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自由貿易国家編
杉田玄白、医者としての本文を全うする
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カネック王がデスペラード粛清に向かった三時間後。
それまでは玄白は、ロイヤルガードたちと共にのんびりとした時間を過ごしていた。
「ふむ、腰をやっているな。今はまだそれほど酷くはないが、これは後々まで響いて来る可能性があるぞ」
ソファーで横たわっているロイヤルガードの一人の腰に触れつつ、玄白は側に浮かべてある解体新書を確認する。
時間も余っているので、ロイヤルガードたちの体のケアを始めているのだが、予想外に足腰が弱っている。
「こ、これは治りますか?」
「治すが。まあ、手術をする必要もないので、桂枝加苓朮附湯を処方してあげよう。この膝や腰の病いは、昔は痺証として扱っていたのじゃが、ここ数年で、それが間違いであると教えられてな」
解体新書から乳鉢及び漢方を取り出し、ゆっくりとすりつぶしていく。
そして秤を出して重さを測り調薬を終えると、それを広口瓶のなかに収めていった。
「これを煎じて飲むが良い。朝晩1回ずつ、薬包紙に包まれている分を煎じなさい。無くなったら、街の中にあるワシの診療所で処方してあげるから来なさい。さて、そっちの騎士のお嬢ちゃんはどうかな?」
もう一人のロイヤルガードに話しかけると、その女性騎士はヘルメットをゆっくりと取り、素顔を見せた。
左頬から瞼の上まで、ざっくりと切り裂かれたような傷がある。
それを見た玄白は、顔色ひとつ変えずに手を伸ばした。
──キィィィィィン
彼女の頬に触れてから、玄白は解体新書を開いて確認する。
「魔族の毒により失明か。遠征で襲われでもしたのか?」
「違う。元々は軽い頬の傷だけだったのです。でも、あの御殿医の代わりに来たメギストスとかいう錬金術が私の頬を見て、腐病に侵されているから、薬を処方すると。
その時に貰った点眼薬というもので目の傷も治そうと言っていたのだが、日に日に酷くなり、体も怠くなってきたのです」
「そうじゃろうなぁ……」
解体新書に記された文字は『魔族覚醒薬中毒』。
人為的に魔族を生み出す薬らしいのだが、残念なことに試薬であり実験的に投与されていた可能性が高い。
結果として頬が引き攣り皮膚が融解、その時のショックで失明していると思われる。
このままでは命に関わる可能性もあると考えたが、未知の薬による副次的な疾病ゆえ、エリクシールに頼らざるを得なかった。
「ほれ、今、ここでこれを飲みなさい。これは保存が効かない生薬ゆえに、早く飲んでもらわんと困る」
「は、はい」
そう玄白に促され、女性騎士は急いで薬を飲んだ。
──シュゥゥゥゥ
すると、彼女の頬から瞼にかけてが淡く光り、頬も目も全てが治っていった。
そして体内からもエリクシールは浸透し、体内に浸潤していた毒素も全て中和したのである。
その光景を一部始終見ていた同僚は、玄白の治療技術の高さに目を丸くし、言葉を失ってしまっていた。
「み、見えます……もう治らないと思っていましたのに」
「偶には、奇跡を体験するのも悪くないじゃろ? ついでじゃから、ここには怪我人が病人はおらんのか? そのメギストスとやらの治療を受けたものたちなら、まだ急げば間に合うかも知れぬからな」
「そ、それは、私の一存ではなんとも申せません。ですから、今から確認をとってきて宜しいでしょうか?」
「うむ、できるだけ早くな」
たった今、目と頬の傷を治療してくれたロイヤルガードが、勢いよく部屋から飛び出していく。
そしで半刻程で戻ると、見届け人としてやってきた貴族と共に、メギストスによって隔離された患者たちの治療を行うことにした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
別離宮及び、王城敷地外にある貴族の居住区まで向かい、玄白は病に倒れていた人々を癒して回った。
その中には、意識を失っていた元宰相の姿もあったのだが、玄白は苦もなく治療を続けていく。
