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となりの彼女
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このご時世だ。
定期的に会社の窓を開いて換気する。
自分のすぐ後ろの窓なので正直寒い。
なので、時間が来たらすぐに閉められるようにそこに立っている。
ふと見ると隣のテナントの会社。何をやっているのかは分からないが、このビルのお隣さんの会社だ。
そこでも同じようにマスク姿の女性が立っていた。
目しか見えないが同年代のようだ。
「そちらも換気ですか?」
「え? ええ」
同じフロアにいながら見たこともない人。
こんなこともあるんだな。
彼女の目が弓形になって話しかけてくる。
「自粛自粛っていやになりますよね~。どこにも行けないし」
「マジこのままじゃ経済も立ち行かないっすね。どこに行ってもマスクもありませんし、消毒液も」
「ですよね~。ウチの会社の社長は工業用のアルコールを発注して自分で消毒液をつくりましたよ。100円ショップでポンプを買い込んで今度はポンプの方が品切れみたいです」
「マジっすか。超欲しいっす」
「ああ。差し上げましょうか?」
「いいんですか?」
「ええ。ちょっと待ってください」
窓から彼女の姿が消える。
そして1分もしないうちに彼女が手を伸ばす。
100円ショップの霧吹きポンプ。その中程まで液体が入っていた。
俺も手を伸ばし、彼女からポンプを受け取った。
その場で二三度手にアルコールを吹きかける。
「うぉー! マジもんじゃないっすか~」
「そうなんです。たくさんあるんでどうぞ」
「あざーす!」
その日はそれで終わった。
次の日も定期の換気。
窓を開けてしばらく隣の窓を見つめると、そこがカラリと開く。
「こんにちわ」
「こんにちわ。今日も寒いですね」
彼女のネームプレート。さりげなくその名字を呼ぶ。
「小平さんは今の会社長いんですか?」
「……え? 名前?」
「いやぁ、ネームプレート」
「あ! やだぁ。運命かと思っちゃった」
「え? 運命」
「あ。やだぁ。……なんでもないんです」
「運命──」
「もうやだぁ~……。あの、そちらのお名前は?」
「和泉です」
「え。うそ」
「ん?」
「私、名前が依澄なんです」
「へぇ~……」
「あ~……」
「どうしました?」
「やっぱり、ないのかな?」
「……いやぁ。あるでしょ」
「──ありますかね?」
終業時間。人の少ない場所で彼女と待ち合わせ。
このご時世、食事に誘うのもどこへ行くのも難しい。
結局のところ、彼女のアパートで食事をするってことに落ち着いた。
ご時世による急展開。二人で駅に向かう道を会社の同僚に見つかって背中を叩かれた。
「うっす」
「いて。なんだ長沢かよ」
「このご時世で濃密接触はやめとけよ~?」
「バカ。濃厚接触だろ。彼女とはそんなんじゃねーし」
「まま。後ほど伺いましょう。じゃーな」
「おう」
ニヤケ顔の長沢がオレたちの横を通り過ぎる。
ふと隣りの彼女のふくれた顔。
「……そんなんじゃない」
「いやぁ。だってまだ食事もしてないし」
「ふーん」
「──オレはさ」
「なに?」
「いずみさんのマスクの下を早く見てみたい」
「あー。うん」
笑顔になる彼女。公共機関を利用して彼女の部屋へ──。
彼女の手料理で食事をはじめる時には、マスクとった互いの顔とご対面。
「へー。いずみくんの顔って……」
「なに?」
「可愛らしい顔してるね」
「いずみさんこそ……」
「うふふ」
このご時世でみんな移動はできないけど、こんなときでも愛とか恋って動くんだよな。
だってそれが人間なんだから。
だから人類はまたこのご時世から抜け出すことが出来る。
勝つことが──。
また笑顔で立ち上がることが出来るんだ。
