隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~

呑兵衛和尚

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王都ヴィターエで、てんやわんや

97品目・特別待遇と伝説の料理人、そして越境庵の裏技(プチフールと、エビスの生ジョッキ)

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 大食祭初日。

 昼間はビーフィータ達の肉串の露店にちょっとだけアドバイスを行った。
 そしてその夜は、料理人組合のプレアさんとエドリントさんという壮年の男性が来店。
 今はのんびりと二人で語らいつつ、酒を楽しんでいる真っ最中。
 他にもフリー客がやって来ては、定番メニューの焼き鳥盛り合わせを食べつつ、仲間内で酒を酌み交わしている。
 まあ俺の眼を盗んで、こっそりと羊皮紙か何かにメモを取っている所を見ると、料理人もしくはどこかの商会の従業員なんだろうなぁと苦笑するしかない。
 まだ大食祭は始まったばかり、うちは審査対象外だから危険視されてはいないだろうけれどねぇ。

「しかし、このシュバイネハクセという料理は実に素晴らしいです。ほんのりと塩味のきいた肉は大変柔らかく、フォークでも簡単にほぐれます。そしてこのパリッと香ばしく焼きあがった皮が実にいいアクセントになっているじゃないですか。そして、一緒に焼かれている芋のホクホク感と、トマトの酸味がお酒を進めてくれますねぇ……この純米酒というのを、もう一杯ください、」
「ありがとうございます。マリアン、ちょいと頼めるか?」
「かしこまりました。では、お注ぎします」

 エドリントさんもすっかり慣れてきたようで、最初の緊張感はなんのその、いまやいっぱしの常連のように楽しんでいるようで。
 そして、いい感じで接客しているマリアン。
 シャットも奥のテーブル席で、どこかの貴族風の男女相手に料理の説明をしている真っ最中。

「ふむふむ。では、この焼き鳥の盛り合わせをタレと塩で、もう一人前ずつ頼みたい。あと、少し腹が減っているので、なにか腹に溜まりそうなものを作って頂けると嬉しいとシェフに伝えて貰えるかな?」
「かしこまったにゃ。そちらの方は、何か追加注文はあるかにゃ?」
「欲しいものはあるのですけれど……」
「なにかにゃ?」
「瓶に入っているラムネを頂けると。あと、この世のものとは思えないスイーツがあるという噂を聞きまして」

 シャットが困った顔でこっちを見ている。
 まあ、店の規模も小さいので、一応は聞こえていますよ。

「シャット、プチフールでよろしければご用意しますと伝えてくれるか?」
「プチフール?」
「一口大ケーキの盛り合わせですよ。ほら、こっちのメニューに書いてある奴です」
「裏メニューにゃ!!」
 
 マリアンが気を利かせて、もう一枚のメニューをシャットに手渡す。
 そっちは常連対応メニューで、主に貴族や王族専用。
 そこにプチフールも掲載されている。

「ということで、プチフールと言って一口大のケーキの盛り合わせなら作れるにゃ」
「では、そちらでお願いしますわ」
「あいにゃ」

 さて、プチフールの注文が来たので、厨房倉庫ストレージから冷凍のケーキをいくつか取り出し、軽く解凍をしますか。
 使うケーキは、ダブルベリー(ストロベリーとラズベリー)、バスクチーズケーキ、ティラミス、ミルクレープ、そして堅焼きプリン。
 いつも通り包丁が通るあたりでカットして、残りは冷凍へ。
 そして時間加速で解凍したのち、四角いデザートプレートに綺麗に盛り付け。
 中心には小さめのカップに移した堅焼きプリン、その周囲に四角くカットしたケーキを添える。
 あとはホイップ生クリームを絞って完成。
 以前、アイリッシュ殿下にも出したことがあるので、デザート作りについてはそれほど手間はかからない。

