型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

文字の大きさ
260 / 282
第8章・海洋国家へ向かう道

第337話・柚月とペルソナの井戸端会議

しおりを挟む
 朝。
 
 ほんっっっっっっっとうに久しぶりの、ゆったりとした朝です。
 それはもう、高級な宿のフカフカベッドに体を埋めて、ぐっすりと熟睡していましたよ。お陰様で疲れも取れているようです。
 
「ん~、朝ですか……今日は配達が来るので、急いで用意を……」

――カラーン、カラーン
 ああ、朝6つの鐘が鳴っています。
 この街の教会の鐘の音は、やや高音……とっても透き通った音が町の中に響いていますよ……。

「って、そんな呑気なことを考えている場合ではありませんよ。ペルソナさんが納品に来てしまうじゃないですか、どうして私は目覚ましをセットしなかったのでしょうか……って、いえ、セットしたはずですけれど……アラームが止まっていますわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 ええ、これはあれです、勇者語録・初版にも記されていた『二度寝』っていうやつです。
 そもそも二度寝なんていう言葉は、貴族社会にしか存在していません。
 連日連夜のパーティーで疲れた貴族が朝起きたにもかかわらず、疲れているという理由で再びベッドに潜り込んで現実から目を背けるという。
 怠惰な貴族がよく行う悪習ですわ、ええ。
 身近に一人いましたので、よく知っていますわ。

『クリスっち~、ペルソナさんがきているしぃ。もう起きたし?』

 窓の外から柚月さんの声が聞こえてきました。
 それってつまり、この窓のすぐ下でペルソナさんが待っているのですよね。
 これは急がなくてはなりません。

………
……


――その窓の下
 いつもの通り、朝6つの鐘と同時に姿を現わした馬車。
 ペルソナが操る型録通販のシャーリィの配達馬車が、宿の前に到着した。
 ちょうど柚月ルカが宿の前で待っていたので、ペルソナも御者台から飛び降りると、帽子を取って丁寧に挨拶を始める。

「おはようございます。型録通販のシャーリィより、お届け物をお持ちしました……って、あの、クリスティナさんは本日はいらっしゃらないのですか?」

 努めて冷静にそう問いかけると、柚月もニシシと笑みを浮かべていた。

「クリスっち~、ペルソナさんがきているしぃ。もう起きたし?」

 その声が聞こえたのか、二階の窓からクリスティナが手だけを出してプンブンと振り回している。
 それでペルソナも、大体の事情を察した。

「ああ、本日はちょっとお寝坊さんなのですか」
「昨日、とんでもなく走りまわされたからね。おかげてクリスっちは疲れが取れていないと思うし。本当なら、露店も開かないでゆっくりと休めればいいんだけれど」
「そうでしたか……それにしても、彼女がそこまで疲労しているなんて、一体なにがあったのですか? よろしければお聞かせいただきたいのですが」

 頤に手を当てて踏むと考えるペルソナ。
 ここ最近の魔族の動向、それについてブランシュからも警告があった。
 幻獣王であるブランシュの入り場所はヘスティア王国。
 獣人と幻獣族の住まう地であり、それらの中には異世界でいう忍者のような、情報収集能力に長けた種族もいる。
 以前の魔族によるカマンベール王国侵攻、それ以後、ブランシュは魔族の動向についていろいろと調査を続けていた。
 そられの情報の一つに、東方諸国における魔族の活性化という項目があった。
 原因は不明であるものの、魔族が聖地と呼ばれる場所の奪回作戦を開始しているのではという噂が流れてきていたのである。
 当然ながら、この話は精霊女王であるシャーリィの元にも届けられ、そして型録通販のシャーリィの配達人たちにも安全のために情報共有されていたのである。

「それでね……話せば長いのでカクカクシカジカだし」
「精霊魔術による圧縮言語……ああ、なるほど、東街道側からの魔族侵攻があり、霊峰を狙ってきていたと。それはなかなか厄介ななことですね。でも、そのためにクリスティナさまに労力を無理強いしただけではなく、エセリアル馬車を寄越せとは……」
「まあ、その件は紅っちとノワっちが、カネック王にがっちりと釘を刺したので終わったし」
「そうでしたか。では、私どもが干渉することではありませんね。しかし、聖地を狙ってくるとは、現魔王もいよいよ追い詰められたというか……アリサちゃんの件でしょうね」

