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ぬりかべ
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逢魔が時とは、日も落ちかけの夕暮れ時のことだ。丁度、空も大地もグレーに染まってしまい、その境がなくなるから『魔』と『逢う』時間なのだそうだ。
私たち中学生が部活が終わる時間が大抵そうだ。
私はお化けなんか信じないが、やはり家路につく頃、田舎道をただ一人で歩いて帰るのは怖い。
それは山に潜む獣もそうだし、大人な不審者だって怖いものだ。それらを警戒しながら、まだ点かない街灯にやきもきして薄暗い道を帰るのだ。
そして何よりも怖いのは、帰り道の途中にある廃トンネルだ。真っ暗な穴が山の中に続いている。昔何かに使われていたらしいが、よくは知らない。
見たくもないのに存在感があるから、必ずそちらに目をやってしまう。その真っ暗な穴へと──。
「あれ?」
思わず声を漏らした。なぜなら廃トンネルの前に大きなグレーの壁があったからだ。朝はなかったのに、と思ったが役場が来て封鎖したのではないかと結論付けた。
たまにホラースポットとか言って騒がしくなることもあると聞いていたからだ。
しかしそれは違っていた。数匹のコウモリがグレーの壁の回りを飛んでいる。それが『ねちゃ』『ヌチャ』という音とともに壁に埋まり吸い込まれて行くのだ。
なにもさっさと駆け出してしまえばいいのに。私はただそれを呆然と眺めているだけだ。その間も、ハエ取り紙にくっつくハエのように、コウモリや野鳥が壁に吸い付いては消えていく。
「ひっ……!」
思わず声が漏れる。それに反応してか、壁が少し揺れたかと思うと、真ん中に裂け目が出来て、ニッと笑ったようになった。
私は怖くなって家の方向に駆け出した。そして振り向くと、遠くに壁がついてくるのが見えたのだ。
どうして?
どうして?
あれはなんなのか分からない。昔見た妖怪アニメにあんなのがいたのを思い出した。するとあれは妖怪? そもそも妖怪とは?
駆けながら振り返ると、壁は大きな体を揺すりながら裂け目をニコニコしてついてくる。回りにある木々がそれに触れると、バサバサと音を立てて壁に吸い込まれて行くのだ。
もしもあれに捕まったら?
家まで来て家も飲み込んでしまうのでは?
私は泣きながら駆けたが、だんだんと腹が立ってきた。どうして自分がこんな目に会わなくてはならないのかと。
「けぇぇえええーー!!」
私は泣き叫びながらUターンして、石を拾って壁のほうに走り出していた。
その瞬間、ニコニコしていた壁の裂け目が下を向き、泣きそうな顔をしていたが構わなかった。
「なんだってんだ、このヤロー!!」
私は壁に向かって遠巻きに石を投げつけると、壁は恐れて小さな足をバタバタさせて体勢を大きくくずしていた。それでも壁に石を投げるのを止めなかった。
石は壁に吸い込まれず、本当の壁に当たっているようだった。
壁は泣きそうな顔をしたままトンネルのほうに向かって帰って行ったが、私は追撃を止めずに泣きながらののしった。
そのうちに壁はトンネルの道まで来ると消えてしまった。
なんだか、なついた犬のような顔だったので少しばかり罪悪感があったが、あのままだったら補食されていたと思うと、追い払って良かったのだ。
それ以来、その妖怪壁は見ていない。
私たち中学生が部活が終わる時間が大抵そうだ。
私はお化けなんか信じないが、やはり家路につく頃、田舎道をただ一人で歩いて帰るのは怖い。
それは山に潜む獣もそうだし、大人な不審者だって怖いものだ。それらを警戒しながら、まだ点かない街灯にやきもきして薄暗い道を帰るのだ。
そして何よりも怖いのは、帰り道の途中にある廃トンネルだ。真っ暗な穴が山の中に続いている。昔何かに使われていたらしいが、よくは知らない。
見たくもないのに存在感があるから、必ずそちらに目をやってしまう。その真っ暗な穴へと──。
「あれ?」
思わず声を漏らした。なぜなら廃トンネルの前に大きなグレーの壁があったからだ。朝はなかったのに、と思ったが役場が来て封鎖したのではないかと結論付けた。
たまにホラースポットとか言って騒がしくなることもあると聞いていたからだ。
しかしそれは違っていた。数匹のコウモリがグレーの壁の回りを飛んでいる。それが『ねちゃ』『ヌチャ』という音とともに壁に埋まり吸い込まれて行くのだ。
なにもさっさと駆け出してしまえばいいのに。私はただそれを呆然と眺めているだけだ。その間も、ハエ取り紙にくっつくハエのように、コウモリや野鳥が壁に吸い付いては消えていく。
「ひっ……!」
思わず声が漏れる。それに反応してか、壁が少し揺れたかと思うと、真ん中に裂け目が出来て、ニッと笑ったようになった。
私は怖くなって家の方向に駆け出した。そして振り向くと、遠くに壁がついてくるのが見えたのだ。
どうして?
どうして?
あれはなんなのか分からない。昔見た妖怪アニメにあんなのがいたのを思い出した。するとあれは妖怪? そもそも妖怪とは?
駆けながら振り返ると、壁は大きな体を揺すりながら裂け目をニコニコしてついてくる。回りにある木々がそれに触れると、バサバサと音を立てて壁に吸い込まれて行くのだ。
もしもあれに捕まったら?
家まで来て家も飲み込んでしまうのでは?
私は泣きながら駆けたが、だんだんと腹が立ってきた。どうして自分がこんな目に会わなくてはならないのかと。
「けぇぇえええーー!!」
私は泣き叫びながらUターンして、石を拾って壁のほうに走り出していた。
その瞬間、ニコニコしていた壁の裂け目が下を向き、泣きそうな顔をしていたが構わなかった。
「なんだってんだ、このヤロー!!」
私は壁に向かって遠巻きに石を投げつけると、壁は恐れて小さな足をバタバタさせて体勢を大きくくずしていた。それでも壁に石を投げるのを止めなかった。
石は壁に吸い込まれず、本当の壁に当たっているようだった。
壁は泣きそうな顔をしたままトンネルのほうに向かって帰って行ったが、私は追撃を止めずに泣きながらののしった。
そのうちに壁はトンネルの道まで来ると消えてしまった。
なんだか、なついた犬のような顔だったので少しばかり罪悪感があったが、あのままだったら補食されていたと思うと、追い払って良かったのだ。
それ以来、その妖怪壁は見ていない。
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