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第八十九話……二人の気持ち
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「ママ~」
「……よしよし……さすさす……」
次の日の朝食後、ユアさんがリズの癒やしを受けるため、国賓部屋に来ていた。
「ふぅ……。落ち着いたところで、真面目なお話をよろしいでしょうか……。
昨夜、サーズ様と堕胎のお話しをしました。私が王妃になる以上、国家のために尽くす所存であり、その際は迷いなく堕胎する、あるいは生後間もない我が子を自らの手で殺すと私の方からお約束しました。そして、その言葉に二言はないとも。
そう宣言した私を、サーズ様は優しく抱き締めてくださりました。きっと、私自身が気付かない内に、体が震えて、泣いていたからだと思います。
しかし、それは私の迷いから来たものではないと断言できます。その時のことを想像してしまったから、それだけにすぎません。
だからこそサーズ様は、『その時は俺達の愛で苦しみと悲しみを受け入れ、そして乗り越えて行こう』とおっしゃったのだと思います。
『子どもの方がもっと苦しい』『子どもを踏み台にするな』といくら罵られてもかまいません。『あなた達に何が分かるのですか!』と一蹴します」
「たすくもそうだけど、ものすごい覚悟だよね。その時になって、自分の意志が揺らいでいたとしても、絶対に実行に移すために約束してるんでしょ?」
「ええ。ですから、堕胎の際には、私がその時どんな泣き言を述べようが暴れようが、たすく様には必ずやり遂げてほしいのです。一時の女の戯言に決して耳を貸さないでほしい。そのお願いです」
「……」
「分かった、約束するよ。仮に、その前に心変わりしても、そっちの方に修正するよう説得する」
「誠にありがとうございます!」
「意外だね。たすくは、その時の相手の気持ちを尊重するかと思ったのに。別に軽蔑したわけじゃないよ」
「ユアさんにお願いされなければ、そうしたかもしれない。知っての通り、『助け』には短期と長期があるから、できるだけ長期の助けを優先したいんだけど、それは本人にもよるからさ」
「特にその場合の感情は、超短期ですからね。私なら尚更」
「ユアさんには、『マリッジブルー』と『マタニティブルー』をまずは乗り越えてもらわないといけないからね」
「スキル講座で教えた心得があれば、その存在を教えるだけで十分だろうな。よし、早速……」
すると、部屋の扉がノックされた。おそらく、コーディーさんだろう。
「おはようございます! 完成分の資格試験問題を回収に参りました!」
「おはよー。じゃあ、これね。合わせて五十問分、それと対応する参考資料もあるから。上が保育、下が教育ね」
「はっ! 保育と教育、合わせて五十問分と参考資料、確かに受け取りました!」
「あ、ちょっと聞いてもいい? 答えづらい質問で恐縮なんだけど、コーディーさんの四人目の子どもが重度の障害で生まれてきたらどうする?」
「みか、遠慮がないな……。流石、サイコパスだ」
「いや、ちょっと遠慮したからサイコパスじゃないでしょ」
「もしかして、ユア様とはそのお話しを……。それは……考えたことがあります。一番上の子が生まれる時に。
皆さんの前では誤魔化しても無駄なので、正直にお話ししますと、死んだことにする……と思います。あまり考えたくはないので、手段等のその先は考えませんが。
実際、私の周囲にもそのような家族がいました。親戚やその周囲からも同様の話を聞いたことがあります。
親だけがその責任を負うならまだしも、その兄弟姉妹にも負担がある。さらに、親は先に死ぬのに、ずっとその負担はのしかかり、成長とともに大きくなる。国家のことまで考える家族がいたかどうかは分かりませんが、私を除いてもゼロではないと思います。
そのような考えが根底にあるので、いつの間にか、その子どもはいなくなっていました。年齢もバラバラですが、五歳までには全員殺されたと思います。
