型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と

第252話・火事と喧嘩は港町の華……なのですか?

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 カバンのサンマルチノの一角をお借りして、臨時フェイール商店の営業開始となったのは良いのですが。
 お客さんが一段落してきた夕方、むくつけき男たちが店内にズカズカとやってきまして。
 なにやら責任者を出せと、ものすごい剣幕で怒鳴り散らしていたので、ソーゴさんが外に放り出しました。
 現場からは以上です。

「クリス店長、ソーゴさんを止めなくていいのですか? あの人は商人であって冒険者でもなんでもないのですよね? もしもあの方が怪我でもしたら……」
「あ……そういえばそうなのですけれど。確か、そこそこ強かったのはクレアさんもご存知ですよね?」
「それでも、心配なのは事実ですから!」

 不安そうな表情を浮かべながら、クレアさんが窓の外を眺めています。
 たしかにあの人は商人ですけれど、自分から護衛を買って出たのですよ。
 つまり腕っぷしには自信があるということではないでしょうか?
 そう思って私もお客さんと一緒に入り口から外を眺めていますと、暴漢3人を相手に互角に喧嘩をしていますよ。武器は使わず、素手で戦っているというのはなんというか、凄いの一言に尽きますね。

「あっ、ソーゴさま後ろですっ!!」
「オーケイ。ありがとうクレアちゃんっと」

――ドッゴォォォッ
 後ろから襲い来る暴漢の右パンチをしゃがんで躱すと、そのまま右足を大きく踏み込んで暴漢の左わき腹に拳を叩き込みました。
 
「ゴブッ……」

 体をくの字に曲げつつ、口から何かを吐き出して倒れる暴漢2号さん。さらに近くにあった角材を手に、もう一人が走り込んできましたけれど。ソーゴさんは慌てることなく、上から振り下ろされる角材を左回し蹴りで横に蹴り飛ばすと、角材はたまたまその場にいた暴漢1号さんの顔面を痛打。
 
――ゴイィィィィィン
「あ、あれは痛いです、痛いなんてものじゃありませんよ」
「体を鍛えていなかったら、下手すりゃ瀕死だぞ……ソーゴさん、もうその辺で大丈夫だよ」

 イブさんが私たちの後ろから声を掛けました。
 その直後、路地から巡回騎士たちが飛んできて、暴漢たちをふんじばっていますけれど。
 ソーゴさんの近くまで騎士たちが向かうと、なにやら話し合いが始まったようです。
 それになにやら、雲行きが怪しくなってきたようにも見えますよ。

「お、おいおい。俺は被害者の方なんだが?」
「とりあえず、状況的には貴方が一方的に3人の無抵抗な男たちに暴力をふるっていたというふうに見えましたが」
「ちょっと待ってください、こちらの状況をご説明しますので」

 急ぎ足で店から出て、目の前で押し問答のようになっているソーゴさんと騎士の元に駆け寄ります。

「君は?」
「私は、そこの『カバンのサンマルチノ』の店内で間借りしているフェイール商店の責任者です。こちらが商人ギルドの商会章と、これが身分証です。代表者名は私、クリスティナ・フェイールです、ご確認を」

 そう説明している最中にも、別の騎士たちによって取り押さえられている暴漢たちがなやら文句を垂れています。やれ自分たちが被害者だの、客として店に来たのにいきなり外に放り出されて一方的に暴行されただのと。
 これだけ目撃者がいるのですから、そのような嘘が通用するはずはありませんよ。

「隊長、目撃者から聞き取った話と、そこの男の状況が一致しました」

 別の騎士が店の入り口付近にいたお客さんに事情を聴いてきたらしく、私の目の前にいる隊長らしい騎士に報告を行っています。これで誤解が解ければ問題はないのですけれど。

「ふぅむ。まあ、護衛としての仕事をしただけ、武器は使っていない。数は3人で多勢に無勢、目撃者の説明と状況も一致か……よし、そこの3人を牢にぶちこんでおけ!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺たちはさ、ライト男爵に雇われている冒険者ですよ、主人の命令でそこのお嬢さんを連れて来いって言われただけなんだって」
「そうしたら、いきなりその男が俺たちを外に放り出したんだぜ? 悪いのはそっちだよな?」

 それまでおどおどしていた暴漢たちが、ここにきて態度を一変。
 堂々と自分たちの無罪を主張し始めましたが。

「ライト男爵……ああ、タイキッカ商会の会長か。まあ、その名前を出せば自分たちが有利になるとでも考えているのだろうが……名前を出した以上は、この件については詳しく調査させてもらうよ。迂闊に名前を出したら、タイキッカ商会まで確認に行く必要があるっていうことまでは、頭は回っていないようだな」
「「「ああっ!!」」」

