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第十一章 「鑑賞会という名のオーディション」
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土曜日の朝、由美は念入りに身支度を整えた。今日は「不安を抱える清楚な女性」を演じる必要がある。
白いブラウスに紺のスカート、控えめなメイク。鏡に映る自分は、確かに初心で純真そうに見える。
楓のマンションは港区の高級住宅街にあった。デザイナーらしく洗練されたインテリアが印象的な部屋で、リビングには大きなソファとプロジェクター設備が整っている。インターホンを鳴らすと、すぐにドアが開いた。
「いらっしゃい、由美さん」
ドアの前に立つ楓の姿に、由美の心臓がどくんと大きく跳ねた。彼女は身体のラインが美しく映える、シンプルな黒のワンピースを纏っている。
しかし、今の由美の目には、その薄い布地の奥に、二週間前に触れたばかりの柔らかな感触や、熱を帯びた肌の記憶がありありと蘇っていた。洗練された香水の匂いに混じって、あの夜に嗅いだ楓の甘い香りが蘇るようで、由美は眩暈がしそうになる。
(この人と、私は二週間前に…深く、繋がった)
込み上げてくる記憶の奔流に、一瞬、呼吸が止まる。
「お邪魔します。素敵なお部屋ですね」
なんとか声を絞り出し、平静を装いながら部屋に足を踏み入れると、リビングのソファから立ち上がる雛の姿が見えた。
柔らかな素材のニットにロングスカート。その飾り気のない服装が、逆に隠されたしなやかな曲線を想像させ、由美の喉を乾かせる。
あの夜、自分を優しく包み込んだ看護師の手。熱っぽく口づけてきた、雛の柔らかい唇。
(ああ、だめ…思い出すだけで…熱くなる)
二人を目の前にして、この二週間、何度も夢想の中で繰り返した光景が現実味を帯びて蘇る。
また、あの肌に触れたい。あの温もりを確かめたい。あの身体を、今すぐにでも抱きしめたい。胸の奥が、きゅうっと熱く締め付けられた。
「さあ、上がって。」
楓が由美をリビングへと促し、その細い腕にさりげなく手を触れた。
その瞬間、由美の肩が微かに跳ねた。楓の指先から伝わる熱が、まるで電流のように全身を駆け巡り、脳裏に封じ込めていた記憶の堰を切った。
———楓の唇が、自分の唇を塞ぐ感触。雛の指が、秘められた場所をこじ開けていく背徳的な疼き。そして、まことがもたらした、身体の芯を貫くような衝撃。三人の熱と匂いが混じり合う、むせ返るような夜の記憶。自分の喉から漏れた、聞いたこともないような甘い声———
「あら、ごめんなさい。緊張してるわね」
楓がくすりと笑う。由美ははっと我に返り、わずかに腕を引いた。楓の指が離れていく。今の反応は、楓の目には「純粋な緊張」としか映らなかっただろう。
(ええ、そうよ。緊張している純真な私…それでいいの)
由美は内心で呟きながら、計算通りに頬を染め、恥じらうように俯いてみせた。
「…はい、少し…」
「大丈夫よ」
楓は由美の完璧な演技に気づくことなく、安心させるように微笑んだ。
「まことは急に仕事のトラブルで呼び出されちゃって。由美さんに会いたがってたんだけど」
「まあ、お忙しいのですね」
由美は残念そうな表情を作ったが、内心では好都合だと感じていた。女性だけの方が、より演じやすい。
リビングでは、雛が笑顔で手を振った。
「由美さん、いらっしゃい。今お茶淹れるからね」
「ありがとう、雛ちゃん」
由美は微笑んだ。その純粋な笑顔を見ているだけで、この身体をめちゃくちゃに抱きしめたいという衝動に駆られる自分に、由美は静かな興奮を覚えていた。
楓はにっこりと微笑み、リモコンを由美に向けた。
「心の準備は、できたかしら?」
「由美さん、真ん中のソファに座って。私たちはその両側に」
