私は「おかえり」といいたい

家紋武範

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第12話 完璧な防衛戦

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 和斗がうれしそうにホワイトボードに営業先を書いてでていった。
 それを見て秀樹は席を立った。
 別のドアからだ。おそらく喫煙室かトイレなのだろう。
 恵子もすぐに立ち上がって和斗に声を掛けに向かって行った。

 秀樹とは別なドアから出て、総務前を越えた通路を歩いている和斗を見つけた。

「杉沢クン」

 振り返って、和斗はバツの悪そうな顔をした。

「あ。先輩」
「佐藤係長にやっと認められて良かったね」

「あ。はい。先輩あの。この前は」
「ん? なんだっけ?」

「あの。スイマセンでした」
「なんだろ? 酔ってて覚えてない」

 二人が話しているそばには通路があり、そのそばにトイレがあったのだが、秀樹がトイレからでてきて二人の声に足を止めた。

 親密そうな二人に嫉妬を覚える。
 隠れて話を盗み聞きすることにした。
 そんな秀樹に気付くわけもなく和斗は話を続けた。

「ウソでしょ? 覚えてないわけない」
「いやぁ。その方が二人にとって都合いいかなぁと思って」

 物陰で秀樹は「はぁ?」と思った。
 恵子が知らない間に和斗と密会したのでは?
 秀樹の眉間にしわがよる。

「オレも酔ってました。だからあんな行動にでちゃって、忘れてください」
「ん。なにもなかった」

「あの。罪滅ぼしに今度の週末、もう一度チャンスくれませんか?」
「はぁー? なんのチャンス?」

「ちゃんとした上司と部下に戻るチャンス」

 秀樹に黒い雲のような気持が広がってゆく。
 和斗が恵子に何をしたのか?
 部下と上司の垣根を越えて無礼なことをしたのではないのか?
 恵子も優しすぎてそれを許そうとしている。
 飛び出して、殴りつけたかった。

 恵子は和斗のその申し出に答える。

「あのねぇ。彼氏いる女の子が二人っきりでいけるわけないでしょ?」
「ハイ……。だから男女っての通り越して。仕事の相談」

「フーー。ま、それでアンタが落ち着くんだったらいいでしょ。週末はどうせヒマだし」
「あ。彼氏さんとは」

「ウン。忙しい人なんだ」

 秀樹は物陰で複雑そうな顔をした。

「じゃぁ。よろしくお願いします」
「そんで? どこ? 何時?」

「じゃぁ、土曜日18時に、駅前公園で」
「ハイ。じゃぁ。わかった」

「じゃ行ってきます」
「行ってらっしゃい」

 和斗が仕事へ向かう。秀樹はギリギリと歯をならした。

 恵子も恵子だ。どういうことから問い詰めたい。
 男女が二人きりになって飲みに行くなんて。
 しかし、自分も妻のいる立場で後ろ暗い。
 男は自分を含めてみんなオオカミ。
 このままでは和斗の毒牙にかかってしまう。

 しかし、そこは大人の余裕だ。
 恵子もそれが好きだと言っていた。

 秀樹はある計略を思いついた。

「土曜はヨメに友人と飲みに行くつって……。へへ」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 土曜日。恵子の部屋。
 恵子はドレッサーの前でルージュを引いていた。

「さぁ~て。お化粧も完璧。あー17時か。もう、行かないと。あれ? なんで楽しみにしてんだろ。どうして? まさか惹かれはじまってないよね? ちょっと待ってちょっと待って。なに? 杉沢クンだよ? なに? この胸のドキドキ。やだ。うそ」

 鏡の自分に向かって聞いてみる。
 その時、玄関の呼び鈴が「ピンポーン」と鳴った。

「誰だろう? 宅急便かなぁ?」

 そう思いながら玄関のドアに向かって声をかけた。

「はい?」
「あ、オレオレ」

「え? ヒデちゃん?」

 ドアをあけてみるとそこには思い人、秀樹が立ってた。

「どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ。寒いよ。入れて?」

「あ。ハイハイ。どうぞ」
「おじゃましまーす」

「ヒデちゃん、どうしたの土曜日に。家族は?」
「オレの家族はケイコ! だろ?」

「え? やだ。うれしい」
「なんだよ。泣くなよ」

「ウソでもうれしい。いつも土日は会えなかったから」
「フフ。たまにはこういうのもいいだろ?」

「ウン。最高!!」
「カワイイやつ」

「ね! ヒデちゃん! 遊ぼ!」
「え? どうやって?」

「ヒデちゃん知ってる? ケイコほめゲーム」
「え? どうやんの?」

「ふふ。あのねぇ。「ケイコかわいいの?」って聞くの!」
「なんだそりゃ。ケイコはかわいいじゃん」

「チガウ。「ケイコかわいいの?」って聞かなきゃ、ダメ!」
「あー。じゃ、ケイコかわいいの?」

「オーケー! ミッション達成!!」
「ほー。で??」

「ステージ2! では、そこから「かわ」をとってもう一度聞いてください」
「ハイハイ。そういうのね。うーんと、うーんと」

「さぁ、時間がありません」
「わかった! ケイコいいの? だ!」

「うん。いいですよ」
「あ。そーゆーこと」


 ほめゲームから、そこからはナダレ式にエッチに突入。

 途中、ご飯食べて、もう一度。
 二人の夜は加速して過ぎてく。

 秀樹の索は図に当たった。恵子は嬉しさの余り、和斗を忘れてしまったのだ。

「ヒデちゃん、今日はお泊まりできるの??」
「いや。やっぱ帰んないと」

「あ! ゴメン」
「いや。こっちこそゴメン。突然来ちゃって」

「ウウン! 最高の土曜日だった! 人生最高の土曜日!」
「良かった。じゃぁ良かった」

「ナイスサプライズだったよ~。ん♡」
「ん♡ 23時か。じゃぁ行くかな?」

「ウン。玄関まで手つないで行こう~」
「かわいいなぁ。ケイコはぁ~」

「あ~、帰したくない」
「オレも帰りたくない」

 玄関前で抱擁しながら熱くキス。

「ごめん。じゃ、また」

 そう言ってドアを開ける秀樹。

「わぁ! 雪!」
「えーー? マジ?」

「結構ふってるなぁ」
「ヒデちゃん、泊まってったら?」

「いや。ごめん」
「そっか」

「じゃぁね」
「ウン。行ってらっしゃい」

 秀樹を部屋のを窓から見送る。
 恵子の部屋を見上げ、手を振る秀樹。
 すぐに、タクシーを捕まえた。
 その姿を見て、恵子はひどく感傷的になった。

「あーあー。なんて寂しいんだろう」

 そしてタクシーに乗り込んだ秀樹。

「どちらまで?」
「N町方面」

「了解」

 車窓から雪が降る外を見て悪魔のように微笑んだ。

「フフ。どうだ。完璧なブロックだろ? 完全にフラれたな。アイツ」

 恵子と和斗の待ち合わせを完全にブロックしたことを思い笑った。
 N町方面に向けてタクシーは走り去る。
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