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第50話 遊びましょ
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近野は鈴が隠れている部屋に行くと、鈴はまだドレッサーの下に小さな毛布を被って上手に隠れていた。
「スズちゃん。パパ、お友だち迎えにお出かけしちゃったよ」
と言うと、スズは小さく「え?」と言いながら毛布を降ろし、玄関まで走った。その立ち尽くす姿はとても寂しそうだった。
「でもホラお姉ちゃんがいるよ! 一緒に遊ぼ!」
近野は張り切った。鈴にも気に入られたい。
ひょっとしたら将来我が子になるかも知れない。
そんな思いもあったのだ。
鈴は自信なさげに「ウン」と小さい声で返事をして近野の顔を見る。
当然だ。まだ2歳の女の子だ。肉親がいない状態で始めて会ったばかりの人と二人きり。
ここは自分が頑張らねばと近野は思った。
「何して遊ぶ? 何でも良いよ」
「じゃ、デーブーデー……」
と、はにかみながら言う。
「デーブーデー……? DVDかな?」
鈴は赤い顔をしてコクリと頷くとそのまま下を向いてしまった。
近野はその可愛らしい姿がとても好きになった。
鈴の背中を優しく押しながらリビングに二人で向かっていった。
「どのDVDがいいのかな?」
「あの……。スズたんの」
「スズちゃん? どのヤツかなぁ?」
鈴は自分でリモコンを操作すると、レコーダーに入っている撮影されたもののデータだった。
そこには今より少し小さい鈴が鷹也の実家の庭で水遊びをしているところだった。
ハンドカメラで写る鈴は笑顔で撮影者に笑いかける。
「ママ~。おおちな川になったよ~」
「ホントだ。お魚さんはいるかな?」
「いないよ~」
「どうして?」
「みんな、海にいったんでち」
「そうなの?」
「先生に連れられて遠足でちよ」
「そうなんだ」
「ジャバジャバジャバーって」
「そうやって?」
「うん」
「ふふ」
そこには鈴と彼女の母親の声があった。
楽しそうに遊んでいる姿。
鈴はそれを体を揺さぶりながら見ていた。
肉親の痕跡が欲しかったのかも知れない。
鈴はその映像をかけながら自室に戻ったかと思うと、たくさんの絵本を抱えて戻ってきた。
「おねいたん。これ読んで! ご本読んで!」
少し元気が出たようで、声が大きくなっていた。
近野も嬉しくなり彼女に向かって微笑む。
「うん。いいよ」
近野が本を読んでやる。
一文字、一文字を指差しながら。
だが鈴にはどうでもいいらしく、話の途中で本を閉じてしまうのだ。
「まだ終わってないよ?」
「今度はこれ~」
そう言って次の本を渡してくる。
せっかちなのかも知れない。
その姿がたまらなく面白くて近野はクックックと声を立てて笑ってしまった。
「もぉ~。おねいたん、笑わないでよね~」
「ゴメン。ゴメン。クックック」
近野が次の本を開くと、鈴は近野の前に立ってその膝に座った。
ドキリ……。
驚いて少し戸惑った。鈴は近野に心を許したのか?
近くで母親の声がするから安心なのか?