 現魔王は、初代魔王の持つ力を得て世界を征服するなど、当初は全く考えてはいなかった。事実、一部の商人などは魔王国で審査を受けたのち、堂々と魔王国内で商売を行っている。
 ただ、一部の聖地奪還については魔族の悲願でもあるため、どうしても活動していたという部分はあった。
 それがハーバリオス王国が先代勇者である柚月ルカたちを召喚した理由でもある。
 彼女たちはメメント大森林の聖域、それを魔族に奪取されないようにと召喚された。
 そしてこの件については既に解決しているので、彼女たちは一年後、無事に地球へと帰還している。
 つまり、今の魔族にとっては、人間と敵対するという行為は必要ないはずであった。
 それゆえに、ここにきての魔王の心変わりともいえる人間の住まう地域への侵攻は、予想外というものである。

「アリサちゃんの力を取り上げるため……んんん、でも、彼女は精霊界にいるから、魔族は手出しできないし?」
「ええ、その通りです。ただ、魔族が完全に精霊界に入ることができないわけではありません。守護者の門を力づくで突破するか、もしくは契約の精霊の祠を通じてなら向かう事は出来ますが……それでも、シャーリィさまの許可が無くては立ち入ることはできません。つまり、突破されたとしてもすぐにはじき出されるのがオチです」
「……それじゃあ、聖地を取り戻す理由は?」
「……世界規模での、魔族の浸食度を高める。それにより、魔族の力をより強く引き上げることができるのと同時に、魔王自らも新たな力に覚醒し、無理やりにでもアリサちゃんの中に眠る魔王の力を取り出すのか……もしくは」

――コクッ
 ペルソナの言葉を聞いて、柚月も頷く。

「アリサちゃんの中の、魔王の覚醒。聖地を魔族が侵食することで、精霊界の力も弱体化させるとか?」
「可能性はあります。ただ、聖地というのはいわば、勇者の加護により活性化している存在。ならば、勇者たちが聖地へと向かい、その地の要を活性化させればよいだけです」
「う~ん、あ~したちも今から霊峰に向かった方がいいし?」
「それはどうでしょうね。むしろ、この件をハーバリオス王国の国王に進言し、勇者たちに動いて貰った方がいいのでは?」

 そうペルソナが告げるが、柚月としてはどうにも納得がいっていない部分がある。
 それが、クリスティナの存在。
 友人である彼女には、危険な橋を渡って欲しくはない。
 だが、クリスティナも勇者の系譜、聖地活性というのであれば、勇者たちよりも彼女の方が適任であるといえよう。
 ゆえに、この件をハーバリオス王国国王が知ったとすれば、すぐにでもクリスティナに世界各地の聖地巡礼を命じるに決まっているから。

「なんか、大変だし。どうにもいいアイデアが浮かんでこない……でも、国王にはかいつまんで報告はしておいた方がいいとおもうし……」
「それに、カネック王の事ですから、すでに動いている可能性もありますよ……と、どうやらクリスティナさんが来たようですね」
「ん、それじゃあ、いまの話はここだけの秘密にするし。クリスっちが危険なことに首を突っ込むのは、彼氏であるペルソナっちとしても良くはないと思っているでしょう?」
「当然ですね……と、おはようございまます、クリスティナさん。型録通販のシャーリィより、お荷物をお届けにきました」

 まるで何事もなかったかのように、笑顔で挨拶をするペルソナ。
 その姿を見て、柚月もいつものようにニシシと笑っている。

「はい、ちょっと遅れて申し訳ありません。それではさっそく、納品をお願いします」
「畏まりました。柚月さん、荷物を降ろしますので、アイテムボックスへの収納をお願いします。クリスティナさんは、検品を頼めますか?」
「お任せください! それではさっそく、はじめましょう」

 いつものように検品を始めるクリスティナ。
 そののち、ペルソナか゛帰った後で露店を開くものの、予想外の客の多さにさらに疲れることになるとは、彼女も予想はしていなかったであろう。
しおりを挟む
感想 762

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

結婚式後に「爵位を継いだら直ぐに離婚する。お前とは寝室は共にしない!」と宣言されました

山葵
恋愛
結婚式が終わり、披露宴が始まる前に夫になったブランドから「これで父上の命令は守った。だが、これからは俺の好きにさせて貰う。お前とは寝室を共にする事はない。俺には愛する女がいるんだ。父上から早く爵位を譲って貰い、お前とは離婚する。お前もそのつもりでいてくれ」 確かに私達の結婚は政略結婚。 2人の間に恋愛感情は無いけれど、ブランド様に嫁ぐいじょう夫婦として寄り添い共に頑張って行ければと思っていたが…その必要も無い様だ。 ならば私も好きにさせて貰おう!!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。