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ウーガ・トダールの収穫祭
43品目・王女様ラプソディ(居酒屋のコースメニュー、色とりどり)
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アードベッグ辺境伯に頼まれて、久しぶりに隠れ居酒屋・越境庵を開店してみたところ。
本日のお客様は、この国の第一王女と第三王女。
一応護衛のため騎士の皆さんは店の外、つまり応接室で待機しているらしい。
そして店内は王女様たちと付き添いの辺境伯、そしてうちのお嬢さんたちのみ。
とりあえずテーブル席の方が慣れているだろうということで、モニター前の席をマリアンに頼んで案内して貰うと、すかさずシャットがお冷(冷たい水)をウォーターサーバーから汲んで持って行った。
「お、王女様、こちらは冷たいお水でごじゃいます」
「あら、ありがとう……それにしても、凄いわねぇ」
水の入ったグラスを受け取って、それを手に取りしげしげと眺めている王女様たち。
まあ、透明なグラスは珍しいと聞くし、何よりもウォーターサーバーの横の冷蔵庫で冷やしてあったグラスだからなぁ。
「お姉さま、それにすっごく冷たいですよ……」
「本当。そしてお味は……」
――ゴクッ
先にアードベッグ辺境伯が飲んで見せたので、それに倣って王女様たちも軽く一口。
「あら、凄く清廉な味ですわ」
「本当、これなら何杯でも飲めますね」
「そのサーバーには浄化フィルターもついていますからねぇ」
と話をしつつ、まずは先付けから。
「では、居酒屋なりのコース料理と行きます。まずは先付けの『餅銀杏と合鴨のスモーク』です」
もち銀杏は銀杏をさっと茹でてからすり鉢でり下ろし、それを平たく丸めて油で揚げたもの。
モッチモチな触感が癖になるということで、うちでは単品料理で出している。
合鴨のスモークは、たまたま安く仕入れられた合鴨のロースを醤油と酒の地(つけダレ)に付けてから、ゆっくりとスモークしたもの。
何かあった時用にとストックしてあったのだが、時間停止処理されているので鮮度は仕込んだ時のまま。
箸が使えないと思うので、ちょっと細めのフォークを添えておく。
それをお盆に載せて、ゆっくりと運んでいくマリアン。
さっきまでは緊張しっぱなしだったが、どうやら少しは落ち着いたらしい。
「お待たせしました……」
「あら、ありがとう」
「うわぁ……この緑色のものは見た事がありませんね。こちらはリククックの肉を焼いたものでしょうか?」
リククック……そういうものもいるのか。
名前から察するに、鶏系列の鳥なのかも。
そして先ほどと同じように、辺境伯が毒見も兼ねて先に食べている。
「ふむ……アイラ殿下、アイリッシュ殿下、ユウヤさんの料理は大丈夫です。ご安心ください」
一口ずつ食べてにんまりと笑う辺境伯。
その言葉にウンウンと頷くと、フォークを手にゆっくりと食べ始める。
「アイリッシュ殿下、合鴨のスモークは肉料理ですので、無理をせずに」
「ええ、ちょっとだけ興味が出てきましたので、本当に少しだけ……」
端っこを軽くナイフで切り、恐る恐る口に運んでいる。
そして。
「……え? これがお肉ですの? 臭みもなく、それでいて香ばしく。なにか煙でいぶされたような」
「ええ、そいつは桜のチップで燻したものです。合鴨といいまして、まあ、食用に育てられた鳥の一種だと思ってください」
「食べるために育てている? え? リククックと同じなのですか?」
「まあ、そんなかんじで」
そう話している横では、アイラ殿下がニコニコと笑いつつ、先付けの中身を全て平らげてしまった。
恐るべし健啖家というところか。
「うん、結構なお味でした。次はなにかしら?」
「少々お待ちを」
さて、次は汁物だな。
うちのメニューで汁ものといえば、みそ汁。
