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わし、戦闘キャラじゃないんじゃが?
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──ハッ、ホッ、イョッ、ミキャッ!!
早朝。
玄白は『深淵をかるもの』のマクシミリアンとサフトに連れられて、城塞外に広がる草原にやってきている。
軽く体操をしたのち、まずは木剣を構えて素振りの練習。
素振り、ではなく素振りの練習。
「あ~、ランガさん、握りが逆ですね。左利きですか?」
「いや、右利きじゃが?」
「それなら握りの上下を逆に。踏み込む脚も左右がチグハグです」
サフトの指摘に、慌てて構えもながらも直す。
──ヒョッ、ホッ、ヒャッ、ハァ!!
ようやく素振りらしくなったものの、剣を振るたびに聞こえるランガの奇声に、サフトやマクシミリアンだけでなく、城門から外に出てくる冒険者も呆然としてしまう。
「ランガさん。その奇声は、どうして出るのですか?」
「ん? 気合いを出すためじゃな。どうもうまい言葉が出てこん。じゃから、色々な声を発してしっくりとくるものを探しておるのじゃが」
「はぁ、それならそれで……別に無言でも構わないのですよ?」
「なんじゃと?」
玄白の隠された趣味。
歌舞伎巡りをすることがあるのだが、その中の演者の殺陣のシーンなどでは、『キェェェェェ!!』とか、『トリャァァァァァ』と言った声が上がっているものがある。
それを真似てみたものの、どうもしっくりとこないというのが本音である。
「たとえば……」
──ヒュン、ヒュン、ヒュンッ!!
サフトが剣を構え、素早く振り落とす。
そして自身の膝上あたりの高さまで振り落とすと、そこでピタッと止める。
「ようは、呼吸ですよ。息を吸うときは力が入りませんし、吐くときは力が出ます」
「ははぁ、闘気の循環式じゃな。どれ、やってみるか」
青眼に剣を構え、ゆっくりと体内の闘気を循環させる。
呼吸に合わせて、体内の経絡を脈動するかのように流れる闘気。
あとは、タイミングを合わせて、こう!
──ブゥン!! ドゴッ!!
勢いよく振り落とした剣が、地面に突き刺さる。
「おおう、止められんぞ」
「まあ、止めるのは難しいですよ。まずは自分の膂力を鍛えるところから始めた方が良いですかね。マクシミリアン、その辺りは任せてかまわないか?」
「ああ。基礎体力作りは必要かもな。とくに女性の場合、膂力は男性よりも劣りますからね?」
「そうか。まだ剣を振るレベルではなかったということか。では、体力作りを教えてくれるか?」
まずは足腰。
そのためには走り込み。
マクシミリアンとサフト、そして玄白はその場を離れ、城壁外縁部をゆっくりと走り始める。
このコースは、他にも冒険者や騎士たちが体力作りとして走っているコースであり、今もちらほらと冒険者らしき男女が走っている姿を見受けられる。
神から貰ったチートボディの【御神体】。
その本当の性能を、玄白はまだ発揮していない。
今現在で使い始めている【|解体新書(ターヘル・アナトミア)】でさえ、未だ試行錯誤を繰り返しつつ使っているのだから、まあ当然と言えば当然である。
ゆっくりペースで走る玄白たちを、他の冒険者は楽々と追い抜いていく。
「う~む。少しずつじゃが、体の使い方がわかってきたな」
「ほう? それはどういうことで?」
「少し、ペースを上げてみるぞ」
ほんの少し。
体を巡る闘気の流れを活性化する。
経絡から滲み出す闘気を、筋組織に浸透させる。
先程はできなかったが、今はできる。
そして闘気が浸潤した筋肉は、それまで以上のパワーを発揮し始める。
「お、おや? たしかにベースが上がりましたが」
「これで普通の冒険者ってところか。まあ、ランガさんも初めてとしては、良い感じじゃないか?」
「うむうむ。闘気が体に染みとおる。これが冒険者なのじゃな?」
「「違うから!!」」
思わず突っ込むサフトとマクシミリアン。
彼らにとって闘気とは、ここ一番の爆発エネルギー。
戦闘技術と呼ばれている技を発動するときに必要なエネルギーであり、常時発動など不可能であるのだが。
それを玄白は、呼吸をするかのように当たり前に使い始めている。
先日、勇者の攻撃をいなしたときは反射的に闘気が練り上げられていたのだが、あのような使い方が普通なのである。
少しずつペースを上げても、やはり腕利きの冒険者たちは玄白を追い抜いていく。
これは仕方のないことだが。
「……おいおい、治癒師が冒険者の真似事かよ。邪魔だから隅っこを走っていろよ、戦闘じゃ役に立たないんだからな。このザァァァァコがぁ!!」
そう玄白に暴言を吐いて、勇者タクマが玄白を追い抜いていく。
その背後からは、申し訳なさそうに彼のパーティメンバーたちが玄白に頭を下げながら追い抜いていく。
「……ランガさん、あいつの言うことなんて気にしないほうがいい」
「全く。もっと礼節を学んでいれば、人に好かれる勇者になれるのになぁ……」
マクシミリアンとサフトが玄白を宥めようとするが、そもそも玄白は腹を立ててもいない。
「まあ、勇者から見れば雑魚なんじゃろうなぁ。所詮は治癒師が、自己満足のために体を鍛えているように見えるのじゃから」
「いやいや。ランガさんはまじめに取り組んでいるじゃないですか」
「そりゃあそうじゃ。やると決めたからには、真面目に取り組む。そしていつか、あの勇者を見返してやりたいなあ」
そう笑いつつ走り続ける玄白。
そしてふと気がつくと、途中途中で体を休めている冒険者が増え始めていることに気が付いた。
「なぁ、サフトや。なぜ、あの冒険者たちはこんなところで体を休めているのじゃ?」
「あ~。この街の冒険者って、正門を出たあたりから走り始めて。体力の限界が、今休んでいる場所だって言うことですよ」
「なるほどなぁ」
要は、持久力。
戦闘時にどれだけ体力が保つか、どれだけ戦い続けられるのか。
それを図る意味でも、皆走り続けている。
そして体の限界で体を休めているのだが、そこまでの時間である程度の自分の限界を見定めているらしい。
「では、わしらのようにのんびりペースはダメなのでは?」
「いやいや、俺たちはここを一周するぐらいの体力はありますから」
「深淵をかるものは、最低でもこの城壁外縁部を休憩なしで一周できます。まあ、前衛職と後衛ではペース配分が違いますけどね」
「そういうものか。まあ、わしはマイペースで構わんよ」
タッタッタッと走り続ける。
やがて城壁を 外縁部を半周した辺りで、勇者タクマが地面に大の字に寝転がっているところに到着する。
その周りでは、他の勇者メンバーが屈伸したり体を伸ばしており、明らかに体力に余裕があるように見える。
「……」
その様子をチラリと横目で見てから、玄白はまた走り続けるのだが。
「そ!そこの治癒師!! なぜお前は走り続けられるんだ……」
「はぁ? マイペースだからに決まっていようが。なんでトレーニングで無茶をする必要がある?」
「お!俺は勇者だぞ、その俺よりも貴様の方が体力があるって言うのか? たかが治癒師ごときが!!」
「そうなのかもな。では」
そのまま走り去る玄白。
それを見てタクマも立ち上がり走り出そうとするが、既に膝がガクガクと笑って立ち上がるのも困難である。
「くっそぉぉぉぉ!!」
そう叫ぶタクマをよそに、玄白はマクシミリアンとサフトに付き合って貰いつつも、どうにか城壁外縁部を完走。
そのまま一休みしてから冒険者ギルドで朝食を取ると、いつものように診療を開始した。
「それで、朝一番の患者が勇者って、どう言うことじゃよ?」
「うるせぇ。足を捻っておかしくしただけだ。他の診療所はまだ空いていないし、錬金術ギルドの魔法薬も効果が悪くて効かなかっただけだ!!」
足首の捻挫。