 はい、三人とも、アウトーです。
 ゴロツキや不良雇われ冒険者が背後にいる親分の名前を出した場合。
 容易く権力に屈して無罪放免となるか、それともこのタイミングで細かいところまで調査されるかの二択しかないんですけれどね。
 実家であるアーレスト商会でも、まったく関わりのないチンピラがうちの名前を出したということがありまして。王都の巡回騎士が本店まで来たことがあるのですよ。
 その件はまあ、置いておくとして。
 暴漢たちは真っ青な顔になって、そのまま連行されていきました。
 はぁ、それでは急いで店に戻りましょうか。

………
……

 
 店内に戻ると、クレアさんとキリコさんがお客さんの応対をしてくれていました。

「店長、急ぎ雑貨コーナーの応対を!! キリコさんが目を回しそうですよ」
「ふぁぁぁい。このナイフとフォークはセットなので一つの商品だったような……はい、えぇっと、では5つずつで5セットですね? こっちのタオルもセットだろうって? て、てんちょぉぉぉぉぉぉ!!」
「はいはい、今、代わりますね。お疲れ様でした」

 私を見たキリコさんが涙目で助けを求めていますので、急ぎ裏から臨時カウンターの中に潜り込みましたよ 

「ごめんなさい。あとは私が引き受けますので、キリコさんは試飲コーナー戻っていただいて結構ですよ。まずはいっぱい、自分が飲んで体を休めてくださいね。あのハーブティーは疲れた心も癒す効果があるって説明に書いてありましたから」
「ふぁ、ふぁぁぁぁい」

 試飲コーナーに移動したキリコさんは、さっそくカモミールとローズマリーのブレンドされたハーブティーを飲んでいます。その香りに引き寄せられるように、数名のお客さんもフラフラと試飲コーナーへと移動していきました。
 さて、それではお客さんのご迷惑をお掛けした分、サービス向上に努めなくてはなりませんね。

「はい、大変ご迷惑をお掛けしました。皆さまの楽しいひと時を奪ってしまった償いとして、今から夕方6つの鐘が鳴るまで、全商品2割引きとさせていただきます!!」
「「て、店長!!」」

 ああっ、キリコさんとクレアさんの絶叫が聞こえます。
 でも、2割引きで目をキラーンと輝かせているお客さんにとっては、クレアさんの担当の衣料品やキリコさんの試飲コーナーはあまり関係がないようで。
 むしろ二割引きならばと、私が担当している日用雑貨にお客が殺到しています。
 さあ、ここからが私のターンです。
 
――バッグのサンマルチノ・カウンター
「ねぇイブさん。あっちのお店は2割引きだってさ。こっちは?」
「そんなはずがないでしょうが。そもそも、タイキッカ商会の連中は喧嘩っ早くて口が回るっていうぐらい、あんたたちも知っているじゃないか。だから外で喧嘩が起きても、それを眺めているだけで逃げも隠れもしなかったでしょうが」

 いっつも冷やかしにやってくる主婦の一人が、そう私に話しかけて来る。
 今、彼女が使っているバッグもうちの商品だし、ご近所のひとたちはうちの籐製バッグを愛用してくれているんだけれど。
 うちがいつも暇なので、店の前にある広場でお茶を飲んでは、ひやかしに入ってくる。
 でも、今日はフェイール商店が店内で臨時開店したため、いち早く駆けつけては色々な商品を購入していたらしい。

「あはは。確かにねぇ。でもさ、あの子は大丈夫なのかい? ライト男爵に目を付けられたら、個人商店なんて仕入れ先や荷馬車が潰されるんじゃないかい?」
「まあ、彼女がここにいるのは臨時店舗で、このあとは王都に向かうんだってさ。だから大丈夫じゃないかい?」
「それならいいんだけれどさ……でも、あれだけの品ぞろえだったら、ずっとこの街にいて貰いたいんだけれどねぇ」

 うーん。
 それは難しいだろうなぁ。
 彼女は海向こうのハーバリオス王国から来たっていう話だったし、どうせ王都で商売を終えたら本国に帰還するだろうからさ。

「あはは、まあ、確かに彼女の扱っている商品は、このあたりでは流通していないぐらい珍しいし、高級品もあるからねぇ……私も、色々と買わせてもらいたいんだけれどさ」
「だったら、買ってあげればいいじゃない?」
「そのためにも、うちの商品を販売しないとだめなんだよねぇ……」
「あら。そろそろ帰って食事の準備しないと……それじゃあね~」

 そういつもの口調で帰っていく奥さん。
 うん、ここから見えるだけでも、フェイールさんはお客さんをしっかりと捕まえたようだし。
 でも、ライト男爵が動いている……ねぇ。
 少し警戒するように、ソーゴさんにも話を通しておいた方がよさそうだね。 
 
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