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第十一章 婚約
7 看板に偽りありですわ!
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晩餐ののち、悠太はドミニクを伴い、クリスティーナの滞在する部屋に赴いた。
「まぁっ、まぁっ! あなたがドミニク様ですか! 王都プラガで聞いた噂どおり、素敵な殿方でいらっしゃいます。どこぞのちんちくりんな娘にはもったいないくらい!」
ドミニクの姿を確認するや、クリスティーナは満面の笑顔を浮かべてドミニクの手を握った。
傍に侍っている三匹の子猫が、クリスティーナの動きに合わせて、ドミニクの足元にまとわりついた。どうやら、クリスティーナの使い魔のようだった。わずかに霊素を感じられる。
「クリスティーナ様、おほめいただきありがとうございます。……ただ、その『ちんちくりんな娘』とは、いったい誰を指していらっしゃるので?」
ドミニクはピクリとも表情を変えず、握りしめられたクリスティーナの手を振りほどいた。
ドミニクの迫力に使い魔の猫たちは怯え、慌てて逃げ去りクリスティーナのベッドの下に潜り込んでいった。
「あらいやだ、私ったら。つい思っていたことを口走ってしまいました。お気になさらないでくださいな」
クリスティーナは口に手を当てて、「おほほ」と笑う。
(ちんちくりんで悪かったな!)
絶対にわざとだろうクリスティーナの態度に、悠太は内心で毒づいた。
「私、あなたが気に入りました! 今後ともぜひ、仲良くしてください」
クリスティーナはしつこくドミニクの腕を取った。
「は、はぁ……。わかりました。アリツェと一緒でよければ」
ドミニクは困り果てた表情で、ため息をついた。
「まぁ、私の美貌を飾るのに、そこそこな容姿の添え物を一つくらい、傍に置いておくのも悪くはありませんね」
(オレはクリスティーナを彩るための付属品扱いかいっ!?)
クリスティーナのあまりな扱いぶりに、悠太は愕然とする。言い返してやりたい気持ちもあったが、今はドミニクとクリスティーナの会話中なので、グッとこらえた。
「また明日にでも、色々とお話をいたしましょう。ご一緒に街を散策などもいいですね」
クリスティーナは一方的に明日の予定を立て始める。
「はぁ……、ただ、私はアリツェと婚約の準備がございますので、おそらく時間はとれませんよ?」
ドミニクはくたびれた様子で頭を振った。
「まぁっ、まぁっ! わたくしの願いであれば、時間などどうとでもなります。明日、楽しみにしていますね」
クリスティーナは最後までマイペースだった。
クリスティーナの部屋を出て、悠太とドミニクは応接間へと向かった。ぐったりとしながら廊下を歩く。
「自分の世界に入り込んでいるというか、人の話を聞かないというか……」
ドミニクは「ふぅー」とため息をつく。
「いろいろと問題がお有りな方ですわね。なんだか、先が思いやられるようですわ」
性格に難がありすぎた。クリスティーナは自分の言いたいことだけをべらべらとしゃべり、結局、精霊術の披露はしなかった。悠太も気疲れで、クリスティーナに突っ込みを入れる余裕がなかった。
(あー、しまったな。念のため、転生者かどうかも確かめるべきだった。……次に会った時に、さりげなく鎌をかけてみるか)
グリューンの街で初めて聖女の大規模精霊術のうわさを聞いたときに、悠太は聖女がテストプレイヤーの転生者ではないかと疑った。だが、すでにラディムが優里菜の転生体だと判明しているため、もはやありえない話ではある。
しかし、聖女の行使したと言われる精霊術は、今のこの世界の精霊術の水準では不可能だと思えた。であれば、何らかの原因があるはずだと、悠太は睨んでいた。
(聖女が何者なのか、探る必要があるな……)
「参った、まさかこんな事態になるなんて……」
ドミニクは頭を抱えて、ソファーの上で唸り声をあげた。