普通なら治癒師でもなんとかなる。
そのための魔法薬も売っているはずなのだが、それを扱えるフリーの治癒師は、大抵はどこかのパーティに登録されている。
そして、こんな朝っぱらから開いている診療所はない。
それで勇者タクマも玄白の元を訪れただけ。
「まあ、見てやるわ……と、なるほどな」
即効性のあるエリクシールを使えば簡単に治る。
また、薬効成分の高い軟膏を塗るか、その成分が付与された湿布を貼っても同じ効果はある。
ちなみに、捻挫に効く軟膏は高価であり、おいそれと冒険者が買えるものではない。
さらに湿布など存在しない。
「明後日には、ドラゴン退治に行くんだ。とっとと直せよこのクソ治癒師が!!」
「あ~。この湿布を貼っておけば二日で治る。じゃから、今日、明日は宿で安静にしておれ」
「今日は午後から近くの森で討伐任務があるんだ、それまでに治せよ」
無茶をいう。
やれやれと頭を張りつつ、玄白は解体新書からエリクシールを一つ取り出して、それを手渡す。
「今、この場で飲め。そうすればすぐに治る」
「これで治る? 本当かよ?」
そう疑いつつも、一気に飲み干す。
するとタクマの全身がゆっくりと輝き、捻挫が完治した。
この光景には、付き添っていた仲間たちも驚きの顔を隠せない。
「ほ、本当に神の霊薬!!」
「これが、聖女の力なのですね……」
「お、おい、お前のその力、本物の聖女じゃねーか!! 俺が有効に使ってやる。だから貴様は、明日から俺のパーティに同行してもらうからな」
またしても無茶をいうタクマに、玄白は一言。
「寝言は寝てから言え。わしはお前に付き合うほど暇ではないわ。ほれ、次の患者が控えているのじゃから、とっととこのクソ勇者を連れて帰ってくれ」
「おい、俺のことをクソ勇者っていったか!!」
「タクマ、もう行くぞ……ランガさん、申し訳なかった」
そう怒鳴り散らすタクマを連れて、勇者パーティは頭を下げながら診療所を後にした。
「全く。ほれ、次の患者、入ってこい……ってまた肉屋か、早く痩せろ!!」
こうして騒がしい中、玄白の一日が始まった。
早朝。
玄白は『深淵をかるもの』のマクシミリアンとサフトに連れられて、城塞外に広がる草原にやってきている。
軽く体操をしたのち、まずは木剣を構えて素振りの練習。
素振り、ではなく素振りの練習。
「あ~、ランガさん、握りが逆ですね。左利きですか?」
「いや、右利きじゃが?」
「それなら握りの上下を逆に。踏み込む脚も左右がチグハグです」
サフトの指摘に、慌てて構えもながらも直す。
──ヒョッ、ホッ、ヒャッ、ハァ!!
ようやく素振りらしくなったものの、剣を振るたびに聞こえるランガの奇声に、サフトやマクシミリアンだけでなく、城門から外に出てくる冒険者も呆然としてしまう。
「ランガさん。その奇声は、どうして出るのですか?」
「ん? 気合いを出すためじゃな。どうもうまい言葉が出てこん。じゃから、色々な声を発してしっくりとくるものを探しておるのじゃが」
「はぁ、それならそれで……別に無言でも構わないのですよ?」
「なんじゃと?」
玄白の隠された趣味。
歌舞伎巡りをすることがあるのだが、その中の演者の殺陣のシーンなどでは、『キェェェェェ!!』とか、『トリャァァァァァ』と言った声が上がっているものがある。
それを真似てみたものの、どうもしっくりとこないというのが本音である。
「たとえば……」
──ヒュン、ヒュン、ヒュンッ!!
サフトが剣を構え、素早く振り落とす。
そして自身の膝上あたりの高さまで振り落とすと、そこでピタッと止める。
「ようは、呼吸ですよ。息を吸うときは力が入りませんし、吐くときは力が出ます」
「ははぁ、闘気の循環式じゃな。どれ、やってみるか」
青眼に剣を構え、ゆっくりと体内の闘気を循環させる。
呼吸に合わせて、体内の経絡を脈動するかのように流れる闘気。
あとは、タイミングを合わせて、こう!
