5 / 40
第三章 「告白ゲーム」
しおりを挟む梅雨の季節が近づくある週末の夜、雛、楓、由美の三人は六本木のおしゃれなワインバーで女子会を楽しんでいた。
店内は落ち着いた照明に包まれ、シックな雰囲気が漂っている。
「もう三回目の女子会ね。早いわね」楓が赤ワインを口に運びながら言った。
「そうですね。気がつけばすっかり仲良くなってました」由美が微笑む。
(由美: 楓さんの、この余裕のある微笑み…本当に素敵。雛ちゃんの、この純粋な眼差しも…愛おしい。ああ、二人に挟まれて、幸せ…)
雛は二人の会話を聞きながら、グラスを傾けた。最初は気恥ずかしさもあったが、今では自然と会話が弾むようになっていた。
「そういえば、由美さんのギャラリーの準備はどうですか?」
雛が尋ねた。
「ありがとう。おかげさまで順調よ。来月にはオープンできそうなの」
「それは良かったわ。オープニングパーティーには私たちも呼んでくれるわよね?」
楓が冗談めかして言う。
「もちろんです!ぜひ来てください」由美は嬉しそうに答えた。
会話が弾む中、楓が不意に提案した。
「ねえ、みんな。ちょっと面白いゲームをしない?」
「ゲーム?」雛と由美が顔を見合わせる。
「そう。お互いの秘密を暴露し合うの。ちょっとスリリングだけど、もっと親密になれるかもしれないわ」
雛は一瞬戸惑ったが、由美が「面白そう!やってみましょう」と即答した。
「ルールは簡単よ。順番に質問をして、答えたくない場合は罰ゲームね」楓が説明する。
三人は顔を見合わせ、少し緊張した面持ちで頷いた。
最初は軽いトピックから始まった。好きな人のタイプ、学生時代の失敗談、ちょっとした恥ずかしい体験。グラスが空になり、注ぎ足されるたびに、話題は徐々に深いものへと変わっていった。
「じゃあ、私から本当の秘密を一つ」
由美は少し緊張した様子で、ワインを一口飲んでから言葉を選ぶように話し始めた。
「実は私…女性にも興味があるの」
彼女の声は小さく、しかし凛として響いた。由美が二人の反応をうかがうと、予想外にも二人は動揺した様子もなく、ただ温かく微笑んでいた。
「私もよ」楓が自然に返した。
「…私も、です」
楓に続き、雛が頬を染めながら、しかしはっきりと頷いた。
由美は目を丸くして、「え、二人とも?」と驚いた様子を見せた。
一瞬の沈黙の後、三人は顔を見合わせて、堪えきれずに笑い出した。張り詰めていた空気が一気に和らぎ、そこには共犯者のような温かい連帯感が生まれていた。
その心地よい沈黙の中、由美がぽつりと呟く。
「なんだか…二人になら、話せる気がする…。もう一つ、ずっと誰にも言えずに悩んでいたことがあるの」
さっきまでの悪戯っぽい雰囲気は消え、その声には切実さが滲んでいた。雛と楓は、黙って彼女の次の言葉を待つ。
「実は私…この前、私を紹介してくれた高橋先輩…聡さんのことなんだけど…」
由美は一度言葉を切り、二人の反応をうかがうように視線を落とした。
「…実は、結婚を前提にお付き合いをしてるの。人としてはとても尊敬してる。でも…」 由美は恥ずかしそうに視線を落とした。
「その…夜の相性っていうのかな…。なんだか、あまりうまくいかなくて…。彼が求めるものと、私が心の奥で求めているものが、少し違う気がして…ずっと一人で悩んでて…」
その告白に、雛と楓は同情するように、そして真剣に耳を傾けていた。
「だからかもしれない…。最近、なんだか満たされなくて…女性のしなやかな身体とかに、ふと惹かれてしまうことがあるの。私、おかしいのかな…」
か細い声でそう言って顔を上げた由美を、二人はただ、温かく包み込むような眼差しで見つめていた。
「おかしくなんてないわよ」楓が優しく、しかしきっぱりと言った。
「相性って、すごく大事なことだもの。それで悩むのは当然よ」
「私もそう思う」雛も静かに頷いた。
由美は少し安心したように息をついた。
「じゃあ、次は楓さんの番ね」由美が言った。
「楓さん、旦那さんとの関係はどう?」
楓は少し照れくさそうに、しかし悪戯っぽく微笑んで答えた。
「うちはね、その点だけは心配ないっていうか…ありすぎるくらいなの。うちの旦那、まことって言うんだけど、実はそういうことに関しては、少し…タフすぎるくらいで、なんていうのかな、えっと、絶倫?で...朝まで何回でもいける人なの」
「まあ!」由美が上げた声には、先ほどまでの悩みとは裏腹な、隠しきれない好奇心と羨望が混じっていた。
(由美:絶倫…なんて、はしたない響き…。でも、この楓さんを満足させる男性って、一体どれほどなの?楓さんのこの知的な顔が、激しい快感に歪むところを、見てみたい…)
由美は意外そうな表情を見せた。「楓さんのご主人、どんな方なの?今度会ってみたいわ」
「ITの会社を経営してるんだけど、外見からは全然想像できないほど…」楓の言葉は含みを持たせたまま途切れた。
「雛ちゃんの番よ」楓が促した。
雛は深呼吸をして、決意を固めたように言った。
「私...実は三人で付き合っているの」
部屋に静寂が訪れた。
「三人...?」由美が小さく呟いた。
(雛ちゃんが…?三人で…?誰と…?)
楓は何も言わず、ただ温かい目で雛を見つめていた。
「そう...私と楓さんと...まことさん」
雛の声は震えていたが、はっきりと告白した。
由美の目が大きく開いた。
「まさか...楓さんも?」
楓はゆっくりと頷いた。
「そうよ。私たち三人は特別な関係なの」
由美の頭の中は、真っ白になった。信じられない、という衝撃と同時に、熱い何かが腹の底からせり上がってくる。
(三人で…?楓さんと、まことさんと、この雛ちゃんが…?どういうこと?楓さん夫婦の間に、この子が…?一体、どんなことをしているの…?)
由美の脳裏に、具体的な光景が、見たくもないのに鮮明に浮かび上がってくる。
(楓さんが雛ちゃんの自由を奪って、まことさんがその無防備な体に…?どんなことをするの?楓さんが見ている前で、まことさんの激しい熱が、雛ちゃんのすべてを、何度も何度も…。それだけじゃない。きっと楓さんも加わるはず。雛ちゃんの口を自分の唇で塞いで、逃げ場をなくして…二人がかりで、このか細い体を貪り尽くす…?ああ、なんて…なんて美しい…!)
「どうして…そうなったの?」
由美の声には好奇心と驚きが混じっていた。
楓は視線を交わし、穏やかに語り始めた。
「私と雛ちゃんは元恋人同士でね。私がまことと結婚した後、久しぶりに三人で会った夜に、関係を持ってしまったの」
楓の言葉を受け、雛がはにかみながらも、幸せを噛みしめるように続けた。
「いろいろありましたけど…二人が私を受け入れてくれて、今はすごく良い関係なんです」
楓は愛おしそうに雛の頭を撫でた。
「雛ちゃんの勇気で、私たち三人の関係を始めることができたの」
「信じられないわ…でも、なんだか羨ましい」
由美は素直な感想を口にした。
「三人で支え合える関係って、素敵だと思う」
(由美:羨ましい…。私も、その輪の中に入れたら…。聡さんでは決して満たされない、私のこの渇きを、この二人となら…満たせるかもしれない…)
「今度、まことも交えて一緒に食事でもどう?」楓が提案した。
「もっと理解してもらえると思うし」
由美は少し考え込んだ後、微笑んで頷いた。
「ぜひお願いします。興味あるわ…その、絶倫な方にも会ってみたいし」
彼女の言葉は冗談めかしていたが、一瞬湧き上がった常識と理性はかき消され、心の中は一つの願いで焼き尽くされそうだった。
(由美:4人で会う…?そしたら、私も…?この私が、雛ちゃんと同じように…?楓さんの冷たい指に素肌を弄ばれて、絶倫だというまことさんの激情を、聡さんではありえないほど乱暴に、身体の奥まで刻み込まれて…雛ちゃんが、その光景を、すぐそばで見ている…?ああ、お願い…!私も仲間に入れてほしい!あの二人みたいに、あなたの旦那様にめちゃくちゃにされて、あなたにはその全部を見届けてほしい…!私も、三人と同じように、堕ちていきたい…!)
