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第二十一章 隠れアジトにて
7-2 もう逃がすわけにはまいりませんわ!~後編~
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「おい、大丈夫か?」
ラディムは手を伸ばしながら、暴れまわるマリエに向かって戸惑いがちに声をかけた。
「頭が、割れ、る……」
マリエはうめき声を上げながら、拘束玉で動きを封じられている身を、必死でよじろうとしている。痛む頭を両手で抱えたいのだろうが、今は霊素を含んだ透明な腕によってがっちりと固められているため、わずかに動かせる肩だけをビクビクと上下させていた。
「クリスティーナ、診てやってくれないか?」
ラディムはいったん手を引っ込めると、振り返ってクリスティーナに目線を向ける。
「いいけれど。これって、私の癒しの力が効きそうな症状でも、なさそうよ?」
クリスティーナは「ふぅっ」と大きく息をつくと、ラディムの横に腰を落とし、マリエの頭に軽く手をかけた。
クリスティーナの動きに合わせるように、使い魔のドチュカがひらりとマリエの身体に飛び乗る。すると、クリスティーナの掌が白く輝き始め、まばゆい光がマリエの全身を覆い始めた。
聖女と呼ばれたクリスティーナお得意の、光属性の癒しの精霊術だ。
やがて光が収まると、クリスティーナは苦笑いを浮かべながら、横に座るラディムに顔を向けた。
「やっぱり……。物理的というよりも、精神的な症状っぽいから、私じゃお手上げね」
「拘束を解いてやったほうがいいか?」
癒しの光が消え、再びゴロゴロと床を転がり始めたマリエを、ラディムは憐れむような目で見つめている。
「私は反対ね。この痛がり様が、演技だったらどうするの?」
クリスティーナは即座に否定し、頭を振った。精霊術を行使し終えたドチュカの身体を優しく撫でながら、目を細めて油断のない視線をマリエに向ける。
「しかし……。見ていられないというか、なんというか……」
ラディムはぐっと唇をかみしめる。
「わたくしは、お兄様に賛成ですわ。使い魔を封じている以上、めったな抵抗はできないでしょう?」
アリツェも、ラディムと同じ想いを抱いていた。
見た目幼い子供の姿をしているためか、どうしても自分の子供たちを思い出す。いたたまれない。
「でもねぇ……。この子、外見に似つかわしくない言葉遣いをしているし、何を企んでいるのか、わかったものじゃない気がするんだけど」
主人の気持ちを汲んでか、クリスティーナの残りの使い魔イェチュカとトゥチュカが、警戒心もあらわに身構えている。
確かに、クリスティーナの考えにも一理あるとアリツェは思う。見た目を逆手に取った作戦ではないかと言われれば、その可能性も否定はできない。
だが、今こちらは自由に動ける精霊使いが三人だ。対して、マリエは頼みの使い魔が、三匹とも拘束されている。
四匹目が隠れている可能性も考えたが、こっそり覗き見したマリエのステータス上の霊素量を鑑みると、もう一匹使い魔がいるとは思えない。三匹所持が限界のクリスティーナよりも、総霊素量が少なかったのだから。
「その時はその時。今のわたくしたちが、遅れを取るはずもありませんわ」
アリツェは胸をポンっと叩き、大丈夫だとクリスティーナを諭す。
「ま、二人が解放したいって言うなら、私もこれ以上、反対はしないわ」
クリスティーナは苦笑を浮かべ、やれやれと言わんばかりに肩をすくめた。
「落ち着いたか?」
ラディムは肩で切りそろえられたマリエの黒髪に、優しく手を置きながら声をかけた。
「う……。あ、あれ? ここは」
ラディムの声に反応し、マリエは頭を振りながら身を起こした。拘束を解かれて自由になった右手で、痛んでいたであろう右後頭部を何度か揺すっている。
今の自身の置かれた状況が、よくわからなくなっているのかもしれない。マリエはしきりにきょろきょろと周囲を見回し、首をひねる。
「マリエ?」
ラディムは不安げに首をかしげながら、マリエの顔を覗き込んだ。
「えーと、君は確か……。ラディム?」
マリエは覗き込んできたラディムの顔を注視し、こてんと小首をかしげる。
「えっ!?」
ラディムは目を見開き、声を張り上げた。
マリエは無表情のままラディムから目線を外すと、傍に控えるアリツェたちに顔を向ける。
「アリツェに……、クリスティーナだったかな?」
自らの記憶を確認するかのように、マリエはアリツェたちをじいっと見つめ、その名を口にした。
「わたくしたちの名を、知っているんですか?」
先ほどまで、マリエはアリツェたちを一切知らないようなそぶりを見せていた。ところが、今は違う。先ほどの頭痛が、何か関係しているのだろうか。
やはり、大司教に何らかの記憶操作でもされていた?