それも季節の具材で作る、メニューには存在しない一品だけど。
今日はちょいと趣向を凝らして。
「まあ、久しぶりに作ってみますかねぇ」
材料はシイタケ、しめじ、エリンギ、ギンナン、三つ葉、そしてすだち。
先に引いておいた出汁を小鍋に取り、醤油、酒、塩でかるくあたりを取る。
醤油は香り付け程度でさっと少な目で。
あとは土瓶蒸しの器に茸を盛り付け、そこに出汁を張って火にかけてひと煮立ち。
そのまま土瓶蒸し用の猪口と一緒に小さめのお盆に載せて完成。
「ゆっくりで構わない、零さないようにな。いけるか?」
「はい、大丈夫です……」
「頑張るにゃ」
マリアンとシャットが『茸の土瓶蒸し』を持っていくと、辺境伯も殿下も不思議そうな顔をしている。まあ、当たり前だよな。
「次は汁物。椀物ともいいまして、そいつは季節の茸を使った土瓶蒸しといいます。中の具は食べないで、横に添えてある猪口に注ぎ、スダチをちょっとだけ絞ってください」
「こ、こうかね?」
辺境伯が俺の説明通りに、土瓶蒸しを猪口に注いでいる。
そして少しだけスダチを絞ると、それを恐る恐る口元に運び。
――スッ
「ん~、なるほど、これは凄い。先ほどの先付け? とかいうものの味わいが、口の中からスッと消えていきますね。そしてこの茸の香りがまた、なんとも言えません」
「ちょ、ちょっとお待ちなさい。私も呑んでみますわ」
「私も!」
そんなに慌てなくても、殿下たちの前にも同じものを用意してありますので。
そして辺境伯を真似て、ゆっくりと猪口に注いだ出汁を口に運ぶと。
「ん~っ、こ・れ・は、キノコですわ」
「優しい味。でも、この緑色のリモンの酸味が、癖になりそう」
よっし、此処までの掴みは大丈夫と。
次は刺身だが……さすがに生魚は無理だろうなぁ。
うちのお嬢さんたちは鮨も食べれたけれど、内陸であるこの国ではなじみはないそうだから。
「では、次にいきます。本当ならここで刺身を出すところですが、魚を生で食べる風習はないと思いますので……飛ばして焼き物をご用意します」
「ああ、露店の賄いで食べていたという鮨のことですか。そうですね、そちらは次の機会にでも」
辺境伯がそう告げるので、殿下たちもウンウンと頷いている。
では、次は焼き物ですか。
普通ならここで、豚バラ肉の山賊焼きとか、地鶏のキジ焼きとかあるのだが。
「では……くわ焼きといきますか」
材料は地鶏、茄子、レンコン、しめじ。
まずは鶏肉にさっと酒。醤油、おろししょうがを掛けて軽く揉みこんでおく。
次に野菜にさっと小麦粉を振るいフライパンで焼いて、いい感じに焼目が付いたらフライパンから下ろしておく。
次は、野菜の入っていたフライパンに油を軽く引いて鶏肉を焼く。
こっちはしっかりと火を通すこと。
その間に小さめのスキレット(厚手のフライパン)を火にかけ、熱しておく。
「うん、大体いい感じだな」
鶏肉に火が通ったらさっと酒を振りかけ、醤油、酒、みりん、砂糖を加えて照り焼き風に。
この時、よけておいた野菜も投入し、さっとたれに絡めておく。
――ジュゥゥゥゥゥゥゥ
醤油と砂糖の溶けたタレが音を立てて具材に絡みつく。
そしてさっと混ぜたら人数分のスキレットに盛り付けて、熱々のままテーブルへ。
「こいつは熱いから、気を付けてな」
「もう大丈夫にゃ」
「出来立ての角煮よりも熱くありませんわ」
「いや、それよりも熱いと思うが……スキレットには絶対に触るなよ、あと、こっちは肉少なめ野菜多めで、アイリッシュ殿下用だから」
「了解にゃ。あたいのは肉多めにゃ」
なんども注意をしているが、二人はちゃんと気を付けて殿下たちの前にスキレットを並べている。
そしてシャットの分は肉多めね、了解。
「それはくわ焼きと言いまして。まあ、昔は野良作業の合間に、鍬の上に材料を並べて焼いて食べたのが由来だそうです。うちでは季節の野菜と地鶏を甘辛く照り焼きにしたものをスキレットに並べて熱々のうちに……というかんじです」
