これ友達から聞いた話なんだけど──

家紋武範

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白足塚

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 月夜の晩、彼女とドライブ。郊外を抜けて他県の田舎へ。田舎に良くある、安いモーテルを探していた。

 途中のコンビニで酒も買い、部屋の中で飲む算段も整えた。後はモーテルがあればそこに入るだけ。

 大きな看板に、モーテルの案内。しめたと思い彼女とともにウキウキしながら舗装された細い山道を進みそこに向かうとすでに満室。二人して大きくため息をついた。

「やっと見つけたと思ったら満室かよ」
「どうする? 今日は帰る?」

「シラケること言うなぁ……」

 車のギアをバックに入れ、モーテルから飛び出しさらに別の道を進んだ。

「どこ行くの?」
「オレのカンならこの近くに別なモーテルもあるはずだよ」

 そう。意外とこういうのは密集してたりする。そっちの方がキレイな場合も。しばらく進むとまた看板。今度は紫色でそれらしいモーテルの店名だった。

「へへ。どうだよ」
「へー。さすが。エロいことに関しては鼻が利くね」

「まーね」
「褒めてはいない」

 看板の文字には6km直進の文字があった。山道なので、少しスピードも出せない。15分ほど走るとさらに寂しい場所となっていった。

「なんかこわーい」
「そう言うなって」

 やがて6kmの地点に。そこは真っ暗で、脇に枝道があり看板にモーテル名と矢印。道には砂利が敷いてある。ところどころに草が生え、人が入った形跡がしばらくなかったと感じた。

「ここを行くの?」
「だって案内されてるだろーが」

 チャリチャリと音を立てて枝道を進むと、真っ暗な中に灯りの消えたモーテル。入り口にはチェーンが引かれており、二三、ビールケースがあって侵入を拒んでいた。

「つぶれてんじゃん!」
「知らねーよ」

「ナビとか、検索とかしないでやみくもに進むからこうなるの」
「だって、そう言うのが深夜のドライブだろ?」

「……ん。まぁ」
「だろ? 次のとこ捜そうぜ」

「いや、もう帰ろ。ここから探してたんじゃ眠くなるよ」
「え。マジかよぉ」

 モーテルの前で車の向きを変え、今来た道を走り出す。
 しかし、少しばかり望みに賭けて帰り道ながらも山のほうへと頭を向ける。そう、車の中で致すためだ。
 良い場所を探す。山の中の避難スペースみたいな広い場所。
 街灯もなくあるのは月明かりだけ。民家も何もなくなった。

「もう本格的に山ですけどォ?」
「おーわ、最悪……」

「なによ」
「でも車でシテもよくなくね?」

「は? シャワーもないのに?」
「オレそう言うの気にしないタイプ」

「私が気にするんだけど」
「幸い、簡易用のボディタオルも買ってありますぜ」

「ほんとそう言うのは抜け目ないってゆーか」
「へへ。どーも」

「褒めてはいない」

 しかし彼女は路肩では嫌がった。せめて、車通りのない山道の奥か農道。帰り道に少し立ち寄りました的な感覚でと言うことで山道を進んでシャカリキに捜す。

 しかしこういう時になるとなかなかそう言うものがないもので、ただ申し訳程度の舗装された道を進むだけだった。

 彼女が一つあくびをする。たしかにもう眠い時間だ。

 すると、道の横の林の影に枝道がある。迷わずそこに車を突っ込んで広い場所を捜した。

 頭の上には樹木の枝が月明かりを隠し、車のライトだけが頼り。細い道だ。対向車が来たら避けられない。

 しかし、あるときからポッカリと道が広くなった。広すぎる。そこの中央には月明かりが降り注ぎ、コンサートホールのようになっていた。

「なんだここ」
「凄い。ちょっと絶景」

「だなぁ。隠された癒しのスポットみたいなかんじだな」

 ゆっくりと車を月明かりのスポットライトの方へ進める。するとそこには巨石が三つ置いてあり、それ以上は先には進めなかった。たしかにその先にも道があるのに。
 だが人気もないので、ここで良かろうと、車を広場の隅に寄せた。




 ガッコン──。



 くそ。焦りすぎた。なにか石のようなものに乗り上げた。
 俺は車から降りて、後ろを確認する。すると、石が整列して俺が倒したのは小さい石のほこらのようだった。
 さすがにバチがあたると思い、石を組み直す。そこに彼女も降りてきた。

「どうしたの? へこんだ?」
「いやへこんでは無いんだけどよ。石のお社っぽいのがあった」

「何よそれぇ。あ、ここにも石碑みたいのある」
「マジ? じゃそれも近くに建てよう」

「ホラ。字が書いてあるよ『白足塚しろあしづか』」
「『白足塚しらたりづか』かも知れないぞ?」

「頭良い振りすんなって。あれ? この石碑、頭が欠けてるねぇ」
「ホントだ。『白』の上が欠けてる」

「あ、これじゃない? 『一』の字が書かれてるけど」
「じゃ『一白足塚いっぱくあしづか』? 変な名前だな。まあ、それより……」

 俺は石碑の一部を受け取って、『白』の字の上に重ねる。そして彼女肩を抱いた。

「わー、ムード悪すぎ」
「もうそう言うなって……」

 彼女を車の中に連れ込んでボディタオルを二枚ほど渡す。そして彼女のほうに身を倒すと……。


 シュルシュル。

 シュルシュル。

 シュルシュルシュル。


 何やら奇妙な音。風の音でも木の葉の音でもない。
 俺たちは音のほうに顔を向けると、上半身裸の長髪の若い女がフロントガラスに張り付いている。

「ひぃぃぃ!!」

 俺たちは悲鳴を上げた。さっき外に出たときは、あんな女はいなかった。
 パニックになりながらも素早く運転席に座り直す。

 フロントガラスの女は、ヨダレをたらしながらニタニタと笑って俺を見ている。
 良くみると下半身は人間のそれじゃない。月明かりにテラテラ、ヌラヌラと光る。

 これは……百足むかでじゃないか。百足の女怪だ。女怪の下半身は俺の車に巻き付いて完全にホールドしている。
 アクセルを思い切り踏んで切り抜けようと思ったが、車は唸り声のようなフカシ音を鳴らしただけ。
 女怪の巻き付きは、車を浮かしていたのだ。そのうちに、車体は軋みガラスが割れる。

「キャーーー!!」

 と叫ぶ彼女は、女怪に捕まれ頭からモシャモシャと補食されてゆく。やがてその体はぐったりと力なく垂れた。

 俺は恐怖で動けずに、ただその非現実な光景を眺めるだけ。彼女の補食が終わると、女怪は今度は俺のほうに手を伸ばした──。





 それから俺は暗い穴蔵の中にいる。女怪の保存食というわけではない。繁殖用としてだ。女怪は俺に噛みついて痺れさすと、勝手に交尾し始め次々とタマゴを産んでいる。
 俺の回りには頭ほどの大きいタマゴがたくさん植え付けられている。まだ生かされているがこの先は分からない。
 このタマゴが孵ったら、俺はこの無数の幼虫のエサになるのでは──。

 あの塚は『白足』ではない。『百足』の妖怪を封じた塚だったんだ。それを俺は壊した。

 誰か、誰か、助けてくれ!!
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