白梅奇縁譚〜後宮の相談役は、仙術使いでした〜

呑兵衛和尚

文字の大きさ
1 / 22

一卦・それはたいそう、やんちゃな娘じゃったそうな

しおりを挟む

 昔々。
 神泉華大国の南方にそびえる霊峰・蓬莱山の麓に、須弥という小さな村がありました。
 ある日のこと、この村のはずれに生まれたばかりの女の子が捨てられていました。
 すでに女の子は虫の息、今にも死んでしまいそうな状態。
 放っておけば、あと半刻もたたずに亡くなってしまいます。
 そんな状態の少女でしたが、偶然通りかかった村の長老が彼女の存在に気が付き、何も言わずに抱きかかえると村の中へと戻っていきました。
 この須弥の村はそれほど裕福というわけではなく、かといって貧困にあえぐほど生活が厳しい訳でもありません。

『こんな何処の誰の子とも分からない子供を引き取り、育てるような酔狂な村人などいるはずがない』
 
 普通ならそう思うでしょうが、この村の住人はお人よしばかり。
 すでに人生を謳歌しつくした世捨て人のような人々が集まっているため、女の子は変わり者の長老の家に養子として引き取られ、手厚い看護を受けたのち村全体で少しだけ不自由な生活特訓を強いられながらも、サクサクと育てられました。

 スクスクではなく、サクサク。

 少女は長老や村人に生きるための知恵を学び、どんどん吸収し、それを実践すべく日々を素っ頓狂な修行に明け暮れていたのです。
 畑仕事や狩りの手伝いなど、村では大人と一緒に仕事の手伝いをし、遠くの村まで商売に向かう人には着いて行き、露店の手伝いを行うなど、まるで大人顔負けのような生活を行なっていました。

 そんなある日のこと。
 遠くの村で露店の手伝いをしていた少女は、偶然出会った巡礼中の僧侶からこう告げられました。

『この少女は、八仙の祝福を受けています』と。

 その祝福が何であるのか、僧侶にはわかりません。
 其れもその筈、八仙の祝福を受けているということは、即ち少女は【天女】としてこの世界に顕現した存在、故に下界に住む民人には理解が及ばない存在なのです。
 天女は仙人界の住人であり、たぐいまれなる才覚を秘めてこの世界に顕現するもの。
 そんな凄い力を持つものが、まさか田舎のまた田舎、つまりど田舎に姿を現したなど、国教である覇龍大寺院が認めるはずがありません。
 それこそ腐った支配階層などに知られたら、口封じに殺されるか、自分たちの都合の良い傀儡とすべく禁呪を用いて隷属される可能性もあります。

『この子の加護については、誰にも知られてはいけません』

 僧侶は少女と村人にそう告げ、また巡礼の旅に出ます。
 ですが、村人も少女も僧侶の言葉の意味を理解できず、頭を傾げるだけ。
 因みに少女が加護を受けていようが、村に戻れば普通の村人。
 そもそも旅人すら来ないような僻地、年に一度、春に徴税官がやってくること以外は、外部の人が近寄るような場所ではありません。
 そんな場所ですから、少女は僧侶の言葉などすっかり忘れ、村の仕事を手伝いながら日々の鍛錬を続けていました。
 体内に溢れる【仙気】を高め、仕龍祖父や兄弟子の金寶師範による過酷な修行に明け暮れます。
 何が起きても、どこででも戦えるように、村のどのような道具をも武器として使えるようにと。
 いつか少女が天女であることがバレたときのために、身を守るための武術を磨くように指導を続けました。

 そして少女が16歳になった日。
 変わらない日々に変化を求めたいと、少女は一念発起します。

「私は、村の外の世界を知りたい! こんな何もない村じゃなく、歌劇を見たり美味しい食べ物を食べたりしたい。そう、私は村を出て世界を旅したいと思います」

 ついに娘は立ち上がりました。
 いつまでもこの村にいてはいけない。
 私は、新たな舞台に立つべきなのですと。 
 そして翌日、目を覚ました少女を待ち受けていたのは、朝食の準備を終えた祖父の言葉です。

「よかろう。旅に出たければ、このわしを倒していくが良い!!」

 いつものような日常が始まると思っていた少女は、まさかの祖父の言葉に耳を疑います。
 何故、私が村を出ようとしていたのか?
 そんな疑問が顔に出ていたのか、祖父は食事をとりながら、一言。

「啓示を受けたのじゃよ。今日、お前が旅立つとな……」
「じいちゃん、それを知っていて、どうして私を止めるの?」
「お前はまだ未熟だからな。だが、其れを理由に止めたとして、お前が素直に従うとは思えん」