そして一夜明けた翌日の昼には、二十六名の病気を癒やした玄白は王城へと戻ってきた。
その報告を受けたカネック王は、すぐさま謁見の間へと玄白を丁寧に案内するように連絡。
すぐさま謁見の間にやって来ると、玉座に座ることなく、彼女の元へと歩み寄っていった。
「此度の件、本当に助かりました。スギタ先生がいなければ、宰相を始めこの国を支えていた貴族たちの命も危うかったかもしれません。改めてお礼を言わせてもらいたい。本当に、ありがとうございました!!」
玄白の手を取って頭を下げるカネック王。
宰相をはじめとした政治中枢に携わっている貴族たちもその場におり、皆が拍手で玄白を褒め称えていた。
「いや、ワシは、自分のできることをしたまで。では、あとは何事もないようなので、ワシは街に戻っても良いか?」
「実は、もう一人、ワシの孫が未だ病から解放されていないのです。どうにか、その子を癒してもらえますか?」
「ほう? 症状は?」
カネック王の孫であり、デスペラードの妹に当たる少女もまた、病に倒れ、遠くにある静養地にて闘病生活を送っている。
その症状を詳しく聞くが、まだ死に至る病ではないことだけは理解できたのだが、直接、玄白が赴かなくては治療ができないことを説明。
この国を出て二十日の距離にある、北方のマスカラス領に静養地があるため、できるだけ早く向かって欲しいと頼まれてしまう。
「……ということなのだが、どうか向かって欲しい。お礼はいくらでも出す、それこそ、宮廷御殿医として登用することも考えている」
「そんな大層なものはいらんなぁ。それならば、今のワシの診療所のある場所の土地と建物を貰えぬか? 商業ギルドから聞いた話では、王都内で個人が建物や土地を得るには、爵位がなくてはならないと言われたのじゃが」
「その程度なら構いません。では、スギタ先生が戻って来るまでには、全ての手続きを終わらせておくことをお約束します」
すぐさま馬車の手配も行われたが、魔力が枯渇しかかっている状況での長旅となると、体にもかなりの負担を強いることになる。
そのため、魔力がある程度回復する三日後まで待ってもらい、そこから馬車でマスカラス領へと向かうことを約束した。
それまでは玄白は、ロイヤルガードたちと共にのんびりとした時間を過ごしていた。
「ふむ、腰をやっているな。今はまだそれほど酷くはないが、これは後々まで響いて来る可能性があるぞ」
ソファーで横たわっているロイヤルガードの一人の腰に触れつつ、玄白は側に浮かべてある解体新書を確認する。
時間も余っているので、ロイヤルガードたちの体のケアを始めているのだが、予想外に足腰が弱っている。
「こ、これは治りますか?」
「治すが。まあ、手術をする必要もないので、桂枝加苓朮附湯を処方してあげよう。この膝や腰の病いは、昔は痺証として扱っていたのじゃが、ここ数年で、それが間違いであると教えられてな」
解体新書から乳鉢及び漢方を取り出し、ゆっくりとすりつぶしていく。
そして秤を出して重さを測り調薬を終えると、それを広口瓶のなかに収めていった。
「これを煎じて飲むが良い。朝晩1回ずつ、薬包紙に包まれている分を煎じなさい。無くなったら、街の中にあるワシの診療所で処方してあげるから来なさい。さて、そっちの騎士のお嬢ちゃんはどうかな?」
もう一人のロイヤルガードに話しかけると、その女性騎士はヘルメットをゆっくりと取り、素顔を見せた。
左頬から瞼の上まで、ざっくりと切り裂かれたような傷がある。
それを見た玄白は、顔色ひとつ変えずに手を伸ばした。
──キィィィィィン
彼女の頬に触れてから、玄白は解体新書を開いて確認する。
「魔族の毒により失明か。遠征で襲われでもしたのか?」
「違う。元々は軽い頬の傷だけだったのです。でも、あの御殿医の代わりに来たメギストスとかいう錬金術が私の頬を見て、腐病に侵されているから、薬を処方すると。
その時に貰った点眼薬というもので目の傷も治そうと言っていたのだが、日に日に酷くなり、体も怠くなってきたのです」
「そうじゃろうなぁ……」