聖女一行を迎えた晩餐会の翌日、ヤゲル王国側から一つの提案がなされ、アリツェとドミニクの心をかき乱していた。
「まさかここまで、周囲を無視して突っ走る方だとは、わたくしも思いませんでしたわ」
アリツェはため息をつきながら、頭を振った。
「アリツェとの婚約を中止して、代わりにクリスティーナと婚約しろだなんて、そんな真似できるはずないではないか!」
ドミニクはバッと顔を上げると、声を張り上げた。
「……ドミニク。わたくしとの婚約、中止になんてしませんわよね」
アリツェは不安になり、ドミニクの顔を覗き込んだ。
「当り前だ! ボクを見くびらないでくれ。あんなぽっと出の女に惹かれるほど、クズじゃない」
ドミニクは「あり得ないっ!」と口にし、アリツェの肩をつかんだ。
「……ドミニクのその一言を、待っていましたわ。信じて、よろしいのですわよね?」
言葉を返す代わりに、ドミニクはそのままアリツェを強く抱きしめた。
アリツェはされるがまま、目をつむってドミニクの熱を感じた。しばらく抱き合った後、アリツェとドミニクは名残惜しげに離れて、ソファーに座りなおす。
「ただ、一つ厄介な事実がわかってしまったね」
ドミニクは渋面を浮かべた。
「ええ……。まさか、クリスティーナ様がヤゲル王国の王女だとは……」
聖女クリスティーナとの婚約を結ぶようにと主張してきたヤゲル王国の使者は、もう一つの大きな爆弾を投げ込んできた。
クリスティーナがヤゲル王国国王の娘であり、王位継承権を持つ王女であると。
「妾腹の王女だったので、今まで表に出ていなかったようだね。ただ、精霊術の才能を見せ始めたので、使いようがあるとして、今はこうして外交の場に出てきているようだ」
クリスティーナの実態が今まであまり知られていなかったのは、妾だった母親の身分が高くなかったかららしい。本来ならば、政略結婚の道具の一つとして使い捨てられる程度の、取るに足らない末端王族として終わるはずだった。
だが、偶然に持っていた精霊術の才能が、クリスティーナの人生を一変させた。
「あの性格と振る舞いでは、かえって外交関係をこじらせてしまうのではないかと、わたくし思いますわ」
周囲の態度の急変に、クリスティーナはすっかり性格がねじ曲がってしまったようだ。聖女として見出される前のクリスティーナは、決して今のような高慢不遜な性格ではなかったらしい。……いずれも又聞きなので、どこまで正確なのかはわからないが。
しかし、現状の性格のままでは、とても外交で成果を示せるとは思えなかった。ヤゲル王国はどのような意図をもって、クリスティーナを外交使節団にねじ込んできたのだろうか。
「はは、まったくだね」
ドミニクもアリツェと同感らしく、うなずいた。
ヤゲル王国側からの提案は、フェイシア王国の王子であるドミニクとヤゲル王国の王女であり聖女でもあるクリスティーナが婚姻を結び、将来的にその子供たちをそれぞれの国王に据えることで、精霊教を国教とする国同士の連合王国化を図り、最大の敵、バイアー帝国に対抗しようというものだった。
ドミニクによると、どうやら使節団に同行しているヤゲル王国の重臣たちは、クリスティーナの言いなりになっているらしい。クリスティーナのドミニクとの婚約に関するわがままをどうにか実現できないかと考えた末に、無理やりひねり出した案というのが真実のようだ。
それにしても、ずいぶんと長期的な計画だ。正直に言えば、それだけの期間が経てば、帝国との関係にも何らかの形で一つの決着がついているのではないかと、アリツェは思った。クリスティーナの突発的なわがままから一晩で強引に立てた案なのだから、穴があるのも当然と言えば当然なのだろう。アリツェはヤゲル王国の重臣たちに同情した。
フェイシア国王や付き従っている側近たちは、プリンツ辺境伯の重要性を鑑み、ヤゲル王国の提案を飲まず、予定どおりアリツェとの婚約に臨むべきだとの態度を取った。ドミニクも当然、アリツェが好きだったので聖女の要請はきっぱりと断った。