「ふぅん、農作業の合間にねぇ……」
「あ、野菜がいっぱい、嬉しいかも……」
あ~、辺境伯の毒見よりも先に食べ始めているが。
まあ、それだけ信用して頂けているっていうことだろう。
「まあ、これは凄いですわ。甘辛くて、肉にもしっかりと味が絡んでいますわね。これもリククックではないのですか?」
「野菜が美味しい。この黒っぽいのは、中がトロットしていて熱々で。このちょっと硬い歯ごたえのあるものも美味しい」
「ありがとうございます。では次は簡単なもので……」
リククック、かなりメジャーな食材のよで。
そして次は煮物かぁ。
ここはちょいと手順をショートカット。
作り置きしておいた肉じゃがと豚の角煮を大きめのお椀に盛り込むだけ。
「それじゃあ、こいつを持って行ったら、そこの小上がりで二人も賄い飯だな」
「了解だにゃ」
「ありがとうございます!!」
ということで、先に殿下たちに煮物椀を持って行ってもらってから、先ほどまで出していたものすべてをお盆に載せて、二人にも手渡す。
「あとはこっちでやるので。飲み物は」
「「セルフサービス!!」」
「そういうこと」
さて、次は洋食でいうところのメインメニュー。
強肴といって、揚げ物や酢の物などの順番。
これはもう、さっきから温めてある天ぷら鍋の出番だな。
今日の天ぷらの種は『北海縞エビ、スルメイカ、糸縒鯛、茄子、南瓜、しし唐、舞茸』の豪華盛り合わせ。
まあ天ぷらの衣などは前にも作った通り。
あとは景気よく一つずつ揚げると、皆敷を敷いた加護に彩りよく盛り付ける。
小皿におろししょうがと大根おろし、その横には別のさらに抹茶塩。
そして熱々の天つゆを注いで、持っていくだけ。
「あ、持っていきます!!」
「いいからいいから。あとは二品だから大丈夫だ」
立ち上がりそうなマリアンを止めてから、殿下たちの前に天ぷら籠と天つゆ、薬味を並べていく。
「お待たせしました。強肴の『季節の野菜と魚介類の天ぷら』です」
まあ、こっちの世界に来てからは、季節なんて関係なく仕入れが出来ているようだが。
それでもある程度の統一性はあるようだ。
「これは……揚げ物ですか?」
「はい。熱々のうちにどうぞ。こちらの天つゆにつけてお食べください。好みで大根おろしと生姜おろしを天つゆに溶かしてもいいですし、逆に抹茶塩を指でつまみ、パラッと掛けて食しても美味しいです。では、次の支度がありますので」
そう告げて厨房に下がる。
お嬢さんたち用に天ぷらを揚げないとならんのでね。
――プツッ
「こ、こはシュリンプ? こんなにプリプリとしているものは久しぶりですわ」
「この茸も美味しい。シュリンプも、魚も臭みが無くてとても美味しい」
「この緑色の抹茶塩というのですか、これはまた風味が独特ですが、うん、美味しいですね」
「魚介類の鮮度が素晴らしいですわ。独自の仕入れ先があるのですね……素晴らしいですわ」
ははは。
運命の神様経由のチート仕入れですけれどね。
ということで、残るはご飯ものと留め椀、香の物。
そして水菓子(甘味)だが。
ご飯ものは『高菜とちりめんじゃこの混ぜご飯』。
留め椀は味噌汁、ささがきゴボウと焼き豆腐ってところか。
まあ、このあたりはちょいと工夫されているので、ここでは作り方は秘密という事で。
ゴボウをささがきしたあと、ちょっとだけ手間をかける必要があるのでね。
高菜とちりめんじゃこは時間停止してある材料を取り出して、刻んで炊き立てご飯に混ぜるだけ。
それをお椀に盛り付けてから、殿下たちの前へ。
「こちらがご飯ものと留め椀です。基本的にはこれで食事系はおしまい、最後に水菓子……まあ、デザートがでますので」
「ありがとう。これは大麦……ではないわね? それに小さな魚が混ぜてありますけれど」
「そのままで大丈夫です」
