イベントへ行こう!

呑兵衛和尚

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第一章・夢から少し遠い場所~イベント設営業~

初めてのシステム……あ、バラシですね。

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 札幌駅地下歩行空間。

 道幅がなんと12mもあり、通勤通学の人々がゆったりと行き来できる広さがあります。
 左右の壁際では常時、何かしら催し物が行われており、大勢の人で賑わっています。
 スマホ会社のイベント、道内企業の小規模物産展、地元の食品のアピール、フリーマーケットetc。
 途中に四箇所ある広場でも常設展示ではないものの、写真展や絵画の展示、あとは映画の宣伝ブースなども作られていました。
 そして今回の撤去作業はと言いますと、北3条交差点広場、通称『キタサン HIROBA』での道産食品の試食ブースのパネル展示の撤去です。

「うはぁ……」

 現地集合ということで私も急いで合流。
 請け合いが名桜レンタリースだったらしく、現場には広崎さんとすでに到着したトミーさんが待機しています。

「遅くなりました!!」
「うん、まだ20分前だね。まだイベントが終わっていないから、私たちはこっちで待機かな?」
「了解です」

 トミーさんに連れられて、近くの物陰まで移動。
 そして図面を渡されまして。

「今日は撤去作業で、メンバーは私とミコシーの2人だけ。私が上端のビームをバラすから、ミコシーはパネルの撤去、時間が余ったら下端のビームのバラシをお願い。研修ではやったでしょう?」
「下端のバラシですね。研修の後はやったことがありませんけれど、ずっと皆さんの作業を見ていましたのでやってみます」
「うん、まあ、システムなんて20枚しか無いから私1人でも問題はないんだけど、ここの作業指定人数が2人だったらしくてね」

 イベント会社から設営と撤去に2人という指定があったそうで。
 そして中島さんはぎっくり腰で欠席と。
 
「まあ、これでコツを掴んでなんていう鬼のようなことは言わないからね。あくまでも経験を積む、20枚の撤去なんて2人でやったら15分もかからないんだけれど、ご覧の通りだからさ」

 未だイベントは終わる様子がなく。
 試飲試食以外にも販売コーナーもあり、大勢の人が列をなして並んでいます。
 まあ、地元限定の商品とかが並んでいるのですから、普段からお取り寄せしている人にとってはたまらないイベントですよ。
 私も並んで試食したいです。
 そんなこんなで、お客さんが居なくなるまで待機。
 私は裏に積まれているシステムの具材を手に取って、トミーさんから借りたラチェットレンチでバラシの練習。
 トミーさんは普段から2本のラチェットレンチを持っているそうで、一つは自前のもの、もう一つはロングビットという長いビットがついたラチェットレンチを会社から借りているそうです。
 
「これはね、マキシマっていうシステム用のやつでね。ミコシーが代わりに来るって話したら、溝口さんが貸してくれたのよ。経験を積ませたほうがいいってね」
「な、なるほど。溝口さんはすでにお見通しなのですね」
「自分が楽をしたいからかもしれないよ?」
「まっさかぁ……本当ですか?」

 嘘か本当か、見分けがつかない。
 でも、経験できるのはありがたいです。

「よし、イベント終了。最後のお客さんも帰ったのでカラーコーンとコーンバーをセットしてください」
「はい。それじゃあいこうか!」
「了解です」

 急ぎイベント会場と通路を区切るためにカラーコーンを設置。
 私はコーンとコーンの間を繋ぐコンーバーを設置します。
 その間に別の設営業者さんが荷物の搬出を開始、あちらはこののち冷蔵庫を階段で上げるという重労働だそうです。

「コーンバー設置終わりました」
「よし、それじゃあバラすか。パネルは斜め台車に置いておくといいよ。そのあとで時間があったらシステムのバラシ。やりたいからって急がないこと」
「はい!了解です」

 高さ1800のパネルを外し、斜め台車という立てかけるタイプの台車に乗せていきます。
 私がパネルを一つ外す間に、トミーさんはシステムの上端を三つも四つも外してあるのですが……早く無いですか?
 しかも脚立なしで楽々モード。
 背が高くてスポーティ、手を伸ばさなくで簡単に上端に手が届く、やや男前なトミーさん。
 恐ろしい子!!

「……ほい、上端はバラしたから、私がパネルを外していくね。ミコシーはハジの方から順に、下端をバラしてね」
「了解です!!」

 まずしゃがんで、立っているポールを肩に担ぐように身体を寄せる。
 左手はボールに添えて、右手で持ったラチェットのビットをビームの穴に合わせる。
 それをゆっくり回してロックを解除、はい、回りません。

「あれ? あれれ?」
「うん、ラチェットの回転が逆だね。レバーを切り替えて」
「あ、そっか、そうですよね」

 今のレバー位置だと設置用です。
 逆回転にしないとならないのでレバーを切り替えて。

──カチッ
 よし、ロックが外れた。
 このまま左手でボールを掴んで床に寝かせると、そのまま次のボールへ移動。
 今度はボールの左右にビームがついていますけれど、やり方は同じ。
 ポールが倒れないように身体をつけて左手で押さえ、ビームを外す。
 身体を入れ替えて逆も外し、ボールは寝かせる。

「ふぅ……」

 できていますよね?
 そう思ってトミーさんの方を見ると、ニィッと笑いながらサムズアップしています。
 
「よーし、一気に終わらせますか!」

 一つ一つ慎重に、ボールを倒すと床に傷がつくだけでなく、人にぶつかったら事故に繋がります。
 周囲の安全を確認しつつ、一つ一つ慎重に。

「うん、御子柴さんは慎重だね。初心者そのものだけど……その調子でいいから、しっかりと安全にね」

 通りがかった広崎さんからも激励。
 これは気合が入りますよ!

………
……


 解体も終わり、具材はまとめてケースの中。
 あとはこれをエレベーターで上にあげるだけ。
 実は、今回の具材はエレベータに載せられるサイズなので、撤去も早いそうです。
 もしもこれがワンサイズ大きいやつですと、積替作業というものが発生します。
 これは私も以前経験しましたが、とにかく大変。
 この作業だけでかなりの体力を消耗しますから。
 そして地上に出てトラックへの積み込みも完了。
 
「それじゃあ、今日の撤去はこれで終了です。ありがとうございました」
「「ありがとうございました」」

 これにて任務完了。
 会社への連絡はトミーさんが現場リーダーなのでお任せしました。

「よっし、ミコシーの初システムバラシ記念で、ラーメンでも食べにいこうか?」
「ありがとうございます!! 麻婆ラーメンがいいです。ここの近くにあるらしいですよ」
「お!良いねぇ、それじゃあそこにしようか!」

 買い物、現場、そしてラーメン。
 色々と楽しい一日でした。
 難点を言うなら、花山椒の麻婆豆腐は、ノリで辛さのレベルを上げるものでは無いと言うことでしょう。
 舌が痺れます。


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