由美は指示された通りソファの中央に腰を下ろす。楓が右側、雛が左側に座った。
すぐ隣に二人の体温を感じ、由美の背筋に甘い緊張が走る。
部屋の照明が暗くなり、プロジェクターの光がスクリーンを照らす。
「最初は軽いものから見せるわね」
楓がリモコンを操作しながら言った。
「段々と...慣れてもらいましょう」
スクリーンに映像が映し出された。楓と雛がソファに座り、まことがカメラを構えているのが鏡に映り込んでいる。
映像の中の楓が微笑みながら「今日は私と雛の特別な時間を記録するの」と言っている。
由美は画面を見つめながら、練習通りに息を呑んでみせた。
映像は楓と雛が口づけを交わすシーンに移った。最初は軽い口づけだったが、徐々に深くなっていく。
二人の吐息が絡み合う生々しい音に、由美は自分の喉が乾くのを感じた。楓の手が雛に触れ、その柔らかな曲線を確かめるように動き始める。
「あ...」由美は計算通りに、驚きと戸惑いが混じった小さな声を漏らした。
その声に、隣に座る雛が即座に反応した。
「大丈夫?」そう言って、雛は由美の震える(フリをしている)手に、そっと自分の手を重ねた。
温かい。看護師らしい、柔らかく、それでいてしっかりとした感触。
その手のひらが、二週間前に自分の身体の隅々までを優しく愛撫したことを思い出し、由美の身体の奥に熱い疼きが走った。
雛の指が安心させるように由美の手を優しく握るたびに、胸の奥がきゅうと締め付けられる。
「え、ええ...ただ、思っていたより...リアルで」
由美は上擦った声で答えながら、雛の純粋な善意を、そしてその手から伝わる熱を、密かな快感として味わっていた。
映像の中では、楓が雛の服を乱し、あらわになった肌に唇を寄せている。
「んっ...あぁ...」
スピーカーから漏れる雛の甘い声が、由美の鼓膜を直接震わせる。
(いい声…本当に…)
由美は、知らず乾いていた唇をそっと舐めた。
隣にいる雛の体温を感じ、その手で握られながら、スクリーンの中の雛が快感に溺れる姿を見る。
現実と映像、そして記憶が混ざり合い、彼女の身体が内側からじわりと熱を帯びていく。
「次のはもう少し...踏み込んだ内容よ」
楓が次のファイルを選択した。
「覚悟はいい?」
由美は小さく頷いた。
「は、はい...」
新しい映像は寝室が舞台だった。三人ともあられもない姿で、キングサイズのベッドの上で絡み合っている。
「これは...」
由美の声が震える。映像の中では、雛がまことのある部分に顔を寄せ、楓がその様子を実況している。
由美は自分の身体の芯が熱くなっていくのを感じた。その時、右側から楓が腕を回し、由美の肩を抱き寄せた。
「大丈夫よ。怖かったら、私に寄りかかって」
楓の身体がぴったりと密着し、豊かな曲線の感触と香水の甘い香りが由美を包み込む。
楓の指が、宥めるように由美の二の腕をゆっくりと撫でた。その指の動きが、あの夜、自分の肌の上を這い回った楓の指の記憶と重なる。
由美は太ももを固く閉じ、込み上げてくる熱い痺れを必死に押し殺した。
(だめ…感じてしまう…)
楓の抱擁と雛の握られた手。二人の「善意」が、由美の身体を内側からじわじわと侵食していく。
映像はさらに過激になり、楓がまことに跨り、激しく愛し合うシーンがクローズアップで映し出される。
二人の肌が打ち付け合う音と、楓の喘ぎ声。
由美は二人に身体を預け、怯える子羊を演じながら、その実、誰にも知られず一人、静かな快感の波に揺られていた。
「これが一番...激しいものかな」
最後の映像が始まった。
楓と雛が重なり合い、同時にまことに愛されている。
楓の獣のような歓喜の叫び声が部屋に響き渡った時、由美はわざと身体を大きく震わせた。
「由美さん?」
楓の声に、由美は我に返ったふりをする。
「あ...はい」
