わたくし悪役令嬢になりますわ! ですので、お兄様は皇帝になってくださいませ!

ふみきり

文字の大きさ
23 / 272
第二章 出グリューン

7 油断大敵ですわ

しおりを挟む
 悠太はマリエの姿を注視すると、素早く『ステータス表示』の技能才能を発動させた。相手と自身の立ち位置を正確に把握するためにも、客観的なデータはかなり重要だ。

 瞬時に脳裏にマリエのステータスが流れ込んできた。

【マリエ・バールコヴァ】
12歳 女 人間
HP   150
霊素   50
筋力   30
体力   30
知力   30
精神   35
器用   30
敏捷   30
幸運   35
クラス:導師  10(1つの導師ボーナス)
クラス特殊技能:表示できません
導師ボーナス:表示できません
出自レベル:表示できません
技能才能:表示できません

 器用さを除き、すべての能力で悠太が上回っていた。このあたりは成長速度Aと『神童』の技能才能のおかげだろう。しかし――。

「わたくしと同じ十二歳の少女にもかかわらず、多数の領兵たちを率いている状況を考えますと、ステータス以上の何かがあるのでしょうね」

 隠された能力に何かがあると感じ取った悠太は、警戒を強めた。これなら高ステータスで押すタイプの方がかえってわかりやすい、と感じる。相手の手の内がわからないので、下手に攻撃ができない。

 不用意にこちらから攻撃をしかけて思いがけないしっぺ返しを受ける愚は、犯したくなかった。

「それに、霊素持ちでもありますわ」

 わずかではあるが、マリエは霊素を保有している。たとえ五十程度しかなくとも、精霊具現化されたマジックアイテムを発動させるには十分だ。

 つまり、マリエがなんらかの強力なマジックアイテムを所持しているのならば、悠太とのステータスの差など、有るようでいて、実はまったく無いも同然だった。ただし、今のこの世界の精霊術のレベルでそれほど大それたマジックアイテムが作られているとは、とても考えられなかったが。

「でも、霊素持ちなのに、なぜ精霊教を敵視しているのかしら?」

 霊素持ちの保護を掲げている精霊教を目の敵にする理由が、わからなかった。

 世界再生教はどちらかと言えば精霊否定派だ。霊素持ちのマリエには居心地が悪いはず。特に、年若い少女なのだから、余計に息苦しいだろうに。

 それとも、マリエ自身が霊素を持っていることに気が付いていないのか。そうであるならば、マリエにとっては不幸だ。自身に適性のある精霊術を、自身の手で否定してしまっているのだから。

「騙されているのか、洗脳か……。考えても仕方がない、ですわね」

 マリエの境遇には少し思うところもあるが、今は戦闘中だ。隙を見せないよう、油断なくマリエを見据えた。

 ペスが領兵相手に優位に進めているうちに、指揮官と思しきマリエをどうにか無力化する必要がある。数で押し切られてはたまらない。

「アリツェ……プリンツォヴァ?」

 突然何かに気づいたかのように、マリエは構えを解いた。

「あんた、もしやプリンツ卿の……。いや、まさか……」

「何をごちゃごちゃとおっしゃっているのでしょうか? その隙を逃すほど、わたくしは愚かではございませんわ!」

 マリエは何やらぶつぶつとつぶやいているが、悠太にはよく聞こえなかった。

 マリエは今、完全に無防備になっていた。悠太はすぐさま地面を蹴り、ショートソードを構えてマリエに突っ込んだ。剣の技術に自信がない以上、またとない機会を逃すわけにはいかなかった。一気に距離を詰める。

 呆けていたマリエは、接近する悠太に気づき、慌ててナイフを構えなおす。

 悠太はショートソードを急所めがけて突き刺そうとした。だが、マリエはナイフで悠太の剣先を横から叩き、どうにか躱す。悠太は勢い余って、そのままマリエの脇を通り過ぎた。マリエに背後をさらしてしまう。

 慌てて振り返ろうとするも、バランスを崩し、地面に手をついた。ショートソードも手から零れ落ちる。ここで器用さの低さがあだになった。

(まずいっ!)

 このままでは無防備な背を攻撃される。焦るものの、悠太の体は硬直し、動かなかった。かつての転生前の悠太としてはそれなりに接近戦の経験はあったが、今のアリツェとしての悠太にとっては、実戦は初めてだった。体が、思うとおりに動かない。

「殺すわけにはいかない。こうなったら、生け捕りね」

 なぜだかマリエは攻撃をしてこなかった。感じていた殺気が、わずかに変化したようにも思える。

 悠太はこの隙に体勢を立て直そうとしたものの、まだ体がこわばっていた。意志どおりに動けない状況に、焦りを感じ始める。

「情けない奴らね。あんな犬っころに、完全に遊ばれてる」

 背後からマリエの苛立たしげな声が聞こえた。領兵が全く役に立っていない状況を憎々しげに思っているようだ。

「仕方がない、奥の手を使いますか」

 どうにか悠太が冷静さを取り戻し立ち上がろうとした時、マリエの冷ややかなつぶやきが周囲に響いた。

 何かが悠太に当たったと感じるや、悠太は自分の体が浮き上がる感覚を覚えた。そのまま、何かに全身をまさぐられる感触が続く。透明な、腕のようなものだ。ぞわぞわっと背筋が凍った。

「きゃっ、なんですの」

 見えない腕に体中を拘束され、悠太はまったく身動きが取れなくなった。うねる腕先の感触が気色悪い。

 これが、マリエの持つ隠された能力だろうか。それとも、何らかのマジックアイテムだろうか。身をよじることもできない今の状態では、確認しようもなかった。

 何度か全力で引っ張るが、悠太の今の力ではびくともしない。

「悪いね、お嬢さん。私はあんたに興味がわいた。連れて行かせてもらうよ」

 伸びる腕先が口内に侵入し、完全にふさがれた。まったく声を上げられない。鼻はふさがれておらず呼吸はなんとかできるものの、かなり苦しい。

(ペス、悪いっ。捕まっちまった。お前はこのまま離脱し、状況を見てオレの救出にあたってくれないか? どうやらこいつ、オレを殺すつもりはないようだ)

 慌ててペスに念話を飛ばした。悠太は透明な腕のあまりの生々しさに全身が総毛立つ。

 状況的に、ペスの加勢を受けてもこの拘束を解けるかどうかがわからない以上、事態が好転するとは思えなかった。ここはいったんおとなしく捕まり、捲土重来を期すべきだ、と悠太は判断した。

『ご主人、気を付けてだワンッ。すぐに助けに行くワンッ』

(すまない、頼んだ。与えた精霊の具現化は、まだしばらく持つはずだ。そのまま霊素を纏ってうまく使ってくれ)

 今の悠太の全力で具現化させた精霊だ。かなりの量の霊素をペスに纏わせた。具現化は、あと、半日は持つと思われた。

(油断した……。ただ、孤児院のみんなは逃げのびたようで、それだけは救いだな……)

 ペスが領兵を完全に手玉に取ってくれたおかげで、孤児院組へ追跡に出られた兵士は、一人としていなかった。

 これで、孤児院の子供たちはおそらく無事にクラークの街まで逃げのびられるはずだ。精霊王に誓ったアリツェの決意も、果たされたと言えるのではないかと悠太は思う。

 ……最低限の目的は、達成された。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...