その頃、彼女は「和泉依澄」になっていればいいな。と濃密接触の後で考えていた。
定期的に会社の窓を開いて換気する。
自分のすぐ後ろの窓なので正直寒い。
なので、時間が来たらすぐに閉められるようにそこに立っている。
ふと見ると隣のテナントの会社。何をやっているのかは分からないが、このビルのお隣さんの会社だ。
そこでも同じようにマスク姿の女性が立っていた。
目しか見えないが同年代のようだ。
「そちらも換気ですか?」
「え? ええ」
同じフロアにいながら見たこともない人。
こんなこともあるんだな。
彼女の目が弓形になって話しかけてくる。
「自粛自粛っていやになりますよね~。どこにも行けないし」
「マジこのままじゃ経済も立ち行かないっすね。どこに行ってもマスクもありませんし、消毒液も」
「ですよね~。ウチの会社の社長は工業用のアルコールを発注して自分で消毒液をつくりましたよ。100円ショップでポンプを買い込んで今度はポンプの方が品切れみたいです」
「マジっすか。超欲しいっす」
「ああ。差し上げましょうか?」
「いいんですか?」
「ええ。ちょっと待ってください」
窓から彼女の姿が消える。
そして1分もしないうちに彼女が手を伸ばす。
100円ショップの霧吹きポンプ。その中程まで液体が入っていた。
俺も手を伸ばし、彼女からポンプを受け取った。
その場で二三度手にアルコールを吹きかける。
「うぉー! マジもんじゃないっすか~」
「そうなんです。たくさんあるんでどうぞ」
「あざーす!」
その日はそれで終わった。
次の日も定期の換気。
窓を開けてしばらく隣の窓を見つめると、そこがカラリと開く。
「こんにちわ」
「こんにちわ。今日も寒いですね」
彼女のネームプレート。さりげなくその名字を呼ぶ。
「小平さんは今の会社長いんですか?」
「……え? 名前?」
「いやぁ、ネームプレート」
「あ! やだぁ。運命かと思っちゃった」
「え? 運命」
「あ。やだぁ。……なんでもないんです」
「運命──」
「もうやだぁ~……。あの、そちらのお名前は?」
「和泉です」
「え。うそ」
「ん?」
「私、名前が依澄なんです」
「へぇ~……」
「あ~……」
「どうしました?」
「やっぱり、ないのかな?」
「……いやぁ。あるでしょ」
「──ありますかね?」
終業時間。人の少ない場所で彼女と待ち合わせ。
このご時世、食事に誘うのもどこへ行くのも難しい。
結局のところ、彼女のアパートで食事をするってことに落ち着いた。
ご時世による急展開。二人で駅に向かう道を会社の同僚に見つかって背中を叩かれた。
「うっす」
「いて。なんだ長沢かよ」
「このご時世で濃密接触はやめとけよ~?」
「バカ。濃厚接触だろ。彼女とはそんなんじゃねーし」
「まま。後ほど伺いましょう。じゃーな」
「おう」
ニヤケ顔の長沢がオレたちの横を通り過ぎる。
ふと隣りの彼女のふくれた顔。
「……そんなんじゃない」
「いやぁ。だってまだ食事もしてないし」
「ふーん」
「──オレはさ」
「なに?」
「いずみさんのマスクの下を早く見てみたい」
「あー。うん」
笑顔になる彼女。公共機関を利用して彼女の部屋へ──。
彼女の手料理で食事をはじめる時には、マスクとった互いの顔とご対面。
「へー。いずみくんの顔って……」
「なに?」
「可愛らしい顔してるね」
「いずみさんこそ……」
「うふふ」
このご時世でみんな移動はできないけど、こんなときでも愛とか恋って動くんだよな。
だってそれが人間なんだから。
だから人類はまたこのご時世から抜け出すことが出来る。
勝つことが──。
また笑顔で立ち上がることが出来るんだ。
その頃、彼女は「和泉依澄」になっていればいいな。と濃密接触の後で考えていた。
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