106 / 142
王都ヴィターエの日常と
106品目・シャット家の、家庭の事情……っていうほどでもなく(アイスクリームとプリン・ア・ラ・モード)
しおりを挟む
夜の営業。
本日は、奥のテーブル席をシャットの家族で独占して貰った。
マリアンの話していた通り、シャットの家族は全部で7名、両親とシャット、その妹、ずっと下にさらに三つ子の姉妹と、実に女性家族というところである。
男性は父親一人のみかと思ってたが、実はシャットの上に兄貴たちが3人いるらしく、とっくに成人して独立しているらしい。
これにはマリアンも初耳だったらしく、目を丸くしている。
ちなみにそういう事情から、シャットは本日は休み……と話したのだが、せめて自分の家族のテーブルについては、自分で責任をもって給仕するという事でそこだけは任せることにした。
「さて、とりあえず焼き鳥の盛り合わせ、豚の角煮、炒飯と焼きそば、揚げ物の盛り合わせまでは出したのだが……」
「凄い食欲ですわね……まるでシャットさんが7人もいる感じですわ」
「にゃははは。あたいの家族はみんな、よく食べるにゃ。ということで、飲み物の追加を持っていくにゃ」
「ああ、それは任せるので、伝票も自分で切っておいてくれるか?」
「あいにゃ」
いそいそと奥の倉庫へと走っていくシャット。
そこから『合鍵』の能力で越境庵に移動し、ドリンクを用意してくるらしい。
ほんと、正式な従業員になってからというもの、生ビールのジョッキも定番メニューに加えることが出来たので非常に便利である。
マリアンにしても、純米酒やワインの注文を受けた時、自主的に越境庵に飛んでいってはいくつかのお酒をチョイスして戻って来る。
ほんと、しっかりした従業員になったことで。
「……う~にゅ。ユウヤぁ、なんかこう、がっつりとお腹に溜まる肉料理が欲しいって言われたにゃ」
「がっつりと腹に溜まる……ああ、それならちょいと待っていろ」
カウンターの端っこに、ケバブロースターと牛もも肉が刺さった金串を用意し、火をつける。
――ジリジリジリジリ
ゆっくりと回転を始めたケバブ肉が焼きあがり始める。
先に周りだけは焼いてあるので、ここからはシャットに任せておくか。
「ほらよ、ナイフとトルティーヤ、サワークリーム、タバスコ……と、大体こんなものだろうさ。あとは大丈夫か?」
「任せるにゃ……って、こら、近寄ると熱いから離れて居るにゃ」
「シャットおねーちやん、これも食べ物なの~ん」
「なんか、いい匂いがするの~ん」
「ボプティもシャルトも少し離れるにゃ、やけどするにゃ」
「ははす。シヤットお姉さんのいうことを聞くんだぞ、あとで美味しいデザートをあげるからな」
「デザート!」
おっと、これはいかん。
そっちに気が散ったかな。
そして焼きあがった端から肉を削り、トルティーヤで巻いてテーブルに運んでいるシャット。
ほんと、随分と手慣れたものだよなぁ。
「そういえばさ、ユウヤ店長。藩王国に嫁いだ第二王女さまが帰省するっていう話は聞いているかい?」
そうカウンター越しに話しかけてきたのは、ご存じ冒険者クラン『ミルトンダッフル』のフランチェスカ。その隣では久しぶりに顔を出したグレンガイルさんの姿もある。
「へぇ、園遊会のときに戻ってきたらよかったのに。それなら藩王と一緒に戻ってこれたんじゃないかねぇ」
「それがさ。なんでもちょっとした病気というか、体調を崩してしまったらしくてね。ようやく船旅に耐えられるようになったとかで、急ぎ戻ってきたらしいんだよ」
「おお、その話なら、うちにきた冒険者たちも騒いでおったな。大藩王に嫁いだものの、他の妃と中が良くなかったとか、いじめられておったとか、色々と噂が立っておったぞ」
「へぇ、そいつは色々と大変ですねぇ」
うん、この手の話しに深く踏み込んではいけない。
そう俺の直感が警鐘を鳴らしている。