──パン!!
 鋭い正拳突きが、少女の顔の前で止まります。
 一瞬で祖父が立ち上がり、少女に向かって拳を入れたのです。
 だが、それは少女の持つ皿によって受け止められました。
 【仙気】の力により、皿の強度が増していました。
 岩をも穿つ祖父の一撃に、皿は砕けることなく耐えぬいたのです。
 
「やはり、すでに仙気を自在に操れるようになっていたか……それならば、腕ずくでも止める!!」
「じっちゃん、ごめん!!」

 皿を投げ捨ててから、少女も足を踏み出します。
 素早く間合いを詰め、祖父の懐に肘撃を打ち込むと、そのまま後方に下がる祖父に向かって回し蹴りを撃ち込みました。 
 しかし、少女は計算違いを起こします。
 彼女に武術を教え込んだのは祖父、そしてこの村の人々。
 本来ならば、未だ修行半ばの少女が勝てる相手ではありません。

「くっ……仙人力、開放っ!!」

 でも、体内の【仙気】を循環し、肉体の活動限界点を大幅に引き上げることで、少女は更なる力を手に入れました。
 それはまるで、異世界の活劇のように。
 激しいまでの拳打、蹴撃、投げが繰り広げられます。
 小屋から飛び出し、庭にあった杖を手に、少女は更なる飛躍を見せます。
 祖父も負けじと、近くにあった板凳(功夫椅子)を手に戦いますが、やはり肉体の限界は祖父の方が早く、最後は床に臥した状態に追い込まれました。

「じっちゃん。私は旅に出る……この世界のことを、私は何も知らない。だから、世界を見てくる」
「……勝者はお前だ。誰も、その歩みを止めることはできない……いきなさい」

 その言葉を聞いて、少女は祖父を起こします。
 体の傷に左手を添え、ゆっくりと仙気による治癒を施しました。
 すると怪我は癒え、祖父は戦う前の体力まで回復したのです。

「それじゃあ、行ってきます」
「うむ。じゃが約束しなさい。いつか、旅が終わったら、必ず帰ってくると」
「はい!!」

 祖父に習った武神の挨拶『抱拳礼』。
 それが少女の別れの挨拶でした。
 そして村の外へと向おうとしたとき。

──スッ
 金寶師範もまた、彼女に対して抱拳礼の構えをすると、そのままゆっくりと虎拳の構えを取ります。

「次は俺だ。白梅、村の外へ出るというのなら、村のしきたりに従い八人の拳士を倒さなくてはならない。まだお前は仕龍師父を倒しただけ、残り七人を倒さなくては、この村を出る資格はない!! さあ、かかってきなさい!!」
「金寶師範……あなたの実力は私も痛いほどよく知っています、ええ、本当に痛いほど……だから、そのお礼というかなんというか、ぶっ潰します、ぼよんぼよんのお腹に鉄拳を叩き込ませていただきます!!」

 そう呟くと同時に、白梅も構えを取ると、全力で師範に向かって戦いを挑みました。そして日が暮れるころ、白梅はすべての拳士を倒し、村から出る権利を得ることが出来たのです。

 そして、少女は旅立ちます。 
 須弥の村を出て、まだ見ぬ世界へ。

「あ、でももう暗いから、出るのは明日でいいよね。それに女性……っていうか女の子の姿だと、絶対に馬賊に襲われるからなぁ……」

 村を出て間も無く日が暮れた為、白梅は踵を返し実家へと戻ります。
 そして翌朝、手厚い見送りを受けて彼女は村の外へと旅立ちました。
 身に付けた仙術により骨格を作り替え、尊敬する師父のような逞しい男性の振りをして。
 ですが、白梅の仙術はまだまだ未熟、男性の姿に体を作り替えても、それは『男装の麗人』の姿にほかなりません。
 そんな姿で村の外へ旅立つのですから、彼女に何が起きてもおかしくはないでしょう。  
 少なくとも順風満帆ではないだろうと、村の誰もが理解していましたから。

「白梅は、頭が悪いからなぁ(仕龍師父)」
「基本的な一般教養はまあ及第点だが、応用が利かなくてなぁ(金寶師範)」
「礼節なんぞ基本すら理解しておらんぞ、きっと(令震師範)」
「まあ、でも生きる術については完璧じゃったからなぁ(马赫老師)」
「長い戦が終わって50年以上もたつというのに、今更、戦う術なぞ叩き込まんでもよかったのでは?(子丹大老)」
「まあ、あの子の仕上がりは完璧ベストキッドじゃからなぁ。何か困ったことが起きても、どうにかするじゃろ(仕龍師父)」

 とまあ、彼女を見送った後の村人の話に、長老でもある仕龍師父は一言呟いてその場を立ち去ります。
 さて、白梅の運命や如何に……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

哲子67歳★恋して焦げて乱れ咲き♪

obbligato
恋愛
67歳、二次元大好き独身女子のぶっとんだ恋愛劇。 ※哲子は至って真面目に恋愛しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

処理中です...