そう説明して厨房へ。
そしてデシャップの前でご飯と留め椀を待っているお嬢さんたち。
「ユウヤぁ、ご飯が欲しいにゃ」
「わ、私もお願いします」
「ちょっと待ってろよ……ほれ」
二人にもご飯と留め椀を手渡すと。
最後は水菓子。
「……うちの店のデザートから、少しずつカットして盛り付けるか」
自家製の『キウィフルーツのパルフェ』と、冷凍してあるカットケーキを取りだす。
といっても、ティラミスとラズベリーショコラをカットしてさらに盛り付ける。
皿の中央には、ワイングラスにグラノーラを引いてヨーグルトを掛け、そこにキウイフルーツのソースを注ぐだけ。
ちゃんとデザ―トフォークとスプーンも添えておく。
「お待たせしました。水菓子……コース最後のデザートです。本日はティラミスケーキとラズベリーショコラ、そしてキウイフルーツのパルフェです。ごゆっくりとお楽しみください」
丁寧にあいさつをして、これでコースはおしまい。
ちなみにだが、普段の宴会ではここまでのコース料理なんて用意はしない。
ごく稀に、知人が接待に使うからといって連絡を寄越してくれた時に用意する程度。
もっとも、これぐらいのコースをササッと用意できるようになれたのも、全ては親方衆の厳しい指導のおかげである。
まあ、一部は冷凍ものを使っているがね。
「まあ、まるで宝石箱のようですわ。それにこの甘い香りが……ンン~♪」
「この緑色の果物のソース、気に入りました。それに、この茶色いケーキも最高です、もっと食べたいです持って帰りたいです」
「ははは。流石にお持ち帰りには適していませんので」
「うう……残念。それよりも、フローラはいつでもこれを食べることが出来て狡い」
あ、アードベッグ辺境伯のお嬢さんに飛び火したか。
まあ、そこんところは美味くやってください。
それにしても……。
楽しそうに食べている王女殿下たち、貴族の子女どころか王族って言われて緊張していた部分もあるが、こうしてみると普通の女子大生や近所のOLさんのようにしか見えないよなぁ。
そして青い顔をして困っている辺境伯。
何かあったのですかねぇ。
本日のお客様は、この国の第一王女と第三王女。
一応護衛のため騎士の皆さんは店の外、つまり応接室で待機しているらしい。
そして店内は王女様たちと付き添いの辺境伯、そしてうちのお嬢さんたちのみ。
とりあえずテーブル席の方が慣れているだろうということで、モニター前の席をマリアンに頼んで案内して貰うと、すかさずシャットがお冷(冷たい水)をウォーターサーバーから汲んで持って行った。
「お、王女様、こちらは冷たいお水でごじゃいます」
「あら、ありがとう……それにしても、凄いわねぇ」
水の入ったグラスを受け取って、それを手に取りしげしげと眺めている王女様たち。
まあ、透明なグラスは珍しいと聞くし、何よりもウォーターサーバーの横の冷蔵庫で冷やしてあったグラスだからなぁ。
「お姉さま、それにすっごく冷たいですよ……」
「本当。そしてお味は……」
――ゴクッ
先にアードベッグ辺境伯が飲んで見せたので、それに倣って王女様たちも軽く一口。
「あら、凄く清廉な味ですわ」
「本当、これなら何杯でも飲めますね」
「そのサーバーには浄化フィルターもついていますからねぇ」
と話をしつつ、まずは先付けから。
「では、居酒屋なりのコース料理と行きます。まずは先付けの『餅銀杏と合鴨のスモーク』です」
もち銀杏は銀杏をさっと茹でてからすり鉢でり下ろし、それを平たく丸めて油で揚げたもの。
モッチモチな触感が癖になるということで、うちでは単品料理で出している。
合鴨のスモークは、たまたま安く仕入れられた合鴨のロースを醤油と酒の地(つけダレ)に付けてから、ゆっくりとスモークしたもの。
何かあった時用にとストックしてあったのだが、時間停止処理されているので鮮度は仕込んだ時のまま。