ただ、帰省理由がいじめとかはあり得ないような気もするので、病気なのかなぁとちょいとは気になってしまう。
「そういえば、グレンさんは最近はご無沙汰でしたけれど、仕事が忙しかったので?」
「うむ。鍛冶組合のほうで、年に一度行われる品評会があるのじゃが。そこの審査を引き受けていてな。流石にわしが打った刀は品評会には出せないのでな、今年はずっと審査員を引き受けておったのじゃよ」
「そうそう、グレン爺さんのロングソード、あれが欲しくて海向こうから来た冒険者もいるっていう話じゃないか……うちも新しいショートソードが欲しいところだけれどねぇ」
「フランチェスカのは、この前、手直ししたばかりじゃろ。まだまだ使えるし、あれだけ手になじんでいるのじゃから、新しい武器に持ち変えるとバランスが悪くなるぞ」
ふぅん。
品評会ねぇ。
やっぱり刀剣監査会みたいなものがあるのかねぇ。
「そうそう、それで思い出したんだけれどさ。ユウヤ店長、ちょいと一つ頼まれてくれないかい?」
「はぁ、どんな頼みか分かりませんが、可能なものでしたら」
「今度さ、うちのクランでダンジョン中層の大規模攻略が始まるんだけれど。現地でベースキャンプを設置するんだけれど、どうしても料理人の伝手が無くてねぇ……」
「さすがに、ダンジョンの中まで同行して欲しいっていうのは無理ですよ?」
「違う違う。以前、ウーガ・トダールでサーカス団の団長に頼まれて料理を作ってたいたじゃないか。あんな感じで、ちょいとうちにも料理を作って欲しいんだよ。出来るなら多めに、そして日持ちをするものがいいんだけれどさ」
「アイテムボックスは、誰か持っているのですか?」
さすがに、いくら大量の料理を作っても保存状態が悪いと傷んでしまう。
そして時間停止タイプの効果があるアイテムボックスでないと、多分数日も持たないと思う。
「それが、いないんだよねぇ……うちの団員たちはさ、ユウヤさんを雇ってきて貰えばっていうんだけれど、流石に自分で店を持っている人を長期間も雇うなんてできないからさ」
「そうですねぇ……」
サーカス団のときは、その日のうちに食べて貰うという条件で作っていたので寸胴ごと渡すことが出来た。だが、今回はそうはいかない。
詳しい話を聞くと、迷宮中層部に一か月ほど滞在して攻略するっていうのだから、本格的な遠征の準備が必要になって来る。
そうなると、いくら俺が作った料理といっても持って三日。
最悪、ここから持って行って迷宮入り口に着くころには傷んでしまう。
「……う~ん、やっぱり難しいですねぇ」
「そうだよねぇ、うん、わかった、この話はここでおしまいという事で」
「時間停止処理が施されているマジックアイテムは、ミルトンダッフルでは保有しておらんのか」
「以前は一つだけあったけれどね。実は前回の遠征時に壊しちゃってさ……あれって、オーバーホルト遊牧国家の古代遺跡以外では発見されていなくてさ。修理するにしても、高位の錬金術師でないと無理らしいからねぇ……さすがに、海向こうにまで行って修理してもらうには、予算が足りないんだよ」
「へぇ、やっばりマジックアイテムっていうのは高価なんですねぇ」
うちはほら、なにかとマリアンが作ってくれるので大変重宝しているんだけれど。
基本的にマジックアイテムを作れる錬金術師っていうのは希少らしく、マリアンでもそれほど強力なマジックアイテムは作ることができないらしい。
「そりゃそうさ。そもそも、マジックアイテムを制御するために必要な魔導核っていうのがあって、それが入手できないんだよ。そんじょそこらの魔物を討伐しても、手に入る魔石じゃ純度が足りないし。かといって、ドラゴン種やベヒモスといった迷宮中層の支配者クラスの魔物なんて、あたいたちじゃ勝て実なんてないからさ」
「はぁ、そいつはまた……なんというか、聞いているだけで身震いしてきますね」