──ブゥン!! ドゴッ!!
勢いよく振り落とした剣が、地面に突き刺さる。
「おおう、止められんぞ」
「まあ、止めるのは難しいですよ。まずは自分の膂力を鍛えるところから始めた方が良いですかね。マクシミリアン、その辺りは任せてかまわないか?」
「ああ。基礎体力作りは必要かもな。とくに女性の場合、膂力は男性よりも劣りますからね?」
「そうか。まだ剣を振るレベルではなかったということか。では、体力作りを教えてくれるか?」
まずは足腰。
そのためには走り込み。
マクシミリアンとサフト、そして玄白はその場を離れ、城壁外縁部をゆっくりと走り始める。
このコースは、他にも冒険者や騎士たちが体力作りとして走っているコースであり、今もちらほらと冒険者らしき男女が走っている姿を見受けられる。
神から貰ったチートボディの【御神体】。
その本当の性能を、玄白はまだ発揮していない。
今現在で使い始めている【|解体新書(ターヘル・アナトミア)】でさえ、未だ試行錯誤を繰り返しつつ使っているのだから、まあ当然と言えば当然である。
ゆっくりペースで走る玄白たちを、他の冒険者は楽々と追い抜いていく。
「う~む。少しずつじゃが、体の使い方がわかってきたな」
「ほう? それはどういうことで?」
「少し、ペースを上げてみるぞ」
ほんの少し。
体を巡る闘気の流れを活性化する。
経絡から滲み出す闘気を、筋組織に浸透させる。
先程はできなかったが、今はできる。
そして闘気が浸潤した筋肉は、それまで以上のパワーを発揮し始める。
「お、おや? たしかにベースが上がりましたが」
「これで普通の冒険者ってところか。まあ、ランガさんも初めてとしては、良い感じじゃないか?」
「うむうむ。闘気が体に染みとおる。これが冒険者なのじゃな?」
「「違うから!!」」
思わず突っ込むサフトとマクシミリアン。
彼らにとって闘気とは、ここ一番の爆発エネルギー。
戦闘技術と呼ばれている技を発動するときに必要なエネルギーであり、常時発動など不可能であるのだが。
それを玄白は、呼吸をするかのように当たり前に使い始めている。
先日、勇者の攻撃をいなしたときは反射的に闘気が練り上げられていたのだが、あのような使い方が普通なのである。
少しずつペースを上げても、やはり腕利きの冒険者たちは玄白を追い抜いていく。
これは仕方のないことだが。
「……おいおい、治癒師が冒険者の真似事かよ。邪魔だから隅っこを走っていろよ、戦闘じゃ役に立たないんだからな。このザァァァァコがぁ!!」
そう玄白に暴言を吐いて、勇者タクマが玄白を追い抜いていく。
その背後からは、申し訳なさそうに彼のパーティメンバーたちが玄白に頭を下げながら追い抜いていく。
「……ランガさん、あいつの言うことなんて気にしないほうがいい」
「全く。もっと礼節を学んでいれば、人に好かれる勇者になれるのになぁ……」
マクシミリアンとサフトが玄白を宥めようとするが、そもそも玄白は腹を立ててもいない。
「まあ、勇者から見れば雑魚なんじゃろうなぁ。所詮は治癒師が、自己満足のために体を鍛えているように見えるのじゃから」
「いやいや。ランガさんはまじめに取り組んでいるじゃないですか」
「そりゃあそうじゃ。やると決めたからには、真面目に取り組む。そしていつか、あの勇者を見返してやりたいなあ」
そう笑いつつ走り続ける玄白。
そしてふと気がつくと、途中途中で体を休めている冒険者が増え始めていることに気が付いた。
「なぁ、サフトや。なぜ、あの冒険者たちはこんなところで体を休めているのじゃ?」
「あ~。この街の冒険者って、正門を出たあたりから走り始めて。体力の限界が、今休んでいる場所だって言うことですよ」
「なるほどなぁ」
要は、持久力。
戦闘時にどれだけ体力が保つか、どれだけ戦い続けられるのか。
それを図る意味でも、皆走り続けている。