箸が使えないと思うので、ちょっと細めのフォークを添えておく。
それをお盆に載せて、ゆっくりと運んでいくマリアン。
さっきまでは緊張しっぱなしだったが、どうやら少しは落ち着いたらしい。
「お待たせしました……」
「あら、ありがとう」
「うわぁ……この緑色のものは見た事がありませんね。こちらはリククックの肉を焼いたものでしょうか?」
リククック……そういうものもいるのか。
名前から察するに、鶏系列の鳥なのかも。
そして先ほどと同じように、辺境伯が毒見も兼ねて先に食べている。
「ふむ……アイラ殿下、アイリッシュ殿下、ユウヤさんの料理は大丈夫です。ご安心ください」
一口ずつ食べてにんまりと笑う辺境伯。
その言葉にウンウンと頷くと、フォークを手にゆっくりと食べ始める。
「アイリッシュ殿下、合鴨のスモークは肉料理ですので、無理をせずに」
「ええ、ちょっとだけ興味が出てきましたので、本当に少しだけ……」
端っこを軽くナイフで切り、恐る恐る口に運んでいる。
そして。
「……え? これがお肉ですの? 臭みもなく、それでいて香ばしく。なにか煙でいぶされたような」
「ええ、そいつは桜のチップで燻したものです。合鴨といいまして、まあ、食用に育てられた鳥の一種だと思ってください」
「食べるために育てている? え? リククックと同じなのですか?」
「まあ、そんなかんじで」
そう話している横では、アイラ殿下がニコニコと笑いつつ、先付けの中身を全て平らげてしまった。
恐るべし健啖家というところか。
「うん、結構なお味でした。次はなにかしら?」
「少々お待ちを」
さて、次は汁物だな。
うちのメニューで汁ものといえば、みそ汁。
それも季節の具材で作る、メニューには存在しない一品だけど。
今日はちょいと趣向を凝らして。
「まあ、久しぶりに作ってみますかねぇ」
材料はシイタケ、しめじ、エリンギ、ギンナン、三つ葉、そしてすだち。
先に引いておいた出汁を小鍋に取り、醤油、酒、塩でかるくあたりを取る。
醤油は香り付け程度でさっと少な目で。
あとは土瓶蒸しの器に茸を盛り付け、そこに出汁を張って火にかけてひと煮立ち。
そのまま土瓶蒸し用の猪口と一緒に小さめのお盆に載せて完成。
「ゆっくりで構わない、零さないようにな。いけるか?」
「はい、大丈夫です……」
「頑張るにゃ」
マリアンとシャットが『茸の土瓶蒸し』を持っていくと、辺境伯も殿下も不思議そうな顔をしている。まあ、当たり前だよな。
「次は汁物。椀物ともいいまして、そいつは季節の茸を使った土瓶蒸しといいます。中の具は食べないで、横に添えてある猪口に注ぎ、スダチをちょっとだけ絞ってください」
「こ、こうかね?」
辺境伯が俺の説明通りに、土瓶蒸しを猪口に注いでいる。
そして少しだけスダチを絞ると、それを恐る恐る口元に運び。
――スッ
「ん~、なるほど、これは凄い。先ほどの先付け? とかいうものの味わいが、口の中からスッと消えていきますね。そしてこの茸の香りがまた、なんとも言えません」
「ちょ、ちょっとお待ちなさい。私も呑んでみますわ」
「私も!」
そんなに慌てなくても、殿下たちの前にも同じものを用意してありますので。
そして辺境伯を真似て、ゆっくりと猪口に注いだ出汁を口に運ぶと。
「ん~っ、こ・れ・は、キノコですわ」
「優しい味。でも、この緑色のリモンの酸味が、癖になりそう」
よっし、此処までの掴みは大丈夫と。
次は刺身だが……さすがに生魚は無理だろうなぁ。
うちのお嬢さんたちは鮨も食べれたけれど、内陸であるこの国ではなじみはないそうだから。
「では、次にいきます。本当ならここで刺身を出すところですが、魚を生で食べる風習はないと思いますので……飛ばして焼き物をご用意します」
「ああ、露店の賄いで食べていたという鮨のことですか。そうですね、そちらは次の機会にでも」
辺境伯がそう告げるので、殿下たちもウンウンと頷いている。
