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出会い編
第十九回 狐狸女傑 一
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益徳さんは、私を横抱きにしながら、夏侯屋敷へと飛び込みました。その早いこと早いこと。
何しろ私の肩からは血が滲んでいたものですから、益徳さんの焦りったらありませんでした。
「誰か家中のものはいねぇのかい! 三娘のお嬢ちゃんが大変だ! すぐに来てくれィ!!」
そう益徳さんが叫ぶと、夏侯のお屋敷は大変な騒ぎとなりました。
すぐにお迎えに来てくださったのは覇お兄さまで、私を横抱きにしている益徳さんに血相を変えて詰め寄ってきました。
「貴様何者だ! なぜ当家の三娘を抱き抱えておる!」
「オイラはお嬢ちゃんの護衛の張飛という郎中だい。お嬢ちゃんが怪我をしたんだ。すぐさま医者を呼んで見せてくれ」
「なんだと、三娘が? 三娘、しっかりしろ!」
覇お兄さまは一人で慌てているようなので私は逆に冷静になって片手を上げて制しました。
「覇お兄さま、そんなに慌てなくても大丈夫ですわ。ただ左肩が怪我をしただけですの」
「それは大丈夫とは言わん! おい、すぐに三娘を手当てしてやってくれ! それから張郎中。三娘をすぐに下ろしたまえ!」
益徳さんがゆっくりと私を下ろすと、覇お兄さまは私たちの間に立って益徳さんを尻で押し、私たちの立つ位置の間隔を開けてしまいました。
「さあ三娘。怖かったろう? お兄ちゃんがいる。もう大丈夫だよ?」
「あらお兄さま。私は平気よ。張飛さまが守って下さいましたもの」
「何を言うんだ。この張郎中とかいう大男のほうが危なそうだぞ?」
覇お兄さまは益徳さんを睨みつけると、益徳さんは困ったような顔をしておりました。
そこへ伯母さまが、数人の女中を連れて慌てて駆けてきました。
「三娘が、三娘が怪我を!? 大丈夫かい三娘? お前たち。早く三娘を屋敷の中へ!」
伯母さまに命令を受けた女中たちは、早速私を支えるように運びました。伯母さまは益徳さんをキッと睨みます。
「そなた、曹閣下に三娘の護衛を命ぜられておきながら、よくも怪我をさせてくれたわね!」
伯母さまは近くにある庭木の枝をへし折ると、それで益徳さんの横面を叩きました。それも何度も折檻するものですから、枝についた葉は全て取れ、最後には折れてしまいました。
「はぁ、はぁ、はぁ。よいか張飛! 三娘は私が乳を飲ませた可愛い娘だ。それを傷物にしたのはお前の責任だ! 手塩にかけた娘を、お前のような山狗同然の男に近付けるのではなかった!」
私は一娘お姉さまや二娘お姉さまとは違い伯母さまのお乳を飲んで育ったのです。そんな私のことですから、伯母さまは理性の箍が外れてしまったのでしょう。
まるで口から火を吹かんばかりの伯母さまの剣幕に益徳さんは、膝をついてなされるがまま。
私は屋敷に入ったすぐの部屋で手当てを受けていたので、その伯母さまの声が気になって仕方がありません。
血止めがされ包帯を巻かれると、すぐに伯母さまの元へと走りました。
「伯母さま! 伯母さま! お止めになって!」
私が伯母さまにすがりつくものの、伯母さまの怒りは覚めやりません。
「三娘おどき! もはやこの男に近付くのは許しませんよ! こんな危険な男と結婚したいだなんて、ふざけた世迷い言は二度と言わせません!」
「え? 結婚!?」
一人驚いて目を丸くしているのは覇お兄さまです。いや今、覇お兄さまはどうでもよいのです。
「何よゥ、伯母さま。張飛さまは私を虎から守ってくださったんですからね。張飛さまが来なかったら、私は虎に喰い殺されていたのです。張飛さまは私の命の恩人ですわ!」
「何を言うの、三娘。あなたがこの男を追い回して市中巡りをしていたのは、使用人から聞きましたよ。それで虎に襲われたのでしょう。あなたも原因なら、この張飛も遠因。早々に徐州にでも、どこにでも放逐するように曹閣下にお願いするつもりです!」
「そんな! 伯母さまはおっしゃいました。張飛さまが中郎将になったのなら結婚は許すと!」
「え? 張飛と三娘が結婚!?」
いや覇お兄さまは今入って来なくていいですわ。私と益徳さんが引き裂かれるかどうかの瀬戸際なのに。
「いかにも言ったわ。でもこんな男に、中郎将なんてなれるもんですか!」
伯母さまがそういうと、今まで黙って下を向いていた益徳さんは、その場にひれ伏しました。
「奥さま。私めとお嬢さまは好きあっております。どうぞ二人の結婚をお許しください……」
伯母さまは、頭を押さえて一時卒倒仕掛けましたが、女官に支えられて気を取り戻しました。
そして、息も絶え絶えに益徳さんを指差して叫んだのです。
「な、な、な、何が好き合ってるですか、この無法者の家無しめ! この者を夏侯の名において苔刑にし、市中に放り出せ!」
苔刑! それは痛いですわ! 屈強な使用人二人が一丈ほどの棒を持って肌を露出させた益徳さんの背中を打ちます。普通の人なら皮が破れて血が吹き出し、骨も折れる場合がございますが、益徳さんは平気の平左でした。防御もチート!
