発達障害の女、獣医師として生きる。

ひよく

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発達障害と診断されるまで

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この物語の主人公の名を、仮に今日子としておこう。
只今、30代の女である。
発達障害があるが、一般の動物病院に勤務する獣医師でもある。

今日子の障害は、広汎性発達障害というもので、その中でも特定不能の広汎性発達障害とされている。
この障害では、社会性や対人関係の問題、コミュニケーションの障害、興味の偏り、特定の感覚(視覚・聴覚・味覚など)の過敏などが認められる。

但し、学習障害はない。
そのため、発見は遅れやすく、大人になってからようやく診断が下る例も多い。
今日子も、御多分にもれず、そのパターンだった。

今日子は、子供の頃から‘変わった子’ではあった。
ただそれだけで、障害だとは誰も思わなかった。
小中学校では典型的ないじめられっ子。身の回りの片付けはできず、忘れ物多し。
これだけのスペックを見れば、問題児であるが、成績はそこそこ良かった。
特に興味を持った分野はとことん突き詰める傾向があり、日本史や国語などでは、時に教師が舌を巻く知識を披露して見せた。

高校は地域で2番手の公立の進学校へ。
この頃、道を歩いていると、よく知的障害児と間違えられた。
「どこ行くの?おうちわかる?」などと、優しそうなおばさまが話しかけてくれるのだ。
理由は見た目のだらしなさからだろう。
制服のスカートが捲れて下着が見えていたり、ポケットの中身が飛び出していたり、髪がボサボサだったり。
ただ、知的障害ではないものの、実際に障害があると後に診断された事を鑑みると、あの時の親切なおばさまは、強ち間違ってはいなかったのかもしれない。

また、高校の頃に、将来の目標は獣医師と決めた。
理由は簡単。
生き物が好きだったからである。
今日子は幼い頃から動物のいる家庭で育った。
人とのコミュニケーションを苦手とする今日子にとって、動物とのコミュニケーションのほうが、心地良いものだったのかもしれない。

しかし、難関の獣医学部に現役での合格は叶わず、1年浪人する事に。
浪人時代は予備校に通っていたが、受験生らしい悲壮感はあまりなかった。
この頃の最大の楽しみは、予備校の近くの川辺で‘モナ王’を食べる事だった。
1日8時間の睡眠時間は意地でも崩さなかったが、それでも1年後には念願の獣医学部への切符を手に入れた。

獣医学部での6年間は、今日子にとって、まさに青春時代と言えるだろう。
対人関係やコミュニケーション能力に問題のある今日子が、それでも仲間を得る事ができた。
大学とは不思議な世界だ。
同じ目標を持った者達が集まるためかもしれない
今日子だけかもしれないが、多少変わった人間でも、それなりに友人ができる。
そのため、大学でも今日子の‘特性’は‘障害’として、診断される事はなかった。

今日子に広汎性発達障害の診断が下ったのは、社会に出てからである。
コミュニケーション能力の障害、特定の感覚過敏(今日子の場合、聴覚)が、ネックになり、卒後5年で職場を6回変えた。
相手が何を言いたいのかわからない。
自分をどう伝えて良いかわからない。
工事現場の騒音は平気なのに、掃除機の音や本のページを捲る音が怖い。
自分の生活リズムが狂うのも苦手で、特に睡眠時間がまちまちになると、翌朝調子が悪く、何かのキッカケですぐにパニックを起こした。

背に腹は代えられず、獣医師以外の職にもチャレンジした。
例えば、コンビニのバイト。
レストランのウエイトレス。
どちらもすぐにクビになった。
今日子は、同時作業が極端に苦手だった。
何かをしている時に、「すみませ~ん」と声をかけられるだけで、パニックになってしまった。
フリーターとして生活していく事さえ、難しいと悟った今日子は、同じく難しい事なら、獣医師として生きていきたいと思うようになった。

しかし、さすがに自分はどこか違うと思った今日子は、ようやく病院の門を叩き、そこでようやく広汎性発達障害の診断が下った。
だが、その頃には度重なる就職の失敗で、自分に自信を無くしていた。
そのためであろう、重度のうつ病でもあると診断された。

ただ、そこからが自分の特性と向き合う作業の始まりだった。
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