「ユウヤ店長、今度、これの盛り付け方を教えていただけますか?」
「そうだな。マリアンに任せてもいいかもな」
「ありがとうございます。ではお持ちしますので」

 デザート用のナイフとフォークを添えて、マリアンが貴族達にデザートを届ける。
 そして、今のを見て他の客達も目を丸くしているんだが。
 さすがに酒飲みたちには、甘いデザートの盛り合わせは興味はあるものの、手を出しづらいんだろうなぁ。 
 だが、今のデザートを見て、エドリントさんとプレアさんはウンウンと頷いている。

「それにしても……ここの料理は素晴らしい。もしも大食祭の審査対象であったなら、間違いなく王室御用達を得ることが出来たでしょうね」
「何いっているんですか。エドリントさん、ユウヤの酒場はとっくに王室御用達を貰っていますよ。二人の王女殿下の推挙がありましたのでね」
「なんですと!! そのような報告は、私は聞いて……んん、ゴホン。いえ、なるほどそうでしたか」
「まあまあ、それよりも大食祭初日、どこも繁盛店が盛り上がっているようですけれど、それ以外の店舗にもそれなりにアドバイスをした方がいいかもしれませんよ。たった一日ですけれど、客が全くいない露店もあったようですので」

 ほう、それはまた、大変だな
 せっかく手間暇をかけた料理か見向きもされないっていうのは、流石に辛いよなぁ。

「そうでしたか……しかし……ううむ……どうしたものか」
「客がいないのは場所の問題とか、宣伝の仕方とか、色々とありますよね。場所についてはまあ仕方が無いという事になりますが、宣伝については、各自で創意工夫してみるといいと思いますが。実は、うちの店の前でも、こんなことがありまして……」

 ビーフィータたちの露店について、今日起こった出来事を簡単に説明する。
 そもそもこっちの世界の串肉というのは、焼いてからハーブソルトを振るか、もしくはタレに漬けてからそのまま食べるかのどっちか。
 焼き鳥やかば焼きのように、タレに潜らせてからもう一度焼く、二度三度と繰り返して焼くといったことは行われていない。そもそもタレ自体が珍しく、大抵は岩塩と香草を纏めてすり潰し、振りかけたものが主流になっている。

「ふぅむ、宣伝ですか。いや、確かに料理人は料理を作るのが仕事、そういった所までは気に掛けていないというのが事実。もっと、全体を見つめる目を養った方がいいという事でしょうか」
「確かに、この店は細かい所まで行き届いています。料理を作るユウヤ店長、その補助であるマリアンさん。接客や配膳、飲み物の提供はシャットさんとマリアンさんの二人が行っていますし、料理人との連携もいい。確かに、王都に幾つもあるレストランの中には、給仕に対して上から目線で仕事を押し付ける料理人もいるようですからな」
「綱紀粛正というわけではありませんが、もっと柔軟な目で、色々と対策を考える必要がありますねぇ……」
 
 難しい話に発展しているようだが。
 うちの店がうまく回っているのは、俺が流れ人で日本のやり方をそのままこっちに継承しているだけだからなぁ。
 それだって、文化や風習の違いでうまく回らない事が大半だと思う。
 うちは、信頼関係で纏まっているんじゃないかなぁ。
 
「まあ、難しい話は別の機会にでも。こちらはサービスです、新ショウガの豚肉巻きです」

 この新ショウガは、今朝方届いたもの。
 しっかりと洗ってから根の部分の皮を剥き、そこから薄くスライスした豚バラ肉を丁寧に巻き付けて、炭火で焼いたもの。
 味付けはタレで、食べるときは茎の部分をちょいと摘まんで、肉が巻いてある部分を食べるといい。
 新生姜は根生姜と違い、水分を多く含んでいる上にツンとした辛さが少ない。
 そこに旨味の宝庫である豚バラ肉と、さらに相性のいい焼き鳥のタレが絡んでいるのだから、不味いはずがない。

