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月
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「クロはバカだなぁ……」
飼い犬の散歩に行こうとしてため息をついて呟いた。
またヒモが絡まってるし、エサ箱も水箱をひっくり返してる。
そのくせ僕を見ると嬉しそうに激しく息つぎをしていた。
よその犬は利口だ。むやみに吠えないし、しつけもちゃんとしてる。芸も出来る。
ウチのクロはどこからか父が貰ってきたミックス犬だ。
貰ってきた当初から粗相をして、教えても何度も同じだったので、外で飼うことになった。だけど今度は知らない人には吠えまくるので手を焼いていた。
僕が小五の時に、クロの散歩をする係になって三年。そろそろ弟に係を移してお役御免となりたいと思っていた。
「うわぁ、今日の月は大きいな。クロ、見てみろよ」
赤くて大きな月。しかしクロは楽しそうに田舎道の草むらの臭いを嗅いでいるのに夢中だ。
「はぁ、ホントにクロはバカだなぁ」
そのまま赤い月に照らされて散歩を続行。この辺に民家はない。田んぼと農道だ。やがて林道に入ると、月明かりは遮断されたが、出口のほうは明るかったので、そちらに向かった。林道を出てから引き返すのがいつものコースなのだ。
林を出ると、真っ赤で大きな月が待っているように中心にあった。先ほどまで並走してたと思ったのに。
多少身震いしながら、引き返す。
クロは相変わらず草の臭いを嗅ごうと、あっちにヒモを引き、こっちにヒモを引きの右往左往。毎度ながら手が疲れる。
そしてふと思い立ち、月を気にして振り返った時だった。
先ほどの林道の出口に真っ赤な月が覗いている。それはまるで巨人の顔のように、ゆっくりと回転してこちらを見るようだった。
何かが違う。
僕はクロのヒモを引いて家に向けて駆け出した。クロは楽しそうに僕を追い抜いて走り出し、逆にクロにヒモを引いて貰っている形だ。
林道を出て、月を確認するとゆっくりと僕に迫っている。
あれは月じゃない!
しかし正体は分からない。当たり前だ。見たこともない物体なのだから。
月のようなものは、少しずつ少しずつ差を詰めてくる。僕は半べそだった。
「わぁぁああ、助けてーー!!」
大きく叫ぶと、クロは尻尾を振って僕に振り返る。そして月の存在を認め、一時動きを止めた。だがすぐにウウッとうなり、飛び上がって僕の胸を蹴ってその場に押し倒す。僕は大きく尻餅をついてしまった。
そのままクロは僕の左手を引っ掻く。僕は痛がってクロのヒモを手放してしまった。
クロは僕を顧みずに、唸りながら僕たちの背中に迫っていた月の化け物に突っ込んでいった。
目を開けると、そこには月の化け物もクロの姿もなかった。頭上には黄色い月が優しい光をたたえいる。
クロのヒモを引き寄せると、その先はぶっつりと切れて無くなっていた。
「ああ、クロ! お前はホントにバカだなぁ」
僕はクロを思って泣きながら地面を叩いた。
飼い犬の散歩に行こうとしてため息をついて呟いた。
またヒモが絡まってるし、エサ箱も水箱をひっくり返してる。
そのくせ僕を見ると嬉しそうに激しく息つぎをしていた。
よその犬は利口だ。むやみに吠えないし、しつけもちゃんとしてる。芸も出来る。
ウチのクロはどこからか父が貰ってきたミックス犬だ。
貰ってきた当初から粗相をして、教えても何度も同じだったので、外で飼うことになった。だけど今度は知らない人には吠えまくるので手を焼いていた。
僕が小五の時に、クロの散歩をする係になって三年。そろそろ弟に係を移してお役御免となりたいと思っていた。
「うわぁ、今日の月は大きいな。クロ、見てみろよ」
赤くて大きな月。しかしクロは楽しそうに田舎道の草むらの臭いを嗅いでいるのに夢中だ。
「はぁ、ホントにクロはバカだなぁ」
そのまま赤い月に照らされて散歩を続行。この辺に民家はない。田んぼと農道だ。やがて林道に入ると、月明かりは遮断されたが、出口のほうは明るかったので、そちらに向かった。林道を出てから引き返すのがいつものコースなのだ。
林を出ると、真っ赤で大きな月が待っているように中心にあった。先ほどまで並走してたと思ったのに。
多少身震いしながら、引き返す。
クロは相変わらず草の臭いを嗅ごうと、あっちにヒモを引き、こっちにヒモを引きの右往左往。毎度ながら手が疲れる。
そしてふと思い立ち、月を気にして振り返った時だった。
先ほどの林道の出口に真っ赤な月が覗いている。それはまるで巨人の顔のように、ゆっくりと回転してこちらを見るようだった。
何かが違う。
僕はクロのヒモを引いて家に向けて駆け出した。クロは楽しそうに僕を追い抜いて走り出し、逆にクロにヒモを引いて貰っている形だ。
林道を出て、月を確認するとゆっくりと僕に迫っている。
あれは月じゃない!
しかし正体は分からない。当たり前だ。見たこともない物体なのだから。
月のようなものは、少しずつ少しずつ差を詰めてくる。僕は半べそだった。
「わぁぁああ、助けてーー!!」
大きく叫ぶと、クロは尻尾を振って僕に振り返る。そして月の存在を認め、一時動きを止めた。だがすぐにウウッとうなり、飛び上がって僕の胸を蹴ってその場に押し倒す。僕は大きく尻餅をついてしまった。
そのままクロは僕の左手を引っ掻く。僕は痛がってクロのヒモを手放してしまった。
クロは僕を顧みずに、唸りながら僕たちの背中に迫っていた月の化け物に突っ込んでいった。
目を開けると、そこには月の化け物もクロの姿もなかった。頭上には黄色い月が優しい光をたたえいる。
クロのヒモを引き寄せると、その先はぶっつりと切れて無くなっていた。
「ああ、クロ! お前はホントにバカだなぁ」
僕はクロを思って泣きながら地面を叩いた。
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