「本当に大丈夫?すごく青ざめてるけど」
「ちょっと...ショックで…」
手で顔を覆いながら、由美はその指の隙間から、二人の心配そうな顔を観察した。
身体の芯は、もう溶けそうなほど熱くなっている。
(心配してくれてるのね。優しい人たち…でも、あなたたちが知らないところで、私はこんなに熱く疼いているのよ)
映像の中でまことが果て、楓が叫び声を上げる。その声が部屋に響き渡り、由美はついに、練習してきた涙を瞳に浮かべた。
映像が終わると、部屋に静寂が戻った。
「これが...私もこんなふうに...」
彼女の声は震えていた。
「そうよ」
楓が静かに答えた。
「あなたも同じように撮影される」
由美は顔を両手で覆い、肩を震わせた。
「恥ずかしい...」
その震える肩に、雛が優しく手を置いた。
「由美さん、本当に無理しなくていいのよ」
由美はゆっくりと顔を上げた。濡れた瞳で二人を見つめる。
「でも...みなさんと一緒にいたいんです。恥ずかしくても、怖くても...この関係を失いたくない」
その言葉に、楓は満足げに微笑んだ。スクリーンが消え、部屋が明るくなる。
由美は、二人に支えられながら立ち上がるフリをした。その時、雛の手が腰に、楓の手が背中に触れる。その感触だけで、腰が砕けそうになるのを、由美は必死に耐えていた。
(ああ、もっと…もっと触って…)
彼女の演技は、完璧だった。そして、その演技の裏で燃え盛る欲望もまた、完璧なほどに本物だった。
「お茶、淹れ直すわね」
雛がキッチンへ向かうと、リビングには楓と由美の二人が残された。楓は由美の隣に座り直し、心配そうに顔を覗き込んだ。
「本当に大丈夫だった?気分が悪かったら横になる?」
「いえ、大丈夫です…ただ、圧倒されてしまって…」由美は俯き、弱々しく答えた。
その演技とは裏腹に、身体の火照りは一向に冷める気配がない。
「そう…」楓は由美の髪を優しく撫でた。
「でもね、由美さん。あなたは映像の中の私たちより、ずっと魅力的だったわよ。あの夜のあなたは、本当に美しかった」
その言葉に、由美は顔を上げた。楓の瞳が、熱を帯びて自分を見つめている。
「楓さん…」
「だから、あなたの映像はきっと最高傑作になるわ。私が保証する」
楓の指が由美の頬を滑り、唇の輪郭をなぞる。その挑発的な仕草に、由美は息を呑んだ。
(誘っているの?それとも、試しているの?)
由美が反応に迷っていると、キッチンから戻ってきた雛が二人の間に割って入るようにしてお茶を置いた。
「楓さん、あまり由美さんを困らせちゃだめだよ」
雛は窘めるように言ったが、その目にはどこか楽しげな色が浮かんでいた。
「あら、ごめんなさい。つい、ね」
楓は悪びれる様子もなく微笑んだ。
三人の間に流れる奇妙な緊張感。由美は、この二人が自分を試しているのだと確信した。
映像を見せたのも、まことが不在なのも、全てはこのための布石。自分がどこまで受け入れるのか、その反応を見ているのだ。
(望み通りに、演じてあげるわ…)
由美は内心で微笑みながら、戸惑った表情で二人を見つめ返した。
一時間ほど雑談を続けた後、由美は帰る時間になった。玄関で靴を履きながら、楓が小声で話しかけてきた。
「由美さん、今日はショックを受けたでしょうけど、私たちは絶対にあなたを傷つけたりしないから安心して」
「ありがとうございます、楓さん」
由美は感謝の表情を見せた。
「少し怖いですけど...みなさんを信じています」
楓は満足そうに微笑んだ。
「いい子ね。きっと素敵な作品が作れるわ」
+++
読んで頂き、ありがとうございます。
刺激的な映像と、甘い言葉責め。
鑑賞会を終え、帰路についた由美ですが……身体の火照りは、もう収まりそうにありません。
次回、待ちきれなくなった淑女の「独り夜」。
そして、運命の「撮影本番」に向け、彼女はある行動に出ます。