「これは……シャクッ……んんん、凄いですね」
「魔法の触媒であるジンジャーを、このようにして食べるなんて。ああ、確かに若い生姜は魔力を蓄積していないので辛みも少なくて食べやすいのですか」

 なんだか、納得しつつ黙々と食べている。
 俺としても、難しいことを考えて渋い顔をしつつ料理を食べられてもねぇとは思うので。
 
「プレアさん、この新生姜の肉巻きですよ、これこそが、ユウヤ店長の言いたかったことなのでしょう。新ショウガ、豚バラ肉、そしてタレ。どれ一つ欠けていても、この味にはなりません。そしてこうやってひと手間掛けて一体感を持たせることで、初めて一つの料理として成立する。流石ですよ」
「いえ、そんな面倒くさいことは考えていませんよ。ただ、旬のものを美味しく食べて貰う、料理人にとってはそれでいいと思っています」
 
 まったく、俺が考えていないようなことを思いつくとはね。
 申し訳ないが、そんな理屈っぽく料理を作った事はないのでね。
 まあ、そう思ってくれて話がうまく纏まるのなら、それでいいとは思うけれど。

「またご謙遜を。でも、確かに厨房とホールの一体感というのは大切でしょうね」
「まあ、それも今後の課題ということで」

 それで話は付いたらしい。
 後は酒のお代わりを楽しみつつ、追加の料理を楽しむだけ。 
 そしていい時間になったので店は閉店。
 片づけをしてとっとと寝る事にしますかねぇ。

 〇 〇 〇 〇 〇

――半月後
 大食祭も半月が経過、ここから折り返しということで各店舗や露店もかなり気合が入っている。
 巷では、すでに審査が終わっているとか、王室御用達を受ける店舗は決定しているといったうわさがあちこちで流れ始めている。
 それはうちの酒場でもたまに話し程度に聞こえてくるので、ちょいとだけ小耳にはさんではいるけれど、何処も知らない店ばかり。
 さらには、その噂に名前も出てこなかった料理人たちが、うちのメニューを真似て露店や自分の店などで料理を提供しているらしい。
 別に真似られるのは構わないとおもうが、『あのユウヤの酒場の〇〇〇料理』といった具合に宣伝するのだけは勘弁してくれ。

「でも、そういう感じで名前が出てくるっていうことは、それだけユウヤ店長の料理というものがこの王都にも広まりつつあるっていう証拠です。これは栄誉と思っていいと思います」
「アイリッシュのいう通りです。何と申しますか、ユウヤ店長はもっと貪欲になっても構わないと思っていますわよ?」

 今日の夜は、一見さん御断り状態。
 というのも、夕方5つの鐘と同時に王室の紋章を付けた馬車が目の前にやってきて、アイラ王女殿下とアイリッシュ王女殿下が来店したのだから、堪ったものではない。
 店の外には変装した二人の近衛騎士が、そして店内奥の席では、やはり近くに二人の女性騎士が立って護衛を務めている。

「いえ、私はそれほど欲を持っていません。何ていうか、足るを知る……とでもいうのですかねぇ」
「それは、どういう意味でしょうか? もしよろしければ、教えて頂きたいのですけれど」
「ええ、それは構いません。足るを知るというのはですね……」

 自分の置かれている状況や環境を受け入れ、それでいて日々、感謝しつつ生きているという事。
 足る、すなわち満たされているという事。
 
「ということで、身分相応に幸せである、この環境を大切にするというのが、俺にとって大切な事でしてね。こうやって、俺の料理を食べに来てくれる親しい人達がいる、一緒に働いてくれる友人もいる。それを壊さないように、日々切磋琢磨しつつ、決して欲に溺れる事はないように……って感じですかねぇ」
「はぁ。それでは、此度の大食祭においての特別審査対象となっても、それを受け入れる事はないっていうことになりますわね」
「ユウヤさん、実は、今日ここに来た理由は、その特別審査対象についての事を説明したかったのです。というのもですね……」

