110 / 272
第九章 二人の真実
12 空へと飛び立ちますわ!
しおりを挟む
「ハァッ、ハァッ。どうにか、撒けましたわ」
悠太はドミニクの作った一瞬の隙をついて、囲みを突破し宮殿の二階へと逃げのびた。ドミニクがうまく引き付けているのか、追っ手の姿は見えない。
「ドミニク様、大丈夫でしょうか……」
後を追ってこないドミニクに、悠太の不安は尽きなかった。このまま一人、逃げ続けてもよいのだろうか。後ろ髪を引かれる。だが、ここでドミニクを探しに戻れば、せっかく囮を引き受けたドミニクの覚悟を、踏みにじる結果にもなる。
悠太は頭を振り、気持ちを切り替えた。とにかくドミニクを信じ、脱出経路を探さねばと。
「ここのテラスから、壁伝いに何とか降りられそうですわね」
悠太は外に出られそうな場所を見つけ出した。壁には手掛かりになりそうなツタやレンガの出っ張りがある。身軽なこのアリツェの体なら、何とか降りられなくもなさそうだ。
「アリツェ! 無事かい!」
と、そこに息せき切らせてドミニクが駆けつけた。パッと見た感じ、けがなどはない。
「あ、ドミニク様! よかった、ご無事でしたのね」
悠太は安堵の表情を浮かべて、ドミニクを迎えた。
一人であの囲いを突破するとは、さすがはドミニクだった。おそらくは、他者にはない何か特殊な技能才能を持っているのだろう。
「ちょっと奥の手を使わせてもらったよ」
ドミニクは「あまり使いたくはなかったけれど、今は、生き残ることが最優先だし、仕方がないね」と呟いた。
やはりドミニクには隠された何かがある。詳しく聞いてみたいが、さすがに敵地でそのような余裕はない。まずは、脱出が最優先だった。
「このまま壁伝いに脱出を考えておりますの。行きましょう、ドミニク様!」
テラスの外の壁を指さしながら、悠太はドミニクの手を引いた。
「ちょっと待って。さっき導師部隊の残りが外へ駆けていくのを見た。壁を伝っている間に襲われる危険性があるよ。あの爆薬を集中的に投げつけられたら、ちょっとマズい」
ドミニクは頭を振り、悠太を止めた。
となると、どこから脱出すべきだろうか。まずは一階へ抜ける手段を探すべきだろうか。
悠太が腕を組んで考え込んでいると、突然、肩に小さな鳩が止まった。
『やっと見つけたっポ。ご主人』
脳裏に突然言葉が響き渡った。この感覚は、ペスの念話と同じだった。
「あら? 何かしら……」
悠太は何やら懐かしさを覚えた。この声に、聞き覚えがあった。
『ルゥだっポ。お久しぶりだっポ、ご主人』
そう頭に響き渡るや、鳩が頭を悠太に擦り付けてきた。
「あら、ルゥでしたの。……これはちょうどいいですわね。さっそく働いてもらいますわ!」
声の主、首元がぼんやりと玉虫色に輝いている小さな鳩は、かつてVRMMO『精霊たちの憂鬱』でカレル・プリンツ――悠太が従えていた、使い魔のルゥだった。
飛行タイプの使い魔であるルゥが加わった結果、新たな選択肢が増えた。
悠太はさっそくルゥを使い魔登録し、精神リンクを確立させた。以前自らのステータスを確認した際に、二匹目の使い魔を持てるだけの精霊使いの熟練度がたまっているのは確認済みだった。
「ドミニク様、精霊術で空を飛びますわ。しっかりとわたくしに捕まっていてくださいませ!」
ルゥに風の精霊術を施せば、悠太の身体自身に翼を纏わせられ、自ら飛行が可能になる。テラスから飛び立てば、追っ手を気にせずに宮殿を脱せるだろう。
「え? え? 空を飛ぶ!?」
ドミニクは目を丸くしている。
「さあ! 早くわたくしの腰に!」
悠太は戸惑うドミニクを急かし、腰に手を回すように告げた。
「わ、わかったよ!」
ドミニクは恐る恐るといった様子で悠太の腰に手を回す。密着する形になったので、悠太はドミニクの心臓の鼓動をしっかりと感じた。
やはり、悠太に嫌な感情は湧き起らない。男に密着されているのにもかかわらず……。
昨晩感じた懸念を思い出し、悠太は少し気が滅入った。本当に、思考や感情がアリツェに寄ってきているのだろうか。肉体に合わせて、人格が徐々に女性化していくのだろうか。
恐ろしい考えを振り払うべく、悠太は頭を振った。ダメだ、今はよそ事を考えている場合ではないと、そう無理やり自分に言い聞かせて。
「お願いしますわ、ルゥ」
『合点承知だっポ!』
悠太は風の精霊術をルゥに施し、ルゥの力によって自らの背に翼を纏わせた。
理屈はよくわからないが、この翼を纏うと体が軽くなった感覚を得られる。ゆっくりと翼をはためかせると、徐々に体が浮き上がり始めた。
そのまま腰をつかんでいるドミニクの腕に手を添えて、悠太はテラスから空へと飛び立った。
悠太はドミニクの作った一瞬の隙をついて、囲みを突破し宮殿の二階へと逃げのびた。ドミニクがうまく引き付けているのか、追っ手の姿は見えない。
「ドミニク様、大丈夫でしょうか……」
後を追ってこないドミニクに、悠太の不安は尽きなかった。このまま一人、逃げ続けてもよいのだろうか。後ろ髪を引かれる。だが、ここでドミニクを探しに戻れば、せっかく囮を引き受けたドミニクの覚悟を、踏みにじる結果にもなる。
悠太は頭を振り、気持ちを切り替えた。とにかくドミニクを信じ、脱出経路を探さねばと。
「ここのテラスから、壁伝いに何とか降りられそうですわね」