「どうやら、うまくいったみたいだねぇ」
マリエは床に片手をつき、バランスを崩さないようにゆっくりと立ち上がる。身にまとう黒いローブについた埃を軽く手で叩いて落とすと、身体のこわばりを取るためか、ぐいっと大きく伸びをした。
「なんだか、言葉遣いが変わったわよ、この娘」
クリスティーナは警戒心を緩めず、鋭い視線をマリエに送っている。
「あぁ、そうかそうか……。この話し方じゃあ、あのマリエとは言えないよねぇ」
マリエは口元に手を当てながら、さもおかしそうに「クックックッ」と笑った。
「君は、いったい……」
マリエの急な変貌に、ラディムはすっかり狼狽しているようだ。
目の前の幼女は、本当にあのマリエなのか? それとも、別のだれか?
アリツェも何が何だかわからなくなり、一歩後ずさった。
マリエは周囲を一瞥し、軽く咳払いをすると、一転して真面目な表情を浮かべながら、ラディムの前に進み出た。
「ラディム殿下、お久しぶりです。……あ、今はラディム陛下、でしたね」
マリエは深々と淑女の礼をとる。
「え!? 君は、本当に、あのマリエなのか……!?」
ラディムはわなわなと身体を震わせた。
ラディムは手を伸ばしながら、暴れまわるマリエに向かって戸惑いがちに声をかけた。
「頭が、割れ、る……」
マリエはうめき声を上げながら、拘束玉で動きを封じられている身を、必死でよじろうとしている。痛む頭を両手で抱えたいのだろうが、今は霊素を含んだ透明な腕によってがっちりと固められているため、わずかに動かせる肩だけをビクビクと上下させていた。
「クリスティーナ、診てやってくれないか?」
ラディムはいったん手を引っ込めると、振り返ってクリスティーナに目線を向ける。
「いいけれど。これって、私の癒しの力が効きそうな症状でも、なさそうよ?」
クリスティーナは「ふぅっ」と大きく息をつくと、ラディムの横に腰を落とし、マリエの頭に軽く手をかけた。
クリスティーナの動きに合わせるように、使い魔のドチュカがひらりとマリエの身体に飛び乗る。すると、クリスティーナの掌が白く輝き始め、まばゆい光がマリエの全身を覆い始めた。
聖女と呼ばれたクリスティーナお得意の、光属性の癒しの精霊術だ。
やがて光が収まると、クリスティーナは苦笑いを浮かべながら、横に座るラディムに顔を向けた。
「やっぱり……。物理的というよりも、精神的な症状っぽいから、私じゃお手上げね」
「拘束を解いてやったほうがいいか?」
癒しの光が消え、再びゴロゴロと床を転がり始めたマリエを、ラディムは憐れむような目で見つめている。
「私は反対ね。この痛がり様が、演技だったらどうするの?」
クリスティーナは即座に否定し、頭を振った。精霊術を行使し終えたドチュカの身体を優しく撫でながら、目を細めて油断のない視線をマリエに向ける。
「しかし……。見ていられないというか、なんというか……」
ラディムはぐっと唇をかみしめる。
「わたくしは、お兄様に賛成ですわ。使い魔を封じている以上、めったな抵抗はできないでしょう?」
アリツェも、ラディムと同じ想いを抱いていた。
見た目幼い子供の姿をしているためか、どうしても自分の子供たちを思い出す。いたたまれない。
「でもねぇ……。この子、外見に似つかわしくない言葉遣いをしているし、何を企んでいるのか、わかったものじゃない気がするんだけど」
主人の気持ちを汲んでか、クリスティーナの残りの使い魔イェチュカとトゥチュカが、警戒心もあらわに身構えている。