アリツェは多少やきもきする場面もあったが、最終的には予定どおりに婚約の儀へ望めるとわかり、安堵した。
「まぁっ、まぁっ! あなたがドミニク様ですか! 王都プラガで聞いた噂どおり、素敵な殿方でいらっしゃいます。どこぞのちんちくりんな娘にはもったいないくらい!」
ドミニクの姿を確認するや、クリスティーナは満面の笑顔を浮かべてドミニクの手を握った。
傍に侍っている三匹の子猫が、クリスティーナの動きに合わせて、ドミニクの足元にまとわりついた。どうやら、クリスティーナの使い魔のようだった。わずかに霊素を感じられる。
「クリスティーナ様、おほめいただきありがとうございます。……ただ、その『ちんちくりんな娘』とは、いったい誰を指していらっしゃるので?」
ドミニクはピクリとも表情を変えず、握りしめられたクリスティーナの手を振りほどいた。
ドミニクの迫力に使い魔の猫たちは怯え、慌てて逃げ去りクリスティーナのベッドの下に潜り込んでいった。
「あらいやだ、私ったら。つい思っていたことを口走ってしまいました。お気になさらないでくださいな」
クリスティーナは口に手を当てて、「おほほ」と笑う。
(ちんちくりんで悪かったな!)
絶対にわざとだろうクリスティーナの態度に、悠太は内心で毒づいた。
「私、あなたが気に入りました! 今後ともぜひ、仲良くしてください」
クリスティーナはしつこくドミニクの腕を取った。
「は、はぁ……。わかりました。アリツェと一緒でよければ」
ドミニクは困り果てた表情で、ため息をついた。
「まぁ、私の美貌を飾るのに、そこそこな容姿の添え物を一つくらい、傍に置いておくのも悪くはありませんね」
(オレはクリスティーナを彩るための付属品扱いかいっ!?)
クリスティーナのあまりな扱いぶりに、悠太は愕然とする。言い返してやりたい気持ちもあったが、今はドミニクとクリスティーナの会話中なので、グッとこらえた。
「また明日にでも、色々とお話をいたしましょう。ご一緒に街を散策などもいいですね」
クリスティーナは一方的に明日の予定を立て始める。
「はぁ……、ただ、私はアリツェと婚約の準備がございますので、おそらく時間はとれませんよ?」
ドミニクはくたびれた様子で頭を振った。
「まぁっ、まぁっ! わたくしの願いであれば、時間などどうとでもなります。明日、楽しみにしていますね」
クリスティーナは最後までマイペースだった。
クリスティーナの部屋を出て、悠太とドミニクは応接間へと向かった。ぐったりとしながら廊下を歩く。
「自分の世界に入り込んでいるというか、人の話を聞かないというか……」
ドミニクは「ふぅー」とため息をつく。
「いろいろと問題がお有りな方ですわね。なんだか、先が思いやられるようですわ」
性格に難がありすぎた。クリスティーナは自分の言いたいことだけをべらべらとしゃべり、結局、精霊術の披露はしなかった。悠太も気疲れで、クリスティーナに突っ込みを入れる余裕がなかった。
(あー、しまったな。念のため、転生者かどうかも確かめるべきだった。……次に会った時に、さりげなく鎌をかけてみるか)
グリューンの街で初めて聖女の大規模精霊術のうわさを聞いたときに、悠太は聖女がテストプレイヤーの転生者ではないかと疑った。だが、すでにラディムが優里菜の転生体だと判明しているため、もはやありえない話ではある。
しかし、聖女の行使したと言われる精霊術は、今のこの世界の精霊術の水準では不可能だと思えた。であれば、何らかの原因があるはずだと、悠太は睨んでいた。
(聖女が何者なのか、探る必要があるな……)
「参った、まさかこんな事態になるなんて……」
ドミニクは頭を抱えて、ソファーの上で唸り声をあげた。
聖女一行を迎えた晩餐会の翌日、ヤゲル王国側から一つの提案がなされ、アリツェとドミニクの心をかき乱していた。
