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蓮介

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不思議な現象が起きている。

俺の部屋に物が増えていく。
まず、酒しか入れてなかったはずの冷蔵庫に、野菜やら魚やら牛乳やらが投入されていた。
次に、どこからかちゃぶ台が搬入された。
別に、俺は床で食っても不便は感じていなかったのに。

そして、今、そのちゃぶ台の上には、昭和の匂い漂うオカズが並べられていた。

「で、なんでちゃぶ台なんだ?」

俺は、目の前で茶碗にメシを盛っている人物に疑問を投げかけた。

「この狭い6畳間にデカいテーブルセットが置けると思ったのか?」
銀司は当たり前のような顔でそう答えた。

それはそうだなと納得しかけて、頭を振る。

「そうじゃなくて、なんでお前が、俺の部屋にちゃぶ台と食材持参で、メシを作りに来るんだ?」
という俺の真っ当な疑問は
「お届け物でーす。」
という宅配業者の声にかき消された。

銀司が応対する。

そこでコイツが応対する時点で、何かが間違っているのだが、届いた物を見て、俺は冷や汗をかいた。

「送り付け商法か!?俺は頼んでないぞ!こんな高級そうな羽毛布団!」
「いや、いいんだ。これは俺用だ。流石に男2人でせんべい布団一枚じゃ、キツイぜ。」

確かにそうだ。
男2人で寝るには、狭すぎる。

と、納得しかけて、また俺は頭を振った。

この状況が良く飲み込めない。
銀司が何故か俺の部屋に通ってくるようになって、10日間。
というより、俺が銀司を無理やりヤッてしまって、10日間。

仕事で夜遅くに帰ると、何故か銀司が夕飯を作って待っている。

2人でちゃぶ台を囲って、食事をして、寝る。
朝起きると、奴はいなくなっている。

「お前、酒とコンビニ弁当くらいしか食べていなかったんだろう?生活の乱れは食生活の乱れからだ。生活習慣病になる前に、俺がお前の生活を叩き直してやる。」

そうこう言っているうちに食べ終わると、銀司はちゃぶ台を片付けて、布団を敷いて、さっさと寝てしまった。

「通い妻…イヤ、押しかけ女房?ヤッちまったから、責任とれって意味か???」

本当に何を考えているか、わからない。
イイ年したおっさん2人で、ボロアパートで共同生活。

実際、俺は律子が生きている頃から、銀司には気があった。
律子は愛していたが、それとは別の次元で、銀司の事も好きだったんだ。
それが、突然、再会して…。
目まぐるしい状況の変化についていけず、勢いで手を出してしまった。

当然、もう二度と顔は見せてくれないと思ったのだが、何故かその日から、奴の押しかけ女房が始まった。

意味がわからない。
本当にわからない。

俺は、羽毛布団に包まって、寝入ってしまった銀司の寝顔を見ながら、頭を抱えていた。
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