そして体の限界で体を休めているのだが、そこまでの時間である程度の自分の限界を見定めているらしい。
「では、わしらのようにのんびりペースはダメなのでは?」
「いやいや、俺たちはここを一周するぐらいの体力はありますから」
「深淵をかるものは、最低でもこの城壁外縁部を休憩なしで一周できます。まあ、前衛職と後衛ではペース配分が違いますけどね」
「そういうものか。まあ、わしはマイペースで構わんよ」
タッタッタッと走り続ける。
やがて城壁を 外縁部を半周した辺りで、勇者タクマが地面に大の字に寝転がっているところに到着する。
その周りでは、他の勇者メンバーが屈伸したり体を伸ばしており、明らかに体力に余裕があるように見える。
「……」
その様子をチラリと横目で見てから、玄白はまた走り続けるのだが。
「そ!そこの治癒師!! なぜお前は走り続けられるんだ……」
「はぁ? マイペースだからに決まっていようが。なんでトレーニングで無茶をする必要がある?」
「お!俺は勇者だぞ、その俺よりも貴様の方が体力があるって言うのか? たかが治癒師ごときが!!」
「そうなのかもな。では」
そのまま走り去る玄白。
それを見てタクマも立ち上がり走り出そうとするが、既に膝がガクガクと笑って立ち上がるのも困難である。
「くっそぉぉぉぉ!!」
そう叫ぶタクマをよそに、玄白はマクシミリアンとサフトに付き合って貰いつつも、どうにか城壁外縁部を完走。
そのまま一休みしてから冒険者ギルドで朝食を取ると、いつものように診療を開始した。
「それで、朝一番の患者が勇者って、どう言うことじゃよ?」
「うるせぇ。足を捻っておかしくしただけだ。他の診療所はまだ空いていないし、錬金術ギルドの魔法薬も効果が悪くて効かなかっただけだ!!」
足首の捻挫。
普通なら治癒師でもなんとかなる。
そのための魔法薬も売っているはずなのだが、それを扱えるフリーの治癒師は、大抵はどこかのパーティに登録されている。
そして、こんな朝っぱらから開いている診療所はない。
それで勇者タクマも玄白の元を訪れただけ。
「まあ、見てやるわ……と、なるほどな」
即効性のあるエリクシールを使えば簡単に治る。
また、薬効成分の高い軟膏を塗るか、その成分が付与された湿布を貼っても同じ効果はある。
ちなみに、捻挫に効く軟膏は高価であり、おいそれと冒険者が買えるものではない。
さらに湿布など存在しない。
「明後日には、ドラゴン退治に行くんだ。とっとと直せよこのクソ治癒師が!!」
「あ~。この湿布を貼っておけば二日で治る。じゃから、今日、明日は宿で安静にしておれ」
「今日は午後から近くの森で討伐任務があるんだ、それまでに治せよ」
無茶をいう。
やれやれと頭を張りつつ、玄白は解体新書からエリクシールを一つ取り出して、それを手渡す。
「今、この場で飲め。そうすればすぐに治る」
「これで治る? 本当かよ?」
そう疑いつつも、一気に飲み干す。
するとタクマの全身がゆっくりと輝き、捻挫が完治した。
この光景には、付き添っていた仲間たちも驚きの顔を隠せない。
「ほ、本当に神の霊薬!!」
「これが、聖女の力なのですね……」
「お、おい、お前のその力、本物の聖女じゃねーか!! 俺が有効に使ってやる。だから貴様は、明日から俺のパーティに同行してもらうからな」
またしても無茶をいうタクマに、玄白は一言。
「寝言は寝てから言え。わしはお前に付き合うほど暇ではないわ。ほれ、次の患者が控えているのじゃから、とっととこのクソ勇者を連れて帰ってくれ」
「おい、俺のことをクソ勇者っていったか!!」
「タクマ、もう行くぞ……ランガさん、申し訳なかった」
そう怒鳴り散らすタクマを連れて、勇者パーティは頭を下げながら診療所を後にした。
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