では、次は焼き物ですか。
普通ならここで、豚バラ肉の山賊焼きとか、地鶏のキジ焼きとかあるのだが。
「では……くわ焼きといきますか」
材料は地鶏、茄子、レンコン、しめじ。
まずは鶏肉にさっと酒。醤油、おろししょうがを掛けて軽く揉みこんでおく。
次に野菜にさっと小麦粉を振るいフライパンで焼いて、いい感じに焼目が付いたらフライパンから下ろしておく。
次は、野菜の入っていたフライパンに油を軽く引いて鶏肉を焼く。
こっちはしっかりと火を通すこと。
その間に小さめのスキレット(厚手のフライパン)を火にかけ、熱しておく。
「うん、大体いい感じだな」
鶏肉に火が通ったらさっと酒を振りかけ、醤油、酒、みりん、砂糖を加えて照り焼き風に。
この時、よけておいた野菜も投入し、さっとたれに絡めておく。
――ジュゥゥゥゥゥゥゥ
醤油と砂糖の溶けたタレが音を立てて具材に絡みつく。
そしてさっと混ぜたら人数分のスキレットに盛り付けて、熱々のままテーブルへ。
「こいつは熱いから、気を付けてな」
「もう大丈夫にゃ」
「出来立ての角煮よりも熱くありませんわ」
「いや、それよりも熱いと思うが……スキレットには絶対に触るなよ、あと、こっちは肉少なめ野菜多めで、アイリッシュ殿下用だから」
「了解にゃ。あたいのは肉多めにゃ」
なんども注意をしているが、二人はちゃんと気を付けて殿下たちの前にスキレットを並べている。
そしてシャットの分は肉多めね、了解。
「それはくわ焼きと言いまして。まあ、昔は野良作業の合間に、鍬の上に材料を並べて焼いて食べたのが由来だそうです。うちでは季節の野菜と地鶏を甘辛く照り焼きにしたものをスキレットに並べて熱々のうちに……というかんじです」
「ふぅん、農作業の合間にねぇ……」
「あ、野菜がいっぱい、嬉しいかも……」
あ~、辺境伯の毒見よりも先に食べ始めているが。
まあ、それだけ信用して頂けているっていうことだろう。
「まあ、これは凄いですわ。甘辛くて、肉にもしっかりと味が絡んでいますわね。これもリククックではないのですか?」
「野菜が美味しい。この黒っぽいのは、中がトロットしていて熱々で。このちょっと硬い歯ごたえのあるものも美味しい」
「ありがとうございます。では次は簡単なもので……」
リククック、かなりメジャーな食材のよで。
そして次は煮物かぁ。
ここはちょいと手順をショートカット。
作り置きしておいた肉じゃがと豚の角煮を大きめのお椀に盛り込むだけ。
「それじゃあ、こいつを持って行ったら、そこの小上がりで二人も賄い飯だな」
「了解だにゃ」
「ありがとうございます!!」
ということで、先に殿下たちに煮物椀を持って行ってもらってから、先ほどまで出していたものすべてをお盆に載せて、二人にも手渡す。
「あとはこっちでやるので。飲み物は」
「「セルフサービス!!」」
「そういうこと」
さて、次は洋食でいうところのメインメニュー。
強肴といって、揚げ物や酢の物などの順番。
これはもう、さっきから温めてある天ぷら鍋の出番だな。
今日の天ぷらの種は『北海縞エビ、スルメイカ、糸縒鯛、茄子、南瓜、しし唐、舞茸』の豪華盛り合わせ。
まあ天ぷらの衣などは前にも作った通り。
あとは景気よく一つずつ揚げると、皆敷を敷いた加護に彩りよく盛り付ける。
小皿におろししょうがと大根おろし、その横には別のさらに抹茶塩。
そして熱々の天つゆを注いで、持っていくだけ。
「あ、持っていきます!!」
「いいからいいから。あとは二品だから大丈夫だ」
立ち上がりそうなマリアンを止めてから、殿下たちの前に天ぷら籠と天つゆ、薬味を並べていく。
「お待たせしました。強肴の『季節の野菜と魚介類の天ぷら』です」
まあ、こっちの世界に来てからは、季節なんて関係なく仕入れが出来ているようだが。
それでもある程度の統一性はあるようだ。
「これは……揚げ物ですか?」