確かに、クリスティーナの考えにも一理あるとアリツェは思う。見た目を逆手に取った作戦ではないかと言われれば、その可能性も否定はできない。
だが、今こちらは自由に動ける精霊使いが三人だ。対して、マリエは頼みの使い魔が、三匹とも拘束されている。
四匹目が隠れている可能性も考えたが、こっそり覗き見したマリエのステータス上の霊素量を鑑みると、もう一匹使い魔がいるとは思えない。三匹所持が限界のクリスティーナよりも、総霊素量が少なかったのだから。
「その時はその時。今のわたくしたちが、遅れを取るはずもありませんわ」
アリツェは胸をポンっと叩き、大丈夫だとクリスティーナを諭す。
「ま、二人が解放したいって言うなら、私もこれ以上、反対はしないわ」
クリスティーナは苦笑を浮かべ、やれやれと言わんばかりに肩をすくめた。
「落ち着いたか?」
ラディムは肩で切りそろえられたマリエの黒髪に、優しく手を置きながら声をかけた。
「う……。あ、あれ? ここは」
ラディムの声に反応し、マリエは頭を振りながら身を起こした。拘束を解かれて自由になった右手で、痛んでいたであろう右後頭部を何度か揺すっている。
今の自身の置かれた状況が、よくわからなくなっているのかもしれない。マリエはしきりにきょろきょろと周囲を見回し、首をひねる。
「マリエ?」
ラディムは不安げに首をかしげながら、マリエの顔を覗き込んだ。
「えーと、君は確か……。ラディム?」
マリエは覗き込んできたラディムの顔を注視し、こてんと小首をかしげる。
「えっ!?」
ラディムは目を見開き、声を張り上げた。
マリエは無表情のままラディムから目線を外すと、傍に控えるアリツェたちに顔を向ける。
「アリツェに……、クリスティーナだったかな?」
自らの記憶を確認するかのように、マリエはアリツェたちをじいっと見つめ、その名を口にした。
「わたくしたちの名を、知っているんですか?」
先ほどまで、マリエはアリツェたちを一切知らないようなそぶりを見せていた。ところが、今は違う。先ほどの頭痛が、何か関係しているのだろうか。
やはり、大司教に何らかの記憶操作でもされていた?
「どうやら、うまくいったみたいだねぇ」
マリエは床に片手をつき、バランスを崩さないようにゆっくりと立ち上がる。身にまとう黒いローブについた埃を軽く手で叩いて落とすと、身体のこわばりを取るためか、ぐいっと大きく伸びをした。
「なんだか、言葉遣いが変わったわよ、この娘」
クリスティーナは警戒心を緩めず、鋭い視線をマリエに送っている。
「あぁ、そうかそうか……。この話し方じゃあ、あのマリエとは言えないよねぇ」
マリエは口元に手を当てながら、さもおかしそうに「クックックッ」と笑った。
「君は、いったい……」
マリエの急な変貌に、ラディムはすっかり狼狽しているようだ。
目の前の幼女は、本当にあのマリエなのか? それとも、別のだれか?
アリツェも何が何だかわからなくなり、一歩後ずさった。
マリエは周囲を一瞥し、軽く咳払いをすると、一転して真面目な表情を浮かべながら、ラディムの前に進み出た。
「ラディム殿下、お久しぶりです。……あ、今はラディム陛下、でしたね」
マリエは深々と淑女の礼をとる。
「え!? 君は、本当に、あのマリエなのか……!?」
ラディムはわなわなと身体を震わせた。
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