解体新書に記された文字は『魔族覚醒薬中毒』。
人為的に魔族を生み出す薬らしいのだが、残念なことに試薬であり実験的に投与されていた可能性が高い。
結果として頬が引き攣り皮膚が融解、その時のショックで失明していると思われる。
このままでは命に関わる可能性もあると考えたが、未知の薬による副次的な疾病ゆえ、エリクシールに頼らざるを得なかった。
「ほれ、今、ここでこれを飲みなさい。これは保存が効かない生薬ゆえに、早く飲んでもらわんと困る」
「は、はい」
そう玄白に促され、女性騎士は急いで薬を飲んだ。
──シュゥゥゥゥ
すると、彼女の頬から瞼にかけてが淡く光り、頬も目も全てが治っていった。
そして体内からもエリクシールは浸透し、体内に浸潤していた毒素も全て中和したのである。
その光景を一部始終見ていた同僚は、玄白の治療技術の高さに目を丸くし、言葉を失ってしまっていた。
「み、見えます……もう治らないと思っていましたのに」
「偶には、奇跡を体験するのも悪くないじゃろ? ついでじゃから、ここには怪我人が病人はおらんのか? そのメギストスとやらの治療を受けたものたちなら、まだ急げば間に合うかも知れぬからな」
「そ、それは、私の一存ではなんとも申せません。ですから、今から確認をとってきて宜しいでしょうか?」
「うむ、できるだけ早くな」
たった今、目と頬の傷を治療してくれたロイヤルガードが、勢いよく部屋から飛び出していく。
そしで半刻程で戻ると、見届け人としてやってきた貴族と共に、メギストスによって隔離された患者たちの治療を行うことにした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
別離宮及び、王城敷地外にある貴族の居住区まで向かい、玄白は病に倒れていた人々を癒して回った。
その中には、意識を失っていた元宰相の姿もあったのだが、玄白は苦もなく治療を続けていく。
そして一夜明けた翌日の昼には、二十六名の病気を癒やした玄白は王城へと戻ってきた。
その報告を受けたカネック王は、すぐさま謁見の間へと玄白を丁寧に案内するように連絡。
すぐさま謁見の間にやって来ると、玉座に座ることなく、彼女の元へと歩み寄っていった。
「此度の件、本当に助かりました。スギタ先生がいなければ、宰相を始めこの国を支えていた貴族たちの命も危うかったかもしれません。改めてお礼を言わせてもらいたい。本当に、ありがとうございました!!」
玄白の手を取って頭を下げるカネック王。
宰相をはじめとした政治中枢に携わっている貴族たちもその場におり、皆が拍手で玄白を褒め称えていた。
「いや、ワシは、自分のできることをしたまで。では、あとは何事もないようなので、ワシは街に戻っても良いか?」
「実は、もう一人、ワシの孫が未だ病から解放されていないのです。どうにか、その子を癒してもらえますか?」
「ほう? 症状は?」
カネック王の孫であり、デスペラードの妹に当たる少女もまた、病に倒れ、遠くにある静養地にて闘病生活を送っている。
その症状を詳しく聞くが、まだ死に至る病ではないことだけは理解できたのだが、直接、玄白が赴かなくては治療ができないことを説明。
この国を出て二十日の距離にある、北方のマスカラス領に静養地があるため、できるだけ早く向かって欲しいと頼まれてしまう。
「……ということなのだが、どうか向かって欲しい。お礼はいくらでも出す、それこそ、宮廷御殿医として登用することも考えている」
「そんな大層なものはいらんなぁ。それならば、今のワシの診療所のある場所の土地と建物を貰えぬか? 商業ギルドから聞いた話では、王都内で個人が建物や土地を得るには、爵位がなくてはならないと言われたのじゃが」
「その程度なら構いません。では、スギタ先生が戻って来るまでには、全ての手続きを終わらせておくことをお約束します」
すぐさま馬車の手配も行われたが、魔力が枯渇しかかっている状況での長旅となると、体にもかなりの負担を強いることになる。
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