続きは明日の20時頃公開予定です。
お気に入り、応援、レビューをいただけますと連載継続の力になります。
どうかよろしくお願いします。
白いブラウスに紺のスカート、控えめなメイク。鏡に映る自分は、確かに初心で純真そうに見える。
楓のマンションは港区の高級住宅街にあった。デザイナーらしく洗練されたインテリアが印象的な部屋で、リビングには大きなソファとプロジェクター設備が整っている。インターホンを鳴らすと、すぐにドアが開いた。
「いらっしゃい、由美さん」
ドアの前に立つ楓の姿に、由美の心臓がどくんと大きく跳ねた。彼女は身体のラインが美しく映える、シンプルな黒のワンピースを纏っている。
しかし、今の由美の目には、その薄い布地の奥に、二週間前に触れたばかりの柔らかな感触や、熱を帯びた肌の記憶がありありと蘇っていた。洗練された香水の匂いに混じって、あの夜に嗅いだ楓の甘い香りが蘇るようで、由美は眩暈がしそうになる。
(この人と、私は二週間前に…深く、繋がった)
込み上げてくる記憶の奔流に、一瞬、呼吸が止まる。
「お邪魔します。素敵なお部屋ですね」
なんとか声を絞り出し、平静を装いながら部屋に足を踏み入れると、リビングのソファから立ち上がる雛の姿が見えた。
柔らかな素材のニットにロングスカート。その飾り気のない服装が、逆に隠されたしなやかな曲線を想像させ、由美の喉を乾かせる。
あの夜、自分を優しく包み込んだ看護師の手。熱っぽく口づけてきた、雛の柔らかい唇。
(ああ、だめ…思い出すだけで…熱くなる)
二人を目の前にして、この二週間、何度も夢想の中で繰り返した光景が現実味を帯びて蘇る。
また、あの肌に触れたい。あの温もりを確かめたい。あの身体を、今すぐにでも抱きしめたい。胸の奥が、きゅうっと熱く締め付けられた。
「さあ、上がって。」
楓が由美をリビングへと促し、その細い腕にさりげなく手を触れた。
その瞬間、由美の肩が微かに跳ねた。楓の指先から伝わる熱が、まるで電流のように全身を駆け巡り、脳裏に封じ込めていた記憶の堰を切った。
———楓の唇が、自分の唇を塞ぐ感触。雛の指が、秘められた場所をこじ開けていく背徳的な疼き。そして、まことがもたらした、身体の芯を貫くような衝撃。三人の熱と匂いが混じり合う、むせ返るような夜の記憶。自分の喉から漏れた、聞いたこともないような甘い声———
「あら、ごめんなさい。緊張してるわね」
楓がくすりと笑う。由美ははっと我に返り、わずかに腕を引いた。楓の指が離れていく。今の反応は、楓の目には「純粋な緊張」としか映らなかっただろう。
(ええ、そうよ。緊張している純真な私…それでいいの)
由美は内心で呟きながら、計算通りに頬を染め、恥じらうように俯いてみせた。
「…はい、少し…」
「大丈夫よ」
楓は由美の完璧な演技に気づくことなく、安心させるように微笑んだ。
「まことは急に仕事のトラブルで呼び出されちゃって。由美さんに会いたがってたんだけど」
「まあ、お忙しいのですね」
由美は残念そうな表情を作ったが、内心では好都合だと感じていた。女性だけの方が、より演じやすい。
リビングでは、雛が笑顔で手を振った。
「由美さん、いらっしゃい。今お茶淹れるからね」
「ありがとう、雛ちゃん」
由美は微笑んだ。その純粋な笑顔を見ているだけで、この身体をめちゃくちゃに抱きしめたいという衝動に駆られる自分に、由美は静かな興奮を覚えていた。
楓はにっこりと微笑み、リモコンを由美に向けた。
「心の準備は、できたかしら?」
「由美さん、真ん中のソファに座って。私たちはその両側に」
由美は指示された通りソファの中央に腰を下ろす。楓が右側、雛が左側に座った。
すぐ隣に二人の体温を感じ、由美の背筋に甘い緊張が走る。
部屋の照明が暗くなり、プロジェクターの光がスクリーンを照らす。
「最初は軽いものから見せるわね」
楓がリモコンを操作しながら言った。
「段々と...慣れてもらいましょう」
スクリーンに映像が映し出された。楓と雛がソファに座り、まことがカメラを構えているのが鏡に映り込んでいる。
映像の中の楓が微笑みながら「今日は私と雛の特別な時間を記録するの」と言っている。
由美は画面を見つめながら、練習通りに息を呑んでみせた。
映像は楓と雛が口づけを交わすシーンに移った。最初は軽い口づけだったが、徐々に深くなっていく。
二人の吐息が絡み合う生々しい音に、由美は自分の喉が乾くのを感じた。楓の手が雛に触れ、その柔らかな曲線を確かめるように動き始める。
「あ...」由美は計算通りに、驚きと戸惑いが混じった小さな声を漏らした。
その声に、隣に座る雛が即座に反応した。
「大丈夫?」そう言って、雛は由美の震える(フリをしている)手に、そっと自分の手を重ねた。
温かい。看護師らしい、柔らかく、それでいてしっかりとした感触。
その手のひらが、二週間前に自分の身体の隅々までを優しく愛撫したことを思い出し、由美の身体の奥に熱い疼きが走った。
雛の指が安心させるように由美の手を優しく握るたびに、胸の奥がきゅうと締め付けられる。
「え、ええ...ただ、思っていたより...リアルで」
由美は上擦った声で答えながら、雛の純粋な善意を、そしてその手から伝わる熱を、密かな快感として味わっていた。
映像の中では、楓が雛の服を乱し、あらわになった肌に唇を寄せている。
「んっ...あぁ...」
スピーカーから漏れる雛の甘い声が、由美の鼓膜を直接震わせる。
(いい声…本当に…)
由美は、知らず乾いていた唇をそっと舐めた。
隣にいる雛の体温を感じ、その手で握られながら、スクリーンの中の雛が快感に溺れる姿を見る。
現実と映像、そして記憶が混ざり合い、彼女の身体が内側からじわりと熱を帯びていく。
「次のはもう少し...踏み込んだ内容よ」
楓が次のファイルを選択した。
「覚悟はいい?」
由美は小さく頷いた。
「は、はい...」
新しい映像は寝室が舞台だった。三人ともあられもない姿で、キングサイズのベッドの上で絡み合っている。
「これは...」
由美の声が震える。映像の中では、雛がまことのある部分に顔を寄せ、楓がその様子を実況している。
由美は自分の身体の芯が熱くなっていくのを感じた。その時、右側から楓が腕を回し、由美の肩を抱き寄せた。
「大丈夫よ。怖かったら、私に寄りかかって」
楓の身体がぴったりと密着し、豊かな曲線の感触と香水の甘い香りが由美を包み込む。
楓の指が、宥めるように由美の二の腕をゆっくりと撫でた。その指の動きが、あの夜、自分の肌の上を這い回った楓の指の記憶と重なる。
由美は太ももを固く閉じ、込み上げてくる熱い痺れを必死に押し殺した。
(だめ…感じてしまう…)
楓の抱擁と雛の握られた手。二人の「善意」が、由美の身体を内側からじわじわと侵食していく。
映像はさらに過激になり、楓がまことに跨り、激しく愛し合うシーンがクローズアップで映し出される。
二人の肌が打ち付け合う音と、楓の喘ぎ声。
由美は二人に身体を預け、怯える子羊を演じながら、その実、誰にも知られず一人、静かな快感の波に揺られていた。
「これが一番...激しいものかな」
最後の映像が始まった。
楓と雛が重なり合い、同時にまことに愛されている。
楓の獣のような歓喜の叫び声が部屋に響き渡った時、由美はわざと身体を大きく震わせた。
「由美さん?」
楓の声に、由美は我に返ったふりをする。
「あ...はい」
「本当に大丈夫?すごく青ざめてるけど」
「ちょっと...ショックで…」
手で顔を覆いながら、由美はその指の隙間から、二人の心配そうな顔を観察した。
身体の芯は、もう溶けそうなほど熱くなっている。