どうなのかは近野には分からなかったが、嬉しくなり少しの間動けなかった。
「ねぇ。おねいたん。ご本読んでよぉ」
「あ! う、うん」
元に戻った近野は本を読み始めた。
鈴はしばらくその膝の上で楽しげに話を聞いていたが、突然膝から立ち上がって、廊下に向けて走り出した。
「え?」
近野が廊下に向かうと、薄暗い廊下の真ん中で背中を向けて立ち尽くしていた。
「スズちゃ……」
「来ないで」
「え?」
「来ないでぇ!」
上着をギュッと握って、ふるふると震えていた。
「ねぇ、ママは? パパはどこにいったの? スズちゃん、ママに会いたいよぉ」
「あの……あのね……」
近野は鈴の後ろ姿を見つめるしか出来なかった。
「スズちゃん。パパ、お友だち迎えにお出かけしちゃったよ」
と言うと、スズは小さく「え?」と言いながら毛布を降ろし、玄関まで走った。その立ち尽くす姿はとても寂しそうだった。
「でもホラお姉ちゃんがいるよ! 一緒に遊ぼ!」
近野は張り切った。鈴にも気に入られたい。
ひょっとしたら将来我が子になるかも知れない。
そんな思いもあったのだ。
鈴は自信なさげに「ウン」と小さい声で返事をして近野の顔を見る。
当然だ。まだ2歳の女の子だ。肉親がいない状態で始めて会ったばかりの人と二人きり。
ここは自分が頑張らねばと近野は思った。
「何して遊ぶ? 何でも良いよ」
「じゃ、デーブーデー……」
と、はにかみながら言う。
「デーブーデー……? DVDかな?」
鈴は赤い顔をしてコクリと頷くとそのまま下を向いてしまった。
近野はその可愛らしい姿がとても好きになった。
鈴の背中を優しく押しながらリビングに二人で向かっていった。
「どのDVDがいいのかな?」
「あの……。スズたんの」
「スズちゃん? どのヤツかなぁ?」
鈴は自分でリモコンを操作すると、レコーダーに入っている撮影されたもののデータだった。
そこには今より少し小さい鈴が鷹也の実家の庭で水遊びをしているところだった。
ハンドカメラで写る鈴は笑顔で撮影者に笑いかける。
「ママ~。おおちな川になったよ~」
「ホントだ。お魚さんはいるかな?」
「いないよ~」
「どうして?」
「みんな、海にいったんでち」
「そうなの?」
「先生に連れられて遠足でちよ」
「そうなんだ」
「ジャバジャバジャバーって」
「そうやって?」
「うん」
「ふふ」
そこには鈴と彼女の母親の声があった。
楽しそうに遊んでいる姿。
鈴はそれを体を揺さぶりながら見ていた。
肉親の痕跡が欲しかったのかも知れない。
鈴はその映像をかけながら自室に戻ったかと思うと、たくさんの絵本を抱えて戻ってきた。
「おねいたん。これ読んで! ご本読んで!」
少し元気が出たようで、声が大きくなっていた。
近野も嬉しくなり彼女に向かって微笑む。
「うん。いいよ」
近野が本を読んでやる。
一文字、一文字を指差しながら。
だが鈴にはどうでもいいらしく、話の途中で本を閉じてしまうのだ。
「まだ終わってないよ?」
「今度はこれ~」
そう言って次の本を渡してくる。
せっかちなのかも知れない。
その姿がたまらなく面白くて近野はクックックと声を立てて笑ってしまった。
「もぉ~。おねいたん、笑わないでよね~」
「ゴメン。ゴメン。クックック」
近野が次の本を開くと、鈴は近野の前に立ってその膝に座った。
ドキリ……。
驚いて少し戸惑った。鈴は近野に心を許したのか?
近くで母親の声がするから安心なのか?
どうなのかは近野には分からなかったが、嬉しくなり少しの間動けなかった。
「ねぇ。おねいたん。ご本読んでよぉ」
「あ! う、うん」
元に戻った近野は本を読み始めた。
鈴はしばらくその膝の上で楽しげに話を聞いていたが、突然膝から立ち上がって、廊下に向けて走り出した。
「え?」
近野が廊下に向かうと、薄暗い廊下の真ん中で背中を向けて立ち尽くしていた。
「スズちゃ……」
「来ないで」
「え?」
「来ないでぇ!」
上着をギュッと握って、ふるふると震えていた。
「ねぇ、ママは? パパはどこにいったの? スズちゃん、ママに会いたいよぉ」
「あの……あのね……」
近野は鈴の後ろ姿を見つめるしか出来なかった。
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