 王室御用達、これを持っている商会はどこの商会よりも優先的に王家と交渉を行うことができる。
 だが、個人で持っている場合はどうなのか。
 その場合、望むのならば宮廷料理人として王室に招待される。
 その場合は子爵としての爵位も授けられ、希望すれば荘園領主となる事も可能である。
 とまあ、いいことづくめなのだが、俺としては興味はない。

「……ありがたい話ですけれど、俺にとってはここが一国一城。この店を守ってのんびりと生きていきますよ。それに、適当なタイミンクで、隣国にでも観光に行こうとは思っていますし、まだまだこの世界を知りたいという気持ちもありますので」
「それは残念です。でも、アイラお姉さまも、そういう返答が来ることは予想をしていたのですよね?」

 そうアイリッシュ王女殿下が問いかけると、スッと羽根扇子で口元を隠して頷いている。

「ええ、ですから本日は確認程度ですわ。それで、今日は越境庵は開けてくださらないのでしょうか?」
「さすがに、ここで開けるのはねぇ……今日のところは、そちらの席でご勘弁を」
「では、今日は私達がまだ食べたことのない料理……と言いたいところですけれど、チーズフォンデュを頂きますわ」
「私も同じのでお願いします。あと、普通に営業しても大丈夫ですから」
「それでは、少々お待ちください。」
 
 さすがに貸し切りというのは悪いと思ったらしく、アイリッシュ王女殿下が店を開けてもいいと話してくれた。ということで、急ぎシャットが看板を外に掛けなおしてくれたので、外で店に入るかどうか考えていた客たちがドッと入って来た。

「……あら? 見た事のある方が入って来たと思いましたら、ブリリアント・サヴァランじゃないですか。それに総料理長のエドリントと、料理人組合のプレアまで一緒とはねぇ」

 次々とカウンター席が埋まっていく中、アイラ王女殿下が席に着いた客に顔見知りがいたらしく声を掛けている。
 そして声を掛けられた当の本人たちは、立ち上がったまま一礼して、席に座り直している。
 まあ、お忍びで王女殿下が来た時の対応……っていう奴なんだろうなぁ。
 それにしても……ブリリアント・サヴァランさんと呼ばれた男性。外見がなんていうか、黒豹なんですけれど。
 それも、頭の部分だけ黒豹で、体の部分は黒く短い体毛を持った人間っていうかんじ。
 同じ獣人のシャットとは、外見の作りが全く違うんですけれど、どういうこと?
 シャットはほら、年頃の女性に獣の耳が付いている感じ、体については多分だが、ブリリアントさんと同じなんだろう。
 腕をまくると、びっしりと毛に覆われていたからなぁ。

「ま、色々とあるということでいいか」

 よし、考えるのは止めだ、そういう人達で一括り。
 
「とりあえず、何をお飲みになりますか?」
「私は瓶ビールを、エドリントは純米酒でいいのかね?」
「ええ。昨日のものよりも、少し辛めのやつでお願いします。それと、ブリリアントはどうしますか?」

 そう尋ねつつ、エドリントさんが飲み物のメニューを指さして一つ一つ説明している。
 では、マリアンに対応を任せるとして、俺はエドリントさんの純米酒を捜しますか。

「エドリントさんお気に入りの国稀・純米酒の酒度が大体+5前後ですからねぇ。では、こちらを」

 厨房倉庫ストレージから取り出したのは、磯自慢・純米吟醸。
 実は酒度という点では国稀と同じ+5度だが、こちらは純米吟醸。
 おなじ酒度なら、純米吟醸の方が辛く感じる。
 これは酒度以外にも酸度、アミノ酸度といったものが関係しているのだが、お客さんを待たせているので今回は割愛。

「マリアン、すまないがこいつを頼む。銘柄は磯自慢・純米吟醸。こいつも封切りの酒だ」
「いつものよりも、小さい瓶なのですね?」
「そいつは四合瓶といってね……そもそも、磯自慢は手に入れるのが難しい酒なんだ」