楓も頷いた。「それじゃあ、次の週末はどう?」
三人は顔を見合わせ、新たな関係への期待に胸を膨らませた。
—
そして、約束の週末の夜。由美は楓とまことの暮らすマンションの、高層階の一室に招かれていた。
「由美さん、来てくれてありがとう!ささやかだけど、歓迎のつもり。今日は楽しんでいってね」
エプロン姿の雛が、人懐っこい笑顔で由美をリビングへと案内する。
ダイニングテーブルには、彩り豊かな野菜やキノコが並べられ、中央に置かれた土鍋からは湯気が立ち上っていた。
肩肘の張らない、気楽な鍋パーティー。それは、由美という存在の警戒心を解くには、これ以上ないほど効果的な舞台設定だった。
「こちらこそ、お招きありがとう。楓さん、雛さん。…そして、はじめまして、まことさん。由美と申します」
ソファから立ち上がったまことに、由美は優雅に微笑みかけた。
彼が、楓と雛が自慢する男。値踏みするように、しかし決して悟られぬよう、由美の視線が彼の全身を滑る。
(なるほど…。ラフなニットを着ているせいか、むしろ、線が細く見えるわね。でも、少し童顔のせいかしら、目が優しすぎる。この男はまだ、本当の獣になっていない…)
食事が始まると、場の空気はすぐに和んだ。楓と雛が巧みに会話を回し、由美がそれに知的な相槌を打つ。
まことは、妻とその友人たちの楽しげな様子に、最初は少し照れたように、しかし心地よさそうに耳を傾けていた。
宴が中盤に差し掛かり、全員の緊張がすっかり解けた頃、由美は「そういえば」と、傍らのハンドバッグに手を伸ばした。
「この間の女子会のお礼と、今日のお招きのお礼を兼ねて。二人のおかげで、毎日が本当に楽しいわ」
そう言って、まずは楓と雛に、それぞれ小さな紙袋を手渡した。
楓にはパリのギャラリーで見つけたというアートブックを、雛にはウィーンの工房で作られたというアンティークの小物入れを。
「…信じられない。これ、写真家アラン・ベルナールの初期作品集じゃない。パリのあのギャラリーでしか手に入らないって聞いてたのに…。由美さん、すごすぎるわ」
アートブックを手に取った楓が、興奮を隠せない様子で声を上げる。
「わぁ…!きれい…。すごく繊細な絵付け…。私のことを考えて選んでくれたなんて、本当に嬉しいな…ありがとう、由美さん!」
小物入れを両手でそっと包み込むように持ち、雛が心からの笑顔で感謝を述べた。
その盛り上がりを微笑ましげに眺めていた由美は、ふと、思い出したかのように、もう一つ、簡素な作りの小さな箱を取り出した。
「そして、まことさん。はじめまして、のご挨拶。つまらないものですけれど」
彼女はまことの正面に回り込み、その箱を差し出した。
「スペインの銀細工の工房で見つけたの。この力強い雄牛、お二人が話してくれたまことさんのイメージに、なんだかぴったりだと思って」
由美の手のひらに乗っているのは、銀で作られた雄牛の頭部を模したキーホルダーだった。
力強く彫り込まれた角、猛々しく見開かれた目。その精巧な銀細工には、厚みのある小さな黒い革のストラップが繋がれている。
由美はストラップの先端を指で示し、悪戯っぽく微笑んだ。
「ここ、USBメモリにもなっているの。お仕事でも、使えそうでしょう?」
まことが「あ、すみません、わざわざ…」と手を伸ばし、銀のキーホルダーを受け取ろうとした、その瞬間。
由美は、すぐにそれを手放さなかった。彼女の白く細い指先が、まことの武骨な指に、微かに、しかし意図的に触れる。
電気が走ったような微かな衝撃に、まことが顔を上げる。
そこにいたのは、先ほどまでの優雅で社交的な由美ではなかった。
彼女は、何も言わない。ただ、じっと、まことの瞳の奥を見つめている。
それは、獰猛さとは違う、もっと静かで、深く、そして抗いがたい引力を持つ眼差しだった。
まるで、心の最も柔らかな部分を、細く鋭い針で的確に射抜かれたかのような感覚。彼の知らない、彼自身ですら気づいていない欲望の在り処を、すべて見透かされているかのような、官能的な視線。
「……ッ」
まことの心臓が、大きく音を立てて跳ねた。
呼吸が一瞬止まり、喉が渇く。自分が今、何を考え、どんな顔をしているのか、全く分からなかった。ただ、目の前の女から、目が離せない。
数秒だったか、あるいは数分だったか。濃密な沈黙の後、由美はふっと表情を緩め、いつもの魅惑的な微笑みに戻った。
「…お気に召すと、嬉しいのだけれど」
そう言ってキーホルダーを彼に手渡すと、由美はすっと身を引き、何事もなかったかのように自分の席に戻った。
まことは、手の中に残された銀の雄牛の冷たい感触と、胸に残る確かな動悸を抱えたまま、しばらく呆然としている。
楓は、そんな二人の間に流れた一瞬の濃密な空気を、面白そうに、そしてどこか満足げな笑みを浮かべて見つめていた。
雛は、ただ新しい友人と大切なパートナーが打ち解けていく様子を、嬉しそうに頬を染めて見守っている。
鍋から立ち上る優しい湯気が部屋を暖かく満たし、時折聞こえる楽しそうな笑い声が、和やかな食卓を彩っていた。
新しい友情が芽生えた、幸福な夜のひとときだった。
+++
10分後に次の作品を投稿します!
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
