけでなく組を作れない者がいれば気安く声をかける。押し付けがましい感じはなく、「ん? 必要なら俺と組んでみる?」と気さくなまでの笑顔で誘ってくれるのだ。
目立つ風貌は一見遊び人に思える。容姿に恵まれており、過去の遊び相手には苦労していないのだろうな、と想像が容易につく彼。ある程度はそういう遊びも嗜むのだろう。だが、修羅場や愁嘆場といったものに煩わされている現場は見たことも聞いたこともない。その手のお付き合いも誠実なのだろうとうかがえる。
一部だけ紫のメッシュで彩られた、派手な金髪。色付きのコンタクトをつけた魅力的な赤い瞳。その目にみつめられ、はたして落ちずにいられるだろうか、という美しい目だ。控えめにいっても、顔良し、性格良しな人気者。
そんな彼に、俺は叶わない恋をしている。
あの日からずっとだ。心を蝕む恋の病。心臓はいつだって限界で、彼が欲しいとひたすら泣き叫んでいるのだ。苦しくてどうにかなってしまいそう。それは出逢った時から。
花王大学に入学し、まだキャンパス内の構造を理解しきれなかった頃。特段仲のいい友人がいるわけでもないうえに、方向音痴が災いし……率直に言って、俺は迷子になっていた。
次の授業は必修科目であるため、迷子なんてことで単位を落とすわけにはいかず、焦っていた。時間的には余裕があるものの、このまま迷っていたら間に合うか分からない。
そんな時、たどり着いたのが静かな中庭だった。大学内でも、古い建物の多い、人気のないエリア。かつて建てられた時計塔が見える中庭には、ベンチが一脚と申し訳程度に花壇がある。日当たりは良好とはいえない場所だった。
「あ~~、みつかっちゃったかぁ」
(ん?)
「あれ? 君、俺を追いかけて来たセンパ……い、なわけないか。てっきりサークルの勧誘かと思ったんだ」
長い脚を優雅に組んで、男はそう言った。鞄の中には教科書の他にも、びっしりとサークル活動のチラシが詰め込まれている。
ああそっか。なるほど。すでに高校で名が知れている人や体格などに恵まれた素質のありそうな人には声がかかっている。彼もその手の人だろうと踏んだ。
「んー、でも見つかったことにかわりはないか。せっかく憩いの場だったんだけどなあ」
「え? ああ。べつに言いふらしたりしませんよ。そもそもどちら様か存じ上げませんし……」
「え!? 君、俺のこと分かんない?」
「芸能人なんですか?」
「いや、本物のタレントではない、ね」
ふーん、知らないのか。と彼はつぶやくと、何故こんな辺鄙な場所に俺がいるのか尋ねた。恥ずかしいが、猫の手も借りたいところだったので、正直に明かした。
「実は迷ってて……」
「ああ。うちの大学広いもんね。どこ行きたいの?」
「この科目受けるので、3号館に」
「あ! 次の授業同じじゃん。なら一緒に行こっか」
「いいんですか!」
「だって同じだし。その反応ウケる」
「あ……」
照れた俺を、微笑ましい顔で見つめられる。流れるような黒髪に映える派手なメッシュ。彼の前髪が風になびく。それをよける指でさえ格好いい。
見に覚えのない感情を抱きそうになり、ドキっとした。
座っているだけで様になる男。その一挙手一投足が目に留まる。
「ははっ、君、いいね」
ベンチから立ち上がると、彼は俺の前に手を出す。
「ね、もっと仲良くしようよ。名前、教えて」
その笑顔を見て、胸がキュンと高鳴った気がした。いつか読まされた少女漫画みたいな。
――もっと近づきたい。
誰かに対してそう思ったのは、その時が初めてだった。
だからその時にはもう、誤って恋に落ちていたのだと、俺は思う。
こんな気持ちを教えた彼が恨めしいと、今では思うが。
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