 酒の仕入れについてだが、酒屋との契約で入手しているのが大半。 
 だが、その酒屋が取り扱っていない酒はどうするのか。
 それについては、残念だが諦めるしかない。
 うちは幸い、札幌市内で4店舗の酒屋から仕入れているだけでなく、東京と奈良、京都の酒屋からも仕入れを行っている。
 そのうちの一軒から入荷し在庫していたのが、この磯自慢。
 残念なことに、この一本を売り切ったらうちの店でも入手するのは難しいだろう。
 
「さて、それでお飲み物はお決まりでしょうか?」
「最初は焼き鳥の盛り合わせを食べたいと思っている。それに合う飲み物で、料理の邪魔をしないものならば、なんでもいい」
「かしこまりました」

 さて、こいつはなかなか難易度が高い。
 焼き鳥の塩に合うなら辛口の淡麗系の飲み物。
 同じくタレに合わせるのなら、甘口のコクがあるものがいい。
 しかし、焼き鳥の盛り合わせはタレ・塩合わせて盛り込んでいるので。
 ということは、あれで行くか。

「シャット、ちょいと焼き台を頼む」
「わかったにゃ!! 」

 さて、一旦奥の倉庫に向かい、そこで越境庵へ向かう。
 焼き鳥のタレにも塩にも合うもので、うちの店は初めて。
 となると、日本酒やウイスキー系、ハイボールは避けておいた方がいい。
 となると、やっぱりこれしかない。
 冷蔵庫からジョッキを取り出し、ビールサーバーからナマビールを注ぐ。
 それをその場において、急いで越境庵から店に戻ると、カウンターの中で厨房倉庫ストレージ経由でビールジョッキを取り出した。

「お待たせしました。エビスビールの生です」
「ほう、エビスビールというと、噂では商売繁盛の神という」
「ああ、ご存じでしたか……って、どうしてそれを?」
「とある商会の主人が話していてね。これがそうなのか……では、まずは乾杯といこうじゃないか」

 そうブリリアントさんが告げると、エドリントさんとプレアさんが乾杯してまずは一口。

「ゴクッゴクッ……ぷっはぁぁぁぁ、ふむ、これは凄いな」

 やばい、この飲みっぷりだと、一気に飲まれてお代わりが必要になる。
 となると、どうにかして越境庵に行かないでビールを手に入れる方法を捜さないと……。
 いや、待てよ?
 厨房倉庫ストレージ経由で冷蔵庫からジョッキを取り、ビールサーバーから注げないものか?
 そう考えて、カウンターの中でこっそりと試してみるのだが、目に見えないのでこれは無理。
 となると、やはり裏技を使うか。

「シャット、もうちょい頼む」
「あいにゃ」

 急ぎ倉庫に向かう扉を開けて中に入ると、その横に越境庵の暖簾を掲げる。

――シュンッ
「よし、扉を開いておけば大丈夫だな。どうせここには関係者しか入ってこれないし、今は従業員のみの立ち入り許可にしておけばいい」

 そう考えて越境庵の扉は開けたままで、倉庫から店へと戻っていく。
 ちょうどカウンターではブリリアントさんがビールを飲み干していた。

「主人、すまないがこれをもう一杯いただけるか?」
「かしこまりました。シャット、焼き台は俺が変わるから、奥の倉庫からナマビールを注いで持って来てくれ」
「んんん? 奥の倉庫から……(越境庵、開けっ放しかにゃ?)」
 
 途中から小声で問いかけてきたので、おれは静かに頷く。
 すると満面の笑みを浮かべて、シャットが奥の倉庫へと走っていき、急ぎ生ビールを注いで持ってきた。
 よし、これで今日はどうにかできる。
 ただ、いくら従業員限定とはいえ、越境庵を開けっぱなしにすると俺の魔力がどこまで持つか。
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