第二王女殿下、第三王女殿下が立て続けにお亡くなりになった際も、見た目には一切現れない障害をお持ちだったのだろうかとも推察しましたが、殿下方の享年を考えると何とも言えず、結局それ以上考えないことにしました。
いずれにしても、そのような理由があれば黙認されているのが我が国の現実です。もちろん、それ自体も誰も咎めません。国家持続方針から察するに、その方向に進むような気はしています。たすくさんやみかさんの世界から見れば、恥ずかしいことなのかもしれませんが」
「ありがとう、コーディーさん。恥ずかしいことじゃないよ。内心、みんなそう思ってるんだよ。それが人間であり、現実だよ。
普通の健康な赤ちゃんとそうでない赤ちゃんのどちらが生まれてほしいかって聞かれたら、絶対に普通の健康な赤ちゃんってみんな答えるから。どっちでもいいなんて答える人は、正真正銘のバカだよ。
そして、社会が許すなら、その先も誰だって同じ選択をする。だから、堕胎が許されてるんだよ。本当は、何週目だろうが関係ないと思う。それを関係なくすると、『じゃあ生まれてからもいいよね。同じ命なんだから』ってなるから、制限という名の言い訳をしているにすぎない。
こう言うと、『危険思想だ!』って蔑む人もいるだろうけど、私に言わせれば、その人の方が危険な存在だよ。だって、他人の子どもの命を人質にして、その子の親を騙して、洗脳して、人権を訴えて、国家と社会の不合理化を進めようとしてるんだから。思想どころか実行に移してるんだからね。
それが見逃されている現実、それに気付きもしない平和ボケな国民。いや、これに関しては世界中の人達。それを運や人生だと言って簡単に受け入れる。はたまた、そういう存在に蓋をして差別主義者、陰謀論者だとレッテルを貼り、それに乗っかる。
動物の方がまだ賢いよ。そういう子どもは見捨ててるんだから。野蛮でも何でもない。
向こうの世界の人間達の方がずっと恥ずかしいよ」
「たすく様、よろしいでしょうか。私がたすく様の子を妊娠し、もしその状況になったら、どのような決断をするのでしょうか。その場合、私だけでなく、たすく様も主体となり、半分『助け』に相当しないことになります。この際、お聞きしたいです」
セレナの質問に、たすくは姿勢を正した。
「……よしよし……さすさす……」
次の日の朝食後、ユアさんがリズの癒やしを受けるため、国賓部屋に来ていた。
「ふぅ……。落ち着いたところで、真面目なお話をよろしいでしょうか……。
昨夜、サーズ様と堕胎のお話しをしました。私が王妃になる以上、国家のために尽くす所存であり、その際は迷いなく堕胎する、あるいは生後間もない我が子を自らの手で殺すと私の方からお約束しました。そして、その言葉に二言はないとも。
そう宣言した私を、サーズ様は優しく抱き締めてくださりました。きっと、私自身が気付かない内に、体が震えて、泣いていたからだと思います。
しかし、それは私の迷いから来たものではないと断言できます。その時のことを想像してしまったから、それだけにすぎません。
だからこそサーズ様は、『その時は俺達の愛で苦しみと悲しみを受け入れ、そして乗り越えて行こう』とおっしゃったのだと思います。
『子どもの方がもっと苦しい』『子どもを踏み台にするな』といくら罵られてもかまいません。『あなた達に何が分かるのですか!』と一蹴します」
「たすくもそうだけど、ものすごい覚悟だよね。その時になって、自分の意志が揺らいでいたとしても、絶対に実行に移すために約束してるんでしょ?」
「ええ。ですから、堕胎の際には、私がその時どんな泣き言を述べようが暴れようが、たすく様には必ずやり遂げてほしいのです。一時の女の戯言に決して耳を貸さないでほしい。そのお願いです」
「……」
「分かった、約束するよ。仮に、その前に心変わりしても、そっちの方に修正するよう説得する」
「誠にありがとうございます!」
「意外だね。たすくは、その時の相手の気持ちを尊重するかと思ったのに。別に軽蔑したわけじゃないよ」
「ユアさんにお願いされなければ、そうしたかもしれない。知っての通り、『助け』には短期と長期があるから、できるだけ長期の助けを優先したいんだけど、それは本人にもよるからさ」
「特にその場合の感情は、超短期ですからね。私なら尚更」