(心配してくれてるのね。優しい人たち…でも、あなたたちが知らないところで、私はこんなに熱く疼いているのよ)
映像の中でまことが果て、楓が叫び声を上げる。その声が部屋に響き渡り、由美はついに、練習してきた涙を瞳に浮かべた。
映像が終わると、部屋に静寂が戻った。
「これが...私もこんなふうに...」
彼女の声は震えていた。
「そうよ」
楓が静かに答えた。
「あなたも同じように撮影される」
由美は顔を両手で覆い、肩を震わせた。
「恥ずかしい...」
その震える肩に、雛が優しく手を置いた。
「由美さん、本当に無理しなくていいのよ」
由美はゆっくりと顔を上げた。濡れた瞳で二人を見つめる。
「でも...みなさんと一緒にいたいんです。恥ずかしくても、怖くても...この関係を失いたくない」
その言葉に、楓は満足げに微笑んだ。スクリーンが消え、部屋が明るくなる。
由美は、二人に支えられながら立ち上がるフリをした。その時、雛の手が腰に、楓の手が背中に触れる。その感触だけで、腰が砕けそうになるのを、由美は必死に耐えていた。
(ああ、もっと…もっと触って…)
彼女の演技は、完璧だった。そして、その演技の裏で燃え盛る欲望もまた、完璧なほどに本物だった。
「お茶、淹れ直すわね」
雛がキッチンへ向かうと、リビングには楓と由美の二人が残された。楓は由美の隣に座り直し、心配そうに顔を覗き込んだ。
「本当に大丈夫だった?気分が悪かったら横になる?」
「いえ、大丈夫です…ただ、圧倒されてしまって…」由美は俯き、弱々しく答えた。
その演技とは裏腹に、身体の火照りは一向に冷める気配がない。
「そう…」楓は由美の髪を優しく撫でた。
「でもね、由美さん。あなたは映像の中の私たちより、ずっと魅力的だったわよ。あの夜のあなたは、本当に美しかった」
その言葉に、由美は顔を上げた。楓の瞳が、熱を帯びて自分を見つめている。
「楓さん…」
「だから、あなたの映像はきっと最高傑作になるわ。私が保証する」
楓の指が由美の頬を滑り、唇の輪郭をなぞる。その挑発的な仕草に、由美は息を呑んだ。
(誘っているの?それとも、試しているの?)
由美が反応に迷っていると、キッチンから戻ってきた雛が二人の間に割って入るようにしてお茶を置いた。
「楓さん、あまり由美さんを困らせちゃだめだよ」
雛は窘めるように言ったが、その目にはどこか楽しげな色が浮かんでいた。
「あら、ごめんなさい。つい、ね」
楓は悪びれる様子もなく微笑んだ。
三人の間に流れる奇妙な緊張感。由美は、この二人が自分を試しているのだと確信した。
映像を見せたのも、まことが不在なのも、全てはこのための布石。自分がどこまで受け入れるのか、その反応を見ているのだ。
(望み通りに、演じてあげるわ…)
由美は内心で微笑みながら、戸惑った表情で二人を見つめ返した。
一時間ほど雑談を続けた後、由美は帰る時間になった。玄関で靴を履きながら、楓が小声で話しかけてきた。
「由美さん、今日はショックを受けたでしょうけど、私たちは絶対にあなたを傷つけたりしないから安心して」
「ありがとうございます、楓さん」
由美は感謝の表情を見せた。
「少し怖いですけど...みなさんを信じています」
楓は満足そうに微笑んだ。
「いい子ね。きっと素敵な作品が作れるわ」
+++
読んで頂き、ありがとうございます。
刺激的な映像と、甘い言葉責め。
鑑賞会を終え、帰路についた由美ですが……身体の火照りは、もう収まりそうにありません。
次回、待ちきれなくなった淑女の「独り夜」。
そして、運命の「撮影本番」に向け、彼女はある行動に出ます。
続きは明日の20時頃公開予定です。
お気に入り、応援、レビューをいただけますと連載継続の力になります。
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