以前、アイリッシュ王女殿下がうちのラムネのビー玉がマジックアイテムに必要不可欠だとか話していたけれど。ここは黙っていた方がよさそうだな。
「ユウヤぁ……うちのチビスケたちが、デザートを食べたいそうだにゃ」
「はいはいっと……シャット、あのアイスクリーマーは使えたか?」
越境庵の厨房に設置されている、アイスクリームマシーン。
カップのアイスを機械にセットして抽出するタイプなのだが、確かシャツとかマリアンには使い方を教えてあったような気がしたんだが。
「あ、私が使えますわ。では、ちゃっょとシャットに教えてきますので、お店を任せてもよろしいでしょうか?」
「ああ、そいつは助かる。それじゃあ頼むわ」
「う~にゅ、いつもすまないにゃ」
「気にすることはありませんわよ、シャットも覚えてくれれば、私の手間も省けますし。なにより、こっちの店でもデザートとして使えますので」
いや、まったくその通りで。
豊穣季が終わり、今の季節は冥神月の1季。
マリアン曰く、これから気温が高くなり、ものすごく熱い月神季がまもなく訪れる。
地球の季節で表現すれば、今が春でまもなく初夏。
月神季が猛暑の季節というところらしい。
そんな季節になったらなったで、また新しくメニューを考える必要があるよなぁ。
「ユウヤぁ、これでいいかにゃ」
奥の倉庫から、シャットが両手にソフトクリームを持ってきた。
まあ、初めてにしてはいい感じじゃないか?
マリアンも両手に持っているので、ちょうどシャットを除く子供たちの分は用意できたことになる。
「それじゃあ、あと二つも作って来てくれ、こっちは特製プリン・ア・ラ・モードも用意してやるから」
「最高だにゃ!! では、先にチビスケたちの分だにゃ」
「はい、どうぞ~」
「ありがとにゅ」
「ありがとーにゃ」
はは。
子供は遠慮する必要はなし。
それにしても、シャットから話を聞いていたが、本当に乳製品が大好物なんだなぁ。
自宅ではチーズも作っていると、さっき親父さんも話をしていてシャット本人がびっくりしていたからな。
どうやらシャットが実家に仕送りをしているおかげで、実家では鎧牛を数頭、飼育できるようになったとか。そいつから牛乳を搾ることができるらしく、山羊乳のチーズよりも濃厚で大層評判がいいとか。
「さて、それじゃあプリン・ア・ラ・モードでも作りますか……」
「よろしくおねがいするにゃ」
「はいはい、お任せあれっと」
シャットの家族もしばらくは王都に滞在するそうで、たまには顔を出してくれることになったし。
家族と離れて暮らしているシャットにとっても、楽しい時間が過ごせそうだ。
本日は、奥のテーブル席をシャットの家族で独占して貰った。
マリアンの話していた通り、シャットの家族は全部で7名、両親とシャット、その妹、ずっと下にさらに三つ子の姉妹と、実に女性家族というところである。
男性は父親一人のみかと思ってたが、実はシャットの上に兄貴たちが3人いるらしく、とっくに成人して独立しているらしい。
これにはマリアンも初耳だったらしく、目を丸くしている。
ちなみにそういう事情から、シャットは本日は休み……と話したのだが、せめて自分の家族のテーブルについては、自分で責任をもって給仕するという事でそこだけは任せることにした。
「さて、とりあえず焼き鳥の盛り合わせ、豚の角煮、炒飯と焼きそば、揚げ物の盛り合わせまでは出したのだが……」
「凄い食欲ですわね……まるでシャットさんが7人もいる感じですわ」
「にゃははは。あたいの家族はみんな、よく食べるにゃ。ということで、飲み物の追加を持っていくにゃ」
「ああ、それは任せるので、伝票も自分で切っておいてくれるか?」
「あいにゃ」
いそいそと奥の倉庫へと走っていくシャット。
そこから『合鍵』の能力で越境庵に移動し、ドリンクを用意してくるらしい。
ほんと、正式な従業員になってからというもの、生ビールのジョッキも定番メニューに加えることが出来たので非常に便利である。
マリアンにしても、純米酒やワインの注文を受けた時、自主的に越境庵に飛んでいってはいくつかのお酒をチョイスして戻って来る。
ほんと、しっかりした従業員になったことで。
「……う~にゅ。ユウヤぁ、なんかこう、がっつりとお腹に溜まる肉料理が欲しいって言われたにゃ」
「がっつりと腹に溜まる……ああ、それならちょいと待っていろ」
カウンターの端っこに、ケバブロースターと牛もも肉が刺さった金串を用意し、火をつける。
――ジリジリジリジリ
ゆっくりと回転を始めたケバブ肉が焼きあがり始める。
先に周りだけは焼いてあるので、ここからはシャットに任せておくか。
「ほらよ、ナイフとトルティーヤ、サワークリーム、タバスコ……と、大体こんなものだろうさ。あとは大丈夫か?」
「任せるにゃ……って、こら、近寄ると熱いから離れて居るにゃ」
「シャットおねーちやん、これも食べ物なの~ん」
「なんか、いい匂いがするの~ん」
「ボプティもシャルトも少し離れるにゃ、やけどするにゃ」
「ははす。シヤットお姉さんのいうことを聞くんだぞ、あとで美味しいデザートをあげるからな」
「デザート!」
おっと、これはいかん。
そっちに気が散ったかな。
そして焼きあがった端から肉を削り、トルティーヤで巻いてテーブルに運んでいるシャット。
ほんと、随分と手慣れたものだよなぁ。
「そういえばさ、ユウヤ店長。藩王国に嫁いだ第二王女さまが帰省するっていう話は聞いているかい?」
そうカウンター越しに話しかけてきたのは、ご存じ冒険者クラン『ミルトンダッフル』のフランチェスカ。その隣では久しぶりに顔を出したグレンガイルさんの姿もある。
「へぇ、園遊会のときに戻ってきたらよかったのに。それなら藩王と一緒に戻ってこれたんじゃないかねぇ」
「それがさ。なんでもちょっとした病気というか、体調を崩してしまったらしくてね。ようやく船旅に耐えられるようになったとかで、急ぎ戻ってきたらしいんだよ」
「おお、その話なら、うちにきた冒険者たちも騒いでおったな。大藩王に嫁いだものの、他の妃と中が良くなかったとか、いじめられておったとか、色々と噂が立っておったぞ」
「へぇ、そいつは色々と大変ですねぇ」
うん、この手の話しに深く踏み込んではいけない。
そう俺の直感が警鐘を鳴らしている。
ただ、帰省理由がいじめとかはあり得ないような気もするので、病気なのかなぁとちょいとは気になってしまう。
「そういえば、グレンさんは最近はご無沙汰でしたけれど、仕事が忙しかったので?」
「うむ。鍛冶組合のほうで、年に一度行われる品評会があるのじゃが。そこの審査を引き受けていてな。流石にわしが打った刀は品評会には出せないのでな、今年はずっと審査員を引き受けておったのじゃよ」
「そうそう、グレン爺さんのロングソード、あれが欲しくて海向こうから来た冒険者もいるっていう話じゃないか……うちも新しいショートソードが欲しいところだけれどねぇ」
「フランチェスカのは、この前、手直ししたばかりじゃろ。まだまだ使えるし、あれだけ手になじんでいるのじゃから、新しい武器に持ち変えるとバランスが悪くなるぞ」
ふぅん。
品評会ねぇ。
やっぱり刀剣監査会みたいなものがあるのかねぇ。
「そうそう、それで思い出したんだけれどさ。ユウヤ店長、ちょいと一つ頼まれてくれないかい?」
「はぁ、どんな頼みか分かりませんが、可能なものでしたら」
「今度さ、うちのクランでダンジョン中層の大規模攻略が始まるんだけれど。現地でベースキャンプを設置するんだけれど、どうしても料理人の伝手が無くてねぇ……」
「さすがに、ダンジョンの中まで同行して欲しいっていうのは無理ですよ?」
「違う違う。以前、ウーガ・トダールでサーカス団の団長に頼まれて料理を作ってたいたじゃないか。あんな感じで、ちょいとうちにも料理を作って欲しいんだよ。出来るなら多めに、そして日持ちをするものがいいんだけれどさ」
「アイテムボックスは、誰か持っているのですか?」
さすがに、いくら大量の料理を作っても保存状態が悪いと傷んでしまう。
そして時間停止タイプの効果があるアイテムボックスでないと、多分数日も持たないと思う。
「それが、いないんだよねぇ……うちの団員たちはさ、ユウヤさんを雇ってきて貰えばっていうんだけれど、流石に自分で店を持っている人を長期間も雇うなんてできないからさ」
「そうですねぇ……」
サーカス団のときは、その日のうちに食べて貰うという条件で作っていたので寸胴ごと渡すことが出来た。だが、今回はそうはいかない。
詳しい話を聞くと、迷宮中層部に一か月ほど滞在して攻略するっていうのだから、本格的な遠征の準備が必要になって来る。
そうなると、いくら俺が作った料理といっても持って三日。
最悪、ここから持って行って迷宮入り口に着くころには傷んでしまう。
「……う~ん、やっぱり難しいですねぇ」
「そうだよねぇ、うん、わかった、この話はここでおしまいという事で」
「時間停止処理が施されているマジックアイテムは、ミルトンダッフルでは保有しておらんのか」
「以前は一つだけあったけれどね。実は前回の遠征時に壊しちゃってさ……あれって、オーバーホルト遊牧国家の古代遺跡以外では発見されていなくてさ。修理するにしても、高位の錬金術師でないと無理らしいからねぇ……さすがに、海向こうにまで行って修理してもらうには、予算が足りないんだよ」
「へぇ、やっばりマジックアイテムっていうのは高価なんですねぇ」
うちはほら、なにかとマリアンが作ってくれるので大変重宝しているんだけれど。
基本的にマジックアイテムを作れる錬金術師っていうのは希少らしく、マリアンでもそれほど強力なマジックアイテムは作ることができないらしい。
「そりゃそうさ。そもそも、マジックアイテムを制御するために必要な魔導核っていうのがあって、それが入手できないんだよ。そんじょそこらの魔物を討伐しても、手に入る魔石じゃ純度が足りないし。かといって、ドラゴン種やベヒモスといった迷宮中層の支配者クラスの魔物なんて、あたいたちじゃ勝て実なんてないからさ」
「はぁ、そいつはまた……なんというか、聞いているだけで身震いしてきますね」
以前、アイリッシュ王女殿下がうちのラムネのビー玉がマジックアイテムに必要不可欠だとか話していたけれど。ここは黙っていた方がよさそうだな。
「ユウヤぁ……うちのチビスケたちが、デザートを食べたいそうだにゃ」
「はいはいっと……シャット、あのアイスクリーマーは使えたか?」
越境庵の厨房に設置されている、アイスクリームマシーン。
カップのアイスを機械にセットして抽出するタイプなのだが、確かシャツとかマリアンには使い方を教えてあったような気がしたんだが。
「あ、私が使えますわ。では、ちゃっょとシャットに教えてきますので、お店を任せてもよろしいでしょうか?」
「ああ、そいつは助かる。それじゃあ頼むわ」
「う~にゅ、いつもすまないにゃ」
「気にすることはありませんわよ、シャットも覚えてくれれば、私の手間も省けますし。なにより、こっちの店でもデザートとして使えますので」
いや、まったくその通りで。
豊穣季が終わり、今の季節は冥神月の1季。
マリアン曰く、これから気温が高くなり、ものすごく熱い月神季がまもなく訪れる。
地球の季節で表現すれば、今が春でまもなく初夏。
月神季が猛暑の季節というところらしい。
そんな季節になったらなったで、また新しくメニューを考える必要があるよなぁ。
「ユウヤぁ、これでいいかにゃ」
奥の倉庫から、シャットが両手にソフトクリームを持ってきた。
まあ、初めてにしてはいい感じじゃないか?
