わたくし悪役令嬢になりますわ! ですので、お兄様は皇帝になってくださいませ!

ふみきり

文字の大きさ
139 / 272
第十二章 悪役令嬢爆誕

10 ここにも例のメダルがあるだなんて

しおりを挟む
 自室に逃げ帰ったアリツェは、そのままベッドに飛び込んだ。慣れないことをしているために、精神的疲労が激しい。

(らちが明かない)

 進展のない状況に、悠太は不満を漏らした。

「ええ、そうですわね」

 事実そのとおりだったので、アリツェもうなずいた。

(そこで、以前クリスティーナがつぶやいていたブツに手を出そうと思う)

「バッグを隠したときに、見られたくなさそうにしていたアレですか?」

 クリスティーナの精霊術でバレてしまったのでそそくさと退散したため、それ以上の詳細はわからない。

(あぁ、それを持ち出して、隠してしまおう)

 確かにあの時のクリスティーナは、バッグに収めていた物を見とがめられなくて安堵している様子だった。であるならば、そのアイテムをこっそりと隠してしまえば、かなりの嫌がらせになると思えた。






 アリツェは風の精霊術で臭いと音を消し、慎重にクリスティーナの部屋に忍び込んだ。部屋には誰もいない。使い魔の猫の姿も、今はなかった。

 アリツェはさっそくバッグを開け、中身を漁った。

(この布に包まれている物でしょうか?)

 黒い布に包まれた円盤状の物体を見つけた。布を外せば、中から金に輝くメダルが姿を現す。

(それっぽいのは他にはないな。よし、とっとと持ち出そう)

 アリツェは悠太の言葉に同意しメダルを掴むと、立ち上がって部屋を去ろうとした。とその時、突然部屋の入口から男の声が響き渡った。

「ちょっと待った!」

「え!?」

 アリツェが慌てて振り向くと、アレシュが仁王立ちになって入り口をふさいでいる。バッグを漁る音で、隠していた気配に気づかれたようだ。一度気付かれてしまえば、姿自体を隠しているわけではないので、見とがめられるのは仕方がない。

「貴様、クリスティーナ様の部屋で何をしている!」

 アレシュはアリツェをにらみつけると、ビシッと指をさした。

「あら、アレシュ様。ごきげんよう」

 動揺する心を悟られないように、アリツェは笑みを浮かべながらアレシュに挨拶をする。

 そんなアリツェの言葉に、アレシュは不機嫌さを隠そうともしていない。大分イライラしている様子だった。

「いえ、少々クリスティーナ様とおしゃべりを楽しもうかと」

 面倒ごとは避けたかったので、アリツェは適当な言い訳でごまかそうと試みる。

「何をバカな……。貴様、さんざんクリスティーナ様に嫌がらせをしているじゃないか。それが、おしゃべりをしにきただと? そんな妄言、いったい誰が信じるものか!」

 アレシュは顔をゆがませ、怒声を上げる。

「オーッホッホッホ! わたくしが信じますわ! 何の問題がございましょうか」

 アレシュに対抗するため、アリツェは懐から扇子を取り出すと、バッと広げて口元にあてながら高笑いを上げた。以前グリューンの街にいたころに、悠太が「悪役令嬢ならこれだな」と言いながら頻繁にやっていたしぐさを真似してみる。

「ふんっ! 大方また、嫌がらせをしに来たのだろう? その手に持っているメダルは何だ。どうせそれも、クリスティーナ様の物なんだろう? 持ち出してどこかに隠すつもりだな!」

 さすがに年下の子供と言えども、アリツェの行動の意図はわかったようだ。まぁ、状況を見れば、それ以外ないとも言えるが……。

「おほほほほっ」

「ごまかしてもダメだっ! さあ、こっちによこせ!」

 笑って適当にあしらおうとアリツェは思ったが、当り前だがアレシュには通じなかった。アレシュは鼻息荒くアリツェに近づいてくる。

「あっ!」

 アレシュがアリツェの手に持つメダルに手をかけようとした瞬間、アリツェは手を滑らせメダルを床に落とした。

(え!?)