「ユアさんには、『マリッジブルー』と『マタニティブルー』をまずは乗り越えてもらわないといけないからね」
「スキル講座で教えた心得があれば、その存在を教えるだけで十分だろうな。よし、早速……」
すると、部屋の扉がノックされた。おそらく、コーディーさんだろう。
「おはようございます! 完成分の資格試験問題を回収に参りました!」
「おはよー。じゃあ、これね。合わせて五十問分、それと対応する参考資料もあるから。上が保育、下が教育ね」
「はっ! 保育と教育、合わせて五十問分と参考資料、確かに受け取りました!」
「あ、ちょっと聞いてもいい? 答えづらい質問で恐縮なんだけど、コーディーさんの四人目の子どもが重度の障害で生まれてきたらどうする?」
「みか、遠慮がないな……。流石、サイコパスだ」
「いや、ちょっと遠慮したからサイコパスじゃないでしょ」
「もしかして、ユア様とはそのお話しを……。それは……考えたことがあります。一番上の子が生まれる時に。
皆さんの前では誤魔化しても無駄なので、正直にお話ししますと、死んだことにする……と思います。あまり考えたくはないので、手段等のその先は考えませんが。
実際、私の周囲にもそのような家族がいました。親戚やその周囲からも同様の話を聞いたことがあります。
親だけがその責任を負うならまだしも、その兄弟姉妹にも負担がある。さらに、親は先に死ぬのに、ずっとその負担はのしかかり、成長とともに大きくなる。国家のことまで考える家族がいたかどうかは分かりませんが、私を除いてもゼロではないと思います。
そのような考えが根底にあるので、いつの間にか、その子どもはいなくなっていました。年齢もバラバラですが、五歳までには全員殺されたと思います。
第二王女殿下、第三王女殿下が立て続けにお亡くなりになった際も、見た目には一切現れない障害をお持ちだったのだろうかとも推察しましたが、殿下方の享年を考えると何とも言えず、結局それ以上考えないことにしました。
いずれにしても、そのような理由があれば黙認されているのが我が国の現実です。もちろん、それ自体も誰も咎めません。国家持続方針から察するに、その方向に進むような気はしています。たすくさんやみかさんの世界から見れば、恥ずかしいことなのかもしれませんが」
「ありがとう、コーディーさん。恥ずかしいことじゃないよ。内心、みんなそう思ってるんだよ。それが人間であり、現実だよ。
普通の健康な赤ちゃんとそうでない赤ちゃんのどちらが生まれてほしいかって聞かれたら、絶対に普通の健康な赤ちゃんってみんな答えるから。どっちでもいいなんて答える人は、正真正銘のバカだよ。
そして、社会が許すなら、その先も誰だって同じ選択をする。だから、堕胎が許されてるんだよ。本当は、何週目だろうが関係ないと思う。それを関係なくすると、『じゃあ生まれてからもいいよね。同じ命なんだから』ってなるから、制限という名の言い訳をしているにすぎない。
こう言うと、『危険思想だ!』って蔑む人もいるだろうけど、私に言わせれば、その人の方が危険な存在だよ。だって、他人の子どもの命を人質にして、その子の親を騙して、洗脳して、人権を訴えて、国家と社会の不合理化を進めようとしてるんだから。思想どころか実行に移してるんだからね。
それが見逃されている現実、それに気付きもしない平和ボケな国民。いや、これに関しては世界中の人達。それを運や人生だと言って簡単に受け入れる。はたまた、そういう存在に蓋をして差別主義者、陰謀論者だとレッテルを貼り、それに乗っかる。
動物の方がまだ賢いよ。そういう子どもは見捨ててるんだから。野蛮でも何でもない。
向こうの世界の人間達の方がずっと恥ずかしいよ」
「たすく様、よろしいでしょうか。私がたすく様の子を妊娠し、もしその状況になったら、どのような決断をするのでしょうか。その場合、私だけでなく、たすく様も主体となり、半分『助け』に相当しないことになります。この際、お聞きしたいです」
セレナの質問に、たすくは姿勢を正した。
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