ソウルウォーク ★魔都

神嘗 歪

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三章:一戦目【駅の中のアリス】

「山田くんって、剣道の……経験者『では無い』よね?他にスポーツとかしてた?」

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「山田くんって、剣道の……経験者『では無い』よね?他にスポーツとかしてた?」

この緊迫した状況で、世間話でもするような口振りで刀夜は雪人に聞く。周りの部員たちも「そこッ?!」と、心のなかで一斉にツッコんだ。

「いや、何もっ。強いて言えば筋トレぐれーぇかな。」

こちらも軽い口調で返す雪人。それとは裏腹に、互いの竹刀がギシギシと軋むほど、力押し勝負は続く。

刀夜はそれを聞いて「ああ。」と少し納得した。

体型的にはタッパは雪人は勝っているものの、ぱっと見は刀夜のほうがガッチリしている。けれど一度は止めた雪人の竹刀は、段々と刀夜の顔へと近づいていっていた。

(着痩せするタイプ?  ん~~っ、力じゃ勝てなさそうだなーぉ。)

余裕そうに分析する刀夜だが、竹刀の影が顔に落ちるほど迫っていた。

あと少し雪人が力を入れれば、この均衡は瓦解する。……だから。


 …クンッ。
    「おッわっ!」


こちらが一瞬力を抜いたッ。

予想しなかった行動に、雪人はガクンッと体制を崩す。だがそんなことをしたせいで、雪人の竹刀が自分の竹刀ごと速度を上げて刀夜の顔面に迫ってきたッ。

刀夜は受け押さえていた竹刀の切っ先を右肩斜め下に向け、左に流れるように踏み込むことで、雪人の竹刀と力を切っ先のほうに受け流す。

雪人はそれに対応できない。力の配分を一点に集中しすぎたせいで、体制の修正が間に合わない。

(…………うん、やっぱり。動きが『素人』だ。)

倒れこむ雪人の姿を横目で捉えながら、刀夜は確信した。

佐々木主将から竹刀を奪った俊敏さと、部員を押さえ込んだ力には驚かされたが………剣道での基本動作がまるでなってない。

剣道の知識が無い。少しでもあれば、これほどの身体能力の持ち主だ、ここまで無様に刀夜に翻弄されることは無かっただろう…。

雪人は床に片膝をつくも体を回転させ、すぐに次の反撃に出れるように刀夜の正面を向いた。

…が。
    パンッッ!

その右の肩に、刀夜の竹刀が振り下ろされる。

雪人が反撃する体制を取ると同時に…いや、それよりも早く刀夜も体の向きを変え、攻撃に転じていた。

こんな不毛なことは早く終わらせたかった。勝敗さえつけば、相手も一旦は気を落ち着けてくれるんじゃないかと思ったからだ。

「山田くん。佐々木主将はああ言ったけど、この勝負の勝ち負け関係なく本気で剣道やってみない?」

雪人の肩から市内を外しながら、刀夜は優しく微笑み語りかける。


            …パチッ。


そう言った直後、先ほどから自分の胸で燻っている残り火が火の粉をあげて跳ねたような……そんな感じの痛みが走った…。

「?」

刀夜はこの自分のなかの意味不明な感覚を無視して話を進める。

「しっかり剣道を習えば、きっと君はすぐに俺より強くなれるよっ。」

力一杯に熱弁する刀夜。すると後ろから一年の真竹が割り込んできた。

「待ってください、先輩ッ!  道場に土足で上がり込んでくるような人ですよッ。いくら副部長の先輩の言葉でも賛成できませんッ。」

真竹の後ろにいる部員たちも「そうだッ!」と同調する。

「いや…でも~ぉ、こんな逸材を見過ごすなんて勿体無いし~~ぃ…。」

苦笑いを浮かべながらなんとか真竹たちを宥めようとする刀夜。

「ねぇ、山田くんもここに単身で来たぐらいだから、少しは剣道に興味が…。」

…と言いったところで、刀夜は雪人の異変に気づいた。

「ッ?!  どうしたの…?!」

打たれた肩に手をかけたまま、固まっている雪人…。

「えっ?あれッ?!そんなに痛かったッ???」

慌てて屈みこむ刀夜。

打ち込む音は竹刀だけあって派手な音ではあったが、アザになるほどではいないはず。ましてや、喋れなくなるほどの激痛になる強い打ち込みではない……はずなのだが。
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