益徳さんは門の外に放り出されて、仕方なく帰るしかありませんでした。
何しろ私の肩からは血が滲んでいたものですから、益徳さんの焦りったらありませんでした。
「誰か家中のものはいねぇのかい! 三娘のお嬢ちゃんが大変だ! すぐに来てくれィ!!」
そう益徳さんが叫ぶと、夏侯のお屋敷は大変な騒ぎとなりました。
すぐにお迎えに来てくださったのは覇お兄さまで、私を横抱きにしている益徳さんに血相を変えて詰め寄ってきました。
「貴様何者だ! なぜ当家の三娘を抱き抱えておる!」
「オイラはお嬢ちゃんの護衛の張飛という郎中だい。お嬢ちゃんが怪我をしたんだ。すぐさま医者を呼んで見せてくれ」
「なんだと、三娘が? 三娘、しっかりしろ!」
覇お兄さまは一人で慌てているようなので私は逆に冷静になって片手を上げて制しました。
「覇お兄さま、そんなに慌てなくても大丈夫ですわ。ただ左肩が怪我をしただけですの」
「それは大丈夫とは言わん! おい、すぐに三娘を手当てしてやってくれ! それから張郎中。三娘をすぐに下ろしたまえ!」
益徳さんがゆっくりと私を下ろすと、覇お兄さまは私たちの間に立って益徳さんを尻で押し、私たちの立つ位置の間隔を開けてしまいました。
「さあ三娘。怖かったろう? お兄ちゃんがいる。もう大丈夫だよ?」
「あらお兄さま。私は平気よ。張飛さまが守って下さいましたもの」
「何を言うんだ。この張郎中とかいう大男のほうが危なそうだぞ?」
覇お兄さまは益徳さんを睨みつけると、益徳さんは困ったような顔をしておりました。
そこへ伯母さまが、数人の女中を連れて慌てて駆けてきました。
「三娘が、三娘が怪我を!? 大丈夫かい三娘? お前たち。早く三娘を屋敷の中へ!」
伯母さまに命令を受けた女中たちは、早速私を支えるように運びました。伯母さまは益徳さんをキッと睨みます。
「そなた、曹閣下に三娘の護衛を命ぜられておきながら、よくも怪我をさせてくれたわね!」
伯母さまは近くにある庭木の枝をへし折ると、それで益徳さんの横面を叩きました。それも何度も折檻するものですから、枝についた葉は全て取れ、最後には折れてしまいました。
「はぁ、はぁ、はぁ。よいか張飛! 三娘は私が乳を飲ませた可愛い娘だ。それを傷物にしたのはお前の責任だ! 手塩にかけた娘を、お前のような山狗同然の男に近付けるのではなかった!」
私は一娘お姉さまや二娘お姉さまとは違い伯母さまのお乳を飲んで育ったのです。そんな私のことですから、伯母さまは理性の箍が外れてしまったのでしょう。
まるで口から火を吹かんばかりの伯母さまの剣幕に益徳さんは、膝をついてなされるがまま。
私は屋敷に入ったすぐの部屋で手当てを受けていたので、その伯母さまの声が気になって仕方がありません。
血止めがされ包帯を巻かれると、すぐに伯母さまの元へと走りました。
「伯母さま! 伯母さま! お止めになって!」
私が伯母さまにすがりつくものの、伯母さまの怒りは覚めやりません。
「三娘おどき! もはやこの男に近付くのは許しませんよ! こんな危険な男と結婚したいだなんて、ふざけた世迷い言は二度と言わせません!」
「え? 結婚!?」
一人驚いて目を丸くしているのは覇お兄さまです。いや今、覇お兄さまはどうでもよいのです。
「何よゥ、伯母さま。張飛さまは私を虎から守ってくださったんですからね。張飛さまが来なかったら、私は虎に喰い殺されていたのです。張飛さまは私の命の恩人ですわ!」
「何を言うの、三娘。あなたがこの男を追い回して市中巡りをしていたのは、使用人から聞きましたよ。それで虎に襲われたのでしょう。あなたも原因なら、この張飛も遠因。早々に徐州にでも、どこにでも放逐するように曹閣下にお願いするつもりです!」
「そんな! 伯母さまはおっしゃいました。張飛さまが中郎将になったのなら結婚は許すと!」
「え? 張飛と三娘が結婚!?」
いや覇お兄さまは今入って来なくていいですわ。私と益徳さんが引き裂かれるかどうかの瀬戸際なのに。
「いかにも言ったわ。でもこんな男に、中郎将なんてなれるもんですか!」
伯母さまがそういうと、今まで黙って下を向いていた益徳さんは、その場にひれ伏しました。
「奥さま。私めとお嬢さまは好きあっております。どうぞ二人の結婚をお許しください……」
伯母さまは、頭を押さえて一時卒倒仕掛けましたが、女官に支えられて気を取り戻しました。
そして、息も絶え絶えに益徳さんを指差して叫んだのです。
「な、な、な、何が好き合ってるですか、この無法者の家無しめ! この者を夏侯の名において苔刑にし、市中に放り出せ!」
苔刑! それは痛いですわ! 屈強な使用人二人が一丈ほどの棒を持って肌を露出させた益徳さんの背中を打ちます。普通の人なら皮が破れて血が吹き出し、骨も折れる場合がございますが、益徳さんは平気の平左でした。防御もチート!
益徳さんは門の外に放り出されて、仕方なく帰るしかありませんでした。
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