「まさかここまで、周囲を無視して突っ走る方だとは、わたくしも思いませんでしたわ」
アリツェはため息をつきながら、頭を振った。
「アリツェとの婚約を中止して、代わりにクリスティーナと婚約しろだなんて、そんな真似できるはずないではないか!」
ドミニクはバッと顔を上げると、声を張り上げた。
「……ドミニク。わたくしとの婚約、中止になんてしませんわよね」
アリツェは不安になり、ドミニクの顔を覗き込んだ。
「当り前だ! ボクを見くびらないでくれ。あんなぽっと出の女に惹かれるほど、クズじゃない」
ドミニクは「あり得ないっ!」と口にし、アリツェの肩をつかんだ。
「……ドミニクのその一言を、待っていましたわ。信じて、よろしいのですわよね?」
言葉を返す代わりに、ドミニクはそのままアリツェを強く抱きしめた。
アリツェはされるがまま、目をつむってドミニクの熱を感じた。しばらく抱き合った後、アリツェとドミニクは名残惜しげに離れて、ソファーに座りなおす。
「ただ、一つ厄介な事実がわかってしまったね」
ドミニクは渋面を浮かべた。
「ええ……。まさか、クリスティーナ様がヤゲル王国の王女だとは……」
聖女クリスティーナとの婚約を結ぶようにと主張してきたヤゲル王国の使者は、もう一つの大きな爆弾を投げ込んできた。
クリスティーナがヤゲル王国国王の娘であり、王位継承権を持つ王女であると。
「妾腹の王女だったので、今まで表に出ていなかったようだね。ただ、精霊術の才能を見せ始めたので、使いようがあるとして、今はこうして外交の場に出てきているようだ」
クリスティーナの実態が今まであまり知られていなかったのは、妾だった母親の身分が高くなかったかららしい。本来ならば、政略結婚の道具の一つとして使い捨てられる程度の、取るに足らない末端王族として終わるはずだった。
だが、偶然に持っていた精霊術の才能が、クリスティーナの人生を一変させた。
「あの性格と振る舞いでは、かえって外交関係をこじらせてしまうのではないかと、わたくし思いますわ」
周囲の態度の急変に、クリスティーナはすっかり性格がねじ曲がってしまったようだ。聖女として見出される前のクリスティーナは、決して今のような高慢不遜な性格ではなかったらしい。……いずれも又聞きなので、どこまで正確なのかはわからないが。
しかし、現状の性格のままでは、とても外交で成果を示せるとは思えなかった。ヤゲル王国はどのような意図をもって、クリスティーナを外交使節団にねじ込んできたのだろうか。
「はは、まったくだね」
ドミニクもアリツェと同感らしく、うなずいた。
ヤゲル王国側からの提案は、フェイシア王国の王子であるドミニクとヤゲル王国の王女であり聖女でもあるクリスティーナが婚姻を結び、将来的にその子供たちをそれぞれの国王に据えることで、精霊教を国教とする国同士の連合王国化を図り、最大の敵、バイアー帝国に対抗しようというものだった。
ドミニクによると、どうやら使節団に同行しているヤゲル王国の重臣たちは、クリスティーナの言いなりになっているらしい。クリスティーナのドミニクとの婚約に関するわがままをどうにか実現できないかと考えた末に、無理やりひねり出した案というのが真実のようだ。
それにしても、ずいぶんと長期的な計画だ。正直に言えば、それだけの期間が経てば、帝国との関係にも何らかの形で一つの決着がついているのではないかと、アリツェは思った。クリスティーナの突発的なわがままから一晩で強引に立てた案なのだから、穴があるのも当然と言えば当然なのだろう。アリツェはヤゲル王国の重臣たちに同情した。
フェイシア国王や付き従っている側近たちは、プリンツ辺境伯の重要性を鑑み、ヤゲル王国の提案を飲まず、予定どおりアリツェとの婚約に臨むべきだとの態度を取った。ドミニクも当然、アリツェが好きだったので聖女の要請はきっぱりと断った。
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