光が中へ

家紋武範

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光が中へ

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今まで、胸にため込んでいた思いがあった。
言えなかった言葉。

ようやく冗談交じりに彼女を誘うことが出来た。
二人きりの休日。

馬鹿に仕合い、冗談を言い合うショッピングモール。
二人で並ぶフードコート。

昼食の後は木々が並ぶ公園。
噴水の見えるベンチに二人で腰を降ろす。

頭上を小鳥の声が飛ぶ。
穏やかな日の光。

こんな雰囲気、少し違うと彼女は言う。

だが僕には最高だった。
こんな休日をしたかったのだ。
二人だけの休日を。

少し会話が止まる。
噴水の音だけが聞こえる。

二人の関係は と問われる。

トモダチ と答えた。

また静寂。
早鐘のような鼓動。
聞かれたくない心のリズム。
赤い頬。

素直じゃない気持ちをいつまで続けるつもりだろう?
強がるのが格好いいと思う下らないプライド。

もう行こうと彼女が立ち上がる。
精一杯、虚勢を張ってその背中をゆっくりと追う。

帰りの電車。
離れて座る二人。
トモダチの二人。

彼女の方に少しだけ目をやる。
一つだけ光る雫。

改札を抜けて、彼女の震える肩を追う。
バカな自分。
何も言えない自分。

二人で目一杯したオシャレは誰のため?
誰に見せるため?
昨日なかなか眠れなかったのは今日まぶたを腫らすため?

「あの」

二人でお互いの顔を見つめ合う街灯の下。
たった一言。
今まで言えなかった一言。
その一言がお互いの胸の中に光となって溶けてゆく。

好きです。あなただけを
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