ソウルウォーク ★魔都

神嘗 歪

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三章:一戦目【駅の中のアリス】

「…ビビるぐらいなら、出てくんなッ!」

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多数で背後から押さえつけようと、雪人に伸びる手。けれど届くより先に、雪人が振り向き睨む。

「ヒ…ッ!」

男子部員たちの足が、恐怖に一瞬躊躇して止まりかけた。

そこを雪人は見逃さないッ。

「…ビビるぐらいなら、出てくんなッ!」

一人の部員の喉と胸の間に、鋭い雪人の突きが刺さるッ。

「…グッ!!」

部員は衝撃で後ろにスッ飛んだッ。

が、その部員が床に転げる前に、突きの動作で伸びきった雪人の体に左右横から手が伸びた。

剣道は一対一で相手の動作を見極め、これから繰り出す技を予測して対処する。けれどこの場合、「雪人が一人に技をくり出す」自体が、他の部員たちにとって十分につけるスキとなった。

「ッ?!」

両肩を左右から押さえつける二人の男子部員。そのまま体重に任せて取り押さえようとした。

雪人も、伸びきった姿勢で二人分の体重を支えることができず、床に向かってガクンと崩れる。

だが…。

雪人の手からポイッとあっさり投げ捨てられた竹刀。そして…。

  …ダンッ!!

総崩れを留めるように右足を強く踏み抜くと、その空いた手が左右から押さえつけようとする二人の男子の襟首をムスッと掴む。その状態で雪人の腰がグアッと持ち上がった。

「ヴッ、ワア"ッ!!」× 2

それはまるで柔道の背負い投げ。

けれど似てまったく違うのは、二人同時に、それもこんなデタラメな力業で肩越しに投げ飛ばしたことだ。

剣道は上段でも柔道などやったことがない男子二人は受け身などできるはずもなく、思いっきり床に背中を強打する。

痛みに「…ううッ。」と小さく唸る三人の男子部員たち。それを見せつけられた他の男子部員たちも、「このままでは終わらせられないッ!」と声には出さずしも一斉に思った。

雪人もそのただならぬ殺気に気づいたようで、一度放り投げた竹刀を拾い上げると…。

「なに?全員で来ようっていうの?……いいぜッ。受けてやるよッ!」

一触即発ッ。

剣道男子部員 対 雪人一人の構図になった状態に、真竹は見かねて、道場の出入口に向かって走り出した。

…真竹が出ていった後、ジリジリと雪人を取り囲んでいく男子部員たち。けれどそれを…。


 「……………すみません。
   みんな、手を出さないでください。」


ポツリと……弱々しく呟いたのは、雪人に打たれうつむいたままの刀夜だった。
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