(これは!?)

 その際に布が完全にめくれ、金のメダルの意匠が目に飛び込んできた。……『龍』が、刻まれていた。

「ん? なんだこのメダルは。……ほう、さすがは聖女様が大切にされているものだ。龍の意匠が刻まれた金のメダルとは、素晴らしいな」

 アレシュはメダルを拾い上げ、掲げながら繁々と眺めた。

(なぜ、クリスティーナ様があのメダルをお持ちで?)

 アリツェは目の前の光景が信じられなかった。まさか、クリスティーナが隠し持っていたアイテムが、アリツェやラディムの持つ『精霊王の証』と同一のものだとは思ってもいなかった。

(わからん。だが、これで聖女の謎はますます深まったぞ。本当に、オレや優里菜と同じ転生者の可能性が出てきたな)

 今のところ、『精霊王の証』は転生者がらみの者のところにしか存在していない。アリツェたちはこのメダルを転生のキーアイテムではないかとにらんでいた。であるならば、このメダルを持つクリスティーナも転生者の可能性が限りなく高くなる。

(どうしましょうか。あとで本人にそれとなく鎌をかけてみますか?)

 悠太を超えるであろう精霊術の実力に、転生のキーアイテムと見込まれる『精霊王の証』まで持っている。クリスティーナ本人に聞かないわけにはいかなかった。

(だな。確かめてみよう。もしかしたら、転生者とわかればまた別の手段が取れるかもしれない。オレの知り合いであれば、無理にアリツェとドミニクの間を裂かなくても、話が済むかもしれないぞ)

(それは朗報ですわ! わたくしも、悪役なんて続けたくありませんわ!)

 悠太の言葉に、アリツェはパッと顔を上げた。もし本当に悠太の知り合いの転生者であるならば、もう心を殺して悪役令嬢を演じる必要がなくなる。今のアリツェにとって、これほどうれしい話はない。

「おい、何を固まっている。何か申し開きはないのか?」

 アレシュは訝し気にアリツェの顔を覗き込んできた。

「オーッホッホッホ! アレシュ様、まだいらっしゃったのですか?」

 だが、今のアリツェにはアレシュに構っている時間はない。早くクリスティーナに事実を確認したくてたまらなかった。心がはやる。結果、アレシュへの扱いがぞんざいになった。

「な、……なんだと?」

 アレシュはアリツェの言葉に衝撃を受けたようで、言葉を詰まらせた。

「わたくし今、大変に忙しいのですわ。お戯れはまた今度でお願いいたしますわ」

 口を半開きにしながら呆然と立つアレシュにアリツェは言い捨てると、さっさとクリスティーナの部屋を後にした。

「ま、まて! アリツェ!」

 アレシュの呼び止める叫び声が聞こえたが、面倒なのでアリツェは無視を決め込んだ。






「問いただしてみましたが……」

(見事にはぐらかされたな)

 クリスティーナへの詰問は不発に終わった。

 アリツェはぐったりと自室のベッドに転がった。精神的な疲労が重なり、もう服を着たままベッドに乗ってもはしたないなどと思う気持ちは吹き飛んでいた。

 何度かあれこれとそれらしい質問をぶつけてはみたものの、クリスティーナからの返事はすべて「何のお話だか、さっぱり分かりません」だった。

「どういたしましょうか?」

(仕方がない、当面は作戦継続だな)

 アリツェの問いに、悠太の非情な答えが返ってくる。

「はぁぁー……、やはり、そうですわよね」

 先ほどまでの喜びが一転、また悪役令嬢を演じる羽目になった。アリツェは枕に顔を押し付け、うんうん唸り声をあげた。

(我慢我慢だ、頑張ろうアリツェ)

 悠太が慰めるが、アリツェは泣きそうだった。人生はなんてままならないんだろうと痛感した……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...