悠太は外に出られそうな場所を見つけ出した。壁には手掛かりになりそうなツタやレンガの出っ張りがある。身軽なこのアリツェの体なら、何とか降りられなくもなさそうだ。
「アリツェ! 無事かい!」
と、そこに息せき切らせてドミニクが駆けつけた。パッと見た感じ、けがなどはない。
「あ、ドミニク様! よかった、ご無事でしたのね」
悠太は安堵の表情を浮かべて、ドミニクを迎えた。
一人であの囲いを突破するとは、さすがはドミニクだった。おそらくは、他者にはない何か特殊な技能才能を持っているのだろう。
「ちょっと奥の手を使わせてもらったよ」
ドミニクは「あまり使いたくはなかったけれど、今は、生き残ることが最優先だし、仕方がないね」と呟いた。
やはりドミニクには隠された何かがある。詳しく聞いてみたいが、さすがに敵地でそのような余裕はない。まずは、脱出が最優先だった。
「このまま壁伝いに脱出を考えておりますの。行きましょう、ドミニク様!」
テラスの外の壁を指さしながら、悠太はドミニクの手を引いた。
「ちょっと待って。さっき導師部隊の残りが外へ駆けていくのを見た。壁を伝っている間に襲われる危険性があるよ。あの爆薬を集中的に投げつけられたら、ちょっとマズい」
ドミニクは頭を振り、悠太を止めた。
となると、どこから脱出すべきだろうか。まずは一階へ抜ける手段を探すべきだろうか。
悠太が腕を組んで考え込んでいると、突然、肩に小さな鳩が止まった。
『やっと見つけたっポ。ご主人』
脳裏に突然言葉が響き渡った。この感覚は、ペスの念話と同じだった。
「あら? 何かしら……」
悠太は何やら懐かしさを覚えた。この声に、聞き覚えがあった。
『ルゥだっポ。お久しぶりだっポ、ご主人』
そう頭に響き渡るや、鳩が頭を悠太に擦り付けてきた。
「あら、ルゥでしたの。……これはちょうどいいですわね。さっそく働いてもらいますわ!」
声の主、首元がぼんやりと玉虫色に輝いている小さな鳩は、かつてVRMMO『精霊たちの憂鬱』でカレル・プリンツ――悠太が従えていた、使い魔のルゥだった。
飛行タイプの使い魔であるルゥが加わった結果、新たな選択肢が増えた。
悠太はさっそくルゥを使い魔登録し、精神リンクを確立させた。以前自らのステータスを確認した際に、二匹目の使い魔を持てるだけの精霊使いの熟練度がたまっているのは確認済みだった。
「ドミニク様、精霊術で空を飛びますわ。しっかりとわたくしに捕まっていてくださいませ!」
ルゥに風の精霊術を施せば、悠太の身体自身に翼を纏わせられ、自ら飛行が可能になる。テラスから飛び立てば、追っ手を気にせずに宮殿を脱せるだろう。
「え? え? 空を飛ぶ!?」
ドミニクは目を丸くしている。
「さあ! 早くわたくしの腰に!」
悠太は戸惑うドミニクを急かし、腰に手を回すように告げた。
「わ、わかったよ!」
ドミニクは恐る恐るといった様子で悠太の腰に手を回す。密着する形になったので、悠太はドミニクの心臓の鼓動をしっかりと感じた。
やはり、悠太に嫌な感情は湧き起らない。男に密着されているのにもかかわらず……。
昨晩感じた懸念を思い出し、悠太は少し気が滅入った。本当に、思考や感情がアリツェに寄ってきているのだろうか。肉体に合わせて、人格が徐々に女性化していくのだろうか。
恐ろしい考えを振り払うべく、悠太は頭を振った。ダメだ、今はよそ事を考えている場合ではないと、そう無理やり自分に言い聞かせて。
「お願いしますわ、ルゥ」
『合点承知だっポ!』
悠太は風の精霊術をルゥに施し、ルゥの力によって自らの背に翼を纏わせた。
理屈はよくわからないが、この翼を纏うと体が軽くなった感覚を得られる。ゆっくりと翼をはためかせると、徐々に体が浮き上がり始めた。
そのまま腰をつかんでいるドミニクの腕に手を添えて、悠太はテラスから空へと飛び立った。
0
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています
黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。
彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。
ようやく手に入れた穏やかな日々。
しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。
彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。
そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。
「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。
「いつものことだから、君のせいじゃないよ」
これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。
二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。
心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる