俺が好きなのは学園のマドンナじゃねぇ!

キマリ

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第2話 放課後に見つかった

春の朝。
カーテン越しに差し込む陽射しが、教室の机をやわらかく照らす。
外では、まだ若い緑の木々がそよ風に揺れていた。

俺は窓際の席で、ぼんやりと外を眺めながらつぶやいてしまった。
「……しかし、昨日、すごいもの見たな……」

夕焼けに染まる音楽室。
無表情のまま、指先だけ楽しそうに踊らせていた翡翠琴音の横顔。
その光景が、目を閉じなくてもありありと浮かんでくる。

胸がドクンと高鳴る。
気づけば顔が熱くなっていて、思わず片手で頬を覆った。
「……綺麗だった……」
ぽそりとこぼれた言葉に、自分でも驚く。

「何が綺麗だったって?」

「っ!? うおっ、脅かすなよ!」
背後からの声に慌てて振り返ると、茶髪の短髪に明るい笑顔を貼りつけた男が、俺の机に肘をついて覗き込んでいた。

日向響也。
朝日を浴びて、その茶髪がきらっと光る。
小麦色の肌に人懐っこい笑み。背筋はまっすぐで、スポーツで鍛えたがっしりした肩が制服越しでもわかる。
クラスの女子が「爽やかだよね」なんて噂していたのも納得だ。

「お前、朝から顔赤いし、小声で独り言……完全に怪しいな?」
ニヤニヤ顔で突っ込んでくる。

「な、なんでもねぇよ!」
慌てて視線を逸らすと、さらに響也はにやけて机に腰をかけた。

「そうだ、今日さ、購買一緒に行かね? 戦争だぞ? 焼きそばパン争奪戦」

「いや、今日は弁当あるから」

「そっか、残念。俺の分まで場所取りしてくれてもいいんだぜ?」

「するかよ」

ほんと、なんでこいつこんなに絡んでくるんだ。
入学してまだ一週間だってのに、クラスの輪の中心にいる。
俺とは正反対、完全なる“陽”。
打ち解けるの早すぎだろ……。

「そういえばさ、庶民なのに天上院さんと話してるって噂、ほんと?」
不意に核心を突いてくる。

「……誰だそんなの流したの」

「お前、マドンナ狙いなんだろ?シンデレラストーリー的な?」

「誰がだ! あんな悪態ばかりつけてくるやつ好きなわけねぇだろ!」

俺が全力で否定すると、響也はケラケラ笑って「冗談、冗談」と肩をすくめ、自分の席へ戻っていった。
にやけ顔がやけに癪に障る。
(俺が綺麗だと思ったのは麗華じゃなくて……隣の)
言えるわけがなかった。

チャイムが鳴り、朝礼が始まった。
担任が今日の連絡事項を告げ、続いて一時間目。



午前の授業。
黒板に書かれる数字と、先生のチョークの音がカツカツと響く。
クラスメイトたちは淡々とノートを取り、外では小鳥のさえずりが聞こえる。

「……ここ、お前分かるか?」
斜め前から小声が飛んできた。

「は?どれ」
ノートに身を乗り出すと、響也が問題を指差す。

「ここだよ、ここ。完全に置いてかれた」

俺も完璧に理解してるわけじゃないが、確かこうだったはず……。
「ここはこうして……公式に代入すれば出る」

「おお、助かる!」
満面の笑みで親指を立てる響也。
なんか、こういうところだけは憎めない。

そんなやりとりをしているうちに、午前はあっという間に過ぎた。



昼休み。
弁当箱のふたを開けると、ふわっと玉子焼きの甘い匂い。
隣の机では響也が、購買で奪ってきたコロッケパンを豪快にかじっている。

「なあ、お前、部活決めた?」

「いや、まだ」
部活か……そういや考えてなかった。

ふいに、昨日の音楽室の光景が脳裏に蘇る。
夕焼け、ピアノ、翡翠琴音。
(あの子、何部なんだろう……)

「もしかして天上院さんと同じ部活狙ってるとか?」
また茶化す響也。

「んなわけあるか」

「冗談、冗談。お前分かりやすいんだよ」

「……ほっとけ」
にやけ顔を見ないように、玉子焼きを一気に口に放り込む。
俺が知りたいのは麗華じゃない。
その隣でピアノを弾いていた子のことだ――。



午後の授業も淡々と進む。
外は少しずつオレンジに染まり、教室の空気がゆるくなる。
響也は相変わらず小声で「ノート写させてな」とか言ってくるし、後ろの席では誰かがこっそり居眠りしている。
そんな日常。

やがてチャイムが鳴り、放課後。
教室がざわめき、部活に行く者、寄り道の相談をする者で賑やかになる。

「じゃ、また明日な!」
手を振って響也が去り、俺はカバンを肩にかけて廊下へ出た。

そのとき――また、聞こえた。

あの旋律。
静かで、やさしくて、胸を揺らすピアノの音。
昨日と同じだ。

心臓がドクンと跳ねる。
足が勝手に音のする方へ向かっていた。

音楽室。
扉はほんの少しだけ開いていて、そこから夕日が差し込む。
カーテンがふわりと揺れ、黄金色の光が床に流れる。

その真ん中で、翡翠琴音がピアノを弾いていた。
銀にエメラルドを溶かしたような髪が夕日に透け、鍵盤を叩く指先がきらめく。
無表情のまま、でもどこか楽しそうで、柔らかな旋律が教室に満ちていた。

(……やっぱり、綺麗だ)
胸の奥がじんわり熱くなる。

夢中で見ていた、その時――

視線が、合った。

「っ……」
琴音の指が止まる。
エメラルド色の瞳が、扉の隙間に立つ俺をまっすぐ見ていた。

頭が真っ白になる。
バレた。
逃げる?謝る?何か言う?

けれど琴音は、無表情のままほんのり首を傾げただけだった。
まるで「何してるの?」と問いかけるように。

「……ご、ごめん」
小声で謝るのが精一杯。

琴音は一瞬だけ瞬きをすると、また鍵盤に視線を落とした。
何も言わず、再びピアノの音が静かに流れ出す。

俺は胸の鼓動を抑えながら、ただその場に立ち尽くしていた――。
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