マリアンも両手に持っているので、ちょうどシャットを除く子供たちの分は用意できたことになる。
「それじゃあ、あと二つも作って来てくれ、こっちは特製プリン・ア・ラ・モードも用意してやるから」
「最高だにゃ!! では、先にチビスケたちの分だにゃ」
「はい、どうぞ~」
「ありがとにゅ」
「ありがとーにゃ」
はは。
子供は遠慮する必要はなし。
それにしても、シャットから話を聞いていたが、本当に乳製品が大好物なんだなぁ。
自宅ではチーズも作っていると、さっき親父さんも話をしていてシャット本人がびっくりしていたからな。
どうやらシャットが実家に仕送りをしているおかげで、実家では鎧牛を数頭、飼育できるようになったとか。そいつから牛乳を搾ることができるらしく、山羊乳のチーズよりも濃厚で大層評判がいいとか。
「さて、それじゃあプリン・ア・ラ・モードでも作りますか……」
「よろしくおねがいするにゃ」
「はいはい、お任せあれっと」
シャットの家族もしばらくは王都に滞在するそうで、たまには顔を出してくれることになったし。
家族と離れて暮らしているシャットにとっても、楽しい時間が過ごせそうだ。
242
あなたにおすすめの小説
異世界で姪が勇者になったけれど、俺はのんびり料理屋を開く
夕日(夕日凪)
ファンタジー
突然姉が亡くなり、その遺児である姪の『椛音』を男手一つで育てていた元料理人の『翔』。
椛音が十六歳になった時。二人は異世界に召喚されて…!?
椛音は勇者として異世界を飛び回ることになり、椛音のおまけとして召喚された翔は憧れていた料理人の夢を異世界で叶えることに。
デスクレイフィッシュ、大猪、オボロアナグマ──。
姪が旅先から持ち込む数々の食材(モンスター)を使った店を、翔は異世界で開店する。
翔の料理を食べると不思議と力が湧くようで、いろいろな人物が店を来訪するように──。
※表紙は小鶴先生に描いていただきました!
勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた
秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。
しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて……
テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件【書籍化決定!】
木ノ花
ファンタジー
【第13回ネット小説大賞、小説部門・入賞!】
マッグガーデン様より、書籍化決定です!
異世界との貿易で資金を稼ぎつつ、孤児の獣耳幼女たちをお世話して幸せに! 非日常ほのぼのライフの開幕!
パワハラに耐えかねて会社を辞め、独り身の気楽な無職生活を満喫していた伊海朔太郎。
だが、凪のような日常は驚きとともに終わりを告げた。
ある日、買い物から帰宅すると――頭に猫耳を生やした幼女が、リビングにぽつんと佇んでいた。
その後、猫耳幼女の小さな手に引かれるまま、朔太郎は自宅に現れた謎の地下通路へと足を踏み入れる。そして通路を抜けた先に待ち受けていたのは、古い時代の西洋を彷彿させる『異世界』の光景だった。
さらに、たどり着いた場所にも獣耳を生やした別の二人の幼女がいて、誰かの助けを必要としていた。朔太郎は迷わず、大人としての責任を果たすと決意する――それをキッカケに、日本と異世界を行き来する不思議な生活がスタートする。
最初に出会った三人の獣耳幼女たちとのお世話生活を中心に、異世界貿易を足掛かりに富を築く。様々な出会いと経験を重ねた朔太郎たちは、いつしか両世界で一目置かれる存在へと成り上がっていくのだった。
※まったり進行です。
借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~
わんた
ファンタジー
「今日中に出ていけ! 半年も家賃を滞納してるんだぞ!」
現代日本にダンジョンとスキルが存在する世界。
渋谷で錬金術師として働いていた裕真は、研究に没頭しすぎて店舗の家賃を払えず、ついに追い出されるハメになった。
私物と素材だけが残された彼に残された選択肢は――“現地販売”の行商スタイル!
「マスター、売ればいいんですよ。死にかけの探索者に、定価よりちょっと高めで」
提案したのは、裕真が自作した人工精霊・ユミだ。
家事万能、事務仕事完璧、なのにちょっとだけ辛辣だが、裕真にとっては何物にも代えがたい家族でありパートナーでもある。
裕真はギルドの後ろ盾、そして常識すらないけれど、素材とスキルとユミがいればきっと大丈夫。
錬金術のスキルだけで社会の荒波を乗り切る。
主人公無双×のんびり錬金スローライフ!
中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた
Mr.Six
ファンタジー
仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。
訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。
「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」
そう開き直り、この世界を探求することに――
玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~
やみのよからす
ファンタジー
病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。
時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。
べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。
月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ?
カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。
書き溜めは100話越えてます…
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる