完璧な淑女の私、女友達と親友夫婦との撮影会で、身も心もとろとろに蕩かされるまで

Yu_mei_mai

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終幕 第三部 「雄牛の秘密」

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鍋を囲んだ日から、数日が過ぎた。
まことは、あの喫茶店の二階、窓際の席に一人座っていた。かつて、由美の姿を盗み見ていた、彼の罪と欲望の原点ともいえる場所。
由美はもう、ここには現れない。アメリカに渡り、新しい生活を始めている。

それでも、会社での立場を最大限に利用し、リモートワークと称してはこの場所を訪れるのが、まことの新しい日常になっていた。由美を失った現実から目を背けるように、彼女の残り香が染みついたこの空間だけが、不思議と彼の心を鎮めてくれるのだった。

ノートパソコンの画面をなぞる。由美に関するSNSやニュースをチェックするのが、彼の日課であり、儀式だった。ほとんど更新されることのない彼女のアカウント。だが、今日は違った。

一枚の写真が、アップロードされている。
アメリカの乾いた光の中、少しはにかむように微笑む由美。その隣には、穏やかな表情の婚約者の姿があった。

胸が、ちくりと痛む。だが、それ以上に、彼女が幸せであるという事実に、安堵している自分もいた。

まことは慣れた手つきで写真をダウンロードすると、画像編集ソフトを立ち上げ、婚約者の部分を丁寧に切り取り、由美だけの姿にした。そして、ポケットから例の雄牛をかたどったUSBキーホルダーを取り出した。由美が彼の欲望の象徴として与えた、今では唯一の繋がりを示すお守りだ。

パソコンに差し込むと、OSが外部ドライブを認識する。しかし、フォルダは表示されない。代わりに現れたのは、アクセス権を求める無機質な認証画面だ。ドライブ名は、『YUMI』。

パスワードは、彼女の誕生日。寸分違わずキーを叩くと、ロックが解除され、これまで彼が集めてきた由美のすべてが姿を現す。今日クロップした一枚を、その神聖なコレクションに加えた。

その時だった。
フォルダの奥に、見慣れない一つのファイルがあることに、まことは気づいた。
『To my dearest friends.zip』
圧縮ファイルだ。そして、別の鍵のマークがついている。

(なんだ、これは……?)

由美の誕生日でロックされた、彼女だけの聖域《サンクチュアリ》であるはずのこの場所に、見知らぬファイルが存在する。しかも、自分たち三人に宛てて。その矛盾した事実に、思考が停止し、次いで全身の血が沸騰するような興奮が駆け巡った。由美だ。由美が、アメリカへ発つ前に、このUSBメモリに仕込んだのか。

心臓が、大きく脈打つのを感じた。まことは逸る気持ちを抑え、すぐにスマートフォンを手に取り、楓に電話をかけていた。

翌日、三人は再び楓の部屋に集まっていた。
まことから事情を聞いた楓と雛もまた、緊張と期待が入り混じった表情で、パソコンの画面を食い入るように見つめている。

「パスワード……なんだろう」

撮影会の日付、箱根の旅館の名前、由美の誕生日。思いつく限りの文字列は、無情にも弾かれていく。諦めかけたその時、腕を組んで黙って画面を睨んでいた楓が、ふと、何かに思い当たったように口を開いた。

「ねえ……あのルージュの名前、試してみてくれない?」

由美の仮面を砕く、最後の一撃となったあのルージュ。その最初の持ち主である楓の言葉に、まことは息を飲み、震える指でキーボードを叩く。

『Mise à mort』

エンターキーを押した瞬間、ロックが外れ、画面に隠されたフォルダの中身が表示された。

その瞬間、誰にも聞こえないほどの、小さな安堵のため息が、雛の唇から漏れた。

+++
次は明後日の夜20時頃更新します。
土曜日がグラントフィナーレとなります。
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