「はい。熱々のうちにどうぞ。こちらの天つゆにつけてお食べください。好みで大根おろしと生姜おろしを天つゆに溶かしてもいいですし、逆に抹茶塩を指でつまみ、パラッと掛けて食しても美味しいです。では、次の支度がありますので」
そう告げて厨房に下がる。
お嬢さんたち用に天ぷらを揚げないとならんのでね。
――プツッ
「こ、こはシュリンプ? こんなにプリプリとしているものは久しぶりですわ」
「この茸も美味しい。シュリンプも、魚も臭みが無くてとても美味しい」
「この緑色の抹茶塩というのですか、これはまた風味が独特ですが、うん、美味しいですね」
「魚介類の鮮度が素晴らしいですわ。独自の仕入れ先があるのですね……素晴らしいですわ」
ははは。
運命の神様経由のチート仕入れですけれどね。
ということで、残るはご飯ものと留め椀、香の物。
そして水菓子(甘味)だが。
ご飯ものは『高菜とちりめんじゃこの混ぜご飯』。
留め椀は味噌汁、ささがきゴボウと焼き豆腐ってところか。
まあ、このあたりはちょいと工夫されているので、ここでは作り方は秘密という事で。
ゴボウをささがきしたあと、ちょっとだけ手間をかける必要があるのでね。
高菜とちりめんじゃこは時間停止してある材料を取り出して、刻んで炊き立てご飯に混ぜるだけ。
それをお椀に盛り付けてから、殿下たちの前へ。
「こちらがご飯ものと留め椀です。基本的にはこれで食事系はおしまい、最後に水菓子……まあ、デザートがでますので」
「ありがとう。これは大麦……ではないわね? それに小さな魚が混ぜてありますけれど」
「そのままで大丈夫です」
そう説明して厨房へ。
そしてデシャップの前でご飯と留め椀を待っているお嬢さんたち。
「ユウヤぁ、ご飯が欲しいにゃ」
「わ、私もお願いします」
「ちょっと待ってろよ……ほれ」
二人にもご飯と留め椀を手渡すと。
最後は水菓子。
「……うちの店のデザートから、少しずつカットして盛り付けるか」
自家製の『キウィフルーツのパルフェ』と、冷凍してあるカットケーキを取りだす。
といっても、ティラミスとラズベリーショコラをカットしてさらに盛り付ける。
皿の中央には、ワイングラスにグラノーラを引いてヨーグルトを掛け、そこにキウイフルーツのソースを注ぐだけ。
ちゃんとデザ―トフォークとスプーンも添えておく。
「お待たせしました。水菓子……コース最後のデザートです。本日はティラミスケーキとラズベリーショコラ、そしてキウイフルーツのパルフェです。ごゆっくりとお楽しみください」
丁寧にあいさつをして、これでコースはおしまい。
ちなみにだが、普段の宴会ではここまでのコース料理なんて用意はしない。
ごく稀に、知人が接待に使うからといって連絡を寄越してくれた時に用意する程度。
もっとも、これぐらいのコースをササッと用意できるようになれたのも、全ては親方衆の厳しい指導のおかげである。
まあ、一部は冷凍ものを使っているがね。
「まあ、まるで宝石箱のようですわ。それにこの甘い香りが……ンン~♪」
「この緑色の果物のソース、気に入りました。それに、この茶色いケーキも最高です、もっと食べたいです持って帰りたいです」
「ははは。流石にお持ち帰りには適していませんので」
「うう……残念。それよりも、フローラはいつでもこれを食べることが出来て狡い」
あ、アードベッグ辺境伯のお嬢さんに飛び火したか。
まあ、そこんところは美味くやってください。
それにしても……。
楽しそうに食べている王女殿下たち、貴族の子女どころか王族って言われて緊張していた部分もあるが、こうしてみると普通の女子大生や近所のOLさんのようにしか見えないよなぁ。
そして青い顔をして困っている辺境伯。
何かあったのですかねぇ。
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